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いま、最高の一本に出会える

山岸聖太

映像で音楽を奏でる人々 第7回 面接で嘘をついたら人気映像作家になってしまった山岸聖太

ナタリー

18/12/10(月) 19:13

音楽系の映像作品に関わっているクリエイターに自身のことを語ってもらうこの連載。今回はSAKEROCKや星野源、KANA-BOON、乃木坂46などのミュージックビデオを手がけ、テレビ東京系で放送中のドラマ「忘却のサチコ」の監督も務めている山岸聖太が登場してくれた。

彼が作り出す映像は、かつてファンの間で“ノイローゼコンテンツ”とも呼ばれていたほど独特すぎる世界観を持つが、一方でストーリー性を重視したスタイリッシュでドラマチックな映像にも定評がある。多彩な才能を発揮するこの個性派クリエイターがいかにして生まれたのかに迫るべく、彼にこれまでの歩みを振り返ってもらった。

まったく興味ないのに面接で「映像制作に興味がある」って

別に僕は、もともと映像に興味があったわけではないんです。テレビゲームばっかりやっていたので、「ゲーム雑誌の編集部に行けばゲームを遊びながらお金もらえるんじゃないか」と思って「ファミ通」を出版しているエンターブレイン(当時はアスキー)の面接を受けたら入社が決まり、たまたま配属されたところが映像企画部だったんですよ。

面接って「将来どうなりたい?」みたいなこと聞かれるじゃないですか。そういうときに、未来があることを言っておいたほうが採用されやすいかなと思って「映像制作に興味がある」と適当なことを言ったんです。本当はまったく興味なんてなかったのですが、中学のときの同級生が大学で映像学科に通っていて自主映画を撮ってるという話を聞いていたから、その話使えるなと思って「映画の撮影を手伝ってます」とか嘘をついて。もちろん撮影なんて一度も行ったことないんですけど。そしたらたまたま会社に映像制作の部署が立ち上がるタイミングで、まんまと入社することになったんです。「嘘つくもんだな」って思いましたね(笑)。

初めの1年くらいはADみたいなことをやってたんですけど、ほかに人がいなかったのですぐディレクターになりました。最初に企画したのは、Bose(スチャダラパー)さんがただひたすらいろいろなゲームを遊ぶだけの番組で、それがのちに「ボーズのマルマルタイム」という番組になりました(月刊誌「ファミ通WaveDVD」の付録DVDに収録)。「こういうものを作れ」みたいなことを上から厳しく言われることもなかったし、自由に好き勝手作ってました。特に読者からの反響も全然ないし、テレビじゃないから視聴率とかもないし、本当に誰が観てるんだろうって感じでしたけど、そのとき「自分の好きなように何かを作ると発散できるんだ」っていうのに気付いたんです。それでだんだんと映像制作が楽しくなってきて、自分に向いてるかどうかはよくわかんないけど「これを仕事としてやっていきたいな」と思うようになりました。

その「ボーズのマルマルタイム」を星野源くんが視聴者として観ていてくれてたんです。源くんとは共通の知人である女優の猫背椿さんを介して知り合ったんですが、初めて会ったときに「一緒にやらないか」って誘ってくれて、僕と源くんと大原大次郎と3人で「山田一郎」という映像チームを結成することになりました。僕も源くんが作っていたSAKEROCKの音楽が好きだったし、何より、本当に誰が観てるのかもわからないまま作ってた番組を、ちゃんと評価をしてくれる人がいたことが本当にうれしかったですね。山田一郎としての最初の作品はSAKEROCKの「ラディカルホリデー」というDVD作品で、そのあとにSAKEROCKの「会社員と今の私」というMVを作りました。僕がMVに関わったのはこれが初めてです。このMVの仕事をきっかけに会社を辞めました。

「MVは向いてないのかな」って思うようになっていた

MV監督としての自分のキャリアを振り返ると、転機になったのは「SAKEROCKの仕事を始めたこと」と「KANA-BOONの仕事を始めたこと」だと思います。山田一郎として作った2本目のMVはSAKEROCKの「ホニャララ」だったんですけど、この癖の強いMVがけっこう話題になって、その結果そこからしばらく、僕に来る仕事が全部これ系を求められるような状況になりました。

こういうテイストを求められつつ、そうじゃないMVも何本かやらせてもらったんですけど、“そうじゃないほう”はお蔵入りなったことも何回かあるし、全然うまくいかなかった。MVの仕事がまったくなくなった期間もあったし、自分でも「MVは向いてないのかな」って思うようになってました。

でもしばらくして、ユニコーンのMVを撮らせてもらったときに出会ったKi/oon Musicの担当の方が「今度KANA-BOONっていうバンドがデビューするので、一緒にやりませんか」って声をかけてくれたんです。その方が僕に何を求めてオファーしてくれたのかはわからないですけど、谷口鮪(Vo, G)さんに会ってどういうものがやりたいのか話を聞いたら、「すごく癖があるものにしたい」という感じでもなかった。僕は当時「もうMVは作れないかも」って本当に思ってたから、すごくワクワクして、幸せだなって思いながら撮っていた記憶があります。

あと、同時期に乃木坂46の仕事も始まったんです。最初はMVじゃなくて“個人PV”というメンバーごとのショートムービーだったんですけど、乃木坂46に関しては本当にルールが一切なくて自由にやらせてくれるので、完全にゼロからシナリオを書いて、自分の好きなものを撮れたんです。このあたりから「自分で物語を考えてドラマ仕立ての映像を作る」みたいな作品作りを、もっとしっかりとやりたいという気持ちが芽生えてきました。

パロディをやるなら中途半端はよくない

「ホニャララ」みたいな昔のテレビ番組のパロディは「ファミ通WaveDVD」時代からやっていたのですが、なんか好きなんですよね。YouTubeで探せば今はいくらでも昭和の頃のCMとかが観れたりしますし、当時の映像って観ていると胸がざわめくものがあって、その感覚を僕は自分の映像でも出したいのかもしれません。

パロディってちゃんと作らないと面白くないんですよね。中途半端にやるのはよくない。やるならネタ元をしっかり理解してないとダメなんです。古い映像を再現するのに、別に特別な機材が必要ということはありません。カメラが当時のものだと味は出るんですけど、その味は編集でも出せますし。重要なのは機材よりも、衣装・メイクはもちろん、現場の細かいディティール、カメラワークや編集の仕方、テロップや画質などで、当時の空気感を演出することなんです。

例えばこのベッド・インのMVだと、ポイントは照明の当て方なんですよね。たぶんお二人は撮影中めちゃくちゃ眩しかったと思うんですけど、人物に思いっきり光を当てるとものすごくパキッとした質感になって、風景から人物が浮くんですよ。それがトレンディドラマっぽい映像に感じさせてるんです。

このMVはカメラワークが大事で。昔の音楽番組ってカメラワークが独特なんですよ。ラフに動くと言うか。よくわからないところにすごいズームしたり、変なスローになったり、みたいな部分がポイントですね。

レコード会社に言わないで勝手に撮ったんです

最近ドラマや映画を撮らせていただくようになりましたけど、映像を作り始めた頃からずっと「ドラマや映画もやってみたい」って思ってたんです。だからMVは「そのときのための訓練」って気持ちもちょっとありました。ドラマも映画も1つの物語の中に感情の起伏があるものですが、決められた短い時間の中でそれを組み立てる訓練を、MVを作りながらできないかなと思って。だから、別にそういうオファーをされてなくても、自分からドラマ仕立てのMVを企画して作ることが多くなりました。KANA-BOONの「生きてゆく」のMVには“完全版”という短編映画みたいな25分のバージョンがあるんですけど、あれ、レコード会社に言わないで勝手に撮ったんですよ。

確か、MVの編集をしてるときにレコード会社の担当の方に「実はこれの30分くらいあるやつを今作ってるんですよ」って初めて話して、あとで観てもらったらすごくいいねってことになって。「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア」に出品することになったんです。そこで賞をもらって、それを観てくれた人がのちに映画監督のオファーをしてくれたので、今振り返るとこのMVがなかったら僕はドラマや映画を作ってなかったかもしれません。

自分ではシュールだとはまったく思ってない

MVは基本的にはアーティストのものなので、音楽を邪魔するものであってはいけないし、アーティストが喜ぶものを作るのが第一です。それは重々わかってるんですが、せっかくMVを作るからには、音楽を聴いただけでは得られない快感やカタルシスを感じさせるものにできたらいいなとも個人的には思ってます。そのためには、出演者の感情が盛り上がった瞬間を映像や演出で観てる人に伝えるのが大事なんです。例えば、乃木坂46の「別れ際、もっと好きになる」のMVで、堀未央奈さんが好きな男性と一緒に歩く妄想をしているシーンで、うれしさがピークに達した表現として空から大量のナンが降ってくるんですけど、サビに入るタイミングで、曲の展開と登場人物の感情がシンクロする構成は、自分的にも観ていて気持ちいいです。

僕は美術大学も出てないし、MVの師匠みたいな人も特にいないので、自分が作品を作るうえで誰か映像作家から直接的に影響を受けたというのはあまりないかもしれない。一番強烈に影響を受けているのはダウンタウンです。中・高校生の頃に、毎週日曜夜8時からダウンタウンの強烈なコントがテレビで流れていたというのは大きかったと思う。「ダウンタウンのごっつええ感じ」以外も松本人志さんが作ったコントは全部観てますし。あとは竹中直人さんがやってたコント番組とか、「電気グルーヴのオールナイトニッポン」とか。そこで人を見る視点が養われたところがあると思うんです。

よく僕が作る映像について「シュール」って言われるんですけど、正直自分ではシュールだとはまったく思ってないんですよ。今やってる「忘却のサチコ」っていうテレビドラマでも、現場やスタジオでスタッフの方々から「シュールですね」って言われます。確かに王道ではないかもしれないですけど、僕の中ではスタンダードに近いものを作っているつもりなんです。“シュール”と言われることが別に不本意なわけではないんですけど、僕が思っているシュールとは違うなって。松本人志さんが昔「寿司屋の大将が寿司を握ってお客さんに出した瞬間、女将が手で潰して、それをお客さんが困った顔をしながら食べる」っていうコントをやってて。なんの説明もなくそれをやってるのが非常に面白かったんですけど、それと比べたら僕がやってることなんざシュールでもなんでもないと思います。

これからMV監督になりたい人に、僕からアドバイスするとしたら「とにかく勝手にやってみること」「初対面の人に嘘をつくこと」ですかね。自分の人生を振り返ったら、嘘をついたのはけっこう重要だったなと(笑)。僕はそれで人生が変わって、今こういう仕事でお金をもらってるので。

山岸聖太が影響を受けたMV

松本人志「HITOSI MATUMOTO VISUALBUM」シリーズ(1998~1999年)

VHSで3本発売されたお笑いの映像集です。MVじゃないんですけど、松本さんは「ミュージシャンがアルバムをリリースするように」って言って、音楽のフォーマットを意識してこれを作ったようです。実際、1本の中に“派手で盛り上がる曲”みたいな映像があったり“地味な弾き語り”みたいな映像があったりで、観ていると本当にアルバムを聴いてる感覚になるんですよね。固定カメラを使ってカッコいい撮り方をしてたり、カメラワークにもこだわりを感じました。

スチャダラパー「後者 -THE LATTER-」(1993年)

タケイグッドマンさんが撮ったMVです。「簡単に撮った」というと失礼ですけど、手こぎボートに乗ったメンバーをシンプルに撮って、3人とその友だちたちが過去にふざけて撮っていた映像を一瞬だけはさみ込むっていう構成なんです。この、作ってる人たちの楽しんでる感じが伝わるのがめちゃくちゃ好きなんですよ。スチャダラパーがこういうビデオをいっぱい作ってたのが、僕がいろんなMVを観るようになるきっかけになったように思います。

ちなみに同じ時期に、電気グルーヴもよく聴いてました。もちろん今もホントにカッコいいんですが、中学・高校の頃は宗教のように洗脳されてましたね。その流れでロッテルダムテクノが好きになって、「ロッテルダム・テクノ・イズ・ハード・ハード・ハード!!」っていうコンピをよく聴いてました。そのコンピにも参加してるEuromastersっていうグループがいるんですけど、レコードジャケットに金玉が描いてあるんですよ。最高でしたね。

取材・文・構成 / 橋本尚平 撮影 / 津田宏樹

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