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豊田道倫×澤部渡が語る、パラダイス・ガラージのポップ性「ドキドキする感覚が久々に戻ってきた」

リアルサウンド

18/12/7(金) 12:00

 豊田道倫が、パラダイス・ガラージ名義で18年ぶりのアルバム『愛と芸術とさよならの夜』を発表した。同作は豊田道倫としては約3年ぶり、パラダイス・ガラージとしては2000年『愛情』以来となるアルバムだ。収録曲はすべて豊田自身がミックスまで手掛けており、The Beatlesのリマスター盤でグラミー賞を受賞したSean Mageeがマスタリングを担当するなど音質へのこだわりも感じられる作品に仕上がっている。

 今回リアルサウンドでは、豊田のライブに10年以上足を運び、親交の深いアーティスト・澤部渡(スカート)と豊田の対談を企画。澤部をはじめ、才能豊かな音楽家・芸術家を志す若者たちが次々と虜になってしまうという豊田道倫の音楽/アーティストの魅力はどんなところにあるのだろうか。パラダイス・ガラージの待望のアルバムを聞き込んだ澤部から、豊田に率直な感想や質問を投げかけてもらった。(編集部)

(関連:【新春放談】曽我部恵一×豊田道倫が語る20年の交友、そして2016年の音楽

■“強引さ”と“身のこなしの上品さ”があるアルバム(澤部)

澤部:新作『愛と芸術とさよならの夜』びっくりしました。相変わらず人を驚かせようとする方なのかなと。最初のノイズから豊田さんの声が聞こえる感じが……何て言うんですかね……変な言い方ですけど、すごい久しぶりな感じがして。誤解を招く表現かもしれませんですけど、聞いていて懐かしいとも思いました。パラダイス・ガラージのアルバムってどれも1曲目のインパクトが今までも素晴らしかったと思うんです。今回もまさに『愛情』(2000年)以降という感じがすごくして。そのあたりは意識されてたんでしょうか?

豊田:1曲目「paradise garage band」は俺もよくわからなくて、このミックスを冷牟田敬くん(冷牟田敬band、豊田道倫 & mtvBAND、元 Paradise、昆虫キッズ)に送ったのよ。で、エレキギターの音は全部ラインだったんだけど、「これいいじゃないですか」って言われて。それがきっかけで今回はいっさいアンプの音は使わないでラインで行こうと決めたね。これで「ノイズがしょぼい」って言われたらすぐ変えてたかもしれないけど。わりと人の意見は聞くようにしたね。

澤部:今のラインの話で一つ思い出したのが、豊田道倫with昆虫キッズ『ABCD』の冷牟田敬くんのギターって全部ラインでしたよね。あとでリアンプ(アンプやエフェクターを通さずに録音し、後からアンプ等を通して音作りする作業)するからって言って始めたけど、結局この音がいいんじゃないかみたいな。アウトローな選択肢ですよね、空気を通さないっていうのは。

豊田:どうかなっと思ったけど、まあええわと思って(笑)。

澤部:そもそも、なんでパラダイス・ガラージで新作を出そうと思ったんですか?

豊田:『実験の夜、発見の朝』が1998年9月15日発売なので、その節目ってわけじゃないけけど、いろんな要素が集まって宅録がしたいと思い始めたんだよね。MacBook Proを買うお金はなかったけどMacBook Airならと思ってApple Storeに行ったんだけど、Logicが使いたいって言ったら「30トラックくらい使うんだったらダメです」って言われて。でも「10トラックくらいしか使わないです」って言ったら「じゃあAirでもいいです」って(笑)。それでAirを買った(笑)。

澤部:えー! そうだったんですね!

豊田:実際トラック数、10~15しか使ってないから。

澤部:すごい!

豊田:なんにもすごくないよ(笑)。

澤部:実際僕もカセットの4トラックで多重録音をしていたのが最初ということもあるのでトラックは少なめな方だと思うんですけど、豊田さんも最初8トラックでしたっけ。

豊田:一番はじめはカセット4トラック。でも『ROCK’N’ROLL 1500』(1995年。パラダイス・ガラージのデビュー作)のときは8トラックだね。

澤部:トラック数が減ることでポップさが増すってところもあると思うんですよ。音数が増えれば増えるほど豪華にはなるけど、なにを見たらいいかわからなくなると思うんですよね。

豊田:くるりとかはトラック数100とか使ってるらしいけどね。

澤部:100トラックを使う凄みはもちろんあると思うんですけど、豊田さんが持ってるポップさはどこを見たらいいかすぐわかるところにあると思うんです。このアルバムにはそれがしっかりあった気がします。昔、豊田さんのライブ会場で売ってた『I Like You EP』(2006年)っていう作品が好きなんですけど、あれもGarageBand録音でしたね。その時よりも明らかにポップの密度が違う気がするんですよね。で、曲の構造が……。

豊田:簡単よね。

澤部:いやいやいやいや! 全然簡単じゃないでしょ! 今回のアルバム。

豊田:いや、簡単だけどね。

澤部:全然違いますよ! もう、なんていうんですかね……転調のしかたとかが、おかしいんですよ。豊田さんのパラガ節、とまでは言えないかもしれないですけど、「あー! こういくんだ!」みたいなものの連続がパラダイス・ガラージの一つの快楽なんです。

豊田:3曲目「やられちゃったおじさん」とか、よくわからないよね。強引にキーが変わるし。あれも手グセでやってて。

澤部:あの強引にもってかれる感じがすごいんですよ。強引なだけだったらいろんな人がやってると思うんですけど、でも、そうじゃない。あきらかな身のこなしの上品さというか。僕はこのアルバムは特にそれを感じました。

豊田:近年のサニーデイ・サービスの曽我部恵一くんもずっと基本は宅録だよね。『DANCE TO YOU』(2016年)を聞いて「もう、手も足も出ないな」「なんでこんなに音がいいんだろう」って。俺はどうしたらいいかわからなくて、しょうがなくしょぼしょぼ作りましたね。たしか、9月4日に久下惠生さんのライブがあったんです。そのとき、澤部くんとも会場で会ったよね。でも音源はできてなくて、発売は1カ月後だったんだけど(笑)。

澤部:すごいスケジュールですね……! アルバムを作ろうと思ったときに、どの曲ができたからアルバムが作れるみたいなときってあるじゃないですか。それに相当する曲ってどの曲だったんですか?

豊田:7曲目の「飛田の朝ごはん」だけ2016年に書いてて別なんだけど、何曲か録音しつつ、3曲目の「やられちゃったおじさん」。これを録音してるときに軽く歌っただけなのにレーベルから「良い」って言われて、じゃあこの路線でいこうって。それで決まったね。今回はZOOM R8というインターフェースを使ってて、その内蔵マイクもかなり使ってる。

澤部:ステレオマイクみたいな音がありますよね。あれは内蔵のものなんですか?

豊田:うん。2曲目の「果てるなどして」の歌、ギターも。スタジオ・テクニックがないから、そういったところで違ったことを試さないとすぐ音に飽きる。

澤部:だからこそ奔放に音が変わっていくんですよね。それもめちゃくちゃ気持ちがいいし、また、どの曲も曲のはじまりと終わりがすごい曖昧というか。

豊田:たしかにね(笑)。よくわかんないよね。

澤部:それもなんかすごい……なんていったらいいかすごく難しいんですけど……それがなにか一つこのアルバムを通して流れる、ただの気楽な宅録音源集じゃない感じをもたらしているんですよ。

豊田:ただのお気楽だよ(笑)。

澤部:ぜんぜんそんな感じしないじゃないですか。少し前にどついたるねんとのインタビューを読んでたら「おもちゃっぽい」という発言もあって、実は今回の新作、ちょっと心配してたんですよ……!

豊田:(爆笑)。たしかあのとき曲は半分くらいできてたかな。なんもなかったよ、自信は。

澤部:でも実際聞かせてもらって、豊田さんの頭の中を見てるんじゃないかってくらいドキドキするような感覚が、久々に戻ってきたような気がするんです。豊田さんがフォークギター1本でライブで歌ってるときも別の情景が歌の中から湧き上がってくる感覚があるんですけど、このアルバムは1曲ごとにたくさんのパラレルワールドが音像の中に詰まっている気がして。正直怖いくらい、です。『愛と芸術とさよならの夜』にはある種の豊田さんの問題意識が出てると思うんですよ。いろんなトラックメイキングがある中で、9曲目の「ソフトランディング」で弾き語りにバッとふれるんですけど、アルバム全体で聞くと、この曲が単なる弾き語りではない、もっと濃密なもののような気がする。あんまり意識して作っていらっしゃらないかもしれないんですけど、それがこのアルバムの肝だと思ったんです。

豊田:その曲は入れるか若干迷ってたんだよね。いくつかテイクがあるけど、これでまあええかって。

澤部:「ソフトランディング」のテイクは、素っ裸なんだけれどもそうではない、豊田さんの歌の凄みの真骨頂なような気がしましたね。歌もステレオですよね。

豊田:これもZOOMの内蔵マイク。

澤部:それが生々しいし、でもすごいロマンチックだし。本当に感動しました。

豊田:そっか。俺はあんまり聞いてないんだよな。ちょっと怖くて。

澤部:最後の〈失敗だった〉っていう言葉が出てきてまたドッキリするんですよ。「失敗」という言葉は、『実験~』を思い出すフレーズですよね。すごくドキドキしました。それでしばらく間があって、最後の「君の往く道、私の喫茶店」に続くっていう構成、やっぱりパラガはすごいと思いました。

豊田:〈愛も芸術もさよなら~〉って4回歌ってるんだけど、普段のライブでは3回歌ってるの。なんで録音では4回も繰り返したんだろう、そこだけ失敗した! と思ってずっと聞いてなかった(笑)。今さら編集もできないし。

澤部:たしかに繰り返せば繰り返すほど切実な言葉ですよね。めちゃくちゃしびれて聞いてました。

豊田:うれしいなあ。ずっとそれで萎えてたから(笑)。

■自分の好きなことにしか興味がない(豊田)

澤部:あと「飛田の朝ごはん」で月亭可朝さんの留守番電話の声が聞こえますけど、これは? その前後がわからなくて読み取りきれなかった部分がちょっとあって……。

豊田:なにもないよ。思いつきで入れてみて「入ったなあ」って。この曲は編集なしでエンディングまでずっと弾いてるの。

澤部:そうなんですか!

豊田:それでどうしようかなーと思って。なんも考えずに編集もしないでポンポンっと入れて、終わった後のタイミングとラップがハマったから、「ああ、もうこれいいな」と思って。あんまり合わせるタイプのものじゃないから。

澤部:感覚的な……。

豊田:やってみて合わなかったらもうやめるしね。まあいいちゃうんって。まあでもアルバムの中では唯一自分以外の声だからね。

澤部:そうそうそう。だから余計ドキッとして、一体どういう意味合いがあるんだろうと……。

豊田:意味なんてないよ。

澤部:わははははは。

豊田:音楽界隈では1年前まで月亭可朝さんとしか仕事してなかったな。まわりからは「なんで可朝さんとやってんの?」って言われたりしてたけど。俺は自分の好きなことにしか興味ないし、自分の好きなことにしか身体がいかないだけ。可朝さんって関西弁だけど、父親と母親がこっちの人なの。可朝さんも生まれは実は葉山。だから大阪だけどちょっと上品でしょ。

澤部:ほかの人が下品ってわけではないですけど、たしかにコードのループの中にすごい馴染むというか。

豊田:桂米朝のさすがの弟子だよね。芸人さんは表向きとふだんが変わる人もいるらしいけど、可朝さんはなんも変わらなくて。ずっと「さん」づけで呼んでくれてね。可朝さんが亡くなられてしばらく落ちこんでたけど、「豊田さん、そろそろ自分のこともやってくださいよ」と言われてる気もしてね。ちょっとやろうかなあと思ったのはあったかもしれない。

澤部:今回しばらく使っていなかった名義を改めて使うことにして、昔の自分の作品は参考にしたりしたんですか?

豊田:しないね。ほとんど手元にないし。澤部くんは自分の作品は聞くの?

澤部:僕は聞いちゃうんですよね。

豊田:聞いちゃうんだ。いいね(笑)。今回のは聞けるほうだけど、前のは聞けないんだよね。怖くて。

澤部:豊田さん、またパラダイス・ガラージはやるんですか?

豊田:レコードはやらないと思うよ。

澤部:えー! ほんとですか! もったいない。

豊田:じゃあ……やろうか(笑)。

澤部:やってください! やってください! これは1枚で終わらせたらもったいないと思うんですよ。

豊田:あとは堕ちるだけ(笑)。もう無理だね。

澤部:それぐらい濃厚なアルバムだし、これ以上パラダイス・ガラージって名称が似合うものが今後できるかというとわからないですけど……。この間の『愛と芸術とさよならの夜』発売記念コンサートで、昔の曲を「City Lights」と「スーパーマーケットハニー」と「I love you」しかやらなかったじゃないですか。しかも、ときどき柴田聡子さんが入ったりしながら、「I love you」にむかって4人の男たち(豊田、久下惠生、宇波拓、柳澤一誠)が血反吐を吐きながら登っていくような壮絶なものに見える瞬間があったんです。すごいポップなライブなのに。あれを見たら、さっきあとは堕ちるだけとおっしゃってましたけど、正直堕ちていく豊田さんも見たくなる(笑)。

豊田:なんだよそれ。もう堕ちきってるからね(笑)。

澤部:それと最近の豊田さんの歌ってフォークソングとまでは言わないけれど、生活と地続きな歌が少し多かった気がして。今回の「居酒屋たよこ」も一見フォークソングかなと思うんですけど、〈君が〉の部分の言葉を詰める感じとかがめちゃくちゃポップですよね。

豊田:……そうだっけ? なんも意識してない。

澤部:それが豊田さんのポップセンスなんです。『実験~』でも「中之島図書館」が入っていたりとか、少なからずアコギ1本で歌っても成立する歌が入っていた印象もあったので、それを踏襲してるのかなともちょっと思いましたね。

豊田:まあけっこうM6「居酒屋たよこ」とM7「飛田の朝ごはん」は考えたね。選曲からはずしてもいいんちゃうかなって。リズムは入ってないけど、隙っていうか、30分のアルバム全部にリズムが入っていてもしょうがないし、ちょっと抜こうと思って。

澤部:その6、7を抜いたらそれはそれで濃密なアルバムになったと思うんですけど、あえてそれをやらないで隙を作ったというのも、今の時代だとあんまりやれないことだと思うのでかっこよく見えました。

豊田:あとはライブで歌ってるときに客が座れる曲というのも考えたかもね。うちのファン、本当に厳しいから。大阪行っても怖い顔して見てるんだよ。なんで俺東京からライブしに来て男たちに睨みつけられてるんだろうって(苦笑)。なかなか拍手もしてくれないし。

澤部:僕がシアターPOOに足しげく通ってたときも、そういう雰囲気でしたよ(笑)。でも、豊田さんのライブに行くとかわいくて若い女の子がちょいちょいいるっていう現象があるじゃないですか。アルバムのレコ発にもけっこういて、豊田さんのセクシーさは健在だなって思いましたね(笑)。

■サニーデイ・サービス『DANCE TO YOU』から受けた影響

澤部:先ほども少し話にありましたが、サニーデイ・サービスの『DANCE TO YOU』がこのアルバムに影響を与えた部分が多いのかなと思ったのですが。

豊田:やっぱりあれが大きかったね。曽我部くんが全部自分でミックスしてるってことにも衝撃があって。シンガーで自分のアルバムをミックスする人って、細野晴臣さんとかはそうだけど、あそこまでやらないとできないなと思ってるから。自己満足になりがちだけど、自己満足じゃない。あのアルバムにはいろんな要因があると思うよ。曽我部くんの人生のいろんなものが詰まってるし、自分にとっては、大瀧詠一さんの『A LONG VACATION』(1981年)以降の日本のポップスの大きなポイントじゃないかな。

澤部:ほんとにそう思います。決して流麗なミックスではないじゃないですか。「桜 super love」でギターが弾いたときに、コンプレッションのリリースがふわーっとある感じとか、いわゆるプロのエンジニアだったらやらない手法だと思うんです。そういう危うさみたいなものがかっこいいアルバムでしたよね。

豊田:本当に。圧倒された。だから自分でもできるのかなっていう気持ちが漠然とあったね。普段ライブでやってる、mtvBANDとか、ソロとかの曲も相当ストックはあったんですね。でも、そっちの曲はプロデューサーがいないと録音できないと判断して。プロデューサーがいないとレコードっておもしろくないっていうのがどうしてもあってね。今回は自分の範囲でできる曲をやるのがいいと思ったんだよね。

澤部:豊田さんのアルバムでプロデューサーが立ったのって『実験~』以降は?

豊田:曽我部くんとの『ギター』(2009年)ね。

澤部:『実験~』も福富幸宏さんとの共同プロデュースでしたよね。

豊田:ずっと考えてるんだけどね。今なかなかプロデューサーを立てる状況は難しいし、まわりを見てもいい感じのプロデュースワークの仕事はあんまり見ないかな。メジャー、インディー共に。みんなセルフプロデュースでやってるしね。

澤部:うちもそうですけど。けっこう難しい問題でもありますよね。予算の兼ね合いも、楽曲の兼ね合いもあるし。

豊田:そういえば、スカートの新作『遠い春』聞いたよ。一言で言うともう……スタジオジブリっていうか。

澤部:はははははは!

豊田:隙のない……悪く言えばスリリングではない。MVも含めて。

澤部:そうです。

豊田:歌詞も、曲も、Aメロも、Bメロも、ちゃーんとやってるなって。『遠い春』は一つの作品として隙はないけど、でも澤部くんはこれだけじゃ満足しなくて、もっとマジックがあるはずで。

澤部:絶対言われるなと思ってました(笑)。でも、僕は豊田道倫とyes, mama ok?の子供だという自覚があるので、親と同じ道を歩むわけにはいかないんですよ。本当は破れたようなコード進行とかメロディとかやりたい気持ちは常にあるんですけど、それはどうやったって親は越えられないので。そこはもう、絶対いつか見てろって気持ちでやってますけどね。

豊田:そのほうが面白い(笑)。そう、最近The Beatlesの『ホワイト・アルバム』を聞いててね。1曲目の「Back in the U.S.S.R.」はポール・マッカートニーがリンゴ・スターのプレイが気に入らなくて追い出して自分でドラムを叩いていて、ジョン・レノンが6弦ベースを弾いてるのね。でもすごい曲。ポップってそういう変な事故から生まれると思うんだけど、そういうことって今はなかなかないからね。まあ、50年前の作品の話をしてもしょうかないけど(笑)。ビートルズとスカートと、最近いろいろ聞いていて、今は今の状況で澤部くんは勝負してるんだなーって思ったんだよね。

澤部:四六時中スタジオに入れるような環境がないと、そういうことってなかなか起こらないんですよね。でも、いつかこう……今でもマジックが起こってないとは思ってないんですけど、もっと大きなマジックがいつか自分に降ってくるといいなと常々思ってます。

■二人が目指す理想の“ポップ”像

豊田:この間映像監督の岩淵弘樹くんと話してて、日本と台湾、中国、韓国と、いいバンドが多いじゃない。でもだいたい情報の共有があるからみんな同じなんだよね。突然変異なものが生まれにくくなってて。唯一次に違うものが出てくるとしたら、アメリカなのかな? って。アジアは景気もいいし、調子もいいから、同じようないい感じのシティポップが流行って。次、もっとヤバイものはどこか違うところから出てくるような気がしてるんだよね。

澤部:たしかに。今のアジアの感じは、ある種、アメリカの70年代産業ロックの感じに図らずとも近づいてるのかもしれないというか。

豊田:いいんだけど、もうちょっとゴツい音楽が聞きたいなって。スカートはゴツいのはないじゃん。

澤部:そうっすね……がんばります!(笑)。

豊田:暗黒的ななにか……暗黒ジブリみたいな(笑)。

澤部:はははは。暗黒は今やりづらいですよ。どうしてもファッション的になっちゃうんで。

豊田:タバコも吸ったらダメだもんね(笑)。

澤部:そうそうそう(笑)。もしアメリカでなにかが起こるんだったら、70年代後半イギリスで起こったようなニューウェーブのムーブメントみたいなものが起こるのかなという気もちょっとしてきますけどね。シンガーソングライターって言われる人たちが60年代、70年代とギターを手にしてきたように、PCだけじゃなくiPhoneとかでも音楽を作る人が増えていますしね。パラダイス・ガラージの新作は、そういった流れの中での日本からのひとつの回答なような気がしますよね。

豊田:ところで、澤部くんがポップスで一番初めにいいなって思ったのはなに?

澤部:幼稚園の頃の光GENJIですね。記憶があると同時に光GENJIを好きになっていたので。

豊田:俺、ポップス体験で強烈なのがある。小学生の頃、祖父母の家が岡山で、岡山から大阪までの新幹線が1時間くらいであるんですね。正月の帰省ラッシュで俺は家族と通路に立ってて。で、客席に座ってる男性がラジカセでずっと大瀧詠一さんの『ロンバケ』を流してたの。あれが多分ポップスっていいなって思った瞬間かな。今では考えられないけどね。気持ちよかったし、センチメンタルにもなったり。他の客も心の中でこれいいね、次の曲いいね、みたいに思ってる感じ(笑)。

澤部:それはなかなか強烈ですね(笑)。

豊田:当時はラジカセ持ち歩いてる人も多かったからね。

澤部:それが豊田さんのポップスの原体験っていうのは、意外でもあり、納得いく部分でもあるんですよ。豊田さんは大瀧さんの「Blue Valentine’s Day」をカバーしていたという過去もありますけど(『ROCK’N’ROLL 1500』再発盤に収録)、あのアルバムも視点は違えど音響的だと思うんですよね。それは自分の中でも1本つながった部分かなと。

豊田:なんかああいうゆるいヴォーカルが好きなんだよね。

澤部:力のぬけた張らないような……。

豊田:新作でもそれは意識しました。

澤部:だからこそ〈愛も芸術もさよなら〉のリフレインが効いてくる感じがしますね。

豊田:ヴォーカルの話でいうと、ポップスのヴォーカリストっていびつな人が多かったよね。ユーミン、サザン、山下達郎もクセがあったし。今はあんまりそういう変な人がいない。ポップスのそういう危うさとかいびつさって、意外に紙一重だったりするじゃん。大瀧詠一さんもはっぴいえんどの時はクセがあったけど、『ロンバケ』で王道ポップに聞こえちゃったりして。反転する時があるんだよね。俺自身もそうだと思ってるんだけど(笑)。

澤部:今回かなり反転してると思うんですけどね。

豊田:もっとセールスも反転したい!(笑)。澤部くんもメジャーだし、大森靖子もどついたるねんもメジャーだし。みんなすごいなーと思って。

澤部:我々はパラガ・チルドレンですから。がんばらないといけないなと。すぐそばでずっと曲を作り続けて発信し続けてる人がいるのは心強いです。僕が豊田さんを見始めたのって2005年の高円寺・無力無善寺だったんですけど、その時の1曲目が「I Love You」、その次が「Forever Love」っていうすごいライブだったんですよ。その頃は豊田さん、ポップが爆発してて。行く度に新曲をやって、それがとんでもない曲っていう時期で。少し人と違うアンテナを持とうと努力した若者が豊田さんを見つけるんですよ、めざとく(笑)。それが僕だったり、岩淵くんだったり、昆虫キッズの高橋翔くんだったりしてたと思いたいんですけど。やはり豊田さんはそういう人を惹きつけるなにかがあるんだと思うんです。

 曽我部恵一さんも言ってましたけど、豊田さんのやり方って真似しやすいんです(笑)。でもそれからどうやって真似しないで自分なりにパラダイス・ガラージを自分の心に住まわせてポップをやるかっていうことを僕はなるべく考えてやってたんですけど、豊田さんはやっぱり……ポップスターなんですよ。ポップスターにはしかるべきものが集まってくるのと同じことだと思うんですよね。若い才能が集まっていく。豊田さんのアルバムってジャケットもエンジニアも、誰にも見つかってないようなかっこいい人がどんどんやっていくイメージがあって、実際、今回のオートモアイさんもはまってるし。そういう才覚があるんですよね。今、オートモアイさんを使って、CDのジャケットではまるってすごいことだと思います。旬という意味で言ったら、永井博さんとある種対くらいですよ。

豊田:ま、偶然だけどね。自分から出会おうとはしてないですよ。澤部くんなんて俺より儲けてるし、才覚もあるから、これから有無も言わせない大ヒットを出してくれたらいいなあ。『めざましテレビ』で朝映ってるようなね。

澤部:もし今後自分がヒットを出すとしたら、yes, mama ok?やパラダイス・ガラージに対しての恩返しを絶対したいんです。それが日本の音楽シーンに貢献するっていう意味だと思うところもあり。……これ、本気すぎてすごい恥ずかしいんですけど(笑)。

豊田:ちょうどこの間テレビを見てて「なんでこんなのが今注目のって出てて、ほんとつまらんな、この世の中は」って思ってたから。バンドだけど、歌ってるやつの顔以外ほぼ映らないんだよね。それはやっぱり表層的な日本の音楽シーン、メディアの未熟さでもあって。それこそビートルズのジョン・レノン、リンゴ・スター、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンみたいなバンドっていないよね。mtvBANDはビートルズみたいなバンドを作りたいから、あとはジョージ・マーチンみたいなプロデューサーを待ってるところもあるし。

澤部:あのバンドに関して言うと、The Who的なもののような気がしますけど(笑)。

豊田:とにかく澤部くんが思ってないところでなにかの事件が起こるときがチャンス!

澤部:そう、そこなんですよ。その時がきたら迷わずにいきます!

豊田:そして日本の音楽全体が成熟していってほしいね。もっともっと面白くなるように。

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