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中村佳穂、冬にわかれて、Boygenius……女性SSWが様々なアプローチで届ける新作アルバム5選

リアルサウンド

18/12/9(日) 18:00

 今回は女性シンガーソングライター特集。独りだったり、コラボレートしたり、あるいは仲間とユニットを組んだりと、様々なアプローチで届けてくれた新作を紹介したい。

中村佳穂『AINOU』

 デビューアルバム『リピー塔がたつ』で注目を集めた京都のシンガーソングライター、中村佳穂。2年以上の月日をかけて制作した新作は、名古屋のバンド、レミ街の荒木正比呂がサウンド面をとりまとめて新たな世界を切り開いた。小西遼(CRCK/LCKS)、西田修大(吉田ヨウヘイgroup)、武徹太郎(馬喰町バンド)など様々なゲストが参加。バンドサウンドとエレクトロニックな要素を、緻密なエディットで巧みに融合。ジャズやR&Bを吸収しつつ、歌やグルーヴの生々しさを大切にした音作りは、Hiatus KaiyoteやDirty Projectorsあたりに通じるようなところも。そんななか、凝ったトラックを自在に歌いこなす中村の歌唱力が素晴らしい。技巧を駆使しながら歌のソウルは失われれず、その表情豊かな歌声に惹きつけられる。

中村佳穂『AINOU』

冬にわかれて『なんにもいらない』

 シンガーソングライターの寺尾紗穂。細野晴臣や星野源など様々なアーティストをサポートしてきたベーシストの伊賀航。そして、ソロ活動もしているマルチプレイヤーのあだち麗三郎の3人が結成した新バンド、冬にわかれての1stアルバム。それぞれが曲を持ち寄り、3人の個性が混ざりあっていて曲はバラエティ豊か。R&B、ジャズ、ニューオリンズなど、多彩なリズムが曲にしなやかな躍動感を生み出している。その一方で、フルートやフェンダーローズの音色が幻想的なムードを醸し出すアシッドフォークのような曲も魅力的。大貫妙子や吉田美奈子など70年代の女性シンガーに通じる寺尾の歌声は、曲に合わせてバレエを踊っているように軽やかで美しい。

冬にわかれて – 君の街

Boygenius『Boygenius』

 USインディーシーンで注目を集める3人のシンガーソングライター、ジュリアン・ベイカー、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダカスがプロジェクトを結成。3人はツアーやフェスで一緒になったことで親交を深めていったとか。今年6月にスタジオに集まった3人は、それぞれBoygenius用に書いた曲をひとつ、そして、曲のアイデアをひとつ持参。合計6曲が仕上げられて、彼女たちにとって初めてのEPとなる本作になった。ジュリアンの息詰まるような感情の昂り。フィービーのほろ苦いメロディーセンス。ルーシーの多彩なギタープレイなど、曲のスタイル、歌声、ギタープレイに個性を反映させながら、それがしっかりと融け合ってハーモニーを奏でている。バンドというより同志、そんな3人の自信と信頼関係が伝わってくる作品だ。

boygenius: NPR Music Tiny Desk Concert

イナラ・ジョージ『Dearest Everybody』

 エレクトロポップデュオ、The Bird and the Beeのボーカル、イナラ・ジョージの9年振りのソロアルバム。父親はLittle Featのローウェル・ジョージで、名付け親はジャクソン・ブラウンというアメリカ西海岸ロックの遺伝子を受け継いで育ったイナラ。同時に現代的なポップセンスも吸収していて、アルバムではアコースティックな楽器の音色とエレクトロニックなアプローチが自然に融合している。丁寧に作り込まれたサウンドに、イナラの優しくて飄々としたユーモアも感じさせるフレンドリーな歌声がフィット。プロデュースを手掛けているのは、彼女とは長い付き合いで映画音楽の作曲家としても活躍するマイク・アンドリュースで、曲ごとにショートムービーを楽しむような味わいがある。本作は海外では配信とアナログのみのリリースだが、日本のみでCD化。さらにボーナストラックが2曲が加わっているのも嬉しい。

Inara George – “Young Adult” (music video)

フロレンシア・ルイス『Rumiante』

 最後はアルゼンチン出身のシンガーソングライター、フロレンシア・ルイス。今回は前作『Parte』でコラボレートしたキーボード奏者のモノ・フォンタナを再び招きつつ、彼女の初期作品をサポートしたエレクトロアーティスト、セバ・ランドロも参加。曲によってパートナーを変えて共演し、1曲だけ3人でコラボレートしている。ランドロとの共演曲は、エレクトロニックなビートを活かしたモダンなサウンド。フォンタナとの共演曲はシンセやピアノなどキーボードを重ねてふくらみのある音響空間を生み出して、とそれぞれに特徴はあるが、繊細でミニマルなタッチは共通していて、フロレンシアのしなやかな歌声は、楽器のひとつのようにサウンドに溶け込んでいく。同郷フアナ・モリーナのように実験的な音楽性を持ちながらフェミニンで繊細な歌は、オルタナティブな子守唄のようだ。

Lugar nuevo/flOrencia Ruiz/Rumiante (2018)

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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