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小田和正の真摯で誠実な姿勢こそが最大の醍醐味に 『ENCORE!!』ツアー東京公演

リアルサウンド

18/9/4(火) 16:00

 自分の音楽が望まれる限り、できるだけ多くの土地を訪れ、できるだけ多くの人に歌を届ける。この日のコンサートから伝わってきたのは、ファンのことを第一に考える、あまりにも真摯な姿勢だった。

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 小田和正(70)の全国アリーナツアー『明治安田生命 Presents Kazumasa Oda Tour 2018「ENCORE!!」』。5月4日、熊本・グランメッセ熊本でスタートした今回のツアーは21会場48公演で約40万人を動員。ツアーの半ばとなる東京公演(武蔵野の森総合スポーツプラザ)でも彼は、新旧の名曲を惜しげもなく披露。すべての年代のファンを心から満足させる、充実のステージを繰り広げた。

 『ENCORE!!』というツアータイトル通り、基本的な構成は2016年のツアー(ベストアルバム『あの日 あの時』を携えた『明治安田生命Presents 「KAZUMASA ODA TOUR2016 君住む街へ」』)を踏襲。さらに約5年ぶりのシングル『この道を / 会いに行く / 坂道を上って / 小さな風景』が加わり、“現在進行形の小田和正”も同時に体感できる内容となっていた。オープニング映像で前回ツアーのMCをふんだんに引用しながら“もう一度会いに行く”という思いをしっかり伝えた後、1曲目は「会いに行く」。〈会いに行く どこにでも その笑顔に会うために〉というフレーズを持つこの曲は、明らかにファンに向けられたものだ。自分自身の表現欲求がなくなったわけではないだろうが、現在の小田のモチベーションはおそらく、“自分の音楽を聴いてくれる人に対して、何ができるか?”というところにある。そのことを端的に示しているのが、「会いに行く」という楽曲なのだ。

 アリーナには8の字型に花道が置かれ、小田はその上を移動、楽曲によって歌う位置を変える。つまり、どの席に座っていても小田の姿を間近に感じられるというわけだ。セットリストはまさにオールタイムベスト。ソロとしての代表作「こころ」「たしかなこと」からオフコース時代の名曲「愛を止めないで」「Yes-No」、そしてニューシングルの収録曲まで、ライブ前半からファンが望む楽曲を次々と披露していく。あらゆる時代の楽曲が自然に馴染み、懐かしさ、新しさを越え、すべてが“2018年の小田和正”の表現に集約されていくのだ。おなじみのバンドメンバー(稲葉政裕/Gt、有賀啓雄/Ba、木村万作/Dr、栗尾直樹/Key)と、金原千恵子(Vn)を中心としたカルテットによる演奏も絶品。歌に込められた物語、メッセージに寄り添う演奏はもちろん、卓越したコーラスワーク(メンバー全員、めちゃくちゃ歌が上手い)も大きな聴きどころだ。「今日は長崎の原爆の日。子供の頃、藤山一郎さんの『長崎の鐘』をよく歌っていて(と、実際に『長崎の鐘』の一節を歌ってみせる)」というMCも印象的だった。

 もちろん小田のライブの定番メニュー“ご当地紀行”(ライブが行われる土地の名所を小田自身が巡るビデオ)も。この日は高尾山、国営昭和記念公園などを訪れ、名所を回りつつ、ファンに声をかけられると気軽に握手やサインに応じていた。マダムの集団に囲まれたときは「ババアのパワーには太刀打ちできません」とコメント、会場が笑いに包まれる。

 ライブ後半ではMCをほとんど挟まず、綺羅星のごとくヒット曲、代表曲を連ねた。そのなかには当然「ラブ・ストーリーは突然に」「YES-YES-YES」なども含まれるのだが、知名度が高い曲になると小田はステージを降り、一緒に歌っている観客にマイクを向ける。観客のシンガロングを促す場面はほかのアーティストでもよくあるが、観客の間近まで行き、アーティスト本人がマイクを向けるシーンは小田のライブ以外で見たことがない。この演出の根底にあるのは“ヒット曲はファンのもの”という意識なのだろう。当たり前の話だが、たくさんのリスナーが楽曲を受け取り、共有しないと、ヒットという現象は生まれない。その楽曲はアーティストのものではなく、リスナーひとり一人の財産なのだーー楽しそうに歌う観客の姿を見ているうちに、そのことを改めて実感することができた。

 個人的にもっとも心に残ったのは、オフコースの名曲「さよなら」だった。かぎりなく原曲に忠実なアレンジ、そして、当時と同じような瑞々しさと奥深い表現力を同時に感じさせてくれる歌声。普遍的としか言いようがない楽曲の魅力をストレートに体感できる、素晴らしいパフォーマンスだった。

 それにしても、まったくインターバルを取らず、ほとんど水も飲まず、続けざまに歌い続ける小田のエネルギーは凄まじい。解放的に盛り上がる楽曲、シリアスなメッセージを伝える楽曲、リスナーの側に寄り添うような優しい楽曲。さまざまな方向性を備えた楽曲にしっかりした説得力を与えていくステージングには、一切のムダがなく、スキもない。余計なことは話さず、自分の思いはすべて楽曲を通して伝える。その誠実な姿勢こそが、小田和正のライブの最大の醍醐味なのだと思う。

 約3時間で30曲。セットリスト、ステージング、歌のクオリティを含め、満足できなかった観客は一人もいないだろう。ツアーは10月末の横浜アリーナ公演まで続く。会場に足を運ぶ方はぜひ、小田和正の音楽を心ゆくまで堪能してほしい。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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