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『PRINCE OF LEGEND』評論家対談【後編】 「男の子同士の関係性は全員魅力的」

リアルサウンド

19/4/4(木) 12:00

 劇場版『PRINCE OF LEGEND』が大ヒット公開中だ。本作は、TVドラマやゲーム、ライブイベントなど、様々なメディアと連動した、LDHが手がけるプロジェクト『PRINCE BATTLE PROJECT』の一環として制作。熱狂を生んだ『HiGH&LOW』シリーズの製作陣が再び集結し、劇場版ではドラマ版のクライマックスパートが描かれる。

 今回、リアルサウンド映画部では、圧倒的なルックスを誇る王子たちが、「伝説の王子」になるべくバトルを繰り広げる『PRINCE OF LEGEND』を掘り下げるために、ドラマ評論家の成馬零一氏と、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏による対談を前編と後編にわたってお届け。これまでの「王子様ドラマ・映画」との違いなどについて語った前編に続き、後編では、本作における王子たちそれぞれのキャラクター設定や、ディズニー映画にも通ずる「王子様とお姫様」問題について掘り下げた。(編集部)

■果音のことを好きになれない結城先生の“業”

西森路代(以下、西森):片寄涼太さんは、ドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』では、『PRINCE OF LEGEND』(以下、『プリレジェ』)の奏様とは真逆の男の子を演じていて。これについては、『日経エンタテインメント!』のインタビューでHIROさんが「ブランド価値を上げるために、キラキラものだけじゃない作品にも挑戦していくべき」と語っています。それは、本人にとってもうれしいことだと思うんですよ。やっぱり奏様は王子様ではあるけど、片寄さんが四六時中、王子様であり続けるのはつらい。人間くさい、自分の衝動を表現するような演技もやりたいと思うでしょうしね。

成馬零一(以下、成馬):あと、TEAM先生の結城先生(町田啓太)が、どうしても果音のことを好きになれない自分にショックを受けてるのが面白かったです。パンフレットに人物相関図があるんですけど、「自己愛」って書いてあるんですよ。

西森:(笑)すごいですよね、結城先生。「ハンサムな人の自己愛」みたいなものは、描かれることはあるんでしょうけど、この作品は、本人と密接に結びついた作品だし、その自己愛に突っ込むってなかなかないですよね。結城先生は、王子になろうとしている他の人たちがハマる果音(白石聖)の魅力がわからないということは、自分に王子としての資質が欠けているのかなと考えるわけで。それは、結城先生だけじゃなくて、佐野玲於さん演じる綾小路葵も、他の人も似たようなものなんですけど、そのホモ・ソーシャルな構造に自分自身で気づくところが、みんなより年齢を重ねた先生王子の経験のなせる業なのかなとか(笑)。

成馬:この構造を見せちゃうんだという驚きがありましたよね。京極竜(川村壱馬)も果音に「お前蚊帳の外じゃん」って言いますし。女の子をほったらかしで、男性ソーシャルの中で勝手に王子たちが争ってる。だから果音は「妄想押し付けるな」「おまけなんですよね」と言う。

西森:結局、純粋に果音のことが気になってるのが京極竜くらいじゃないかと……。気になるけど、兄と同じ人を好きになってはいけないと思うっていうのは、今までの物語でよく見てきたタイプの人間性ですから。

成馬:TEAM生徒会の綾小路は奏に対するライバル意識でしか動いてないですからね。だから最初は、果音の名前も覚えられない。

西森:「奏のことは覚えてるくせに」って果音の言われちゃうっていう。あと、TEAM 3Bのハル(清原翔)は、お兄さんとしての情があるからよく見えましたよね。反則シーンはありましたけど。

成馬:こういう作品で難しいのは、ヒロインを好きになるイケメンを増やせば増やすほど、途中はすごく面白くなるんだけど、物語を収束する時に、誰か一人に決めなきゃいけないという暗黙のルールがあることですよね。イケメンドラマという枠組みで実験的なことをやっていても、最後に誰を選ぶかという段階になると、よくある展開に落ち着いてしまう。『兄に愛されすぎて困ってます』も、最初はすごい楽しくて、イケメンドラマという構図を使えばこんな面白いこともできるのか! と発見もあるけど、最後に誰を選ぶのかという話に収束していくのがもったいなかったなぁと思いました。

西森:伝統的な家族観、みたいなものに向かいますもんね。だだ私的には、奏や京極竜、ハルという、果音に対して男同士の競争以外の気持ち、愛情でも友情でもいいんだけど、感情を抱く人がいないと怖いなとも思うんです。いちおう、この作品が、奏の成長ものだとすると、ホモ・ソーシャルの中での競争からではなく、男の妄想でもないところで、ちゃんと果音という女の子を見られるようになるということが、成長になるので、まあそういう終わらせ方もあるかと。

■「お城に取り残された王子様」はどうなる?

成馬:『プリレジェ』を見ていて、1997年に放送された『少女革命ウテナ』というアニメを思い出しました。『ウテナ』は、鳳学園という巨大な学校を舞台にした少女漫画テイストの作品で、劇中では「薔薇の花嫁」と呼ばれている少女・アンシーを自分のものとするために、「デュエリスト」と呼ばれる生徒たちが決闘ゲームを延々と繰り広げているんですよ。決闘に勝利すると「世界を革命する力」が与えられると言われていて、その力を得るためにデュエリストたちは戦っているのですが、このあたりは「伝説の王子」になるために王子たちが戦う姿と重なりますよね。ただ『ウテナ』が『プリレジェ』と違うのは、天井ウテナという少女が「僕が王子様になる」と言って、決闘ゲームに参戦して、モノみたいに扱われていたアンシーを解放するという方向に向かうんですよ。宝塚や天井桟敷といった舞台のテイストをアニメに持ち込んでいて、現実に起きていることと心象風景の映像が並列的に描かれている前衛的な作品なので、内容を説明するのがとても難しいアニメなんですが、一言でいうと「王子様がお姫様を救う」という少女漫画的な物語を、シスターフッド(女性の連帯)によって解体していく作品だったんだと思います。だから最初は『プリレジェ』も『ウテナ』みたいになるのかなと思っていたので、「伝説の王子選手権」というゲームから果音が抜けだして戦っている王子様たちが寂しく取り残されるバッドエンドが思い浮かんだんです。

西森:新しい女の子が「伝説の王子選手権」に参戦して、その男同士の争い=ホモ・ソーシャルを一蹴すると。

成馬:そういう展開の方が現代的ではありますよね。『ウテナ』は90年代末に放送されたのですが、それって、『アナと雪の女王』以降のディズニー映画が最適解として現在、描いていることだと思うんですよね。王子様を必要としないお姫様が自立した強い女に成長していく姿を美しいものとして描くという。ただ、お姫様の自立と開放は描けても、お城に取り残された王子様がその後どうすればいいか? という問題にはみんな困っていて、『ウテナ』の幾原邦彦監督も王子様の問題だけは、その後の作品でもうまく答えを出せてないんですよ。4月から放送される幾原監督の新作アニメ『さらざんまい』は男の子たちの群像劇みたいなので、期待してるんですけど……。「お城に取り残された王子様の問題」は多分、今フィクションを作っている人たちがみんな頭を悩ませてる問題で、ディズニーも『アナ雪』以降、お姫様が頼ってくれなくなった王子様はどう生きたらいいんだろうということをずっと模索してると思うんですね。それを「王子が大渋滞!」という言葉が象徴していると考えると、『プリレジェ』はぞっとするくらい素晴らしい作品なんですよ。

西森:果音が、「あほくさー」って王子を残して一人どっかに行っちゃう、っていうのも終わり方としてはありですよね。最近『えいがのおそ松さん』を見たら、6つ子たちが、自分で自分を認めるというか、慈しむようなシーンがあって、そこだけ妙に感動してしまったんです。それを見て、『プリレジェ』でも、この感覚はあってもいいんじゃないかと思いました。取り残された王子たちが、女の子をまったく介さずに、自分で自分を慈しむか、もしくは王子たちは王子たちで自分というものを取り戻せばいいんじゃないかと。でも、それがもしかしたら『HiGH&LOW』(以下、『ハイロー』)なんじゃないかって気もします。『プリレジェ』は、ホモ・ソーシャルなだけじゃなくて、京極兄と京極弟の絆とかもありますし、そのわちゃわちゃ、ブロマンス的な絆がストーリー的な救いになりはしないか? とかも思うんですけどね。映画の終盤でも尊人(鈴木伸之)が竜のこと持ち上げてたじゃないですか。ライブでも、竜が尊人のこと抱っこしようとしてて、「重くて無理!」ってなって沸いていました。

成馬:女性視聴者が男女のラブストーリーよりも、BL的な関係性を消費する方向に向かっているなら、イケメンドラマは形を変えるしかないんでしょうね。実際『プリレジェ』も男の子同士の関係性は全員魅力的だったので、もっとドラマで見たかったという思いはあります。

西森:それが、女性に消費されるためだけの関係性に終わるのではない方向になればいいんじゃないかなと。

■壁ドンの解像度が上がった

成馬:それにしても、このドラマの絶妙な言語センスって何なんでしょうね(笑)。イケメンにささやかれた女の子の「耳で妊娠する~」みたいな反応が気になりました。あと久遠誠一郎(塩野瑛久)を紹介する時に「歩くWikipedia」と言うのが、聞く度にキャッチーだなぁと驚くんですよね(笑)。

西森:ほんとに名言がいっぱいで(笑)。ネット的な言葉をリアルタイムで入れてますよね。

成馬:あと、本編とあまり関係ないんですけど、カメラをつけて壁ドンされる女の子ってどういう気持ちなんだろうってのが気になって。「その仕事、何?」って、余計なことを考えながら見ていました(笑)。

西森:あそこで壁ドンされる女の子は、みんなを代表して壁ドンをされるけれど、その分、「いい映像とってこなきゃ!」みたいな気持ちだと思うんですよ。劇中にも「いい映像ありがとう」みたいなセリフもありましたよね。「ガチ恋」を越えて、「美しい体験をみんなが一緒に愛でられるように」みたいな感覚で楽しんでいるんじゃないでしょうか。

成馬:壁ドンの解像度が上がったってことですよね。「壁ドンが是か非か」みたいな話だけだったら「壁ドン、けしからん」という感じで今後消えちゃう可能性もあるんだけど、「世の中には、良い壁ドンと悪い壁ドンがあるんだ」となると意味が変わってくる。『プリレジェ』ではバリエーションが増えたことで、壁ドンという表現がとても豊かになっている。

西森:さきほども言いましたが、壁ドンというもの自体が、今は前後のストーリーが切り離された、“型”になっちゃってると思うんですよね。当初の「男の人のどうにもできない気持ちから出てしまった行動」みたいなのが全くなくて、人を胸キュンさせるための型の一つになっている。気持ちから出た行動だったら、点数がつけられないんだけど、型だから点数がつけられるんですよね。

■『ハイロー』VS『プリレジェ』の可能性も!?

西森:『プリレジェ』は、キャスト全員にそれぞれ別人格を持たせていますよね。それを映画で終わらすわけではなく継続させることで、その人の持っている素の幅というか、感情表現の幅を広げているんじゃないかと思います。『ハイロー』でも、本人性を生かしたキャラが独り歩きして勝手に人気が広がっていったことの応用ですね。

成馬:LDHが自分たちで作品を作ってるのも大きいのかもしれないですね。

西森:そうそう。きっと、自分のグループとしての活動にもフィードバックされると思うんです。私がびっくりしたのは、『ザ・テレビジョン』のインタビューで、鈴木伸之さんが、「劇中の果音とのシーンで、ちょっとズルいシーンがあるんですよ。個人的にはダメだと思うんですけど」って言っていて。私も映画を見て、それはいかんだろと思っていたので、こういう映画に出て、今までにない思考が生まれたのかなと思いました。それと、やっぱり本人の内面の魅力を広く世間に知ってもらうのに、物語性を活用する方向になっていると思うんです。本人とつながったキャラクターを知ってもらい、その時だけ頑張るのではなくて、「この作品のこの人が好き」と長く愛されることが今は大事になっているのかなと。

成馬:ファンに見つけてもらうためには、導線を用意しなきゃいけないですからね。とくに人数の多いアーティストのグループはどこから入ったらいいか、わからなくなりやすいですし。

西森:昔はその役割をバラエティ番組が担ってたんだけど、今のテレビではなかなかそれができないから、物語性で知ってもらうというのがLDHがやっていることですよね。ある種、作品がキャラクターのカタログ的になっている。またRAMPAGEの話になっちゃうけど(笑)、私も正直最初は、まだ彼らの個性を知らなかったんです。でも、映画を見て、そのあとに横浜アリーナのステージで見た時に、川村さんのステージマナーというか、振る舞いが人を引き付ける感じがあるのがわかって、そういう興味の道筋をつける役割が『プリレジェ』にはあるのかなと。

成馬:それにしても、LDHは終わらないですよね。今回のプリレジェも今後、続いていきそうな気配があるので、。一回果音の物語は、終わらせて、今後は純粋な王子様バトルとして、真の王子様を決めるみたいな戦いが始まるのかも。この学校自体、実は階級構造があるわけですよね。TEAM奏はセレブ王子だけど、ダンス王子のTEAMネクストは、そうでもないというか……。

西森:“エコノミークラス”とかありましたね。

成馬:そうそう。“エコノミー”と“ファースト”があって、その辺の構造をうまく活かせば階級闘争的な物語を描けますよね。あと、『プリレジェ』って、実は『ハイロー』と同じ世界観という説がないですか?(笑)。

西森:(笑)クロスしちゃうかもしれない。『ハイロー』VS『プリレジェ』もあるってことですか!

成馬:『ハイロー』は貧富の差が広がっているという世界観ですからね。『プリレジェ』には朱雀グループと玄武高専(高校)が出てきますが、朱雀と玄武って中国神話の四神(朱雀・玄武・青龍・白虎)の名前ですよね。それで『ハイロー』は九龍グループを筆頭に龍が象徴として使われていたので、SWORD地区は青龍なのかなぁとか、妄想が膨らみます。富裕層が暮らすエリアがSWORD地区の南にあって、そこに聖ブリリアント学園があるのかもしれない(笑)。(取材・文=若田悠希)

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