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相対性理論、“反復と裏切り”が生み出す生命と音楽の変異 国立科学博物館ライブを見て

リアルサウンド

18/10/22(月) 16:00

 「RED BULL MUSIC FESTIVAL『わたしは人類』インスタレーション+特別集会『国立科学博物館の相対性理論』」が10月9日、東京・上野 国立科学博物館にて開催された。100枚限定で販売されたライブチケットは即完売、会場ではやくしまるえつこの作品『わたしは人類』のインスタレーション展示と、相対性理論のライブパフォーマンスが行われた。

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 国立科学博物館地下2階、「地球環境の変動と生物の進化」が常設されるフロアだ。暗闇の中で我々を待っていたのは、青と緑の光に照らされた巨大な恐竜の骨格標本。会場の中央では、シャーレに収まった緑色のバクテリアが展示機械の駆動によって規則的に揺れている。時間になると、相対性理論のメンバーは何も言わずに舞台に立ち、楽曲の演奏を始めた。

 2017年、やくしまるえつこは作品『わたしは人類』で「STARTS PRIZE」のグランプリを受賞した。「STARTS PRIZE」はメディアアートの世界的祭典「アルス・エレクトロニカ」がEUとともに主催する国際賞で、毎年、科学・技術・芸術を横断する優れたプロジェクトが受賞作品として選出され、さらにその中からグランプリ作品として、芸術作品を対象とした”Artistic Exploration”と、コラボレーションプロジェクトを対象とした”Innovative Collaboration”という、2種の最高賞が選ばれる。やくしまるえつこの『わたしは人類』は芸術作品を対象としたグランプリである”Artistic Exploration”を授与された。

 『わたしは人類』は「人類滅亡後の音楽」をコンセプトにした大いなる実験である。途方もない長い時間を越えた先に、我々の文化を残すにはどうすればいいだろうか? 古くは口承、紙に書いた楽譜から、加えて現代ではデジタルデータを用いて人は音楽を次世代に伝えてきた。しかし、それらを管理する人類が滅亡するほどの永い時間が経った未来、そこに音楽を伝える方法として、彼女は全く新しいアプローチを取った。

 それは「DNA配列に音楽を固着すること」で実現した。遺伝子工学を用いて楽曲の情報をDNA配列に変換し、その配列をシアノバクテリアに固着する。遺伝子を改変されたバクテリアは長期保存ストレージとなり、自身の繁殖によって情報を次世代に伝えていく。幾々世代にも渡るころ、たとえ人類が滅亡しても、DNA配列には彼女の音楽が保存されているのだ。科学・テクノロジー・アートの境界を超えて音楽を保存するこの試みは高く評価され、グランプリの受賞に至った。

 ライブの1曲目に歌われたのは「FLASHBACK」。アルバム『天声ジングル』の最後を飾り、印象的なフレーズが繰り返し用いられる楽曲だ。この曲に限らず、相対性理論というバンドは多くの楽曲の中で「反復」を技法として使う反面、ライブではその反復を裏切る。やくしまるえつこ(Vo, dimtakt & Kaoss pad)、永井聖一(Gt)、吉田匡(Ba)・山口元輝(Dr & Moog)の歌と演奏は、いずれも音源では聴いたことのないインプロビゼーションにあふれている。そう、彼女たちの音楽は生演奏によって変異するのだ。演奏の次の瞬間、音源では聞いたことのないグルーヴが立ち上がり、彼女たちは自身の楽曲を拡張していく。

 曲の最後、〈あなたは何度も甦る わたしはいつでも呼びかける〉と歌われた後、アウトロはイントロに回帰する。詞と曲が相互に連結して反復する同曲は「FLASHBACK」という一言で結ばれた。

 続いて歌われたのは「NEO-FUTURE」、先日突如配信された最新曲だ。サビに入ると彼女は白く光る杖「dimtakt」を掲げた。9次元楽器・dimtaktは埋め込まれたセンサーによって動き・傾きや方位などを検知し、あらゆる音色を発する。音の突然変異を具現化したかのようなその楽器が掲げられた時、〈Put Your Hands Up Bots/Put Your Hands Up Humans〉と彼女は歌った。

 近い将来、VR技術の発達により人とアバターの境界線はなくなり、オンラインでは人間とボット(会話などの作業を自動化するプログラムの総称)の区別がつかなくなるだろうと言われている。「NEO FUTURE」の観客に向けて振られたそのタクトは揺らめくように白く光り、会場を照らす青・緑の光と調和した。

 いのちの営みは反復である。そして、音楽も光も波であり、波とは、反復そのものなのだ。

 最後に歌われたのは「わたしは人類(変異Ver.)」。会場フロアの常設展「地球環境の変動と生物の進化」を緩やかに揺らすように、彼女の声が響く。

〈止めて止めて進化を止めて/止めて止めて止めないで〉

 「わたしは人類(変異Ver.)」とは、彼女が『わたしは人類』の重要なコンセプトの一つとしている「突然変異」を演奏に組み込んだバージョンで、シアノバクテリアのDNAに基づき『わたしは人類』の譜面中に仕掛けられたトランスポゾン(ゲノム上を転移する、突然変異の原因となる遺伝子)のパートにおいて、実際に突然変異が起こるアレンジで演奏される。これまで彼女たちが続けてきた「反復とそれを裏切る演奏」が、「種の保存とそこに訪れる変異」にフィードバックされ、その演奏はまるで新たな種が産まれる瞬間のように、拡張されていく。短い間隔で何度もリピートされる彼女の声、それが響く次の瞬間に、ベースラインの膨大なうねりとギターの躍動が重なった。同曲で〈AとGとCとTで/君を作るDNA〉と歌われるように、DNAが保持する遺伝情報を構成するのは、たった4つの塩基だ。たったそれだけの塩基が生物を保持し、次の世代につなげている。それは人間も変わらない。そして、それらは長い時間をかけて変異し続けるのだ。彼女は〈わたしは人類/はじめまして/ハロー〉と同曲を結び、ラスト、「おやすみ」と一言残し会場を去った。

 先ほども記述した通り、いのちの営みは反復である。幾度も繰り返す絶滅と進化の歴史の中で、生物は自身の遺伝子(Gene:ジーン)によって膨大な情報を次世代に伝えてきた。人間はそれに加え、言葉や創作物によって情報を次世代に伝える生き物であり、その継承を我々は「文化」と呼ぶ。人々はときに、自身の繁栄よりも文化の継承に固執した。彫刻や絵画などの「形有るもの」はもとより、演劇や音楽、ファッションなどの「形無いもの」も、脚本や楽譜、文字によって伝達し続けた。それはまるで遺伝子のように受け継がれ、現代に続いている。ときに変異しながらも受け継がれ続ける人々の振る舞い、これを文化遺伝子(Meme:ミーム)と呼ぶのだ。

 「文化遺伝子」を次世代に伝えることは今まで人間にしか出来なかった行為で、しかしこれをバクテリアに託すことで、例え人類が滅んでも音楽は生き続ける。あまりにもシンプルな、しかし確実に宿るバクテリアの「いのち」に音楽を託すこと。それは全く新しい試みであると同時に、文字通り非常に「原始的」であり、だからこそデジタルデータや楽譜など、既存の伝達技術には無い全く新しい可能性をもはらんでいる。

 それは「変異」だ。生物は進化によって変異し続けてきた。バクテリアの遺伝情報に書き込まれた音楽も同じように、長い時間をかけて変異していく。人類が滅亡するほどに長い時間を経た先で、彼女の音楽はどのような姿になっているのだろうか?

 終演後、会場には拍手が湧き、舞台には緑色のバクテリアだけが残された。機械の中で静かに規則的に揺れるその姿もまた、反復していた。永い時間が経った後でいつか裏切られる反復は、彼女の音楽を知らない姿に変えるのだろう。そして相対性理論もまた、反復を裏切って進化し続けていく。(白石倖介)

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