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ムロツヨシ、戸田恵梨香に伝説的プロポーズ 『大恋愛』たどり着いた幸せの先にあるもの

リアルサウンド

18/11/10(土) 10:30

 「スタッフさんが、“ドラマの伝説が生まれた“って言ってた。え、これ、最終回でいいんじゃない?って(笑)」と、放送直前にムロツヨシと戸田恵梨香がインスタライブで語ったように、11月9日放送の『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)第5話は、伝説級の感涙シーンが待ち受けていた。

 「好きと嫌いは選べない」と同じように、“報われる喜び”も“すれ違う悲しみ”も突然やってくるものだ。どんな状況の尚(戸田恵梨香)のことも愛しているのだと言った真司(ムロツヨシ)も、きっと自分から「別れよう」なんて言う日が来るとは思わなかったはず。贅沢な暮らしも、安定した結婚も、何もかも捨てて自分と“砂漠を歩こう”と決めてくれた尚を、真司はどうにか幸せにしたいと思った。だが、その想いが強いからこそ、同時に自分にできることの限界に絶望したのだ。

 私たちは身体の好調と不調を繰り返しながら生きている。傷ついては修復し、調子のいい状態を保とうと努力する。それと同じように、心だって変動しているのだ。乾燥して敏感になったり、小さなキズがいつの間にか膿んでしまったり。見えないから、どれほど傷ついているのか見逃すこともある。だから、何かを決断しようとするときは、特に大事なものを手放すしかないと結論づけそうになるときは、自分の心が弱っていないかと、慎重に観察したほうがいい。

 真司は身体を壊したのと同時に、心を深く傷つけた。愛する人を守ることのできない絶望。だが、その傷は今まで人を深く愛したことのない真司にとって、知らない傷だったのだ。心が弱ると、急激に視野が狭くなる。そして“これしかない”という極論に達してしまう。数多くある可能性とともに、自尊心が手のひらから、ハラハラとこぼれ落ちてしまうから。目の前には、尚の願いを叶えられる経済力を持ち、治療を共に進めることができる侑市(松岡昌宏)がいる。尚にとってそばにいるべき人は、自分じゃなくて、この人だ。そう思いこむことこそが、自分が尚にしてあげられる最善だ、と思ったのだろう。

 もちろん、この真司の独りよがりな決断は尚を深く傷つける。そもそも尚の人生、誰と一緒に過ごすことが最善かは、尚が決めること。そばにいる人がしてあげられることなんて、それこそ「好きにさせてあげること」しかないのだから。そもそも相手のために何かをしてあげる、なんてことは多くが自分がそうしたいからでしかない。「これで尚を幸せにすることができた」。そう真司が思いたかったからに他ならない。

 だが、そう信じたい気持ちが小説『脳みそとアップルパイ』を生み出す原動力となった。それは「小説を書かなきゃ死んでた」という言葉通り、真司にとって生きる力そのものだった。この小説のストーリーこそ“今ごろ尚が幸せになっているはず”という希望だったのだから。買った花を置いて帰ってしまう尚も、愛しい真司に見せてもらった原稿の書き出しは忘れなかった。偶然に足を運んだ書店で見つけた真司の本。花を買いに外出したのも、尚が自発的に選んだことではない。だが、そうやって不思議な糸に引き寄せられるように、人生は予期せぬ展開を迎えるものだ。

 このドラマチック過ぎるドラマが、決してしらけることがないのは、戸田とムロの演技力があってこそだろう。真司が去ったあとの尚は、目の光を失い、生きる力が弱っているのが一目で伝わってきた。逆に、尚に対してやるべきことを成し遂げたと思い込む真司は、尚への想いを本という形にしたことで自信を取り戻した表情に。それは、別れを告げたときのふたりとは真逆だ。その対比はセリフではなく、ふたりの表情で語られる。

 そして、侑市の粋な計らいによって、ふたりは思い出の居酒屋で再会を果たす。この侑市の行動も、ある意味で真司と同じ形の尚への愛情なのだろう。“これで尚が幸せになってくれるなら”と。この居酒屋店長と女性スタッフのコミカルなやりとりはファンサービスであり、スピード感ある本作において時間経過を実感させてくれる要素。それと同時に、クスッと笑えるシーンがあればこそ、真司のプロポーズという伝説的シーンの涙を誘う。

「結婚しよう」
「名前間違えちゃうけど、いい?」
「いいよ」
「鍵挿しっぱなしにしちゃうけど、いい?」
「いいよ」
「黒酢はちみつドリンク、何度も注文しちゃうけど、いい?」
「いいよ」

 文字にすると、単調に綴られるセリフだが、ムロと戸田の言い回しによって、少しずつふたりの心の距離が近づいてくるのがわかる。一度去った真司に恐る恐る近づく尚の心。「いいよ」は“大丈夫だよ”でもあるし、“信じていいよ”でも、“安心しなよ”でもある。「病気なんて屁でもない」の言葉よりも、ずっとシンプルかつ包括的なフレーズの「いいよ」に、真司の覚悟が感じられる。

 この言葉の強さには、何をもって愛する人を幸せにするというのか、その真理にやっと真司がたどり着けたからだろう。幸せとは、何かをしてあげることではなく、一緒に笑い合えることそのもの。もともと真司が持っていたやさしさと面白さで十分だったのだ。ベストセラー作家という地位を手に入れたからでも、印税で裕福になり侑市へのコンプレックスがなくなったからでもない。だが、それらを持つ側になって、はじめてそれが愛に必要な条件ではないと気づけたのだから、自信と心の健康と愛の関係はバランスが大事なのだろう。それは、健康であるためには、適度な睡眠と食事と運動だと言われるように、わかりきっていることなのに、実は手にするのが難しいものだ。

「いつか、真司のこと、忘れちゃうけど、いい?」
「いいよ。結婚してくれる?」
「うん」

 尚の心が近づくと、いつも気丈に振る舞う真司の目もだんだん赤くなっていく。それは心が満たされていく様子が体現化されているようだった。泣いているようで、笑っているようで、切なくて、愛しくて、苦しくて、うれしくて……一言では説明できない温かなものが、視聴者の心にまで一気に流れ込んでいく。幸せは、伝播する。それが、フィクションだとわかっていても。日常でささくれだった心が、潤っていくのがわかる。恋愛ドラマとは、この瞬間のためにあるのだろう。

 だが、“そして、ふたりは幸せに暮らしましたとさ”となるのは、普通の恋愛ドラマ。このドラマは『大恋愛』だ。まだまだ私たちの心を揺さぶってくるに違いない。新たに登場した、ムラサキ色の手帳を持つ編集者・水野明美(木南晴夏)や、若年性アルツハイマー病患者の松尾公平(小池徹平)が、真司と尚の間にどんな変化をもたらすのか。まだまだ目が離せない。何度絶望しても、病で心が壊れそうになっても、最後には愛という生きる力を信じることができる。そんなドラマが展開されることを期待している。(佐藤結衣)

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