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トム・クルーズ『ミッション:インポッシブル』シリーズが、他のアクション映画と一線を画すワケ

リアルサウンド

18/8/19(日) 10:00

 にわかに信じがたいが、トム・クルーズは今年で56歳になったそうだ(ちなみに筆者の父親は今年で53歳、こちらもにわかに信じがたい)。1996年から続く『ミッション:インポッシブル』シリーズ。現在公開中の最新作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』では、極限まで肉体を酷使し、今回も我々観客に圧倒的驚嘆と骨のあるストーリーテリングを見せてくれた。

参考:明らかに何かが変? 『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』の隠された魅力を徹底解説

 正直、前作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』を劇場で鑑賞した際は、大満足ながらも一抹のモヤモヤ感を拭えずにいた。というのも、前作はスパイアクション映画として純粋にストーリーの質が高く、これをトム・クルーズと『ミッション:インポッシブル』でやる必要があったのか、と疑問に思ってしまったためだ。お目当てはトム・クルーズが体を張ったスタントで、正直ストーリーなど二の次三の次。ポップコーンをほおばって、鑑賞後は「ああ楽しかった」と笑顔で帰れるような消費娯楽が、本シリーズのウリと思い込んでいたゆえの嬉しい当惑である。

 トム・クルーズがいかにして本シリーズの挑戦的なスタントにのめりこむようになったのか。原点を追えば、第1作まで遡る。プラハのアメリカ大使館で防諜任務にあたっていたIMF。謎の襲撃者によってメンバーが次々と殺されイーサン・ハントのみが生き残る。CIAの監督役キトリッジにイーサンが裏切り者の嫌疑をかけられ逃亡するシーンだ。チューイングガム型の爆弾を使い水槽を爆破し、レストランから逃亡するシーンでは、16トンもの水を実際に使用して撮影が行われた。これが20年以上続く本シリーズのスタントの産声である。

 本作では、一部シーンが通常のシネスコ画角(1:2.39)より約26%縦に長い、IMAX画角(1:1.90)により撮影されているが、実は『ミッション:インポッシブル』シリーズはIMAXカメラと深いつながりがある。第4作目『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』にて、イーサンが826mという高さを誇る世界最大の高層ビル、ブルジュ・ハリファの外壁を登るシーンだ。ポスターにも使われた作品を象徴するシーンだが、25分間に及ぶこのシーンはIMAXフィルムカメラで撮影されている。クリストファー・ノーラン監督が『ダークナイト』にて初めて商業映画界に持ち込んだIMAXフィルムカメラは、撮影に莫大なコストと手間がかかる代わりに、実質12~18Kという超高精細な映像を記録することが可能だ。結果としてIMAXならではの、“映画の中に入り込んだかのような感覚”を我々に与えてくれた。

 今作において使用されているのは、RED社の8Kデジタルカメラ。前述のフィルムカメラとはまた異なるカメラだが、高精細のカメラで撮影を行い、IMAXへとコンバートするという最近の潮流に沿った物作りだ。本カメラは、作品の目玉であるヘイロージャンプとヘリコプターチェイスのシーンにて利用され、リアリティを保障する迫真のアクションシーンを生み出すのに一役買っている。筆者はオーストラリアのシドニーにて『ダークナイト』『インターステラー』のIMAXフィルム上映を鑑賞した経験を持つが、これまで日本で観たデジタルIMAX作品の中で最もフィルムの質感に近い美しさの再現がなされていると感じた。

 観客の度肝を抜く挑戦は回を増すごとに過激になっていく。公開前から多くのメディアで報じられ、シリーズを代表するアクションとなった飛行機の外壁にしがみついたまま離陸するシーンでは、7度の飛行を試みたそう。離陸してしまえば最後、撮影に失敗しても着陸までは機内に入ることすら許されず、もし鳥などにぶつかれば大惨事な違いなし。そんな決死の状況で本シーンは撮影された。世界的スターがなぜこんなにも身を投げ出すのか。ただの死にたがりなのか、生粋のクリエイターなのか。凡人の私には到底理解できないだろうが、とにかくトム・クルーズは身も心もイーサン・ハントなのだと、観客に証明していく。

 ここまでが、今作製作における前提だ。上がり過ぎたハードルをどのように飛び越えるのか、またはハードルの下を潜り抜けるのか。期待と不安が混在した心境で劇場に足を運んだファンも少なくないのではなかろうか。

 「観客はウソを見抜く」、本シリーズでスタントを自ら演じ続けるトム・クルーズの言葉だ。言葉の通り、自身で演じるスタントは観客にフィクションを感じさせないリアルを植え付ける。リアルを追求しすぎた結果、ビルジャンプのシーンにおいては足の指を骨折、その決定的瞬間が本編に採用されるという破格っぷり。もはや本作はフィクションの枠を飛び越え、ドキュメンタリーの世界にまで片足を突っ込んでしまっている。

 また奇しくもストーリーテリングにおいても、前述のトム・クルーズの言葉がカギを握っている。前作『ローグ・ネイション』から続投したクリストファー・マッカリー監督は、本作を撮影するうえで脚本をほとんど準備していない。クランクイン時には、脚本が33ページしかなかったとも言われている。撮影しながら展開を定めていく彼のスタイルが本シリーズに非常にマッチしたことも特徴だろう。演じているキャストたちですら今後どうなるかわからない(もちろんおおまかな予想はついているだろうが)、この事実がストーリーのリアルさをより一層引き立たせている。

 アクションにおいても、ストーリーにおいても、徹底されたリアリズムの追求を土台に完成したのが『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』だ。同監督の『ローグ・ネイション』と比較すると、アクションとストーリーの振り回し具合が非常にシームレスで、1作の映画としての帰結性、イーサン・ハントの集大成としてまごうことなき傑作に仕上がっている。冒頭でも述べたように、御年56歳のトム・クルーズは、またしても自身へ課されたハードルを引き上げてしまった。製作スパンから逆算すると、次作では(あるとすれば)、還暦をすぎる頃だろう。果たしてイーサン・ハントが安息の眠りにつく日は来るのか。座して彼の今後の活躍を見届けたい。(安田周平)

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