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ぴあ

第1回

全10回

押井守 師匠たちに教えられたこと

宮崎駿【前半】

18/9/1(土)

─── 今回は押井さんに、自身のエンタテインメント史における師匠について語っていただきます。トップバッターは、ご存知、宮崎駿監督です。そもそもおふたりの出会いはいつだったんですか?

トシちゃん(鈴木敏夫)がセッティングした『アニメージュ』での対談が初めてだった。ちょうど、僕が『うる星やつら オンリー・ユー』を作り終わったばかりで、僕に興味をもったトシちゃんが「宮崎さんに会ってみませんか?」と声をかけてくれて始まったんですよ。

僕にとっては、あの『未来少年コナン』の監督か、という感じ。NHKでオンエアされていたとき、僕もスタッフも思わず仕事の手を止めて見入っていたシリーズだったからね。凄い人、天才アニメーターだという認識はあった。

で、ノコノコ、トシちゃんについていって会ったら『オンリー・ユー』をボロクソに言うわけですよ。良いか悪いかぐらい、スチール写真を1枚見れば分かるって豪語するわけ。

─── 押井さんと同じようなことおっしゃってますね(笑)。

いや、僕は「3分見れば分かる」だよ(笑)。スチールだって「3枚見れば分かる」で、さすがに1枚なんてことは言ってないじゃない。

で、そうか、そういうおっさんなんだ、この宮崎駿という監督は、って思ったんだよね。

─── 自分と似ているって思いました?

いやいや、さすがに当時はまだ若くて謙虚だったので、そこまで思い上がってはいません(笑)。だからこそ、メチャクチャなオヤジだなとは思った。そして、そういうオヤジが、あの凄いアニメを作っているんだと、俄然興味を持ったんですよ。

─── そもそも、どうボロクソに言われたんですか?

設定に整合性が取れていないと言われたんだよね。実はこれ、非常に正しかったんです。わずか3カ月で作った作品だったし、そもそも宮さんと同じようなことをやろうとした作品だった。設定を使い回すことでアクションを作り出そうとしたんです。つまり、宮さんの『ルパン三世 カリオストロの城』の方法論を使って作ろうとしたんだよね。

当時の僕は、あらゆる監督の模倣から演出を始めて、当然その中には宮さんもいた。その中で気づいたのは、自分には美術設定を作れるデザイナーが欠けているということ。僕の言葉だけで、自在に設定を作ってくれる才能ですよ。『オンリー・ユー』のときは時間も資金もなかったんだけど、僕の切った絵コンテで進めてたから当然、辻褄が合わなくなる。シーンごとに違うアニメーターにやらせていたからしょうがないんだけどさ。

─── ということは、宮崎さんが指摘したことは、当たっていた……。

そう、自分でもちゃんと分かっていたところを突かれて、ますますムカついちゃったわけ。このジジイ……いや、当時はまだ若かったからこのオヤジだったけど(笑)。

悔しいのは、3カ月で作ったことが言い訳にならないところなんだよ。なぜなら宮さんも『カリ城』を3カ月で作っちゃったから。なぜそんなことができたかと言えば、天才だからです。ひとりで絵コンテを切り、設定を作り、キャラクターを考え、原画を描き、他人の原画を修正し、さらにはそういうことが量産できる。ありえませんから。アニメーターのスーパーマンですよ。極端に言えば、スタッフがいらない巨大な天才。しかも、自分のモノ作りに関しては驚くほど無自覚。だからいつも「こんなのオレが3人いればできるのに!」とわめいていた(笑)。

宮さんはいわばナポレオンなんですよ。だったら僕は、プロイセン(編集部注:ドイツ帝国の中核を成した王国)の参謀本部にならなければいけないと、そのとき思ったわけ。つまり、戦略を立て、戦術を練り、組織も作るということをひとりでやった軍事的天才のナポレオンが宮さんで、そういう天才には頼らず、多数の秀才を集めて戦争に勝とうとしたプロイセンのやり方が僕。ひとりの天才の仕事を、同じレベルでやるためには何が必要か考えて、そういうところに落ち着いたんですよ。

─── じゃあ、初めて会ったときから戦闘態勢だったんですね(笑)

ひとつ言っておくけど、影響を受けた人物というのは、基本的に仮想敵なんですよ。僕に言わせれば仮想敵のいないヤツはダメ。作品は闘争本能で作るものだと思っているから。とりわけ僕の場合、上の世代に対する対抗意識で作品を作ってきたところがあるから。昔はもっと闘争本能が剝き出しで、宮さんに「あんたみたいな戦闘的な演出家には久しぶりに会った」って言われたくらいだった。おそらく、周りにそういう人もいなかったから、気に入られたのかもしれない。

─── 押井さんのことだから、その闘争本能を次の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』でむき出しにしたんじゃないですか?

そうです。僕にとってはリターンマッチですから。このときは周到に絵コンテを切り、夢の辻褄合わせをキッチリやった。ストーリーはシンプルだけど、入れ子のように多重構造にしてユニークな作りにしたんですよ。

─── 宮崎さんは何ておっしゃいました?

本人ははっきりは言わなかったけど、問題だったのは宮さんの奥さんが褒めたこと。宮さんに「これはあなたにはできないわね」と言ったんだよね。コンビニで買い物するシーンとかの生活観について奥さんは言ったらしいんだけどさ。まあ、宮さんは生活感ゼロの人だから、確かにそういう描写は逆立ちしてもできない。

僕の次の作品、『天使のたまご』のときも「特攻隊のような映画を作るんじゃない!」って凄く憤慨しているんで、どうしたのかと思ったら、宮さんの愛弟子の女性アニメーターがこの作品をいたく気に入ってくれたかららしい。宮さんは常に、女性が絡むとアツくなっちゃうんですよ(笑)。

─── 押井さんもお嬢さんに『紅の豚』が大好きと言われてムカついたクチじゃないですか。

まあ、そうだけどさ。親族や自分の近しい人が絡むと闘争心が煽られるんですよ(笑)。

【第2回へつづく】

取材・構成:渡辺麻紀/写真撮影:源賀津己

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