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『SICK’S』の真骨頂は“何でもありの悪ふざけ感覚”!? 堤幸彦監督による遊び心溢れた映像表現

リアルサウンド

19/3/23(土) 12:00

 定額有料動画配信サービス・Paravi(パラビ)で配信されている『SICK’S~内閣情報調査室特務事項専従係事件簿~』(以下、『SICK’S』)は堤幸彦が監督を務め、植田博樹がプロデュースする壮大なドラマだ。堤と植田は、過去にミステリードラマ『ケイゾク』(TBS系)と、その世界観を引き継いだ超能力SFドラマ『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』(同)を手がけている。この『SICK’S』は“SPECサーガ完結篇”と銘打たれており、2013年に完結した『SPEC』の世界観を引き継ぐ形で物語はスタートした。

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 警視庁公安部内部調査室に所属する刑事・高座宏世(松田翔太)は、ある犯人を追い詰めた際に、突然、犯人の胸元にナイフが刺さるという事件が発生し、殺害の汚名を着せられる。高座は、公安で噂されていた「SPEC」という特殊能力を持つ人間(SPECホルダー)の犯行ではないかと弁明するが、上官は取り合わない。高座は公安部を辞職。その後、野々村光次郎(竜雷太)という男に声をかけられ、内閣情報調査室特務事項専従係(通称・トクム)にスカウトされる。そこで高座はSPECを持つ女・御厨静琉(木村文乃)と共にSPECホルダーとの戦いに巻き込まれていく。

 『SICK’S』は『SPEC』をなぞるような人物配置でスタートする。御厨たちの上司の係長・野々村光次郎は、『ケイゾク』から登場し『SPEC』で殉職した野々村光太郎の弟で、同じ竜雷太が演じている。黒島結菜が演じる謎の少女・一 一十(ニノマエイト)の名字は、『SPEC』で神木隆之介が演じた「時間を止める」SPECを持つ少年・一 十一(ニノマエジュウイチ)と同じもので、「時間を巻き戻す」SPECの持ち主で「似ているけどどこか違う」という前作とのズレが一つの謎となっている。

 そもそも『SPEC』は、主人公の当麻紗綾(戸田恵梨香)が、滅亡の危機から世界を救おうとした結果、時間が巻き戻り、本来の歴史とは違う世界が生まれたことが暗示されて終わっている。そのため、その続編となる『SICK’S』は一種のパラレルワールドで、だからこそ『SPEC』と同じようだが、微妙に違うキャラクターが多数登場するのではないかと思うのだが、現時点において真相はわからない。

 元々、この『SPECサーガ』は謎に包まれた複雑なストーリーが特徴で、話が進んでいくほど、出口のない迷宮に入り込んでしまったかのような混乱に巻き込まれていく。設定も複雑で、SPECという特殊能力はもちろんのこと、SPECホルダーを取り囲む警察組織や国家間の駆け引きも多層化しており、誰が敵で誰が味方なのかわからない。そんな錯綜した状況がもたらす酩酊感が独自の味わいとなっている。

 この『SICK’S』は、「恕乃抄」(序)、「覇乃抄」(破)、「厩乃抄」(急)の3部作が予定されているのだが、『恕乃抄』の時点では、まだ物語の全貌は明らかになっていない。おそらく、物語はなんらかの形で第壱話冒頭の(物語のクライマックスになると思われる)炎上する東京での御厨とニノマエイトの対決場面へとつながっていくのだろう。

 そして、2人の会話に登場したSPECを超える力と噂される「ホリック」が重要なキーワードとなるのではないかと思う。ニノマエイトはSPECを獲得した人類の行き過ぎた進化を「病い」だと語る。果たしてSPECは人類を進化へと導く奇跡なのか、自らを滅ぼす呪いなのか? このあたりに本作のテーマはあるのだろう。

 謎が謎を呼ぶストーリーに目が行きがちだが、同じくらい面白いのが監督の堤幸彦による遊び心に溢れた映像表現の数々だ。

 堤は、現在のテレビドラマにおける映像表現を切り開いてきたパイオニア的存在だ。『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)でミステリードラマのフォーマットを確立し、オールロケによるカット数の多いMV的な映像を駆使することで、テレビドラマにおける新しい映像表現を次々と開拓していった。『トリック』(テレビ朝日系)では、小ネタを散りばめていくアドリブ性の高い会話劇を生み出し、テレビドラマにコントバラエティ的な面白さを持ち込んだ。そして『SPEC』ではCGを多用することで「時間の止まったシーン」などの超能力の可視化に挑んでいた。『SICK’S』にも、SPECホルダーによるユニークな特殊能力が次々と登場し、『SPEC』以上に超能力バトルとしての面白さは強まっている。

 劇中では御厨静琉を筆頭に、人智を超えた巨大な力に翻弄される人々の悲しみがシリアスに描かれるのだが、一方でくだらないギャグが次々と連呼される。ふつうこれだけシリアスで哲学的なストーリーを展開すると、笑いの要素はどんどん失われていくものだが、堤は“笑い”を放棄せず、シリアスな物語の中に平気でぶち込んでいく。そのため、闇鍋的な面白さがあるのだが、この何でもありの悪ふざけ感覚こそが『SICK’S』の真骨頂ではないかと思う。

 3月22日の深夜からパラビで『覇乃抄』が配信されるのを前に、『恕乃抄』もパッケージ化され、以前よりもアクセスしやすい環境が整っている。何が飛び出すかわからない闇鍋的な『SICK’S』ワールド。この機会に是非、堪能してほしい。(成馬零一)

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