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音楽シーンを撮り続ける人々 第5回 “静寂”を愛する浜野カズシ

ナタリー

19/1/16(水) 19:00

CDジャケットや雑誌の表紙、屋外看板などアーティストを被写体とした写真に心を奪われた……そんな経験のある読者も多いはず。本企画はアーティストを撮り続けるフォトグラファーに幼少期から現在に至るまでの話を伺っていくもの。第5回は、写真を撮り始めた頃はひたすら路上の風景を撮っていたという浜野カズシに、ライブカメラマンとして脚光を浴びるようになるまでの経緯や写真のこだわりについてを聞いた。

ゲーム三昧の幼少期、音楽が好きになった青年期

自分は岡山県で生まれました。小中学生の頃は友達と外で遊ぶこともありましたが、家で1人でゲームをしているほうが好きな静かな子供だったと思います。当時カードゲームが流行っていて、周りの子は友達同士で対戦していたんですが、なぜか自分はカードゲームにすごろくの要素を加えたルールブックを自作していました。でもそのルールブックを誰かと共有することもなかったです(笑)。

“写真”を初めて意識したのは小学生の頃。当時、外の風景を眺めるのが好きで、車に乗るときは窓側の席に座っていたんです。そのときに母親から「今見ている風景を止めた“写真”というものがある」と教わりました。でも、さすがに小学生でカメラを買うお金はなかったので、“写真っていいな”と思っているだけでふわふわ過ごしていました。中学生になっても相変わらずゲームが好きで、「ゼルダの伝説」「ファイナルファンタジー」などのゲームを夜中までやっていましたね。工業高校に進学してからは、将来はゲームデザイナーになりたいと漠然と考えていました。

高校を卒業してからは音楽が好きになって、今度はレコーディングエンジニアやライブの音響の仕事がしたいと思うようになり、地元の結婚式場で音響スタッフとして2年ほど働きました。変わらず写真も好きだったので、お金が貯まった頃に初めて小さいフィルムカメラのLOMO LC-A+ 35mm Film Cameraを買いました。それで撮っていたのは壮大な風景ではなく、地元の路上などの日常風景。21、22時くらいの夜の街を撮ることが一番多かったかな。

音楽については、昔はオリコンランキングトップ10に入るようなMr.Childrenなどを聴き、どちらかと言うと静かな楽曲を好んでいました。最近はSpangle call Lilli lineをよく聴いています。とはいえ、今撮らせてもらっているマキシマム ザ ホルモンなどの、ライブでダイブが発生するようなジャンルももちろん好きです。写真を撮っていく中で好きになったアーティストは多いですね。

写真集を出すために上京し、ライブ写真と出会う

上京したのは二十歳のときです。同じ時期に森山大道さんの「サン・ルゥへの手紙」という写真集をたまたま書店で目にして、衝撃を受けました。彼は今でも変わらず一番好きな写真家で、自分の原点です。「サン・ルゥへの手紙」には新宿の路上を写したモノクロ写真が載っていたのですが、写真の粒子が荒くて質感がバキバキで、とにかく激しいんです。普通の路上なのに、森山さんが撮った路上の写真には彼の世界観が詰まっていた。「ああすげえな、こういう写真集を作りたい」と強く思いました。それでも専門学校に通うお金はなく、とにかく東京で写真集を出したいという思いだけで上京しました。

上京するタイミングで買い足したカメラはNIKON FM3AとPENTAX 67という2つのフィルムカメラ。当時の自分はライブ写真の存在さえ知らなくて、ひたすら路上を撮って、自分の家のキッチンで現像していました。映画に出てくるような赤い部屋で、フィルムを現像液に付けて、モノクロ写真を浮かび上がらせるって作業をずっとやっていましたね。それと、上京してからしばらくは結婚写真などのプリントをしている写真屋さんでバイトをしていて、写真の色味や補正のイロハは自然とここで学んだのかもしれません。それまではずっとフィルムで撮っていたのですが、写真屋さんで働くうちにデジタルカメラの知識や情報も入ってきて、気付けばデジタルで写真を撮るようになりました。

上京当時……と言っても横浜に住んでいたんですけど(笑)。その頃の自分はイキがっていたのか、行きつけの呑み屋を探していて。そこでふらっと入ったのが、「バー フラワーマン(Bar Flower Man)」というお店。今はもうこの名前ではなく、「居酒bar花男」という名前に変わりましたが、この店のマスターがバンドマンで、彼に「お前、写真撮ってるんだったら俺のライブ写真も撮れよ」と言われたのがライブ写真を撮り始めたきっかけです。ライブ中のマスターを撮った写真がバーの常連さんに好評で、“これは才能あるのかも”と思い始めました(笑)。

写真を通じて築いた信頼関係

実は今までお金を払ってライブに行ったことが数回しかなくて。その内の1回がクリープハイプのライブでした。25歳のときに初めて彼らの曲を聴いて好きになって、ライブを観に行ったんです。そのときのメンバーの表情や表現力に衝撃を受けて、「このバンドを撮りたい」と強く思いました。その勢いで、彼らのライブにもう一度足を運んで、バーのマスターの写真をブックにして持って行ったんです。当時のクリープハイプはメジャーデビュー目前くらいの時期で、まだ物販に立っていたメンバーに「写真を見てください」とお願いして。そうしたらメンバーがマネージャーさんとつないでくれて、マネージャーさんにブックを渡しました。渡すときは超緊張しましたね。そうしたら数カ月後に「渋谷CLUB QUATTROでライブをするので写真を撮ってくれませんか」とマネージャーさんから連絡があって、2011年に行われたツアー「待ちくたびれてクリープハイプがくる」の渋谷CLUB QUATTRO公演を撮影させてもらいました(参照:creephyp | Tumblr)。知名度のあるアーティストを撮ったのは彼らが初めてで、自分を売り込みに行ったのはこの一度切り。クリープハイプと出会っていなかったら、今の自分の状況はないかもしれません。

ホルモンを撮るようになったのは、クリープハイプのWebサイトに掲載されていた自分の写真をホルモンのメンバーが見て、「この人いいじゃん」と思ってくれたことがきっかけです。ある日突然「ミミカジル(ホルモンの所属事務所)と申しますが」と電話が来て……「ミミカジル!? やばい絶対騙される」と思いました(笑)。でも電話の途中で“マキシマム ザ ホルモン”というワードが出てきて。兄貴がよく聴いていたバンドだったので安心しました。BLUE ENCOUNTやONE OK ROCKの写真も撮らせていただいているのですが、彼らはLAMP IN TERRENの仕事で知り合ったスタッフさんが紹介してくれました。撮った写真を評価してもらって、また別のアーティストから現場に来てほしいと声をかけていただけるのはうれしいです。振り返ると仕事は“写真”を通じて増えていったんだと思います。

自分には仕事上の悩みが1つあって、アーティストとコミュニケーションを取るのが苦手なんです。長く撮っているアーティストとはそれなりにしゃべれますが、初現場では「よろしくお願いします」「お疲れさまでした」「ありがとうございました」しか話さず帰ることも……ONE OK ROCKは少し前から撮らせていただいているのですが、2018年10月の「ONE OK ROCK with Orchestra Japan Tour 2018」の撮影時にやっとメンバーと話せるようになってきたんです。同じ年の4月の「ONE OK ROCK 2018 AMBITIONS JAPAN DOME TOUR」でオフショットを撮らせてもらった際にちょこちょこっとしゃべったことで、自分も相手も安心感を得たからかなと思います。それより前の公演は、「いやー、今話しかけちゃダメだよな……静かにしてよ」ってひたすら写真を撮るだけでした。よく人に「どうしたらアーティストと信頼関係を築けるんですか」と聞かれるのですが、俺が知りたいぐらいです(笑)。でも撮った写真を「いい写真だね!」と言ってもらえているから、なんとかカメラマンとして認められているのかなとは思っています。

常に“自分を超えた写真”を目指している

撮影するときはまず、お客さん、スタッフさんの邪魔をしないことを大前提にしています。もちろん「一瞬だけちょっとすまん!」という場面もありますけどね。それと、今後変わる可能性もありますが、連写は使わないようにしています。連写で撮ったものは自分の写真ではない気がして、自分の指でシャッターを押さないと気が済まない。もう1つ心掛けていることがあって、長い間同じアーティストのライブ写真を撮っていると、だんだんアーティストの次の動きがわかってきて、いい瞬間が撮れることも多くなってくるんですね。でも彼らの動きや癖を把握しすぎてしまうと、それはそれでつまらない。だからある程度は想定して本番に臨みますが、すべてを想定しないようにしています。

それでも今まで撮った写真の中で、想定外の “自分を超えた写真”が1枚ありました。ホルモンのライブ撮影ではいつもドラム横で撮らせてもらえるタイミングがあって、そのときにメンバーが目の前に来ると魚眼レンズを使った迫力感のある絵を狙っていました。でもあるとき誤って望遠レンズを持ってしまい、持ち替える時間もなくそのままシャッターを切ったことがあったんです。自分が想定していた撮り方ではなかったその写真が妙に好きで、自分ではない人が撮った写真に思えています。そんなふうに、“コントロールできなかったけど結果としていい写真”というのは、ずっと目指しています。先人たちが何万枚とライブ写真を撮ってきた中で、新しい絵ってなかなか生まれないと思いますが、それでも少し常識から外れた写真はあると思うし、そういう写真のほうがグッとくるんですよね。

レタッチの方向性としては、昔から一貫して彩度やコントラストが強いバキバキの質感にするのが好きでした。でも“ほかの人と違うことを”と思っていたわけではないんです。(橋本)塁さんは有名だったので知っていましたが、自分以外のライブカメラマンの方がどんな写真を撮っているか、実は最近まであまり知らなかったですから(笑)。自分の思うがままに表現していたらこうなるというか、ある種の生理現象のようなものなんでしょうね。あとはやっぱり森山大道さんの影響も大きいとは思います。

写真の魅力は “世界に1人だけのような静寂感”

今後はライブだけではなく、風景やポートレートも撮りたいです。全部しっかり撮れる人って意外と少ないと思うんですよ。ポートレートは、アーティスト側の要求に応えつつ、作品に自分の世界観を詰め込める点が魅力。来年は風景写真、ポートレート、ライブ写真をすべて載せた写真集を作りたいと思っています。まだ構想中ですが(笑)。難しいかもしれないけど、できるならアーティストの名前を出さず、自分の写真集として出したい。「FIVE FINDERS PHOTO FESTIVAL」(参照:ワンオクやRADWIMPSら写真展示、ライブカメラマン5名による“写真フェス” )を開催したときに、アーティストを入り口に自分の写真を好きになってくれた人の多さを実感して、もちろんそれもうれしいのですが、写真集は自分の名前で勝負したいんです。

これからカメラマンを目指す人や写真を始めたばかりの人には、ほかの人があまり撮らないような、挑戦的な写真を撮ってほしい。自分もオールドレンズを使ったり、新しい画角を探したり、日々いろんなことを試しています。ライブ写真は限られたシチュエーションの中で撮るから似たような絵が多くなってしまうけど、新しい発想を生み出す楽しさを味わってほしいですね。あとは個人的に、写真の魅力は“音が鳴っていないところ”だと思っています。普通に生きていたら、常に何かしらの音が聞こえますが、写真は静か。世界が終わって、1人だけ生き残って道をふらふら歩いているような、そんな静寂感があるところが好きです。“今後もずっとこの仕事がしたい!”という強い決意はありませんが、性には合っていると思うので続けたいですね。ただ“おじいちゃんになったら家の縁側でゆっくり余生を過ごしたい”という老後の夢は昔からずっと変わっていないです(笑)。

浜野カズシ

1985年生まれ、岡山県出身の写真家。ONE OK ROCKやマキシマム ザ ホルモンをはじめ、多くのアーティストのライブ写真やアーティスト写真を手掛けている。

取材・文・構成 / 酒匂里奈(音楽ナタリー編集部) 写真提供 / 浜野カズシ

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