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三浦春馬、“普通の青年”を成立させる演技力 『こんな夜更けにバナナかよ』もうひとりの主役に

リアルサウンド

19/1/3(木) 6:00

 筋ジストロフィーを患いながらも、夢や欲に素直に生き続けた実在の人物・鹿野靖明の人生を描いた人間ドラマ『こんな夜更けにバナナかよ』。劇中描かれるのは主人公・鹿野の人生だけではない。鹿野が集めた大勢のボランティアとの関わりも描かれている。三浦春馬演じる医大生・田中久もその中のひとりだ。

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 三浦は、誠実だがどこか自分の将来に自信を持てない青年を演じている。田中は「患者と向き合う医者になりたい」という思いがあり、鹿野の力になろうと真面目にボランティアに取り組んでいるのだが、鹿野からはいつも怒られてばかりいる。父の病院を継ぐために勉学に励んでいるが、父との折り合いはあまり良くなく、人生に悩む様子を見せる。

三浦は1997年にNHKの連続テレビ小説『あぐり』で子役としてデビューしてから、『14才の母』(日本テレビ系)、『ごくせん』第3シリーズ(日本テレビ系)、『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系)、『ラスト・シンデレラ』(フジテレビ系)、『おんな城主 直虎』(NHK総合)など、年齢を重ねるごとに幅広い役柄を演じてきた。

 三浦の演技には、自身が演じる役に対する深い思いが感じられる。演じる役の背景を考え、キャラクターとしてではなく、ひとりの人間として彼らと向き合っている印象だ。特にそのことを強く感じられるのは、第24回演劇大賞優秀男優賞と杉村春子賞を受賞することになった舞台『キンキーブーツ』(2017)のローラ役だろう。ドラァグクイーンというインパクトのあるキャラクターではあるが、彼女の突き抜けた性格を体現した。取材を担当した女性記者も憧れたという徹底したボディラインの作り込み、誰もが驚いた歌唱力、そして何より観たものすべてを惹きつけるカリスマ性。役の背景を深く理解する三浦でなければできなかった役だろう。

 そんなドラァグクイーンとは真逆とも言えるのが『こんな夜更けにバナナかよ』の田中役だ。鹿野や田中の恋人・安堂美咲(高畑充希)に対する田中の表情はどこか頼りない。彼なりに鹿野の力になろうと奮闘する姿は伝わるのだが、どこか空回りしているようにも見える。鹿野の体位変換をまかされた田中だが、決して乱雑に鹿野を扱うわけではない。しかし体に痛みを感じた鹿野はそのことをはっきりと訴える。その勢いのある物言いに圧倒された田中は「すみません」と言ってばかりだ。鹿野との交流を通じてイキイキとしていく美咲とは対照的に、田中は鹿野との交流によって、自分に自信がなくなっていく。人と話すときに目を伏せてしまう田中は、映画後半になればなるほど周囲の人と目を合わせられなくなっていく。

 田中は劇中、自身のボランティアに対する姿勢や「医者になりたい」という姿勢を「偽善だ」と話す。美咲はそんな田中を励まそうと言葉をかけるが、田中は美咲や鹿野のボランティアを拒絶してしまう。鹿野の命を救うために、折り合いの悪かった父に対して頭を下げるシーンもあり、彼の姿勢は決して偽善ではない。しかし三浦は、自分に自信が持てず、それを誰に相談するでもなくひとり抱え込む青年の心情をしっかりと捉えていた。

 大泉演じる鹿野のひたむきな姿や、高畑演じる美咲の溌剌とした姿に比べると、田中の姿は後ろ向きに見えるかもしれない。しかし田中の存在は、鹿野の人生に立ちはだかる障壁を現実的に見せてくれるものであり、「病院や施設ではなく、自宅で自立生活を送りたい」と願う鹿野の思いを強く伝えるものである。

 鹿野を演じた大泉の存在が本作を成立させたことは間違いない。だが、鹿野のキャラクターがあれだけ活きたのも、三浦が田中という“普通の青年”をリアルに演じたからこそだろう。本作は鹿野の物語であると同時に、美咲、そして田中が変化していく物語でもある。屈折しながらもひとつの答えを見つける田中は、本作のもうひとりの主役と言っても過言ではないだろう。(片山香帆)

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