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BLドラマとLGBTドラマの境目を超える!? ゲイカップルの日常描く『きのう何食べた?』の可能性

リアルサウンド

19/4/12(金) 6:00

 仕事が終わってからスーパーで買い物をし、自宅のキッチンで手早く料理を作り、食卓であったかい夕飯を食べる。そんなごく普通の日常生活を描くドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)が好評だ。『孤独のグルメ』など数々の食い物ドラマで “飯テロ”を仕掛けてきたテレビ東京深夜枠だが、このドラマに登場するのはレストランや居酒屋のメニューではなく、昭和の主婦が作ってきたような家庭料理。毎回、経済的で栄養バランスの取れた“家メシ”が紹介されていく。もう1点、このドラマが画期的なのは、食卓を囲むのが西島秀俊演じる弁護士の“シロさん”と内野聖陽演じる美容師の“ケンジ”という同棲中の男性2人であること。ジャンル分けするならば、恋愛ドラマというよりホームドラマ、しかもゲイカップルの! というところが新しい。

参考:『きのう何食べた?』には期待しかない! 西島秀俊×内野聖陽、共通点は“色気”と”目”

 原作は、漫画家よしながふみが『モーニング』で連載中のベストセラーコミック。基本設定やストーリー展開、料理のレシピなどはほぼ原作どおりで、だからこそ、このドラマが放送されることには、原作が漫画の世界、特に青年漫画誌というフィールドで果たしてきたのと同等の意味合いがある。シロさんとケンジが男女の夫婦や親子と変わらない日常生活を送る様子を描くことで、女性の読者にはもちろん男性の読者にも、ゲイの人たちが特殊ではないことを伝えてきた。よしながふみの代表作には男女が逆転したSF時代劇『大奥』もあるが、そもそも彼女はBL(ボーイズラブ)から出発した作家で、キャラクターには男性同士のカップルやゲイが登場することも多い。ただ、これまでは映像化されたとき、そのBL的要素が反映されないこともあったのだ。

 2001年に放送されたよしながふみ原作のドラマ『アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~』(フジテレビ系)では、ノンケの男性すらも虜にする“魔性のゲイ”であるパティシエの小野が、「不思議な雰囲気を持つなぞの天才パティシエ」(番組公式サイトより)という微妙にぼやかした設定に。藤木直人が演じた小野はキラキラとした美形で、意味深な微笑みを浮かべ、女性と接するのが苦手ゆえにゲイと思われるときもある。そんな“わかるやつにはわかる”程度の描写になってしまっていた。これにはがっかりした原作ファンも少なくなく、放送時は「なぜゲイという設定を変えてしまったのか」「漫画では小野が自分の性的魅力をコントロールできずに男を引き寄せてしまうところが笑いのポイントなのに!」というような不満の声も挙がっていた。

 しかし、それから19年、時代は変わった。『きのう何食べた?』では、“シロさん”を演じる西島秀俊が「タチネコで言ったらネコ」と照れながらも言い、内野聖陽演じる美容師の“ケンジ”はお客に「僕、ゲイなんですよ」とあっさり告白する。どちらも原作のセリフをそのまま使っており、両親に理解されないなど、ゲイであるがゆえの大変さも原作どおりリアルに描かれていくようだ。

 ただ、原作(商業版)にラブシーンはないので、ドラマでもシロさんとケンジの性的な部分は出さないだろう。2人が暮らすマンションの場面でも寝室は映さない可能性が高い。それでも、オープニングの自撮り動画で2人がいちゃいちゃしながら料理を作り食卓を囲むだけで、BLファンは「尊い」と充分に萌えている。なんといっても西島、内野という主演クラスの2人がカップルを演じるのが豪華で、実写ならではの破壊力が抜群だ。シロさんは原作でもツンデレキャラだが、西島演じるシロさんはそれほど毒舌ではなく、最初から人の好さが見えてかわいらしい。内野が演じるケンジは、原作と似たアニマル柄のパーカーを着て登場するなど再現度高し。職場の美容室で客にシロさんのことを話し、それがバレて怒られたとき、どうしてゲイだからといって同棲中の相手のことを話してはいけないのかと涙する場面では、ケンジの純粋さを見せていきなり泣かせた。西島、内野の演技もさすがだが、脚本の安達奈緒子が、40代のおじさん2人が見せるかわいらしさと性的マイノリティとして生きる彼らの抱えるせつなさという原作のエッセンスをうまく抽出している。

 しかし、ここで忘れてはいけないのは、現在、次々に映像化されている男性同士のラブストーリー群はBLが原作であったりベースであったりするということ。主に女性のクリエイターが発想する女性のためのファンタジックな物語とキャラクターであり、実際にゲイの人が好むものとは異なる場合が多い。地上波では『隣の家族は青く見える』(2018年/フジテレビ系)がまずその先駆けとなり、その直後に放送された『おっさんずラブ』(2018年/テレビ朝日系)が起爆剤となった。他にもBL漫画を原作に男性同士のベッドシーンまで描いた『ポルノグラファー』(FOD)や、東海ローカルで放送中の『his ~恋するつもりなんてなかった~』(名古屋テレビ)などがあるが、作風や萌えの方向としてはいずれもBLの範疇に収まる。

 一方、ゲイのクリエイターが発信するリアルな男性同士の物語は、まだメジャーなドラマ枠では放送されていない。NHKがBSプレミアムで放送した『弟の夫』(2018年)は、ゲイ・エロティック・アーティストと名乗る田亀源五郎の漫画が原作でそれに該当するが、主人公の弟が外国で同性婚したあと亡くなり、そのパートナーと主人公が対面する家族の物語で、男性同士の性愛を描いた内容ではなかった。

 4月20日にはBLファンである腐女子とゲイの少年が交際する『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』(NHK)もスタート。平成の終わりから“美しい調和”を表わす令和の始まりへ。同性愛を描くドラマは明らかに増え、新たなステージに入ってきている。それでも、例えば男性同士の恋愛に比べ、女性同士の恋愛をメインテーマにしたものはなく、最近では『中学聖日記』(2018年/TBS系)に少しそういう描写があったものの、ドラマで描かれるのはまだまだこれから。同性愛を妄想として楽しみたいコミックファンと現実的な問題を抱えるLGBTの人、その両方から支持され、ダイバーシティ(多様性)の実現にひと役買えるようなドラマが出てくるのかどうか? やや楽観的な見込みかもしれないが、元号をまたいで放送される『きのう何食べた?』と『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』にはその可能性が大いにある。(小田慶子)

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