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『まんぷく』“老いの演技”が説得力を生む 安藤サクラと長谷川博己、夫婦の距離感の絶妙さ

リアルサウンド

19/3/14(木) 6:00

 NHK連続テレビ小説の最近の傾向として、実在の人物がモデルとなり、激動の時代を乗り越えて何かを成し遂げたヒロイン、もしくは夫婦二人三脚の人生を描く作品が続いている。2014年からの作品をみると、10作品のうち、7作品が実在の人物をモデルにしている。例えば、『わろてんか』(2017年後期)のヒロイン・てん(葵わかな)のモデルは、大阪お笑いの礎を築いた興行師の吉本せいがモデルとされていた。

参考:長谷川博己、『まんぷく』の次は大河ドラマ『麒麟がくる』も 芝居に安定感生む“演出家”としての顔

 『べっぴんさん』(2016年後期)で芳根京子が演じた坂東すみれは、子ども服メーカーの創業者のひとり坂野惇子。そして、『とと姉ちゃん』(2016年前期)では総合生活雑誌を創刊、出版社を立ち上げた大橋鎮子と初代編集長の花森安治をモチーフに描き、『あさが来た』(2015年後期)のヒロインのモデルとなったのは、生命保険会社を興し、日本初の女子大学の設立にも奔走した広岡浅子である。

 『マッサン』(2014年後期)は、日本で初めてウイスキー製造に取り組んだ亀山政春(玉山鉄二)と、彼を支えた妻のエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)の物語で、モデルとなったのは竹鶴政孝とその妻であるリタだった。また、『花子とアン』(2014年前期)で吉高由里子が演じた花子は、「赤毛のアン」を翻訳した村岡花子がモデルとなっている。

 現在放送中の『まんぷく』(2018年後期)も、日清食品の創業者が誰かは知らなくても、インスタントラーメンのことを知らない人はいない。インスタントラーメンを開発までの苦労と、その人を支えた存在、夫婦二人三脚で激動の時代を乗り越えていく波乱万丈の人生はやはり見応えがある。

 いずれの作品でも、ヒロインやその周囲の人物たちは、実年齢とは開きがある役を演じてきた。役者によっては、10代で70代を演じることもあり、「無理がある」の声もあがることも少なくなかった。しかし、歴代の“老齢”演技の中でも、『まんぷく』の2人は屈指のハマり具合となっているように思う。もちろん、現在、長谷川博己は40代、安藤サクラも30代と、演じるキャラクターが実年齢に近いという点はある。だがそれ以上にキャラクターが年齢を重ねたからこそできる、“夫婦の距離感”を2人は絶妙に体現しているのだ。

 ヒロイン福子(安藤サクラ)の夫・萬平(長谷川博己)は、3度の逮捕を経験。紆余曲折を経て信用組合の会長になるものの、職を辞して全財産を失い、47歳にして新しい事業を始めるという、まさに波乱万丈の人生を送っている。

 萬平が一度決めたら誰も止められないことを周囲も理解していて、時には仲介役になり、時には彼を唯一説得できる存在として福子は心を尽くす。萬平も福子にだけは甘えるし、彼女の言葉には耳を傾ける。そうした2人のなんでもないやり取りを、長谷川と安藤は、その年齢に応じて絶妙な間で築き上げているのだ。

 「白髪が混じり、ちょっと疲れを感じさせる萬平がかっこいい!」とSNSなどでも評判なのは、長谷川が緩急自在に表現できる力のある役者だからこそ。見た目だけが老けるのではなく、年を重ねたぶんだけ、その何気ないやりとりにも重みが加わっている。

 萬平が福子に向かって、「僕の夢じゃない。僕と福子の夢だ」と言ったことがあった。かつて『マッサン』の、ヒロインのエリーはマッサンに「マッサンの夢は私の夢」だと伝えていた。もちろん、人は夢を見るだけでは生きていけない。

 けれど、愛する人と共に同じ夢を見ることができたら人生はどれほど豊かになるだろう。どちらかが一方的に支えたり、支えられたりというのではなく、お互いが支え合い、自分だけの夢だったものがいつの間にか2人の夢になっていることもある。長谷川と安藤の“老い演技”が単なるコスチュームプレイに終わっていないからこそ、彼らの夢に視聴者も共感できるのだ。「まんぷくヌードル」完成まであとわずか。福子と萬平の夢を、最後まで見守っていきたい。(池沢奈々見)

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