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イベントの模様

黒沢清監督、カーペンターを語る。「彼の映画は日本そば」その真意とは?

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18/10/24(水) 18:00

ジョン・カーペンター監督作品『遊星からの物体X〈デジタルリマスター版〉』のリバイバルロードショーに合わせ発売になった『ジョン・カーペンター読本』の刊行を記念したトークイベント『黒沢清、映画監督・ジョン・カーペンターを語る。「監督名で映画を見る面白さ」とは?』が22日に都内で開催された。当日は黒沢監督に加え、聞き手として篠崎誠監督、進行役で今回の『遊星からの物体X』を配給し、『ジョン・カーペンター読本』を手がけた映画批評家の樋口泰人氏が登壇。当初の予定時間を上回り、それぞれがジョン・カーペンター論を熱く語った。

まず、はじめに樋口氏が『ジョン・カーペンター読本』を発売するに至った経緯についてのちょっとした裏話を披露。なんでも『遊星からの物体X』は現在、権利関係がひじょうにこみ入ったことになっており、それをひとつひとつクリアしていったらとても上映できないぐらい大変になっているそうだ。どうにか上映の許可はおりたものの、それ以外でも規約は厳しく「使える場面写真はユニバーサルから送られてきた5、6枚のみ。予告編を新たに作ることはNG。予告編はユニバーサルに昔のものがあったら、それはOKということことだった。そこで最初に届いたのが、30秒の誰も登場しない特報で……。『さすがに誰も登場しないのだけでは』ということで届いたのが、今流れているもの。ただ、スタンダードサイズでテレビ用なのか、なに用に作ったものなのかは定かじゃない」とのこと。さらに取り決めがあり、「物販はNG。パンフレットもダメ」ということだったそう。でも「せっかく上映するのにパンフレットもないのは寂しい」ということで考えた末、作ったのが今回の『カーペンター読本』になるそうだ。ただ、この本に関しても「『遊星からの物体X』によった内容であるとチェックが入る」ということで、カーペンターについて様々な書き手が語る内容になったといういきさつが明かされた。

樋口氏は冒頭の話の最後で「黒沢監督をはじめ、書き手のみなさんのそのときの自分の歴史と絡まりあいながらカーペンターの話が出てきて、いろいろなカーペンターが見えてきたのがおもしろかった。カーペンターという監督の像を固定するような本ではなく、これからカーペンターという偉大な監督の像を作り上げていくような本になってくれたかなと思っています」と語った。

ここからいよいよトークイベントへ。まずは篠崎監督が「黒沢監督は藝大の学生にほぼ毎年のように見せているときいているのですが」と話しを差し向けた。すると黒沢監督は「東京藝術大学大学院映像学科で教え初めてもう14年ほど。映画を1本見せたあと、それについて解説する講義があるのですが、10年、10回ぐらいは『遊星からの物体X』をとりあげている。今年もとりあげました。だから最低でも10回以上観ているから、この映画は隅々まで持ちネタがあります」と明かした。

それに対し樋口氏が「学生には『遊星からの物体X』を使ってどんなことをに教えるんですか」と問われると、黒沢監督は「いや、『ここすごくないですか』と。よく言えば“これがすごい”ということをわからなければ君たちいけないんだぞということを伝えている。そういうことが1番、学生たちには印象に残るのではと思っています」と語った。

続いてカーペンターとの出会いについて話が及ぶと、黒沢監督、篠崎監督ともに当初は「さほど凄い監督と思わなかった」と意外な共通認識が。篠崎監督が「名を成すような監督はデビュー作からすごいことが多い。ただ、カーペンターは違うというか。初期の作品に『ハロウィン』がありますけど、何度も観るんですけど、いつみても僕は“微妙”で(苦笑)」と言うと、黒沢監督が「確かに『ハロウィン』のころはなんか怪しかった(笑)。楽しく観ましたけど、そのときは、この監督がうまくなると想像できなかった。それがいつの間にやら気づけばうまい監督になっていた」と続け、篠崎監督も「こんな風にうまくなる監督がいるんだと驚いた」と同意した。

決してデビューから目立った存在ではなかったカーペンター監督。今やアメリカ映画界の巨匠として認知されているが、そのフィルモグラフィを細かく紐解くと、苦難の道を歩んでいる。トークはそのあたりのことにも話は及び、篠崎監督は「本人は初めての長編『ダーク・スター』を発表したとき、仕事がいっぱいくると思っていたらしい。でも全然で、1970年代の一時期は脚本家として生計を立てようと模索していたみたいです。『遊星からの物体X』も『E.T.』の2週間後に公開されて大コケ。それはそうですよね。宇宙人と人間の友愛の感動でアメリカ中が染まっているときに、片や物体Xの出現で、誰も信用できないという物語をやっているわけですから。この失敗はそうとう傷ついたみたい。『遊星からの物体X』が興行的にも、批評的にも抹殺されたのは寂しい。これがもうちょっとまっとうに評価されて興行もうまくいっていたら、カーペンターの人生かなり変わった気がする。“たられば”で語ってもしょうがないんですけど」と語り、黒沢監督も「フランスでも近年になってようやく評価高まっている。僕が最初にフランスにいった20年前ぐらいは。本気でけなしているよいうより、相手にしていないというか、ほぼ無視。主に映画のストーリー、テーマからくる現代的な問題意識の欠如のようなもので認めないというか。フランスで高い評価をすればいいというわけではないですけど、にしてもフランスでカーペンターを認める人はほとんどいなかった。それが10年前ぐらいから徐々に変わってきて、いまやアメリカの巨匠として評価されている。ただ、認められるのが遅すぎる(笑)」と語った。

また、今回の書籍で黒沢監督はカーペンターの映画を“「映画はこれくらいでいいのだ」と断言している”と書いていることに話は言及。ただ、これはなかなか言葉では説明しずらいようで……。

篠崎「このちょうどいいは説明しづらいですよね。一見すると深みのないように思われてしまうけど、そうじゃない。余計な深みはいらないということで。シンプルでいいということ。ここを批評で書くのは難しい」

黒沢「一般の人にはなかなか伝わりづらいかもしれない。作っている側だとちょっとわかったりするんだけれども。創作する上で、ある場面とかいろいろと膨らませたりするんですね。最終的にはこれいらないかもとなるかもしれないけど、必要じゃないかと思って。でも、カーペンターはなくていいと(笑)。ある時期まではちゃんとあって最後に外したのかもしれない。その実態はわからないですけど、僕がこれは絶対必要だよねと思うことを、カーペンターはなしでどんどん平気で前に進めちゃう。これはすごい。実は、このちょうどよさは自分でもまだよくわかっていない。こういう表現の世界、映画を物語を語るという中で、ちょうどいいというのがあるんだなと。なにがそれかをみつけるのは大変なんですけど、いい按配があるんだというのをカーペンターの映画は理解させてくれる」

篠崎「そう、いい按配なんです。カーペンターは、ひとつの描写をしつこく細かく過剰にやったりはしない。余計なものがない。単純で明快なショットがつながっていく」

黒沢「これは僕が言ったんじゃなくて、誰かが書いてたか、言ってたと思うんですけど、カーペンターの映画は、ざるそばを食べるように見るのがいいと。途中で噛んだりしてはいけない。一気に観るもんだと。要はのどごしで楽しむものだと。これはけっこう当たっている気がする(笑)」

すると会場から「ちょうどよさが大切なところで、もしあえて『遊星からの物体X』に黒沢監督がドラマティックな要素を付け加えるとしたら?」という質問が。

これに対して黒沢監督は「考えたこともないですね。ただ、親子の話というか。親子の関係性を絡めることはない。サスペンスのストーリーが動いているときに、親と子、血のつながりみたいなことが絡んでくるとややこしいことになる。だから、僕は入れないでしょうね。これ以上ないぐらい省いてるからカーペンターらしいんですけど、このようなドラマで僕が入れてしまうのは老人ですね。最後まで生き残るか、直前まで存在する。(サム・)ペキンパーが必ずやるやつです。役に立ちそうもない老人が、最後えらく活躍する。これはついやりたくなってしまいますね」と答えた。

このほかにも篠崎監督によるカーペンター映画とキリスト教との結びつき、カーペンターの意外な子煩悩エピソード、その息子が一時期、日本にいてカーペンターにAKB48の存在を教えたことなど、ユニークかつ興味深い話が次々と飛び出し、トークは大いに盛り上がった。

そして、最後はやはりカーペンター監督の現状と今後について。現状としては2010年の『ザ・ウォード/監禁病棟』以来、新作映画は届いていない。近年はもっぱらミュージシャンとしての活動にいそしんでいるようだ。

樋口氏は「今後、撮ってくれればいいけど、まったくわからない。プロジェクトが小さくなっているせいか、情報が入ってこないので、企画が進んでいるのかいないのかもまったくわからないのが現状」と語り、3人ともカーペンター監督の新作がいつか届くことを望んでいた。

『遊星からの物体X〈デジタルリマスター版〉』
公開中

『ジョン・カーペンター読本』
発売中
株式会社boid
山崎圭司・樋口泰人 編
黒沢清、青山真治、中原昌也、三宅唱、田野辺尚人、真魚八重子、マキヒロチほか 著
定価:1200円+税

取材・文:水上賢治

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