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いま、最高の一本に出会える

草野マサムネも注目する福岡発バンド NYAI、小熊俊哉がそのポップセンスを解説

リアルサウンド

19/7/4(木) 14:00

 2019年も折り返し地点を迎えたところで、〈退屈を定規みたいに並べて遊ぶ/毎日をねじ曲げるような事を待ってる〉なんてローファイ極まりない歌詞を聴くことになるとは。チャーミングで捻くれた言い回しには、なぜだか妙な親密さも感じられる。the pillows「Funny Bunny」とベン・リー「Away With The Pixies」をミックスしたような曲調に加えて、気だるい歌声と黄昏た演奏、エモさの極まったメロディも最高。NYAIのニューアルバム『HAO』の収録曲「Boredom」を聴いて、一発でこのバンドの虜になってしまった。

NYAI「HAO」ティーザームービー

 福岡発のNYAIは、takuchan(Vo/Gt)、ABE(Vo/Key)、showhey(Gt)、たにがわシュウヘイ(Ba)、アヤノ・インティライミ(Dr)による5人組。2011年にmixiの掲示板で「バンドメンバー兼飲み仲間」を募集したのが結成のきっかけで、そんな緩いエピソードさながら、自主制作を重ねつつマイペースな活動を展開してきた。

 そのなかで大きなトピックが、2015年5月に、同郷のNUMBER GIRLに捧げた非公式トリビュートコンピ企画『Good-Bye SCHOOL GIRL』に参加したこと。NYAIによる「IGGY POP FAN CLUB」のカバーは、本家MATSURI STUDIOにもSNS上で紹介され、現在までに45,000回を超える再生回数を記録している。さらに、翌年には初の全国流通フルアルバム『OLD AGE SYSTEMATIC』をリリース。90年代のオルタナ〜インディーロックへの愛情に満ちたサウンドは、地元のシーンを超えてじわじわと注目を集めていく。

 そして2018年には、『OLD AGE SYSTEMATIC』に収録された「Merrygoround in rainy days」が、ラジオ番組『SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊記』(TOKYO FM)で流れるというサプライズも。こちらも同郷の大先輩である草野にフェイバリットとして紹介されたのは、NYAIにとって転機ともいうべき出来事であり、今回こんなコメントを寄せてくれた。

MERRY GO ROUND IN RAINY DAYS / NYAI

 「ラジオの前にファンクラブの会報でレコメンドしてくださってるという話が入ってきていて信じられませんでしたが、そのあとラジオで草野さんが曲をかけてNYAIというバンド名を発してくれたので『本当に聞いてくれてるんだ』と実感しました。作詞・作曲を担当するtakuchanのギターポップの目覚めは、スピッツのシングル『チェリー』のカップリング曲『バニーガール』で、そこからいろいろな音楽を聴くようになり今に至ります。スピッツは当たり前のように日常で流れている音楽ですが、バンドで音楽をやるようになってから、ポップミュージックを作り続ける凄さを改めて感じています」

 草野の耳も惹きつけた『OLD AGE SYSTEMATIC』の甘酸っぱさと疾走感、ざらついたギターポップは、SUPERCARの傑作デビューアルバム『スリーアウトチェンジ』の影響下にあるもの。捻くれたリフや一筋縄ではいかないメロディにはPixies、力の抜けたルーズな佇まいと、そこから滲み出る詩情にはPavementを感じずにいられないし、抜けの良さ、音の太さ、手数の多さの三拍子揃ったドラミングは、アヒト・イナザワのプレイを踏襲しているようだ。

 それに何よりNYAIのカラーを担っているのは、takuchanとABEによる男女ツインボーカルだろう。音源を聴いてすぐに思い浮かんだのは、AxSxEとアインを擁した伝説のバンド、BOaT。実際、NYAI結成時のロールモデルだったそうで、彼らの尖ったポップセンスはここに正しく継承されている。

 このように、90年代オルタナ/インディーポップの要素をユーモラスに昇華させてきたNYAIは、この度リリースした2ndアルバム『HAO』で、これまでとは比べ物にならないほどの爆発的進化を果たしたようだ。猛烈なテンションを貫きつつ、楽曲のレンジやアレンジのバリエーションは大きく拡張。おまけに、どの楽曲もすこぶるキャッチーで、「タワレコメン」(タワーレコードのスタッフが新進のアーティストをプッシュする企画)に選出されたのも納得のポピュラリティを獲得している。

Jackie chan`s J / NYAI

 アルバムを再生すると、ジャッキー・チェンに言及した爽快なパワーポップ「Jackie chan`s J」、曲名通りのギターノイズが四つ打ちのリズムと踊る「Noise」、Slowdive辺りに通じるシューゲイザー的なリフを反復させた「Buckwheat」という、曲調の異なる冒頭3連発でいきなり畳み掛けてくる。そこから勢いだけで押し切ろうとせず、ドリーミーな歌と演奏をじっくり聴かせる4曲目の「Yumeshibai」は本作随一のハイライト。そこから冒頭で触れた「Boredom」へと続くメロウな展開は、脱力感の漂うアートワークに反して(失礼)ロマンティックにすら思えてくる。

Yumeshibai / NYAI

 その後も、My Bloody Valentineの浮遊感とNew Orderのリズムセクションが合わさったような「22column」、かつて対バンしたというCHAIを想起させるアジアンニューウェーヴ「Chinese daughter」といったふうに、アッパーとメロウとファニーを使い分けながら、アルバムは起伏に富んだ展開を描いていく。おまけに、鍵盤のループを用いた「Spicy beans」のような実験的ナンバーも用意されており、次のステージへ進むことを明確に狙った、バンドにとっての野心作であるのは間違いなさそうだ。

 実際のところ、ニトロデイや突然少年といった新進バンドの台頭もあり、日本の音楽シーンにて「オルタナ」は再浮上しつつある。まもなくべールを脱ぐNUMBER GIRLの復活劇も、そのムードを推し進めることになるはず。そういった動きも追い風にしつつ、謙虚な5人組がダークホース的に飛躍する可能性は十分にありそうだ。

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部、音楽サイ『Mikiki』を経て、現在はフリーで活動中。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

■リリース情報
『HAO』
発売:7月3日(水)
価格:¥2,000(税抜)
<トラックリスト>
1. Jackie chan`s J 
2. Noise
3. Buckwheat
4. Yumeshibai 
5. Boredom
6. 22column
7. Chinese daughter
8. Spicy beans
9. Circular saw
10. Ghostly turn
11. MeaninglessHAO

NYAI オフィシャルサイト

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