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真の主人公は田中圭? 『スマホを落としただけなのに』で課される“愛の試練”

リアルサウンド

18/11/11(日) 10:00

 『スマホを落としただけなのに』というタイトルを耳にしただけで、おそらく多くの方がネガティブな想像を膨らませるはずである。誰もが一度や二度は、スマホを紛失してヒヤリとした経験があるだろう。志駕晃による同名小説を、中田秀夫が映画化したこの物語の主人公は、想像以上に、とことんまで追い詰められていく。

 のんきな音楽に、のんきな表情。これから起こる恐怖体験とは無縁だと言わんばかりに、富田誠(田中圭)は商談へと向かうタクシーの中、恋人へのメッセージをどのように打とうかと考えあぐねている。そんな姿がスクリーンに映し出され、彼の陽気な心の声は私たち観客のもとへと届き、今夜、恋人にプロポーズするつもりだというのが分かる。

 そのお相手は、商社に勤めるOL・稲葉麻美(北川景子)。画面は二つに分割され、そこには彼らのメッセージのやり取り、そして二人の笑顔が同時に映し出される。これを見るかぎり、このカップルはどうやら上手くいっているようだ。……と、その微笑ましい光景を心穏やかに見つめてしまう。こんな調子が20分以上も続き、ようやく映画は表情を変えはじめる。ほのぼのラブストーリーからサスペンスへ、やがてさらにはスリラーへと変貌を遂げていくのだ。とうぜん穏やかではいられなくなる。この男がスマホを落とした、たったそれだけのことが引き金になってだ。

 スマートフォン、通称・スマホ。いまや誰もが持っている、日々をより豊かに過ごすためには必須のアイテムだ。ある者はこれで稼ぐことができるし、またある者はこれだけで犯罪に手を染めることもできる。これ一つでなんだってできると言っても過言ではなく、その可能性は無限大だ。ということだけあって、富田がスマホを落としたことによってはじまる悪夢は、スマホを持つ誰もが多大なリアリティを持って受け取ることだろう。しかし、大きな被害を受けるのは彼以上に、恋人である麻美の方だ。スマホに保存されている麻美の写真の数々を見て、どうやら犯人は彼女に興味を持ったようなのだ。

 アカウントの乗っ取りや、ネットストーキング、あるいはSNSのなりすまし、劇中に見られるこれらはあまりに執拗で極端ではあるものの、日頃からよく耳にする話なだけあって、やはりゾッとせずにはいられない。それらはフィクション化するにあたって誇張したに過ぎず、実際に大なり小なり、身に覚えのある方も多いのではないか。ジワジワと麻美の精神を蝕んでいくさまは、明日の我が身にも降りかかりそうなものばかりで、緊張感は持続し、慄然としながらも画面から目を離すことができない。麻美を追い詰めるこの犯人、いわゆるサイコパスである。彼が麻美の前にその姿を見せることで、映画はサスペンスからスリラーへと変わっていく。

 しかし、スマホを落としたことからはじまるサスペンスフルな日常は、実際にありえそうなギリギリのラインをたどっていたのだが、サイコパスな犯人というフィクショナル存在が登場し、スリラーへと転換することによって、どうにも緊張感はゆるんでしまう。便利なスマホライフへの警鐘とも思えていた物語は、エンタメ的側面が強くなった途端、ただの“怖いお話”へと手触りが変わってしまうのだ。

 ところで、この映画には物語の核となる“柱”がいくつかある。「スマホ紛失からはじまる恐怖体験」、それと並行して描かれる「連続殺人事件の犯人を追う刑事・加賀谷学(千葉雄大)と毒島徹(原田泰造)の活躍」、そして、やがて明らかになる「麻美の過去の秘密と富田の対峙」である。重要なネタバレに抵触してしまう恐れがあるため詳述は控えるが、この主人公・麻美には、驚天動地の秘密があるのだ。

 ここで一つ大きなツッコミを入れたい。そもそも富田はスマホを“落とした”わけではなく、“忘れた”のだということだ。スマホは彼の意思によって、タクシーの座席の上に置かれている。それをうっかり忘れただけなのである。それも、麻美とのメッセージのやり取りの後にだ。彼はそれをきっかけに、恋人を危険な目に遭わせ、自らの身体を張って救い出し、彼女が隠していた過去を知る。プロポーズまでした最愛の人の大きな秘密を知って、彼はそれを受け入れられるのか。こうしてみると本作は、富田に課された試練の物語のようにも受け取れる。コミュニケーションツールであるスマホを自ら手放すことで、彼は恋人の真の姿と対峙する物語へと身を投じたのだ。表向きの主人公は麻美だが、富田からはじまり、また富田に回収されるこの物語の真の主人公は、彼にほかならないだろう。

 ネットやスマホが普及し、人間関係の希薄さが叫ばれて久しい昨今。そんな時代だからこそ、それらが生み出す恐怖と感動を観客に与えつつ、改めてコミュニケーションのあり方も問い直す、本作は実に痛快な作品である。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『スマホを落としただけなのに』
全国東宝系にて公開中
出演:北川景子、千葉雄大、バカリズム、要潤、高橋メアリージュン、酒井健太、筧美和子、原田泰造、成田凌、田中圭
原作:志駕晃『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)
監督:中田秀夫
主題歌:ポルカドットスティングレイ「ヒミツ」(UNIVERSAL SIGMA)
(c)2018映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会
公式サイト:http://sumaho-otoshita.jp/

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