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藤田恵名が語る、自分自身と向き合い気づいたこと「歌えないならこの世界にいても虚しくなるだけ」

リアルサウンド

19/1/16(水) 20:00

 藤田恵名の2ndシングル『月が食べてしまった』が1月16日にリリースされた。どうにもならない思いや日々を抱えながら、それでも必死に転がって生きていく。表題曲はそんな疼くような痛みを、ソリッドなバンドサウンドに乗せて撃ち鳴らし、ソングライター藤田恵名のナイーブさとハングリーな精神が詰まった曲となっている。また今回はthe pillowsの「TRIP DANCER」が初のカバー曲として収録された。図らずも、「月が食べてしまった」と呼応するような選曲で、巡り合わせのあった曲だという。

 歌手とグラビアアイドルを両立し、“いま一番脱げるシンガー・ソングライター”というキャッチコピーで、デビュー以来、話題を振りまきながら順風満帆に進んできたように思える藤田。そんななかで、喉の不調に見舞われ、昨年12月には喉のポリープ手術を行なった。今回のシングルは、歌が歌えなくなるのではという不安も抱えたなかで、制作が進んでいったという。『月が食べてしまった』に込めた思いと、自分の声や、歌を歌う自分自身と向き合ってきた時間についても話を聞いた。(吉羽さおり)

表現し続けたい 

ーーニューシングル『月が食べてしまった』もまた、これぞ藤田恵名というエッジーなロックチューンになりました。今回はどういうテーマでスタートした曲ですか。

藤田:いつも通り、孤独とか葛藤とか、寂しさとかがあるんですけど、今回は救いようがあるようで救いようがない感じですね。タイトルの通り、夜にいろんな思いが襲ってきても、寝てしまえばその寝ている間だけは苦しい思いを忘れられるっていう気持ちを込めて。でも起きると、またその出来事はつきまとってしまうという、その悪循環を歌っている感じがしています。

ーーいつ頃書いていた曲なんですか。

藤田:とくに前から温めていた曲とかでもなく、昨年10月くらいにシングルをリリースしますとなって着手した曲で、作るのが大変でしたね。ある程度、テンポが速めでとか強い感じの言葉、単語を入れてとか、いつもざっくりとしたものだけあって作りはじめるんですけど。時間もなかった中で、一緒に曲を作ったり編曲をしてくれる(田渕)ガー子さんに曲を出しては「もっとできる」と言われて。そのキャッチボールの繰り返しで、しんどかったですね。

ーーその「もっとできる」っていうのは、どういう部分でなんですかね。

藤田:ガー子さんは、どんどん追い込んで、負荷をかけてくるんですよ。そのストレスで藤田はケツを叩かれて、さらに曲に人間性が出てくるっていうのをわかって、「もっとできる」って言うんですけど。わたしはもちろん、はじめからそういう曲を出してるんだけどなって思うから、ムカつくんですよ(笑)。でも、ガー子さんのいう「もっとできる」にまんまと乗せられてます。

ーー歌詞に〈一番になれない十字架を背負って〉というフレーズがあって、そこには何か苦しみとか諦めとかいろんな感情がないまぜになっている感覚がありますが、これまでの歌詞にもそういうニュアンスのものがどこかに含まれていましたね。藤田さんの音楽の根っこにそういう思いがずっと流れている感じがある。

藤田:「何かの一番になれてこなかったな」っていう葛藤や、そういう気持ちはつねにつきまとっているんです。最初は曲のタイトルが「十字架を背負え」だったんです。そこを言いたかったし、この一文が気に入っていたんですけど、ガー子さんに「もっと違うタイトルにしたら?」って言われて、そうですかねって感じでタイトルを「月が食べてしまった」に変えたんですけど。

ーーでも「月が食べてしまった」という方が、いろんなイメージを沸かせてくれるなと思いますよ。曲自体は苦しみも痛みもあるけれど、「月が食べてしまった」って、すごくいい喩えだし、ロマンティックな感じがある。

藤田:歌詞を書く上では、小さいときに聞いた言葉とか、小さいときに読んだおとぎ話の感じをどこか入れたくなるんですよ。ピエロとか、比喩表現として使ったりもするんですけど、ロマンティックな、メルヘンな発想は、歌詞を書いていく上で忘れたくないなというのがあるんです。

ーー 一方では、〈出来レースのなかで踊らされたんだ〉など、自分ではどうにもならないような状況も突きつけられる。

藤田:強い言葉というか、普段あまり会話では使わない言葉を入れることで、何気ない曲にも耳を傾けてほしい気持ちがありますね。それはわたしからしたら、曲でしか表現できないことで。歌の中なら全部、許してもらえる気がするんです。普段こういう気持ちがよぎることは、なきにしもあらずだし。そういう強い言葉と、あるあると、おとぎ話……藤田の歌はそういうので構成されてるのかなって、自分を分析したときに思いました。

ーーそのへんは、最近になって分析できたんですか。

藤田:曲を作っていて、もうちょい何か足りないなとか、もうちょい強みがほしいなとか言葉を差し引きしているときに感じますね。あまり自分自身のことは分析しきれてはいないですけど、藤田のセオリーでいくとそういう要素があるのかなって最近思ったんです。それこそ、ポリープの手術をして声を出しちゃいけない期間があったときに、自分の曲を聴いていたんですね。最近の歌詞の感じ好きだなとか、自分のメモとかを見返してみたときに、こういう要素が強いんだなって向き合う時間があって。そこで、分析できたかなと思うんです。

ーー声を出せない期間は、自分の曲を聴いていたんですね。

藤田:聴いてましたね。手術をして、歌えるようになるのかなっていう不安もあったり。でもそれまで声が出なくてライブのセットリストから外す曲があったり、この曲からこの曲にいくには考えながら歌わないと喉がもたないなとか、ライブ中に余計な雑念もあったんです。ポリープの手術をしたら、あの曲も歌えるようになるのかなとか、余計なことを考えてなくて済むかなって思ったら、歌うことが楽しみになったんです。セットリストから外してしばらく歌ってない曲を聴いたりすると、自分の曲と改めて向き合えるようにもなって、いい時間でした。

ーー歌うのが楽しくなると、曲作りもまた楽しくなりそうですね。

藤田:そうですね。幅が増えるのかなとか。でも、“味わい”が減るみたいなのもちょっと怖いんですけどね。ガー子さんとかは、しゃがれた感じの歌声なのも良かったって言ってくださるので。実際、今回のシングルのレコーディングは、手術前に歌っていて。絞り出すように歌っているので、歌に自然と必死さも出るというか。それがまた、味わいとして良かったりもしたので。これが簡単に歌えるようになると、また違うのかな? っていうのはいま不安要素でもあるんですけど。でもこれは、幸せな悩みだと思っております。

ーーもしこのまま歌えなくなったらって不安があったと言っていたじゃないですか。実際にそうなってしまったら、どうしていたと思いますか。

藤田:どうしてたかなあ。歌えないってなったら、歌手をやめるしかないし、レコーディングしたこのシングルが最後になっていたかもしれません。歌えないならこの世界にいても虚しくなるだけだなって、自分では思ってました。大げさだって思われるかもしれないけど、それくらいずっと歌しかやってこなかったので。

ーー歌詞を書くことと歌うことでは、歌うことが大きい?

藤田:表現し続けたいんです。かと言ってポエマーではないので、歌詞を書いてもそれが自分で歌えないなら意味がないんです。人に提供して満足できるくらいわたしはお人好しじゃないから。自分で歌うことでやっと今は消化できてると思うんですよね。日によってマインドは違いますけど、歌えなくなる不安があったときは、わりと強気でした。もうどっちかしかないなっていうくらい。

ーーその歌えないかもしれないというときの精神状態は、今回の歌詞にも影響しているんですか。

藤田:歌えないというのとは直接リンクしてないですけど、このままでいいのかなとかもやもやした状態が、寝ている間だけは忘れられるというのはリンクしていますね。〈頭と足元イコールじゃないまま〉っていうフレーズがありますけど、頭ではこれを歌いたい、でも足が向く方は全然イコールじゃないなとか、節々で自分のきつかったことは歌詞に入っていると思います。

藤田恵名「月が食べてしまった」

第二形態の藤田の歌声を聴いてもらえたら 

ーーサウンド面では、疾走感のあるストレートな曲調となりました。アレンジのイメージはどういうものでしたか。

藤田:いつも、ライブで歌うことを想定して曲を作っているんですけど、今回はあからさまにはわからない仕掛けや、ガー子節と言えるコードがちょこちょこと入ってますね。この曲はとくに、ギターもスタンダードなコードというよりは、正の感情なのか負の感情なのかちょっとわかりにくい響きになっていて、そのあたりはガー子節がでたサウンドだと思います。

ーー前向きだけど、憂いを含んでいますよね。この曲の疾走感やコード感が、今回のカップリングとなったthe pillowsのカバー曲「TRIP DANCER」と、すごくリンクしてるなって思ったんです。

藤田:もともとガー子さんがthe pillowsを好きなのも大きいと思いますね。じつはわたしは数曲しか知らないくらいだったんですけど、この「TRIP DANCER」の歌詞を見てライブ映像を見たときに、ビビっときて。(山中)さわおさんは、なんの曲をカバーしてもいいよって言ってくださっていたみたいなんです。いろいろ迷いましたけど、「月が食べてしまった」では眠るじゃないですか。「TRIP DANCER」の冒頭の歌詞でアラームが鳴るんですよね。物語が繋がった! って思って。発見してめっちゃテンションが上がって、「ガー子さん! これアラームなりますよ!」って(笑)。

ーー(笑)。内容も雰囲気もシンクロする感じがあって、「月が食べてしまった」という曲だったからこそ、この曲をカバーしたのかと思ってました。

藤田:全然そういうのではなかったんですよね。わたしが「TRIP DANCER」の歌詞を初めて見たときは、すごいっていうよりも、ずるいって思ったんです。なんでわたしの感じてることを先に書いてるの? って(笑)。自分が思ってもないことはなるべく歌いたくないというか、歌えないんですけど、この曲に関してはよくぞわたしの気持ちを言ってくれたというか……って、上から目線みたいになってますけど(笑)。希望があるようでずっと孤独な気がしていて、最後の〈歩み寄るべきだ なんて思わないだろ?〉っていうのも、こういう言葉を書けるってすごいなって思って。ただただリスペクトの気持ちでこの曲を選ばせていただいて、歌いました。

ーー世の中はどうにもならないし、自分に配られたカードのなかでなんとかやっていくしかないんだけど、でもその先はあるんだってどこかで思ってもいる。この曲の感じって、藤田さんの書く歌詞と近しいものがあるなと思いました。

藤田:すごく思いました。だから、歌詞を書くときとか、制作とかで困っているときに絶対さわおさんの歌詞は見ちゃダメだなって思いますね(笑)。

ーーだいぶ食らったんですね。そのリスペクトを込めて、曲の良さを活かしたアレンジに?

藤田:そうですね。誰がいちばんプレッシャーかって、ガー子さんがずっとファンだったから、the pillowsの曲にアレンジを施すのはすごいプレッシャーだろうなと。わたしだったら多分、原曲とは全然違うことやっちゃったりとか、突拍子もないことをしちゃいそうですけど、原曲の特徴的なフレーズは残しながら、藤田がライブで歌うときにも映えるようなアレンジになっていますね。この曲では、藤田のファンよりも、これをきっかけに聴いてくれるthe pillowsファンにも響くものになればと思いました。

ーーそもそも今回のカバーは、どういう経緯だったんですか。

藤田:アルバム『強めの心臓』(2017年)を作ったときのプロデューサーが、もともとthe pillowsの担当をしていた方で。その繋がりもあって、アルバムでカバーとか入れてみる? っていうお話はいただいていたんです。それがズレにズレて、今回入れてみますかという流れになったので、最初は必然性があってということではなかったんですけど。でも、今この曲を選んで歌うというのは、何か感じるものがあったのかなと思います。プロデューサーさん曰く、今の藤田と担当していた当時のさわおさんがちょっとかぶると、言ってくださっていたので。

ーー当時のさわおさんともかぶる部分って、自分ではどんなところだと思いますか。

藤田:孤独感なのか、報われたいという思いなのか……ひとりで戦ってる様子がリンクすると言ってくれたのかなと思うんですけど。わたしは、今戦っとるぞって思いながら、じつはあまり戦ってないのかもしれないなって思ってしまうんです。もちろん戦っているつもりですけど、上には上がいるので。とくに当時のさわおさんの苦しみは、わたしの戦いなんて敵わないものだっていう気はしてます。

ーー今、藤田さんが戦っているものはなんでしょうか。

藤田:戦っているものは……人の目とか。ここ1カ月くらい声が出せないというのはあったけど、それでストレスは感じてなくて。それは、音楽を作る上では、良くないことかもしれないんですけどね(笑)。でも、例えばシングルのジャケットを発表しましたとなると、もう外野からあれこれいろんな声があってーー。

ーー確かにそこは、いろんな意見がいっぱいありそうですね(笑)。

藤田:いっぱいくるんですよ(笑)。うるせーよ! っていう。本来はそこと戦ってますけど、でも諦めている部分もあるかな。ガー子さんによく言われるのは、争いは同レベルでしか起きないっていうことで。わたしがそこでムキになったら、相手と同レベルになってしまうから、見ないようにーーってことは守りに入ってますよねえ、わたし?

ーーそうなのかな(笑)。

藤田:攻めの姿勢を崩してる気がしてて。まあ、いろんな意見を見て、そこでフラストレーションが溜まってわーってなるのも、一種のサイクルなので。たまにはアンチコメントでも見にいくかっていうのもあります(笑)。

ーーいろんなものが音楽のタネになっていきそうですね。

藤田:はい。それができる職業でよかったなと、しみじみ思います。

ーーこちらも毎度話題となりますが、MVはどんな感じになっていますか。

藤田:今回は、歌詞に基づいたストーリー性のあるMVになってます。映画監督もされている阪元裕吾さんが監督しているんですけど、初めて、自分ではない女の子が主人公で。自分じゃない人が、曲の物語を演じてくれるのがすごく嬉しかったですね。わたしはその女の子を助けるヒーロー役で、今回もアクションのシーンはあるんですけど、いい感じになったかなと思っております。わたし自身、孤独で、自分も学生生活がずっと楽しかったわけじゃないんですけど。そういう子たちにも、聴いてほしいなって思います。

ーーそして2月2日には待望のワンマンライブがあって、ここでは思う存分に歌を堪能できそうですね。

藤田:『月が食べてしまった』のリリースイベントでは、弾き語りでインストアの空間でやっていたので、バンドでがっつりとこの曲を演奏するのが楽しみですね。2月2日には、もう声も治ってると思うので。これまで封印しかけていた曲も、歌えるかなっていうワクワクもありますね。第二形態の藤田の歌声を聴いてもらえたらなと思います。

(取材・文=吉羽さおり/写真=林直幸)

■リリース情報
『月が食べてしまった』
発売:2019年1月16日(水)
【着衣盤】(CD only)¥1,204(税抜)
M1「月が食べてしまった」
M2「TRIP DANCER」
M3「月が食べてしまった」OFF VOCAL VER.
M4「TRIP DANCER」OFF VOCAL VER.
【脱衣盤】(CD+DVD)¥1,852(税抜)
[CD]
M1「月が食べてしまった」
M2「TRIP DANCER」
M3「月が食べてしまった」OFF VOCAL VER.
M4「TRIP DANCER」OFF VOCAL VER.
[DVD]
01「言えない事は歌の中」Music Clip(完全版)
02「言えない事は歌の中」Music Clip(検閲版)
03「言えない事は歌の中」Music Clip(未検閲版)

■ライブ情報
『シュガーラボpresents完全体解体ワンマンライブ』
2月2日(土)Shinjuku club SCIENCE

オフィシャルサイト

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