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『みかづき』森絵都の原作を思い切って改変 ダメで愛らしい高橋一生×情熱的な永作博美が中心に

リアルサウンド

19/2/2(土) 17:00

 高橋一生、永作博美主演のNHK土曜ドラマ『みかづき』がスタートした。原作は森絵都の同名小説。昭和から平成の時代にかけて、三世代にわたり学習塾に情熱を傾ける人たちの姿を描く感動作だ。文庫本にして600ページを超える大著を、どのように全5回のドラマにするか注目していたが、ドラマの制作陣はこちらの想像を超えた改変を行ってきた。しかも、それが驚くほど面白い。一体何が起こったのか?

参考:“ちょっとだけ普通じゃない”高橋一生が教える生き方 『僕らは奇跡でできている』が放つメッセージ

 ドラマは、原作では終章(とはいえ100ページ以上ある)の主人公である上田一郎(工藤阿須加)の現代パートから始まる。うだつのあがらない彼が、祖父・大島吾郎(高橋一生)が書いた祖母・千明(永作博美)についての回想録を読む形で進む。その過程で、一郎自身の物語も語られていくのだろう。それにしても、真っ白なカツラを被った高橋が見守る中、同じような老けメイクで危篤状態の永作がカッと目を見開いて工藤を一喝するシーンは、陽気なBGMと相まってコントのような出来栄えだった。このシーンを頭に持ってきたのは、「今からみなさんに見ていただくのは、こういうドラマですよ」という宣言だろう。第1話ではそこから昭和の時代にさかのぼり、吾郎と千明の出会いから「八千代塾」の開塾までの様子がテンポよく描かれた。

 とにかく驚いたのは、原作が持っていた重厚さ、静謐さをかなぐり捨て、コミカルでハイテンションなドラマに生まれ変わっていたことだ。予告を見た時点である程度は予測していたが、これほどまでとは思わなかった。大筋は原作と一緒なのだが、まったく同じセリフがほとんどないという徹底ぶりである。

 原作の世界にどっぷり浸った身として、たしかに最初は戸惑いがあったのだが、だんだんドラマの持っているスピード感とテンションに巻き込まれていく形で楽しめるようになった。最大の勝因は、高橋一生と永作博美の魅力、愛らしさだ。

 実力も華もある二人を主人公にキャスティングできた時点でこのドラマは成功を約束されたようなものだが、二人を原作のトーンに押し込めるのではなく、二人がもっとも魅力を発揮できるキャラクターを主役にして、そこからドラマ全体のトーンを作り変えていったのではないだろうか。すさまじい荒療治だ。脚本を担当したのは、『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)などで知られる水橋文美江、演出は『精霊の守り人』(NHK)などを手がけた片岡敬司ら。

 静かだが迫力に満ちた、妖刀にも似た雰囲気を持つ原作の千明は、陽気でバイタリティあふれる情熱的な女性像に作り変えられた。永作には明らかに後者のほうが似合っている。原作では、千明は音もなく吾郎に忍び寄って絡め取っていくのだが、ドラマではあぜ道を全力疾走し、肩で息をしながらやってくる。手土産にもってきたゴーフル(クリームを挟んだ薄い焼き菓子)を自らばりばりと食べて自分のペースに持っていく千明の強引さと官能性を表す印象的なシーンも、二人で笑いながら食べる微笑ましいシーンとなった。もちろん、彼女自身が持つ“魔性”もそこかしこに匂わせている。その最たるものが、押し倒すようなキスシーンだろう。

 そしてなんといっても高橋一生。子どもたちに優しく、教えることに天才的な才能を持っているのだが、何かツボに入ると急に一人で笑い出し、年上の女性の誘惑に弱いのだが、教育に関しては信念を持つ男ーーという原作の大橋吾郎像は彼にぴったりなのだが、ドラマの吾郎はさらに味付けを加えてきた。

 胸元の大きく開いた薄手の白いシャツを着て、子どもたちと愉快そうに戯れ、両手でゴーフルを掴んでパリパリと食べ、窓辺でたばこをふかし、さりげなく夜道で懐中電灯を渡す優しさもありながら、「女性と二人っきりでいて、何もする気にならなかったのは初めて」と楽しそうに失礼なことを言う。母親たちと寝ていたことが露見して校長に叱責されると「あ~」と何も言えなくなり、ものすごくきれいな角度でお詫びをして、子どもの前で「は、は、は、破廉恥だから! ごめんよ!」と叫んで走り出す。ダメで愛らしい高橋の煮こごりのような描写が続くのだ。

 要所に教育についての千明の信念を垣間見せながら、ルックはコミカルで愛らしく。それが『みかづき』というドラマのようだ。森絵都の小説が持っているリーダビリティを、えいやっと「見やすさ」という言葉に翻訳したようでもある。それがうまくいったのは、繰り返しになるが、高橋一生と永作博美の魅力を中心に据えたからだと思う。

 高橋らが子どもたちと一緒に歌い踊るエンディングの「みかづきダンス」は、同じNHKの昭和初期を舞台にした傑作ドラマ『悦ちゃん~昭和駄目パパ物語~』の「パパママソング」を彷彿とさせる牧歌的で心温まるものだった。ドラマは小気味よく時代をスキップしていく。第2話以降は、「家族の物語。ラブストーリーだ」と言って照れ笑いを浮かべた吾郎の言葉がさらに掘り下げられていくだろう。

(大山くまお)

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