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amazarashi、「新言語秩序」が迎えた終着地点 “言葉”への意思表明を感じた武道館公演

リアルサウンド

18/11/26(月) 14:00

 初の日本武道館公演に向け、専用アプリを通じて書き下ろし小説や「リビングデッド」のMV公開を含む体験型のコンテンツを展開してきたamazarashi。一連のプロジェクト「新言語秩序」の終着地点となる『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』が、11月16日に開催された。

(関連:『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』ライブ写真

 この公演は、SNSでの言葉狩りなどに着想を得て生まれた「一般市民が互いに言葉を監視し、検閲し合うディストピア」を舞台に、言葉を取り戻す人々の抵抗活動を描くストーリー仕立てのライブになっており、スマートフォンの専用アプリを利用することで観客もその抵抗活動に参加できる。『Live Tour 2018「地方都市のメメント・モリ」』で過去の集大成的なライブ表現に到達した彼らが、新しい可能性を追求する試金石となる公演だ。ステージ中央に設置した四面スクリーンの中で秋田ひろむの朗読とバンド演奏とを交互に展開し、言葉にまつわる物語を、音楽/ビジュアル双方が融合した彼らならではの形で伝えていく。

 開演前、スクリーンに「この公演は『新言語秩序』の検閲対象になっております」という文言が表示されて期待感が募る中、秋田ひろむを含むバンドが四面スクリーンの中に登場。まずは秋田による、最新シングル『リビングデッド』の収録曲「独白(検閲済み)」の朗読がはじまる。シングルを購入した方なら分かる通り、この楽曲はほぼすべての言葉が検閲されて隠されている。『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』の世界観をありありと伝えるオープニングだ。そしてTwitterのタイムラインがスクリーンに表現され、言葉が検閲されていく様子を伝える「ワードプロセッサー」で、いよいよバンドが演奏をスタート。秋田ひろむが「青森から来ました、amazarashiです!」と挨拶し、以降もYouTube、Instagramといった現代の主要SNSを思わせるものから、新聞やTVのニュース、ライブハウスのチラシ、そして街の看板や壁の落書きまで、あらゆる言葉が検閲され塗りつぶされるディストピアの様子を映像で伝えながら、「リビングデッド」「空洞空洞」「季節は次々死んでいく」といった新旧の楽曲を演奏していく。また、一部の楽曲では演奏に合わせて専用アプリをダウンロードした観客のスマホが光を放ち、客席全体が彼らを照らす照明に変わった。

 そうした形式の新しさだけでなく、印象的だったのは、バンドによる熱量全開の演奏だ。今回のストーリーでは、あらゆる言葉を検閲し、画一化された言葉“テンプレート言語”を広める集団「新言語秩序」と、その活動に音楽やアート、ストリートグラフィティを筆頭にした表現で抵抗する集団「言葉ゾンビ」との戦いが描かれていく。言葉の力を信じるamazarashiは、もちろん「言葉ゾンビ」側の存在だ。その戦いへの強い意思や、検閲への憤りを込めて演奏される楽曲は、ヒリヒリとしたギターサウンドを筆頭に感情のうねりや激しさをダイナミックに伝えるものになっている。中盤以降は「自虐家のアリー」「フィロソフィー」「命にふさわしい」などを披露。その後も書き下ろし小説の朗読を挟み、今回の公演のテーマでもある“言葉”の魅力を描いた楽曲「月が綺麗」などを次々に演奏していく。その演奏/歌唱に合わせて会場はじりじりと熱気を増し、秋田ひろむの声にもより力がこもる。

 そしてライブはいよいよ、この武道館公演の直前に公開された書き下ろし小説の第4章でバッドエンドを迎えた官邸前での大規模デモのシーンに突入。スクリーンにはプラカードを持った「言葉ゾンビ」による大規模なデモ行進や、彼らを扇動する言葉ゾンビの若きカリスマ・希明(きあ)の姿と、彼らに紛れ込んで“テンプレート逸脱行為”を記録していた「新言語秩序」の人間・実多(みた)の姿が映し出される。そして「言葉ゾンビ」に正体を気づかれた実多が、希明に「何か言いたいことはあるか」とマイクを手渡される、物語のクライマックスがやってくる。

 事前に公開された書き下ろし小説の第4章では、その一瞬の隙を突いて実多が希明を刺してバッドエンドを迎えるが、この日の公演では、物語がトゥルーエンドへと分岐。希明からマイクを受け取った実多が、自分の言葉を語りはじめる。そうしてはじまるのが、ライブ冒頭では“検閲済み”で朗読され、内容がほぼ読み取れなかった「独白」の検閲解除バージョンだ。書き下ろし小説を読んだ方なら分かる通り、実多には「言葉を殺さなければならない」と思うに至る、幼少期の壮絶な経験があった。彼女は、父親によるレイプや凄惨ないじめを経て、言葉の力に絶望し、言葉を憎むようになる。しかし、このトゥルーエンドでは、実多の独白を表現したと思しき曲の中で、秋田ひろむが彼女の苦悩や心の内を歌いはじめ、この日一番の熱量を詰め込んだドラマチックな演奏と共に、テンプレートを逸脱した実多の本当の言葉が堰を切ったように溢れ出す。そうして語られるのは、自らが殺した言葉、憎んだ言葉、そして本当はかけて欲しかった言葉の存在だ。最後は観客のスマートフォンが発する照明を受けながら、「言葉を取り戻せ」「言葉を取り戻せ」と秋田ひろむが絶唱してライブを終えた。

 amazarashiの『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』は、“言葉の力”をめぐる物語だ。そして、この物語の中で、言葉は力を持つゆえに残酷なものにも、希望を与えうるものにもなる存在として描かれている。そして、 “それでも”、いやむしろ“だからこそ”、amazarashiはこれからも言葉を紡いでいくーー。この公演を通して感じたのは、言葉の可能性を信じて歌い続けてきた秋田ひろむによる、そうした強い意思表明のようなものだった。豊かな語彙を駆使したシナリオやスクリーンを使ったビジュアル表現、熱量全開の演奏に、観客が参加することで成立する照明/ステージ演出が加わり、amazarashiの表現は今まさに大きな広がりを見せている。「観る」よりも「体験する」に近い魅力を持つ彼らのライブが、この先の活動に向けて新たな可能性を広げていく瞬間を見せてもらっているような、圧巻の一夜だった。(杉山仁)

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