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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

星野みちるが未来に見つける青い鳥 サリー久保田のプロデュースにより開かれた新境地 

リアルサウンド

19/4/1(月) 7:00

 光が強いほど色濃くなる影。笑顔の圧倒的安定感と輝き。その裏に在る、深い孤独。

 AKB48に1期生として加入し、2007年に卒業後はソロ歌手として活動。作詞作曲を手掛けるシンガーソングライターであり、自主レーベルを立ち上げた社長でもある星野みちる。自身の背丈ほどもある重い電子ピアノを背負って運び、弾き語りをライブで披露されます。

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 この事実だけ見ると、多才でエネルギッシュな女性という印象を受けるけれど、本人はいたって飄々としていて、ずっと変わらずほんわかと安定した空気を纏っています。

 新レーベル<よいレコード會社>(昭和初期の音楽雑誌のようなレトロな雰囲気の社名が、レトロフューチャーな彼女の音楽と佇まいにぴったりハマっています)設立に至るまで、大変なことも落ち込んでしまうことも沢山あったとライブMCで語っていても、語り口はふわりと優しくユーモラスで、苦労なんて微塵も感じさせない。

 常人離れした安定感、いつもニコニコと明るい表情の裏側に、どんな悲しみを抱えているのか知りたくなってしまいます。

 その〝かなしみ〟の一端に触れたような気持ちにさせてくれた楽曲が、1年9カ月ぶりにリリースされたシングル『逆光』でした。

 このシングル発売に至るまでの、決して平坦ではなかった道程を踏まえた、プロデューサー・サリー久保田からの「ぜひマイナーな曲を作ってください」というリクエストに答え、「マイナーって何?」というところから始まり、「なるほどー。暗い曲か」という彼女らしいふわっとした理解によって生まれた表題曲(参照:https://ladysoul.me/2019/03/06/hoshinomichiru-1stinterview/)。

 初めて彼女のライブを観たのは、代官山UNITでのtofubeats主催イベント『ディスコの神様vol.2』でした。ミラーボールの下、金曜夜のダンスフロアが似合うオシャレでポップな楽曲を歌う印象の強かった彼女が、長い沈黙を破り再出発という時に世に放った一曲は、意外なほどに暗いメロディ。

 そして昨年開催されたレトロスペクティブ展で、この日本のポップミュージック界における重要な功績と、魔法のような素晴らしい仕事の数々を再確認させてくれた、稀代のアートディレクター・信藤三雄デザインのジャケット。魅力的な笑顔は封印され、銀塩フィルムを思わせるモノクロ世界の中、喪服姿でどこか遠くを見つめています。一瞬別人のように見えてしまうけれど、その写真の瞳は、ステージ上の彼女が笑顔の合間に一瞬見せる、観客の顔でもライブ会場でもなく、この世界のどこでもない、心の中にしかない場所を見つめて歌っている時の瞳に似ていました。

 2曲目の「ロックンロール・アップルパイ」は、彼女自身の作詞作曲。「ロックと言えば、ビートルズ」というあまりにも直球の発想で、林檎とリンゴ・スターをひっかけた冗談めいた歌詞も、最後にちょっと切なく終わりほろ苦い後味を残します。

 3曲目は、コーラスグループ・SmoothAce提供の「さよならブルーバード」。これまで共演を重ねた中で、彼女をイメージして書かれたという楽曲を聴いた瞬間、美しいコーラスワークと彼女のまっすぐな歌声が重なり合い、朝焼けの中でいつもの風景がキラキラと照らされていくようにして、日常の辛さや苦しみが浄化されました。(チルチル)ミチルが見つけた青い鳥は、どこかに飛んで行ってしまっても、またこれから先の未来に探していくことができると、新しい道を歩み始めた彼女をそっと励まし力づけるような一曲に思えました。

 そして、彼女がAKB48在籍時代に作曲し、秋元康が詞を提供した「ガンバレ!」がシングルのラストを飾ります。「今回は心機一転だし、原点に戻ろうってことで新たにレコーディングしました。」(前述インタビューより)と語られた初期の楽曲も、若くがむしゃらだった頃の歌い方とは違って、これまでの経験と年齢を重ね、彼女独特の柔らかい雰囲気にアレンジされています。

 このシングル4曲の豊かさで、情念をぶつけたりエキセントリックな素振りを見せなくても、「歌の情感」を美しく表現できると証明してみせてくれた星野みちる。

 これまで二人三脚で歩み、独特の路線を築き上げてきたプロデューサーと袂を分かち、自身のレーベルで一人歩んでゆく道を選んだ彼女。

 今までのお洒落で軽妙洒脱なポップスから一新し、音楽の方向性はガラリと変わっても、「何にもない真っ白なキャンバスだけど、紙質がいい。だから筆がよく走る」と前プロデューサー・はせはじむに言わしめた(参照:http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/14954)その歌声で、これから先の未来に、どんな絵を描いてゆくのでしょうか。(松村早希子)