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『いだてん』は“ダメな庶民のダメな話”を綴る? 通常の大河ドラマとは異なる2つのポイント

リアルサウンド

19/3/3(日) 8:00

 宮藤官九郎脚本の『いだてん~東京オリムピック噺~』は異色の大河ドラマだ。これまでのところ、その異色ぶりが視聴率によくない方向で反映されてしまっているという見方が大勢を占めているようだが、では、『いだてん』の何が異色なのだろうか?

 『いだてん』の大河ドラマとしての異色ぶりはこれまでも数多く論じられてきた。制作統括の訓覇圭チーフプロデューサーは自ら取材に応え、7つの異色要素として「近現代大河」「主演リレー」「古今亭志ん生が物語をナビゲート」「2つの時代が目まぐるしく交わる複雑な構成」「史実を基にしたフィクション」「自由な内容の“大河紀行”」「大量の番宣」を挙げている(スポニチアネックス、1月6日)。他にも、「遊び心あふれるナレーション」(クランクイン!、1月13日)、「主人公の多さ」(リアルサウンド、2月24日)、「天狗倶楽部や音楽で含ませる遊びのエッセンス」(オリコンニュース、1月13日)などが指摘されてきた。第5話でのマラソンの実況中継などは「遊びのエッセンス」の最たるものだろう。

 筆者は『いだてん』が通常の大河ドラマとは大きく異なるポイントが2つあると考える。一つは主人公が“何者でもない”こと。これは多くの人がすでに指摘している。もう一つは“落語”がモチーフになっていることだ。この2つのポイントは強く結びついている。

【写真】『いだてん~東京オリムピック噺~』名シーン

■大失敗をしでかした2人が主人公

 主人公はストックホルムオリンピックに日本初の代表として出場したマラソンランナーの金栗四三(中村勘九郎)と、東京オリンピックを招致した田畑政治(阿部サダヲ)。金栗四三は“マラソンの父”として知られる存在ではあるが、けっして多くの人に知られていた存在ではない。田畑政治に関しては知らなかった人がほとんどだろう。

 坂本龍馬(『龍馬伝』)、真田信繁(『真田丸』)、西郷隆盛(『西郷どん』)らが名を連ねるここ10年の大河ドラマの主人公たちと比較しても、両者の知名度のなさは一目瞭然。主人公の知名度はドラマの面白さにはまったく関係ないのだが、ネガティブに捉えると「とにかくなじみのない主人公で、ストーリーもわかりづらい」という評価につながってしまいがちだ。

 金栗四三と田畑政治は単に知名度がないというだけではない。両者とも、とんでもない失敗をやらかしているのだ。宮藤官九郎は2人について次のように語っている。

 「金栗さんは期待を背負って出場したストックホルムオリンピックで気を失ってしまったり、田畑さんは失言がもとで64年の東京オリンピックの直前に大事なポストから降ろされたり。でも、そういう部分に人間味をすごく感じました」

 「ほかにもすごい人たちはたくさんいたんですけど、僕自身、勝ち進んで上に登りつめていく人よりも、何か大きな目標に向かっていったのに達成できなかった人に親近感が湧いてしまうんですよね」(いずれも『いだてん』公式サイトより)

 これまでの大河ドラマは、有名な武将や歴史的人物がまさに「勝ち進んで上に登りつめていく」過程が描かれてきた。数々の失敗や悲劇的な最期が描かれることもあるが、基本的に大河ドラマの視聴者は、主人公が功成り名遂げる姿を見てカタルシスを感じ、そこをベースとして登場人物たちが織りなす人間ドラマを楽しんでいた。

 一方、『いだてん』は失敗ばかりだが人間味あふれる登場人物たちがドタバタを繰り返し、成功をつかむかと思えば、必ずしもそうでもない。これまでの大河ドラマと正反対の志向だと言えるだろう。

■ダメな庶民のダメな話

 『いだてん』は「東京オリムピック噺」とサブタイトルがついているように、落語が非常に重要なモチーフになっている(噺とは落語のことを表す)。ビートたけし演じる昭和の名人・古今亭志ん生がナビゲーターになって物語を進めていくが、もともと宮藤官九郎は古今亭志ん生を中心とした戦中・戦後・近現代のドラマを構想していたのだという(NHK大河ドラマ・ガイド『いだてん』前編・NHK出版)。

 落語とは、庶民の話だ。おおまかに言えば、ダメな庶民のダメなエピソードを「しょうがねぇなぁ」と笑うのが落語というものである(「しょうがねぇなぁ」はビートたけしの口ぐせでもある)。金栗四三、田畑政治をはじめ、『いだてん』の登場人物たちはいずれも庶民であり、落語の世界がふさわしい。

 これまでの大河ドラマは、講談の世界が近い。講談は釈台と呼ばれる小さな机の前に座り、張り扇を叩いて調子を取りながら読み上げる話芸で、そこで語られるのは主に「軍記物(軍記読み)」と呼ばれる戦国時代の武将や武士たちの勇ましい物語である。また、『水戸黄門』や『大岡越前』などの時代劇は講談がルーツだと言われている。講談師の旭堂花鱗は「落語はエピソード、講談はストーリー」と両者の違いを表現している。

 これまでの大河ドラマが講談の世界なら、『いだてん』は完全に落語の世界。有名な武将の勇ましい話ではなく、ダメな庶民のダメな話を描いているのだ。さらに、大きなストーリーではなく、小さなエピソードを重ねることでドラマを作り上げている。宮藤官九郎も「何より将軍様の話じゃなくて、庶民の話がやりたいので、下町の世界観を持っている落語がしっくりくると思います」とはっきり語っていた(NHK大河ドラマ・ガイド『いだてん』前編)。

 完全に今までの大河ドラマとは一線を画しているクドカン大河『いだてん』。これまでの大河ドラマの視聴者が離れていくのはある意味当然のことであり、それならそれで『いだてん』を楽しめる人たちが楽しめればいいのである。

(大山くまお)

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