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ヒプノシスマイクが表現してきたラップミュージックの奥深さ 各ディビジョンごとに分析

リアルサウンド

18/12/26(水) 15:00

 2018年、オタクカルチャーのなかで新たな領域を開いたといえるムーブメントがいくつかあるが、『ヒプノシスマイク』は間違いなくその一つに数えられるだろう。

(関連:“男性声優×ラップバトル”ヒプノシスマイクの音楽的魅力ーーシリーズ最新作から考察

 男性声優12人をフィーチャーしたラップバトルプロジェクトとして産声を上げた今作。武力抗争が絶え、代わりに人の精神に干渉する「ヒプノシスマイク」を使ったラップバトルで争うようになった近未来の日本を舞台にしている。そんな同プロジェクトでは、12月中旬現在まででイケブクロ、ヨコハマ、シブヤ、シンジュクの4つのディビジョン(領地)に分かれて楽曲を発表してきた。

 昨年秋から始動したこのプロジェクト。人気に火がついたのは、今年4月開催の「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- Battle Season」と題した人気投票バトルの影響が大きい。これまでオタク女子の耳を癒やしてきたであろう「シチュエーションCD/ドラマCD」の系譜に沿いつつ、物語のコアには「ラップバトル」「音楽」の役割を置いたことでストーリーから得られる想像性をより強固なものにしたのは、非常に画期的だった。さらに、単純に曲単位だけでなくドラマパートでもラップを披露。ヒップホップ/ラップミュージックを取り入れた新たな作品像を作ろうとしていることがよく分かる。

 そこで本稿では、男性声優によるライミングとフロウ、各ディビジョンのカラーに合わせた作詞作曲編曲家の起用などを通し、ヒプノシスマイクが今の段階でラップミュージックの奥深さをいかに表現してきたかという点に着目していきたい。全ての楽曲に触れられないのは心苦しいが、ご留意していただきたい。なお、キャラ同士の関係性や、ストーリーラインの話には触れないで進める。

■シンジュク・ディビジョン

 まずは、「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- Battle Season」を見事勝利したシンジュク・ディビジョンのチーム・麻天狼だ。昨年12月に発売された『麻天狼-音韻臨床-』では、それぞれ全く毛色の違うGADORO/藤森慎吾/弥之助(from AFRO PARKER)が作詞を手がけている。

 ストーリートラックを聞いた方ならわかるかと思うが、シンジュク・ディビジョンのリーダーである神宮寺寂雷が「面白い人間」を念頭にメンバーを選んだということもあり、メンバーとなる3人はいずれも個性派揃い。先述した3人は、そんな個性派メンバーのキャラクターに合わせて作詞を手がけている。GADOROは「迷宮壁」(神宮寺寂雷)で人生哲学を、藤森は「シャンパン ゴールド」(伊弉冉一二三)でホストらしい華やかさを、弥之助は「チグリジア」(観音坂独歩)でワーキングピープルの憂いをそれぞれ描いている。

 さらに、麻天狼の楽曲は、ワードチョイス、フロウとの絡み方どの点を切り取っても、GADOROらがこれまで活動してきたものと瓜二つのようにすら聴こえてくる。これだけでも、今作がいかに「ヒップホップ/ラップ・ミュージックを取り入れようか?」と意気込んでいるかが分かるかと思う。

■シブヤ・ディビジョン

 シンジュク・ディビジョンのライバルとされているのが、飴村乱数(あめむららむだ)率いるシブヤ・ディビジョンである。彼らの楽曲でイチオシといえるのは、メンバーのマイクリレーで魅せる「Shibuya Marble Texture -PCCS-」だろう。作曲・編曲を務めたAvec Avecは若きコンポーザーとして名を馳せており、Seihoとのユニット・Sugar’s Campaignが有名だろう。

 VTuberであるキズナアイへ楽曲提供した他、若手ラッパー・唾奇にもビートを提供するなど、Avec Avecの音楽とヒップホップとの相性はとても良い。シンセサイザーの深い音色と絶妙にズレてモタるビート感が絡み合ったサウンドスケープは、硬質なビートとブツ切りなベースサウンドが主になりがちなヒップホップサウンドのなかで異質に響く。シブヤ・ディビジョンのメンバーである飴村乱数、夢野幻太郎、有栖川帝統の関係性、そして「渋谷」という華やいだ都市イメージにも通じていく、素晴らしい楽曲だ。

■ヨコハマ・ディビジョン

 現在唯一、東京以外のディビジョンとして結成されているのがヨコハマ・ディビジョン。ベイサイド・タウンである横浜のチンピラ×警官×軍人で構成されたこのチームの名はMAD TRIGGER CREWだ。楽曲提供には、『フリースタイルダンジョン』などで知られる「プリンス・オブ・ヨコハマ」サイプレス上野、HOME MADE 家族のKURO、トラックメイカー集団・BUZZER BEATSのCHIVA、Romancrewの元メンバーALI-KICK、そして日本のヒップホップ黎明期からZEEBRAとともに生き続けてきたUZIと、長きに渡りヒップホップシーンを生き続けてきた面々が名を連ねている。

 そういったことも関係してか、彼らの楽曲はどことなくオールドスクール寄りだ。「G anthem of Y-CITY」のメロディラインとギターサウンドは歌謡曲の香りが漂うし、「ベイサイド・スモーキングブルース」のトランペットソロとスローなグルーヴは哀愁が漂い、「What’s My Name?」はWu-Tang Clanを思い出させるほどに野太いベース&ドラムループが印象的なブーンバップサウンドだ。「ヨコハマシティのギャング・アンセム」と歌う楽曲が物語るように、彼らは、黄金期とも評される90年代ヒップホップの匂いを最も強く発するチームだと言えるだろう。

■イケブクロ・ディビジョン

 最後はイケブクロ・ディビジョンである山田3兄弟だ。彼らのブラザーフッドな絆を基にした歌詞は、一種の危うさを感じさせながらも、美しい兄弟愛を語り、聴くものの心を捉える。ファンの方ならご存知だろうが、イケブクロ・ディビジョンのBuster Bros!!!楽曲を多く作詞している好良瓶太郎は、山田一郎の声優を務める木村昴の変名だ。

 そして、彼らのなかでもっともエッジーな楽曲と言えるのが、山田三郎の「New Star」であろう。同曲は、音楽ユニット□□□の主催を務める三浦康嗣が手がけたもの。サンプリングにはあのクラシック楽曲「G線上のアリア」を使用している。一聴すればすぐにわかるであろうあの清廉とした音楽が、作曲者の手にかかればヒップホップへと大胆に生まれ変わってしまう。この驚きを真新しく感じられる方も多いだろう。

 三浦康嗣といえば、ラッパー環ROYへの作曲参加や、Negicco、夢みるアドレセンス、私立恵比寿中学だけでなく声優関係のプロジェクトにも楽曲提供している。なかでも女性声優の高野麻里佳、高橋李依、長久友紀からなるイヤホンズ「あたしのなかのものがたり」は、声優による語り/歌/ラップ/演技が高次元にまとまった1曲だ。そして「New Star」ではポエトリーリーディングなスタイルを取り、ラップミュージックの奥深さを体現させる楽曲となった。これも三浦の手腕によるものなのだ。

 『ヒプノシスマイク』は、CD作品/ライブ活動を皮切りにして作品世界を広げてきている。ただ、今月12月になって初となる漫画作品が発売されたことからもわかるように、まだまだスタートしたばかりの作品だ。想像の余地が多くあるなかで、公式作品がいったいどのような創造と筋を示してくれるのか、これからの展開を楽しみにしていきたい。(草野虹)

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