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いま、最高の一本に出会える

一番の驚きはジルベール=磯村勇斗!? 『きのう何食べた?』キャラクターと役者のマッチ度を検証

リアルサウンド

19/6/14(金) 8:00

 自分が、日々新しい単行本が出るのを心待ちにしていて、出たら即買うほど好きなマンガの実写化というものは、ほぼまちがいなく、腹が立つ仕上がりになるものである。

 9歳の時、『ドカベン』の実写映画化(1977年)を観て以降、何度となくそんな現実に直面してきた。『ドカベン』を撮った鈴木則文監督が、『トラック野郎』シリーズ等を世に送り出した商業映画の名匠であることは、大人になってから知ったが(亡くなる前年に出た著書『東映ゲリラ戦記』も読みました)、それでも広島の映画館で「子供をバカにするな!」と心底頭にきた記憶は、あれから40年以上の月日が流れても決して消えない。

 まあ『ドカベン』のひどさに関しては、ポイントを挙げればキリがないが(ほぼ柔道編で野球はちょっとだけ! 殿馬が川谷拓三!  夏子はんはブスメイクしたマッハ文朱! 徳川監督役で出てんじゃねえよしかも似合ってんじゃねえよ怒れよ水島新司! などなど)、そのように「大好きなマンガの実写化」イコール「腹が立つ仕上がり」になるのは、必ずしも作品側の問題ではない。自分がそのマンガにのめりこむことによって脳内に形成されていくイメージとズレるからだ、どうしたって。その自分個人のイメージとぴったりくるか、もしくは「俺のイメージとは違うけどこっちの方がいいや」というくらい圧倒的な説得力を持つ作品になっているか、そのどちらかでないといけない。で、そんなものは、ほぼありえない。くり返すが、作品側だけでなく、自分の脳味噌のせいで。

 しかし。あくまで僕個人にとってだが、ここ4年の間で少なくとも二作、自分にとって「腹が立たない」「それどころかめっちゃいい」大好きなマンガの実写化と出会う、という驚くべき経験をした。ひとつは2015年、是枝裕和による吉田秋生『海街diary』の映画化。そしてもうひとつは、2019年4月からテレビ東京金曜深夜「ドラマ24」の枠で放送が始まった、よしながふみ『きのう何食べた?』のテレビドラマ化である。

 この『きのう何食べた?』の「マンガの実写化」がなぜ成功しているのか、どこがどのように優れているのかについて、すべて書いていくと、それだけで本1冊くらいになってしまう。

 なので、たとえばマンガの2話分をドラマ1話に合体させた上で細部を引いたり足したりマンガでは物語の中盤にあったセリフをシメに持ってきたりするのがどれも芯を食っている、つまり編集する手さばきがいちいち見事である安達奈緒子の脚本についてとか、初めて会った時ジルベールが着ていたTシャツが原作では「ぞう」なのを「針ネズミ」に変えるなどの絶妙なセンスの演出とか、そういうことについては本稿ではいったん置いといて、一点に絞って書きたい。

 どこについて。キャスティングについてである。

 このドラマ化が発表になった時、きっと多くの原作ファンが抱いたであろう「シロさんが西島秀俊でケンジが内野聖陽、それぞれはいいけど年齢逆じゃん! 内野聖陽の方が上じゃん! シロさんが上からでケンジが下から、っていう構図じゃないとダメじゃん!」という不安が、放送一回目で「あれ? 全然気にならない」とあっさり払拭されて以来、この主演ふたりに対しては称賛の声しかきいたことがないし、僕もそれに全面的に同意する。

 さらに他の主要キャスト、シロさんの両親(志賀廣太郎と梶芽衣子)にしろ、上町弁護士事務所の所長とその息子である若先生(高泉淳子とチャンカワイ)にしろ、もういちいちバッチリ。佳代子さんの夫の富永さん(矢柴俊博)の無邪気で悪意がないのが厄介な無神経さとか(顔もそっくり)。ケンジの美容室の店長、ヒロちゃん(マキタスポーツ)の、いい歳して落ち着けない激ワルオヤジな感じとか。

 「うーん、ちょっと違うかも」と僕が感じたのは、佳代子さん役の田中美佐子と小日向さんの山本耕史、そのふたりだけだった。田中美佐子の佳代子さん、キャラの方向は合ってるんだけど、いかんせんきれいすぎておばちゃん感が足りない(実年齢は役と符合しているんだけど)。

 小日向さんも同じで、もうちょっといかつくておっさんっぽい方が……ジルベールにベタ惚れして振り回されている役なので、「いやいや、あんたもたいがい男前じゃん」と、思ってしまうのだった。

 逆に「やられた!」と思ったのが、そのジルベールことワタルくんを、磯村勇斗にしたこと。最初に知った時は「ないわあ」と思った。ジルベールみたいな美少年ときいていたのに、会ってみたら普通じゃん! 美少年じゃないじゃん! というキャラなのに、磯村勇斗じゃ「ほんとだ、美少年だ」ってなっちゃうでしょうが。何考えてんのよ。『ひよっこ』(NHK総合)とか観てなかったの?

 と思っていたもんで、第6回(5月11日放送)の彼の登場シーンで度肝を抜かれた。ちゃんと「どこがジルベールじゃ!」なワタルになっていて。目ぇ小さいし無精髭だし、アゴの角度がいつも変だし、原作の「どことなくムサい」感じも出ているし、普通に「30になったばっか」に見えるし(実際は26歳)。「まいりました」と思いました。ただ、磯村勇斗、7月からの「ドラマ25」の『サ道』(タナカカツキ著の「サウナ好きのバイブル」の、まさかのドラマ化)にも出演するそうで、テレ東深夜ドラマのせいであらぬ方向へ突き進んでいる……と、心配な気がしなくもありません。

 そして。それ以外のキャスト、原作ではその人が軸になる回もあるんだけどドラマでは今のところそこまで描かれていない、脇役の面々もいちいち絶妙なのだ。

 たとえば、上町弁護士事務所の事務員、小山志乃の中村ゆりか。上町先生が負債整理・再建を手伝った洋食屋、小山軒の娘で、きりりとした美人でしっかりしていてドスの効いたキャラ。でも実は20歳そこそこだと知ってシロさんと若先生がびっくりする、という回が原作にあるのだが、まさに! なキャスティングである、中村ゆりか(22歳には見えないところまで含めて)。

 この人が父親の弟子のコックと結婚し、生活していくさまも原作では描かれる。ドラマではそこまで追えないかもしれないが、観たい気持ちはとてもあります。

 もうひとつたとえば。第1話と第6話に出てきた、シロさんが通うスーパー中村屋のオバちゃん、唯野未歩子。最初に観た時は「おおぅ」と思わず声が出たほどだった。よくまあこんなにドンピシャな人見つけたなあ、と。脚本家・映画監督としても活動している人なんですね。彼女とシロさんがバトルする回が5巻にあって、1話ではそのほんの一部しか使われていなかったので、続きがあることを期待します。なお6話の「閉店間際にシロさんが手にした手羽先に半額シールを貼る」は、原作にはまったくない出方です。

 さらに。一回しか出てこない人まで絶妙なキャスティングであることが、このドラマの大きな魅力になっている、とも思う。

 その究極が、第8回のヨシくんとテツさんで、ふたりはシロさんに遺産相続のための養子縁組の相談をするカップル。ヨシくんが正名僕蔵、テツさんが菅原大吉。もう、完璧としか言いようがない。それぞれいろんなドラマや映画で観てきた俳優だし、正名僕蔵にはインタビューしたこともあるのに、思いもよりませんでした、この役がこのふたりだとは。そして、こんなにすばらしいとは。正名僕蔵、ハリウッドを目指して大人計画をやめて渡米したけど1カ月で帰って来て長坂社長に泣きついた、だから劇団大人計画のメンバーではなくなったので公演には参加していないけどマネージメントは大人計画である、なんてことまで知っているというのに。

 あともうひとつ、「これ究極だなあ」と思ったのが、6月7日放送の第9回の冒頭、結婚パーティーのシーンに出てくるシロさんの司法修習生時代の同期である新郎、バッファロー吾郎A。この人、原作ではひとコマしか出てこないし、セリフもないのです。なのにここまで寄せる? それにふさわしいセリフとキャラを創造する? と、ちょっと愕然としました。

 かように、新しいキャラが出てくると「おおお!」ってなることがほぼ約束されているドラマであることは、もう充分思い知っているもんで、今後も期待しているのだが、いかんせんドラマは6月で終わってしまうのだった。

 志乃の夫の小山軒の周平さん、誰だったらハマりいいかな、とか。8巻で出てきた今田聖子(別れた夫のもとにいる我が子が愛しくて問題起こしまくりのシロさんの依頼者。ドラマでは第1回、佐藤仁美)の従姉妹である「夫が痴漢で捕まった妻」竹中真澄、出てくるとしたら誰がやるのかな、とか。

 と、期待は尽きません。いちばん観たいのは、上町弁護士事務所に新しく入ってきた事務員で、シロさんがゲイであることを一発で見抜く二児の母、山田瑞希なんだけど、原作で出てくるの12巻だしなあ。出ないだろうなあ。

 あと、志賀廣太郎が脳血栓の手術で降板したの、やむをえないが惜しい。後任の田山涼成の悟朗を、まだ観てないのでなんとも言えないが。(文=兵庫慎司)

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