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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

ハコイリ♡ムスメが描く、“ハードコアかわいい”世界 懐かしくも新しい少女たちの夢

リアルサウンド

18/8/6(月) 13:00

 幼い頃に読んだおとぎ話に出てくるお姫様は、膨らんだスカートにフリルがいっぱいで、蝶々の羽根のように細かいレースやキラキラした刺繍が施されたドレスを着ていました。色々なドレスを夢想しては、絵に描くことが大好きでした。

 けれど現実の自分は、女の子という生き物のはずなのに、どうしても花柄やフリルやレースが似合わない。大人になってからは、多少似合わなくても好きな物は好きだと押し通す図々しさと、ある種の諦めを身につけたけれど、幼い時にそれほど器用に考えられる筈もありません。遠い親戚が「女の子だから、似合うでしょう」と送ってくるブラウスの繊細な刺繍が大好きなのに、鏡の前で自分に合わせてみた時のガッカリ感、今でも忘れられません。一度も着なかったけれど、箪笥の奥にしまってたまに取り出し眺めていたブラウス。

 いま、目の前で歌い踊る女の子たちは、あの日私が憧れたお姫様そのもの。目が大きく手足が驚くほど長い少女漫画のヒロインそのもの。けれど、本の中でも映画の銀幕でもなく、目の前の同じ世界に生きているのです。

 2018年7月29日、有楽町オルタナティブシアターにて開催された、ハコイリ♡ムスメ(以下ハコムス)の1stコンサート昼夜二公演を鑑賞しました。

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 昼公演「青春の音符たち」は、これまでハコムスが歌ってきた100曲を越えるカバー曲の中から厳選された15曲。

 大きなシャンデリアのある劇場で、特別感溢れる初めてのコンサート。

 ステージ上には、一見簡素だけれど、そのシンプルさ故に宮殿の柱にも天国の雲にも見えるバレエの舞台セットのような装飾。

 舞台に現れたメンバーは、ウエディングドレスを思わせる真っ白な衣装。ハコムスはいつも素敵な衣装ばかりだけれど、この日は特に凝っていて、お花のレースやチュールやラインストーンがふんだんに施されたたドレスが、夢の世界に導いてくれました。

 80年代や90年代のアイドルの隠れた名曲を掘り起こし、現代の女の子たちが歌って踊ることで別の魅力が吹き込まれてゆく様子は、色を塗り重ねて深みを増す油彩画のよう。

 2曲目が大好きな曲「はんぶん不思議」(CoCo)で、序盤からいきなり自分の中のピークが来てしまった……と思ったのも束の間、「泣かないでエンジェル」(Qlair)では、いつも笑顔の女の子が突然見せた切ない表情にハッとさせられたり、「海へ行こう ~Love Beach Love~」(チェキッ娘)や「夏休みは終わらない」(おニャン子クラブ)などの夏の曲が続けて歌われたコーナーでは、青い空・入道雲・ビーチでの恋といった自分の人生でおよそ縁のなかった爽やかな夏、生命の危機すら感じる蒸し暑いだけの現実の夏ではなく、イメージの中のキラキラと眩しい夏が目の前に広がり、暑くて辛くてもやっぱり夏っていいなあと、夏のポイントが少し上がりました。

 夜公演「私たちの宝バコ」は、全てがハコムスのオリジナル楽曲。

 この日初披露のクラシカルなOVERTUREに乗せて、我妻桃実さん・阿部かれんさん・吉田万葉さんの三人がバレエを踊る、幻想的な幕開けでした。

 1曲目は最新シングルの「エトワールを夢見て」。この曲で本格的にハコムスが大好きになった私は特に思い入れが強く、目の前で華麗に歌い踊る姿を観ていたら完全にトリップして涙が溢れ、この幸せにずっと浸っていたい……と泣きながら過ぎ行く時を惜しみました。バレエ衣装であっても典型的なお団子頭ではなく、ポニーテール、おさげの三つ編み等々、思い思いの髪型で、昼間の「幻想の夏」同様、“幻想のバレリーナ”が舞台に立っていました。

 公演の中盤、塩野虹さんが木苺を摘みに出掛けた森で道に迷い、阿部かれんさんと我妻桃実さんが分かれ道でどちらに行ったらよいのか迷う劇中劇のような場面(劇団ハコムス)では、姿の見えない声が「自分の信じる道をいけばそこが正解よ。私はいつもあなたたちを見てる。ずっと見ているよ」と語りかけてきました。メンバーの誰でもないように思えたその声は、卒業生の門前亜里さんでした。

 道は違ってもずっと見守っている先輩と後輩、迷った時に支えてくれる存在、少女漫画で描かれ続けているシスターフッドが、さり気なく表れた瞬間でした。

 後半で披露された新衣装のテーマは「昭和の日本の夏」。丈の長いスカートに涼しげな色味のチェック柄や花柄、お花でいっぱいの麦藁帽子。高峰秀子さんや浅丘ルリ子さんが映画の中で着ていたような、メンバーが生まれるずっと前に流行したデザイン。中原淳一先生の絵から飛び出してきたような、きっとどの時代に生まれても「街で評判の美少女」になったであろう女の子たちがレトロなお洋服を着こなす姿に、自分の孫娘がこんなお洋服を着た美少女だったら嬉しいだろうなと、その衣装の時代性によってメンバーのお祖母さんの気持ちになってしまい、孫たちの可愛さに涙が出てきました。

 それほど音楽に詳しくない私でも、ハコムスの楽曲は全てがどこか「懐かしい」。初めて聴いた曲でもいつかどこかで聴いたような、砂糖菓子のような中毒的魅力があります。

 陸奥A子先生や池野恋先生の描く、徹底的にファンシーな世界。谷ゆき子先生や山岸凉子先生の描く、瞳の中に星を宿すバレリーナの世界。私が幼い頃、そういった非現実的な少女漫画は「ダサい」「時代遅れ」と言われ、悔しい思いもしましたが、可愛いものは可愛い、夢見ることは誰でも自由なのだと、大人になってから信じられるようになりました。

 「この時代に誰もやらない、ハコイリムスメだけの『ハードコアかわいい』」という、プロデューサーの鈴木美紗乃さんの言葉にも通じます。

 会場で見かけた、お父さんと公演を観に来ていた小学生くらいの女の子に、幼い頃の自分を重ねてしまいました。

今の私から見ればメンバーは娘でもおかしくないような年齢だけれど、あの 女の子にとってはきっと「憧れのお姉さん」。

 現実の世界では滅多に着られないような、レースや刺繍のドレス、鮮やかな色の花飾りを身に着け、キラキラと歌い踊る姿を一度目にしたら、絵本やアニメの中ではなく、生きて動く生身の人間で、こんなお姫様たちがいるんだ……!と、夢中になってしまうに違いありません。上品で、綺麗で、キラキラしていて、小さな女の子が憧れる存在。

 現代の女性アイドルは、音楽もコンセプトも多様化していてアイドルというだけで一括りにできないけれど、やっぱり異性(男性)の観客がとても多いです。けれど、多くの少女たち(身体の性別に関わらず、心の中に少女が棲んでいる人たち)にとっても、ハコムスはきっと安心して幻想を抱くことのできる存在。

 このコンサートに向けた「地獄の夏合宿」を乗り越え、天性の美貌に加えて歌もダンスも急成長したメンバーの皆からは、他者の幻想を背負って立つことのできる強さが感じられました。

 お祖母さんと、小さい女の子と、現在の私。過去と未来と現在が交錯した、懐かしいけど新しい、可愛いけれどハードコアな、ハコイリ♡ムスメにしか表せない世界が広がっています。(松村早希子)

※メンバーの阿部かれんは、大学受験のため9月30日にハコイリ♡ムスメ卒業を発表。