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キミノオルフェの“ポエトリーポップ”はどのように生まれた? 蟻×Chocoholic×ioni×中原裕章×dustsounds座談会

リアルサウンド

18/7/9(月) 17:00

 ex.蟲ふるう夜にのVo.蟻のソロプロジェクト・キミノオルフェが、6月4日に1stアルバム『君が息を吸い、僕がそれを吐いて』をリリースした。前バンドの活動停止から4カ月後、2016年6月4日にワンマンライブでデビューを果たしたキミノオルフェ。同作は、そこから2年の歳月を費やし制作したアルバムだ。

 リアルサウンドでは7月15日に恵比寿ガーデンルームでのワンマンライブ『半径3メートルのキミへ』を控えるなか、蟻とアルバムに参加したトラックメイカーであるChocoholic、ioni(in Case of Emergency)、中原裕章、dustsoundsによる座談会を行った。蟻はなぜ様々な作家と音楽を作る道を選び、それぞれどんな音を目指した結果、アルバムが生まれたのか。音楽ジャーナリストの柴那典氏を聞き手に迎え、じっくりと語り合ってもらった。(編集部)

蟻とトラックメイカーたちの“出会い” 

ーーまずは蟻さんに伺いたいんですが、蟲ふるう夜にを解散して、キミノオルフェとしてプロジェクトをスタートさせましたよね。そこからなぜ、色んなトラックメイカーと音楽を作っていこうと思ったのでしょうか。

蟻:バンドの時は、経験を積み上げた上で生まれていく音の良さがあったんですけど、1人だと「自分の好みだけで決めちゃえる」という醍醐味があって。キミノオルフェに関しては、自分が好きな人だけを探して「一緒にやってもらえませんか?」と一人ひとりに声をかけていったんです。

ーー今回集まった4人についてはどうでしょう?

Chocoholic:私は、蟻さんというよりプロデューサーの津倉(悠槙)さんと共通の知人を介して知り合って、後日蟻さんに引き合わせてもらったんです。それが確か、昨年の夏くらいですね。

蟻:「First Class feat. kev, Tate Tucker and SUBI」を聴いて、これが本当に日本人の作った音なのかとびっくりしました。リズムの作り方が良い意味で日本人っぽくなくて、私にとってはいままで全く歌ったことのないタイプの曲を作ってくれるかも、と思ったんです。

ioni:僕は、フリーBGMサイトに「虫ピン」の原形となる曲を投稿していたんですが、それを蟻さんが見てくれたみたいで。そこに歌を乗っけてくれて、僕のやっているバンドのライブに来てくれて「歌を入れたので聴いてください」と音源をもらったんです。すごいことをやる人がいるんだなと思ったんですけど、話を聞いたら面白そうだったので「やってみよう」と思って。その時はまだ2分弱くらいだった曲を4分弱の尺に伸ばすところから始まりました。

ーーでは、「虫ピン」の原型といえるトラックは、このプロジェクトと関係なかったんですね。

ioni:はい。専門学校の授業で作った曲だったんです。

蟻:しかも、人生で初めて作った曲なんですよね。

ioni:あの曲を作る前まで作曲をやる気はなかったんですけど、作り終えたときに「曲を作るのっておもしろいな」と思って。だからこそ、この曲を気に入ってくれたのには驚きました。初期衝動の塊みたいな曲だったので(笑)。

蟻:ioniさんの良さは、Chocoholicちゃんとは真逆かもしれないですけど「日本人っぽい、ちょっと変態チックな、オタクっぽいかっこよさ」みたいなものがあって。それが初期衝動と重なってて、すごくわたしの中でも大好きなテイストなんです。

ーー中原さんはどうですか?

中原裕章:僕は自分のバンドと蟲ふるう夜にが対バンしたのをきっかけに知り合ったものの、特に会話もせずTwitterだけお互いをフォローしていた状態だったんですけど、昨年に蟻ちゃんがたまたま「誰か一緒に音出しませんか?」とつぶやいていたのをみて、「いいね」を押したらメッセージをもらって。そこからioniさんと蟻ちゃんと僕で飲みに行って、セッションをしたんです。

蟻:へべれけに酔っぱらいながら音を出す、ただただ気持ちいい会みたいなのをやりたくて(笑)。

中原裕章:そこからもう1回ぐらいセッションをやったよね。

蟻:はい。当時は曲作りというよりライブを一緒にできるサポートメンバーを探していたので、中原さんにお願いするようになりました。彼は感受性とかがすごく近くて、気を使わなくていい信頼関係もあって、落ち込んでる時にLINEで「落ち込んでるんだ」みたいなのをお互いに送りあえるような気楽さがあるんです。

ーーdustsoundsさんはどうでしょう?

dustsounds:私の場合、音楽の短いループサウンドをアップしてる「dustsounds」というサイトを運営していて、そこに蟻さんから「楽曲を利用していいですか?」という質問が来たのがきっかけです。快くお返事したら、そのトラックに歌を入れて送ってくれたうえで「一緒にやりませんか?」と話しかけてくれたんです。


ーーdustsoundsはそもそもどういう意図で始めたサイトなんですか?

dustsounds:自分で曲を作ろうと思ってるんですけど、どうしても途中までしか完成できないんですよ。しょうがないからそれを出していこうと思って置いているサイトなんです。いわばパーツ屋さんみたいな。音楽が今後分業化されていくとパーツ屋さんみたいな職業もでてくると思うし、そういう立場になりたいなと考えているんです。

ーー自分1人で曲を全部構築するっていうよりは、その音色の一つでもいいから曲作りに携わりたいと。

dustsounds:そうです。自分のためだけのものを作ったら、そこで結構満足しちゃうんですよね。

ーー蟻さんはどういうふうにdustsoundsさんを知ったのでしょう。

蟻:ネットの中にいい曲がないか彷徨っていたときに出会ったもので、一つひとつの楽曲も全部バランスがよくてかっこよくて、私の好きな感じだったんです。

ーーここまで皆さんとの出会いを聞きましたが、あまり共通点はないですね。

蟻:たしかに共通点はないですね。でも、出会いも音楽性もバラバラだからこそ、1枚のアルバムに全然違う楽曲を詰められる良さもあって。

ーーなるほど。Chocoholicさん以外はネットを通じて出会っていますが、シンガーがトラックメーカーとそうやって出会うという関係性は、SNSが普及した以降の今の時代っぽいものですよね。

蟻:ここ数年で一気にいろんな場所やコミュニティに自分からアクセスしやすくなったなという感覚はありますね。自分が興味を持った人に直接行くためのハードルが低くなったのはすごくいいことだし、ライバルも増えるんだろうなと思います。

ーーChocoholicさんもそういう出会いはありますか?

Chocoholic:ありますね! 私が音楽をアップロードしていたのはSoundCloudだったんですけど、海外のまだ知られていないプロデューサーやシンガーから連絡がきたり、メールを送れば返信がもらえたりと繋がりやすくなっているので、コラボしやすくなったと思います。J-POPも好きなんですけど、洋楽にルーツを持っていて、普段コラボレートする際も英語がメインなので。海外の人と一緒にやってもらっていますね。

ーーioniさんやdustsoundsさんは、フリーの素材サイトという意味ではまた少し違うのでしょうか。

ioni:そうですね。あんまりお金をかけずにオリジナルの音源を使いたい、でもクオリティの高いものが欲しい、という人が増えている気がしますし、実際にどんどんYouTubeでの再生数も上がっているんです。

dustsounds:そうですね。YouTubeを見ている時に自分の音を使ってもらってるのをたまたま知ったりすると、嬉しくなりますね。今はみんながモノを作れるようになったけど、やっぱり得意分野はそれぞれあるじゃないですか。それこそ、動画を作るのは得意だけど音楽は作れないとか。だからこそお互いに持ちつ持たれつな時代になっているのかなと。

日本語の歌詞をビートに乗せるにあたっての“挑戦”

ーーそれぞれが作った楽曲についても聴いていきたいのですが、まずはioniさんと作った「虫ピン」と「光速スピードシューター」について。「虫ピン」については先ほど伺いましたが、「光速スピードシューター」に関しては、どうでしたか?

蟻:これは「虫ピン」がすごくよかったので、「もう一曲お願いします!」とオファーしました。

ーーどちらの曲も、蟻さんの歌とラップとポエトリーリーディングという3つの歌唱法のうち、そのどれでもないけど、どれでもあるというような絶妙さを感じる楽曲です。

蟻:ポエトリーに関しては、もともと、意識せずにそういう歌い方になっていたみたいで。仲のいいラッパーのGOMESSくんが「蟻さんのポエトリーリーディングと歌の掛け合わせは新しい」と言ってくれて。そこから、自分の中にそもそもあった要素をぶつけられる楽曲がいいなと思ってioniさんにお願いしたんです。彼の楽曲はインストとして完成されているんですけど、ピアノの畳み掛け方がポエトリーとも相性が良いなと思いました。

ーーioniさんとしては、「虫ピン」を書いたときは言葉が乗るとは思ってなかったんですよね。

ioni:そうですね。人の歌を聴く時って、歌い方から「この人はどんな人なんだろう」と考えるんですけど、蟻さんのアプローチを聴いて、けんかっ早い、怖い人なのかなと思いました(笑)。血の気が多いように感じたというか。

蟻:当たってる(笑)。

ioni:だから、それをフル尺にする際には「売られたけんかは買ってやる!」と思ってさらに厳しくしました(笑)。

蟻:これでピアニストじゃないっていうのが、すごくおもしろくて。彼、本職はドラマーなんですよ。

ioni:ピアノは打ち込みですね。コードを抑えて、そこがいい感じの響きならバラしていって、という繰り返しです。

中原裕章:だから、弾くのがとっても難しいんです(笑)。人間が弾いてないフレーズなので。結構、無理なところもあったり。

ーー中原さんは、どちらかというとトラックメーカーというよりプレーヤー的な視点で曲を作っているように感じました。

中原裕章:そうですね。バンドで曲を作ったりとかもするんですけど、基本的には譜面を書いて、みんなが音を出してという感じなので。自分で1人でトラックメイキングするっていうのは、そんなに多くないんですよね。

ーー今回のアルバムだと、「おやすみまた明日」と「air」という、アルバムの中ではバンドで再現しやすい、生演奏っぽい印象を受けました。

蟻:中原さんの作るメロディは「こうでしょう?」みたいな感じがしない、絶妙なラインだなと思っていて。「とにかくメロディの良さを大事にしたい」と思っていたので、初めて人に歌のメロディを任せたんです。

中原裕章:「air」は共作に近いですね。最初に僕がラインを作って、蟻ちゃんが修正していくというか。スタジオに入って「どういう曲が欲しい?」みたいなことを聞きながらアプローチを考えていったり、やりとりしながら作っていくんです。

蟻:彼の面白いのは、「どんな詞になるの?」と先に聞いてくれることなんですよ。背景や何を伝えたいかを拾った上でメロディにしてくれるというのは、かなりありがたかったですね。

ーーなるほど。dustsoundsさんは「uncommon」を手がけていますが、これは先ほど話にあったフリー素材から作った曲ですね。

dustsounds:すでに蟻さんからもらったトラックがメロディやコーラスも乗っている状態だったので、それにインスパイアされる形で味を足していく作業でした。

蟻:dustsoundsさんはなんというか、素材屋さんとして、私の手になってくれていて。共同作業ではあるものの、分業みたいなお願いの仕方でした。

dustsounds:素晴らしいメロディだったからこそなんですけどね。そうでなければ「好きにやっていいよ」で終わりなんですけど、「ちょっと足したいな」と思わされるものでしたから。

蟻:アルバムを一周聴いてもらったときに「『uncommon』が一番好き」って言ってもらうことが多いんですよ。それだけキャッチーだということですよね。

ーーそして、Chocoholicさんは「君が息を吸い僕がそれを吐いて廻せこの星を」と「星の王子さま」の2曲を手がけています。Chocoholicさんは、様々なプロジェクトや歌い手・ユニットに楽曲を提供していますが、基本的に同じような流れでしたか?

Chocoholic:最初は「星の王子さま」でしたね。でも、面白いなと思ったのは、自分がコラボレートする方って結構、洋楽っぽい人が多いので、日本語で歌詞を聴かせる音楽って新鮮でした。

ーーAmPmなんかもまさにそうですよね。蟻さんは、Chocoholicさんへオファーするにあたり、どんなイメージを持っていたんでしょうか。

蟻:Chocoholicちゃんの場合は、本当に洋楽っぽいので、そこに私の歌をどうやって乗っけるかというのは刺激的な挑戦でした。

ーー具体的にどんな部分に苦労したのでしょう?

蟻:日本語詞だと、たくさん音符があったら沢山言葉が乗ることが多いんですよ。そのぶん一つのパートの中でも色んな情景を渡り歩くことも多かったりして。でも、Chocoholicちゃんの曲ではパートごとに同じ情景に留まるように意識をしましたね。実際に上手くいってるかどうかは聴いて判断してみてください(笑)。

Chocoholic:「君が息を吸い僕がそれを吐いて廻せこの星を」の方は、デモみたいなのがあったよね。

中原裕章:デモのメロディは俺が歌ってますね。「壮大な曲を作りたい!」という蟻ちゃんからのリクエストを受けて(笑)。

ーー日本語の歌詞をビートに乗せるにあたっては、どんな挑戦がありましたか?

蟻:実は「ごめんね。ここは、メッセージ性を優先させて」とお願いする部分が多くて。Chocoholicちゃんの音楽の感性的に、私の言葉の乗せ方は不本意なものが多かったんじゃないかなと思ってるんですよね。

Chocoholic:あんまり気にしてなかった(笑)。歌詞も世界観もとても素敵だったし、特に「星の王子さま」は、まさか自分の作る曲が結婚式で使っていただけるようなものになるとは思ってなかったですから。意図してない部分に発展していくという面白さはありました。自分で作る曲は、一応ストーリーも大事にするんですけど、そこまで深くないんですよ。それよりも、メロディの方を大切にしちゃうので。内容よりも。やっぱり、歌詞を大事にされてるアーティストさんが書かれる曲って、こんな感じになるんだと改めて勉強になりました。

ーー言葉とリズムの関係性だと「虫ピン」もかなり責めてる曲だと思います。ああいう言葉数の多い日本語を乗っけていくのは、工夫がいるというか。

蟻:「虫ピン」は本当、闘いだと思っていたので、何も考えずに色々な言葉をブチ込むみたいな形で作ることができたんです(笑)。

ーーこの曲、僕はすごくMOROHAっぽいなと思ったんです。MOROHAの曲も、アフロさんとUKさんによる“バトル感”みたいなのがあるじゃないですか。

蟻:確かに、ポエトリーっぽくてバトル感があるという意味では近いかもしれないですね。有線でポエトリーを初めて流したのが彼らで、それがあったから今回のアルバムの「マイナー調のBGMが いい曲に聞こえた」も流してもらえたりという縁もあったりしました。色んな人の耳に留まるというのは、メッセージを伝えやすいというのがあると思うんですよ。だから、歌詞の部分を大事にするのと、ポエトリーという手段は、すごく相性がいいのかもしれません。

蟻が考える“キミノオルフェとリンクするアーティスト”

ーーキミノオルフェは“ポエトリーポップ”というキーワードを掲げていますが、周りには同じジャンルやカテゴリの人たちが居ないわけで。誰もいないから色んなことができるし、サウンドでも誰々っぽくと思ってやっても、オリジナリティを損なわないと思うんです。それも踏まえて、蟻さんが考える、キミノオルフェとリンクするようなアーティストといえば?

蟻:GOMESS、Maison book girl、MOROHAさん、あとLOST IN TIMEですね。LOST IN TIMEは最近ずっと近いなと感じていて、縁があれば繋がりたいんですよね。

ーー挙げてもらった人はバラバラだけど、どこか共通点を見つけるとすれば、マインドのようなものかもしれませんね。

蟻:完全にそうですね。


ーーちなみに今回作家として参加した4人は、歌い手としての蟻さんをどう見ているのか、というのも気になります。

dustsounds:私はループのサウンドを専門に作っていることが多いんですけど、ビートに対するアプローチが独特だったなと感じましたね。普段はラップを聴くんですけど、そのビートに対して「そう来たか!」と感じることが楽しくて、蟻さんの歌はその感覚に近いんです。

ioni:今回のアルバムもそうですけど、何でも、どんな曲でも歌える人だろうなと思っていて、その通りだったなと。僕はインストっぽい曲を作っていますけど、オーケストラっぽいものでもヒップホップのビートでも、バンドサウンドでも歌いこなせるわけなので、もっと変な曲をあげたいなと思いました(笑)。

中原:僕は「air」を作った時のことが印象に残っていて。蟻ちゃんって、転調が結構好きなんですよね。僕はあんまり転調をしないんですけど、彼女は自分で歌を入れる時に、オケを転調させて歌ってきたりして。自分の頭の固いところをえぐられたような感じがしたのを覚えています。あと、やっぱり声が独特ですよね。誰に似てるとかじゃなくて。

Chocoholic:私も蟻ちゃんの声が大好きで、独特な歌の乗せ方というか、彼女自身のリズムやライムもあるんですよね。アルバムも色んな楽曲があって、ライブで表現する時は、どういう表現の仕方をするんだろうというのが楽しみになる、見ていて飽きないアーティストだなと思いますね。

蟻:ライブを観てもらったあとに曲を作ってもらうと、また違った感じになるかもしれないので楽しみです。

(取材・文=柴那典/撮影=三橋優美子)

■リリース情報
『君が息を吸い、僕がそれを吐いて』
2018年6月4日(月)DIGITAL RELEASE

<収録楽曲>
1. 君が息を吸い僕がそれを 吐いて廻せこの星を
2. 蜃気楼
3. マイナー調のBGMがいい曲に聞こえた
4. uncommon
5. 光速スピードシューター
6. バックパック
7. air
8. 星の王子さま
9. 虫ピン
10. おやすみまた明日

■ライブ情報
LIVE CONCERT『半径3メートルのキミへ』
2018年7月15日(日)
場所:恵比寿ガーデンルーム
時間 16:30 OPEN / 17:00 START
チケット料金:A-PREMIUM: ¥6,000+1Drink
ADV: ¥3,500+1Drink

特典付プレミアムチケット
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