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菅田将暉は“衒いなき愛”とともにアーティストとして成長する アルバム『LOVE』を聞いて

リアルサウンド

19/7/10(水) 7:00

 男女問わず、役者が歌手デビューすることは、今も昔も特に珍しいことではない。歌の上手い下手はあるにせよ、日ごろから“声の表現”というものを意識しているであろう彼/彼女たちが、シンガーとして思いのほか非凡な才能を持っている場合も多々あることだろう。けれども、菅田将暉に関しては、ソロでデビューしたときから、通常のそれとは少し異なる印象を持っていた。端的に言うと、「ああ、この人は、ロックが歌える人なんだ」という新鮮な驚きが、そこにはあったのだ。無論、ロックを歌うこと自体は、誰にだって可能だ。しかし、大音響のバンドサウンドの中で、埋もれるどころかそのサウンドを牽引するような個性の立った歌を響かせることは、なかなかできることではない。朗々と美声を響かせるのではなく、ときにザラついた感覚を持ちつつも、そのエモーションがリスナーの胸に真っ直ぐに突き刺さってくるようなボーカル。敢えて名前を挙げるならば、BUMP OF CHIKENの藤原基央やRADWIMPSの野田洋次郎の“歌”に感じるようなそれを、菅田将暉の「見たこともない景色」、「さよらなエレジー」といった楽曲に感じ取ったのだ。

(関連:菅田将暉、「まちがいさがし」で果たした米津玄師との再タッグ “声と歌”を最大限に生かした一曲に

 しかし、シンガー菅田将暉の魅力は、それだけではなかった。筆者が再び刮目したのは、今年5月に配信シングルとしてリリースされた……というよりも、松坂桃李主演のドラマ『パーフェクトワールド』の主題歌として、米津玄師が作詞作曲プロデュースを担当した菅田将暉の楽曲「まちがいさがし」が流れたときだった。米津玄師らしい緻密で切実な詞世界を持ちつつも、楽曲的にはピアノの弾き語りを基調としたこのシンプルなバラード曲を、菅田将暉は見事に歌い上げていたのだ。自身がメインキャストとして出演しているわけでもないドラマ『パーフェクトワールド』の主題歌として、何の違和感もないどころか、その世界を締め括るに相応しい包容力を湛えた伸びやかなボーカル。そう、もはや菅田将暉は、自身の俳優業とリンクした形ではなく、ひとりのシンガーとして捉えるべき存在なのかもしれない。かくして、そんな「まちがいさがし」をリード曲とした、菅田将暉通算2枚目となるオリジナルアルバム『LOVE』が、前アルバムから約1年3カ月という実に早いペースで完成した。その中身は、果たしてどんなものになっているのだろうか。

 石田ひゅーい、秋田ひろむ(amazarashi)、柴田隆浩(忘れらんねえよ)など、前作にも楽曲を提供していた、菅田と旧知のミュージャンたちをはじめ、志磨遼平(ドレスコーズ)やあいみょんなど、さらに多彩なミュージシャンが、そのクレジットに名を連ねている本作。冒頭に書いたように、彼の非凡な持ち味のひとつである“ロックシンガーとしての魅力”は、本作においてもいかんなく発揮されている。具体的に言うならば、秋田ひろむ作詞作曲の「ロングホープ・フィリア」、柴田隆浩作詞作曲の「7.1oz」、菅田自身の作詞作曲によるパンクチューン「ドラス」、さらには一緒にツアーを回ったバンドメンバーたちと生み出した、ライブ感溢れる「TONE BENDER LOVE」といった楽曲だろうか。志磨遼平作詞作曲のロックバラード「りびんぐでっど」で響かせる、独特な“揺らぎ”のあるボーカルも、ある意味非常にロックシンガー的と言えるかもしれない。

 さらに、本作の聴きどころは、それだけではなかった。先述の「まちがいさがし」のように、しっかりと歌い上げるストレートな楽曲はもちろん、石田ひゅーいが弾き語りで歌うのを聴いて、菅田自身が「自分そのもの」はたまた「成りたい自分そのもの」だと深く感動し、自身で歌うことはもちろん、挙句の果てには、自らが監督を買って出て、仲野太賀主演でショートフィルムを撮り上げてしまったという「クローバー」を筆頭に、気負いのない歌声と歌詞がどこかフォーキーな「つもる話」、「あいつとその子」といった自身の作詞作曲による楽曲、あるいは本作の最後に収められた、俳優仲間でもある長嶋柊吾作曲、菅田将暉作曲による弾き語りのささやかな楽曲「ベイビィ」。それらの楽曲で描き出される、ありのままの菅田将暉……すなわち、何かの役を演じるのではない、菅田将暉という人間の日々のうつろいや思いが率直な言葉で吐露される楽曲も、思わず身を乗り出して、耳をそばだててしまう求心力を放っているのだった。

 けれども、個人的に、いちばん新鮮に響いたのは、あいみょんが提供した「キスだけで feat. あいみょん」だった。「君はロックを聴かない」など、人称表現で独自の味わいを生み出すシンガーソングライターであるあいみょんが、男女の歌詞を逆転させながら菅田とデュエットするこの曲。ある意味、往年の歌謡曲的とも言える、“女性言葉”で歌う菅田将暉のボーカルの艶やかさは、“男性言葉”で凛々しい歌声を響かせるあいみょんのボーカルとのコントラストも相まって、シンガー菅田将暉の新たな魅力と可能性を打ち放っているように思えた。さらに言うならば、これまでどこか男の子たちによる“部活感”的な雰囲気もあった菅田の音楽活動に新風を注ぎ込んだという意味でも、実に新鮮な一曲となっているのだ。

 それにしても、本作全体を通じて改めて感じたのは、菅田将暉というアーティストの“衒いのなさ”である。作品ありき、台本ありきで臨む役者業とは異なり、自身が主導しつつも、そこで自らの確固たる“世界観”を構築するのではなく、敬愛するミュージシャンたちと共に、ゼロから衒いなく、自由に音楽を作り出してゆく喜び。そんな“もの作り”の喜びに溢れた本作のタイトルが、シンプルに『LOVE』というのも、実に彼らしいと言えるのかもしれない。そう言えば、前アルバムのタイトルは『PLAY』だった。何だろう、この衒いのなさは。音楽を鳴らすことへの愛、敬愛するミュージシャンたちへの愛、彼らともの作りをすることへの愛、そしてリスナーたちへの愛……そんな“衒いなき愛”に溢れながら、なおかつミュージシャン菅田将暉の確かな成長も感じ取れるような、そんな一枚だと思う。(麦倉正樹)

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