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『3年A組』の成功は『仮面ライダービルド』の経験があってこそ? 武藤将吾が表現する“正義”とは

リアルサウンド

19/3/3(日) 6:00

 毎週日曜日の朝、ヒロイン/ヒーローが活躍する作品が放送されている。楽しみにしている子どもたち――もちろん、大人だって楽しんでいい――はきっと多いはずだ。時代がどれだけ進んでも、ヒロイン/ヒーローへの憧れは形を変えながら存在し続ける。

 そして、同じく日曜の夜に放送されている『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)。毎度予想のつかない展開が広がり、残すところ2話となる今も、その最終回の形が見当もつかない。本作はそんなストーリーのみならず、“特撮”という観点からも、何かと反響を呼んでいる。『仮面ライダービルド』や『仮面ライダーW』(ともにテレビ朝日系)を彷彿とさせる要素が随所で散りばめられており、意外な楽しみ方が隠されているのだ。『3年A組』と『ビルド』はいずれも武藤将吾が脚本を務めたほか、柊一颯役の菅田将暉は『W』で主演を務めていたこともあり、その盛り上がりはひとしおだ。特撮作品と『3年A組』の接点というのは、『3年A組』の細部に施されたもの――例えば、第7話で映ったポスターが、『仮面ライダーW』の有名な台詞を連想させることなど――に限らず、“正義”を描こうとする点で共通するところがあるように思える。

 『3年A組』と『ビルド』は、深い部分で繋がっている。両作を手がけた脚本家・武藤将吾の『ビルド』による実験と成功が『3年A組』に生かされているのだ。その大きな鍵となるのが「アンロック」(=秘密が明らかになる)型のストーリーシステムだ。

 『ビルド』は主人公・桐生戦兎(犬飼貴丈)が記憶を失っており、自身が何者かを探すところから物語が始まる。相棒の万丈龍我(赤楚衛二)や、ヒロインの石動美空(高田夏帆)すら過去が不明なところが多く、登場人物全員に隠された秘密があるという状況で、その秘密がアンロックされるごとにストーリーのステージが上がっていくという作りになっている。これは、たとえば漫画『進撃の巨人』や海外ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』などで採用されており、プロットの構築さえできていれば、裏をかきつつさらなる興奮へと誘える、非常に視聴意欲を刺激するシステムである。

 ひるがえって『3年A組』の主人公の柊は、物語の始まりからダークヒーロー的な雰囲気を身にまとっている。彼が緻密に作り上げてきたシナリオのもと、生徒や教師の謎が一つずつ解き明かされていき、やがては大きな真実にたどり着くとされる物語である。これは、脚本家・武藤氏が『ビルド』で得た手応えを『3年A組』に導入することで、より大きなうねりを起こすことに成功していると言えるだろう。

 また、武藤氏が『ビルド』で得た経験で『3年A組』で大きく作用しているのが「ネットの声」だ。『3年A組』は作中でもリアルタイム視聴でも、様々なネットの声がフィーチャーされているが、『ビルド』の放送時に盛り上がっていたのは「#nitiasa」のハッシュタグだ。朝8時30分から10時までの「プリキュア」「ライダー」「戦隊」までを実況するこのハッシュタグが毎週トレンド入りする。武藤氏はこの「#nitiasa」から様々なユーザーの反響を学び、『3年A組』にフィードバックすることによって、作中のネットの声や、それに揺れる世間や生徒の姿にリアリティを与え、TVの前の視聴者の反応も予測しながら脚本を書いたのではないだろうか。それほど、『3年A組』の脚本には、リアタイ視聴欲・リアタイツイートを刺激する要素がうまく込められているのだ。

 仮面ライダーなどは誰もが認める正義のヒーローである。一方、柊は“正統派”のヒーローであるかと言われればそうではないのかもしれない。少なくとも、放送開始当初の柊はひどく恐ろしい存在に思えた。生徒は監禁するし、爆弾は設置するし、そのやり方は私たちが知っているヒーローの多くがとるアプローチとは異なる。本人も「俺はヒーローになれませんでした」と言っているが、彼の姿、つまりヒーローという存在に特別な思いを抱きつつも、そうすることができない姿からは、大人の私たちに訴えかけるものがある。

 本作でしばしば象徴的に登場するのが、ガルムフェニックスである。ガルムフェニックスとは、『3年A組』の中で随所に描かれてきた架空の特撮ヒーローであり、ファイター田中(前川泰之)という人物がそのスーツアクターを務める。一時、柊がそのスーツアクターを継承するという話も出たのだが、結局病が理由で、彼が引き受けることはなかった。

 第8話で柊が田中に対して「子どもたちの夢を壊したくありませんから」「田中さんはいつまでも“ヒーロー”でいてください」と言う一幕があり、その台詞からは柊の抱える葛藤、あるいは諦めが垣間見えた。ガルムフェニックスのような、まさしく子どもの夢のようなヒーローはいつの時代も憧れであり、カッコいい。しかし、そんな王道のヒーローとは対照的な、柊のような人物の姿も描かれる意義はあるはずだ。柊一颯の中にも、ヒーローが共通して持つ“正義”への信念が垣間見える。ヒーローの光と影のようなガルムフェニックスと柊であるが、両者はかけ離れているようで、全く違う存在であるとは言い切れない。日曜の朝に登場するようなヒーローの活躍劇としてではなく、柊のような存在を通して描かれる“正義”のあり方も私たちにまた別の視座をもたらしてくれる。

 正義について語ろうとする人間はしばしば、少なくとも自分は“正義”の側にいるという前提で話し始めるものである。ただ、柊のように自分はヒーローにはなれなかったと悟っている人間が伝えようとする渾身のメッセージは、どこか胸に突き刺さる。『3年A組』と『ビルド』とでは世界観が大きく異なるものの、脚本家の武藤氏が表現しようと試みているものはどこかで通じ合っているはずだ。(國重駿平)

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