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世界最大級のアニメの祭典「アヌシー映画祭」、業界への影響力は? 日本アニメの評価を振り返る

リアルサウンド

19/6/26(水) 10:00

 世界最大のアニメーション映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭が先日開催された。年を重ねるごとにその存在感を大きくしている同映画祭だが、アニメ大国である日本においても年々報道される機会は増えているように思う。

参考:動画・参考資料はこちらから

 42回目を迎えた今年は、ゲスト国に日本が選ばれたこともあって、例年以上に日本からの注目度も、日本アニメへの注目度も高かったことだろう。とはいえ、カンヌ国際映画祭や米国アカデミー賞ほどにはまだ知られていない存在かもしれない、そこで、本稿では、アヌシー国際アニメーション映画祭はどんな映画祭なのかを紹介してみたい。

・カンヌから独立して生まれた短編専門の映画祭だった
 アヌシー国際アニメーション映画祭は、1960年にカンヌ国際映画祭のアニメーション部門から独立する形で誕生した。

 誕生当初は隔年開催であったが、1997年以降は毎年開催されるようになった。当初は短編アニメーションのみを対象とした映画祭であった。これはカンヌ国際映画祭が商業性よりも芸術性に重きを置いていたこともあり、長編アニメーションよりも短編の方が作家性を重視した、実験的な作品が数多く存在したためでもあるだろう。

 長編作品に門戸が開かれたのは1985年からだ。同年より国際見本市(MIFA)も同時に開催されるようになり、映画祭の商業化への道を歩みだしている。商業主義的作品とは異なる価値観を守る役目も映画祭の重要な役割であるから、こうした方向転換は当初からいろいろと議論になったようだが、マーケット開催など市場にも目を配る姿勢が今日のアヌシー国際アニメーション映画祭の隆盛に大きく貢献していることは間違いない。

 キネマ旬報(1985年9月号、P100)によると、1985年の同映画祭の来場者は述べ3万人だったそうだが、2017年には11万人にまで増加している(VIPO調べ:https://www.vipo.or.jp/u/ANNECY.pdf)。また、商業化の拡大を象徴するかのように、見本市の来場者数は毎年増加しており、見本市参加国も世界中から70カ国近くから参加する巨大マーケットに成長している。

 かつてはアヌシーを含む、ザグレブ、広島、オタワの4つの映画祭が四大アニメーション映画祭と呼ばれていたが、現在では、規模の面ではアヌシーは他の追随を許さないほどに巨大化し、土居伸彰によれば(https://wired.jp/series/world-animation-atlas/06_annecy/)、現在はアヌシーの一強状態となっている。

 それでも、映画祭は芸術性を評価する場であるという立場を崩しているわけではない。同映画祭の歴史において、映画祭の顔を担ってきたのは実験的・芸術的な作品が多く集まる短編映画の部門である。日本のアニメ界の二大巨頭、宮崎駿と高畑勲の作品も同映画祭の長編部門の最高賞を受賞したことがあるが、当時日本テレビの映画事業部の奥田誠治氏は、「グランプリ獲得、おめでとうございます」と高畑勲に述べたところ、「アヌシーの最高賞は短編に贈られるんですよ。僕らがもらったのは、あくまで長編部門のグランプリです」と怒られたことがあると述懐している(熱風 2015年8月号、P105)。

 しかしながら、近年では作家性の視点からみても、非常に優れた長編アニメーション作品が数多く製作されており、アヌシーでも数多くの傑作が上映されている。上述の高畑勲の認識通り、元々の最高賞は短編に贈られるものと考えられていたが、今年から長編部門にコントラシャン部門という新しい部門が設立されたことを考えると、カンヌなどと同様、今後は長編作品が映画祭の顔となっていくのだろう。

・ 年々規模を拡大するMIFA(国際見本市)
 上述したが、アヌシーが他の国際アニメーションの追随を許さず、注目度が拡大し続けている大きな要因は、映画祭と併設して開催されるMIFA(国際見本市)の存在が大きい。MIFAは1985年から始まり、年々企業ブース数も来場者も右肩上がりで上昇し続けており、世界のアニメーション市場で最も重要なマーケットである。

 映画祭の真の価値は、マーケットの存在にあるという言う映画関係者は少なくないが、カンヌが世界最大の映画祭であり続けられるのも、カンヌ・フィルム・マーケットの存在が大きい。北米最大の映画祭、トロント国際映画祭はコンペティション部門がないにも関わらず、大きな注目を集めるのもやはりマーケットの存在ゆえに多くの映画関係者とメディアが集まるからだ。

 1985年にマーケットが開催された当初はフランス系の企業が大半を占めていたようだが、同年9月号のキネマ旬報によると、日本もナック社がブースを出していたそうだ。

 2017年にはMIFAには74カ国から、660社の出展があったそうだ。MIFAの来場者数も3000名を超えている(VIPO調べ:https://www.vipo.or.jp/u/ANNECY.pdf)。2018年には3800名が訪れ、今年はさらに会場規模を拡大したそうなので、4000名以上の来場があったのではないかと思われる(参照:http://animationbusiness.info/archives/7096)。ちなみに、カンヌのマーケットは、2015年度で120カ国からの参加、来場者1万1,554人だそうだが(JETRO調べ:https://www.jetro.go.jp/j-messe/w-info/0a8a44c5d3e12b9e.html)、アニメーションという一ジャンルに特化したマーケットでこれだけの大きな規模になったのは、やはりすごいことだろう。

 近年は、ディズニーやNetflixなどの米国大手企業もアヌシーを新企画発表の場として利用している。今年は日本アニメ特集の年ということもあって、日本企業も多数参加している。日本企業においても国内マーケットの減少を補う形で国際市場の重要性が高まっているが、今後MIFAはますます重要なマーケットとなっていくだろう。

・日本アニメの活躍度と存在感は
 アニメ大国である日本も、これまでもアヌシーで一定の存在感を放ってきた。初期の頃には、久里洋二や川本喜八郎らが賞を受賞しており、長編部門では宮崎駿の『紅の豚』と高畑勲の『平成狸合戦ぽんぽこ』が最高賞のクリスタル賞を受賞している。

 短編部門で最高賞を獲得したのは、2003年の山村浩二の『頭山』と2008年の加藤久仁生 の『つみきのいえ』の2本。その他短編部門や広告部門で例年いくつかの作品が出品され、受賞もしている。

 2017年は日本アニメの当たり年と言える。『マインド・ゲーム』がフランスで高く評価されている湯浅政明監督の『夜明け告げるルーのうた』が長編クリスタル賞を受賞し、片渕須直監督の『この世界の片隅に』も審査員賞を受賞している。山田尚子の『聲の形』も出品されていたがこちらは惜しくも受賞を逃している。

 2019年度は長編部門に3本、新設されたコントラシャン部門(革新的・実験的な表現に取り組む長編を対象)に1本の日本映画がノミネートされたが、無冠に終わった。短編部門にも『Dawn of Ape』(水江未来監督)と『Mimi』(深谷莉沙監督)がノミネートされていたが、こちらも受賞はならなかった。

 今年の長編クリスタル賞を受賞したのは、先だって開催されたカンヌ国際映画祭の批評家週間でもグランプリを受賞したフランスの『I Lost My Body』だった。カンヌとアヌシー両方で受賞という快挙を成し遂げ、米国アカデミー賞長編アニメーション賞へのノミネートも噂されている。

・商業性と芸術性の議論の狭間で
 MIFAの年々の拡大や、今年の日本特集、米国大手スタジオの積極的な参加など、アヌシーの商業性はどんどん拡大している。元々、商業主義的な作品とは違う価値を称揚するために芸術的・実験的な短編部門のみで始まったこの映画祭だが、世界の映像市場のアニメーションの存在の拡大とともに、商業性とのバランスを模索するようになってきた。

 そうした動きに対する批判や懸念は毎年のようにあるようだが、映画祭にとって重要なものは商業か芸術か、という議論はどんな映画祭にも起きていること。むしろ、その議論が活性化が映画祭の成長に寄与しているとも言えるかもしれない。本年度の長編クリスタル賞の『I Lost My Body』のトレイラーを観てもらえばわかる通り、芸術性に富んだ作品を評価する姿勢は健在であり、決して商業主義だけに傾倒しているという印象はない。むしろ、その議論の中で芸術性に富んだ作品をどのように商業ルートに乗せるのかという道筋も作られているとも言えるだろう。

 世界のアニメーション市場の発展とともに、アヌシーの存在感は今後も高まり続けるだろう。日本アニメは人材難や労働環境、人口減少やビジネスモデルの変化による国内市場の衰退など、様々な問題に直面する中、より国際的な視野を持っていかねばならない。アヌシーが大々的に特集したように、日本アニメの国際的な注目度は高いが、今後どのような舵取りをしていくべきなのか、アヌシーの動向は日本アニメ産業全体にも大きな影響を与えていくだろう。 (文=杉本穂高)

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