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(写真左から)デイミアン・チャゼル監督、ライアン・ゴズリング Photo:Kazuhiko Okuno

映画『ファースト・マン』が描く“前人未踏の場所”とは? 監督とR・ゴズリングが語る

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19/2/9(土) 10:00

『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督とライアン・ゴズリングが再びタッグを組んだ映画『ファースト・マン』が公開されている。本作は実話を基に、人類初の月面着陸に挑んだ者たちのドラマを描いた作品だが、チャゼル監督は「この映画において、月は一種の“メタファー(隠喩)”です」と語る。だとすれば、ゴズリングが演じた主人公はどこを目指すのだろうか? ふたりへのインタビューを通じて浮かび上がってきたのは、もうひとつの“前人未踏の場所”だった。

第二次世界大戦後、アメリカとソビエト連邦をそれぞれの代表とする東西陣営は“冷戦”と呼ばれる状況に突入し、直接的には衝突しないが各地で代理戦争を繰り広げ、様々な分野で争ってきた。そのひとつが“宇宙開発競争”だ。ソ連はアメリカに先んじて人工衛星の打ち上げ、有人宇宙飛行に成功。遅れをとったアメリカは巨額の資金を投じて、当時は無謀と思われた“月に人間を送り、無事に地球に帰還させる”計画を立ち上げる。

「あの計画がいかに危険な挑戦だったのか、私たちは忘れてしまっている」とチャゼル監督は言う。「あのプロジェクトは成功が保証されたものではまったくなくて、“人間を月に送り出す”というファンタジーを現実にしようとする計画でした。結果として彼らは大変な努力と苦労を重ねて月面着陸を成功させたわけですが、そこには大きなリスクや多大な犠牲、喪失、悲劇がありました」

ゴズリング演じるニール・アームストロングは当初、NASA(アメリカ航空宇宙局)のメンバーではなく、空軍のテストパイロットだったが、彼は幼い娘カレンを病で失い、その悲しみから逃れるようにNASAの宇宙飛行士に応募し訓練を開始する。「実際のところはニールさんご本人にしかわからないと思いますが」と前置きした上で、ゴズリングは穏やかに話し出した。「愛する娘を失ったことは、ニール・アームストロングの人生をある意味で決定づける出来事だったと私は考えています。この出来事が直接的に彼を宇宙へと駆り立てたかどうかはわかりません。しかし、私は演じる上でこう考えました。ニールは娘を失う最大の悲劇を経験して、娘がいるであろう“天”をただ見上げるだけではなく、実際にそこに行こうと思ったのではないか? 天に手を伸ばすだけではなく、天に“触れる”ことができるようになりたいと思ったのではないか? と」

映画はジェミニ計画、そしてアポロ計画に参加したニールと仲間たちの試行錯誤の日々が緊迫感のある語りで綴られる。ハードな訓練や実験の過程で幾度となく事故が発生し、ニールはこれまで苦労を共にしてきた仲間たちの死に直面する。彼らもまた、ゴズリングの言葉を借りるならば“天”へと旅立ったのだ。「この作品はニール・アームストロングの視点から物語を描いていますから、彼の人生にあった多くの死が、物語上のコンパスになると思いました」(チャゼル監督)

訓練や開発は難航し、ニールの仲間たちは命を落としていく。いや、ニールもまた、いつ命を落としてもおかしくない状況にいた。つまり、本作にはふたつの“前人未踏の場所”が描かれる。ひとつは、空を見上げれば浮かんでいる“月”。もうひとつは誰もがいつかは行くのに、生きている間は決してたどり着けない“死の世界”だ。「その話は撮影中にライアンと話しました。この映画において、月は一種の“メタファー(隠喩)”です。月はそもそも死んでいる惑星だから“死後の世界”だとも言えますし、喪失や死そのものとも言えます。同時に荒涼としていながら美しく、詩的で、死者や悲劇を悼むような感覚を呼び起こさせる場所でもあります。この映画は、ニール・アームストロングが数々の“死”に背中を押されて、限りある命を生きる者たちが暮らす地球から最も遠い場所へ行こうとする物語だと考えることもできると思います」(チャゼル監督)

しかし、この映画で描かれるアームストロングは、自ら死のうと思っているような男ではない。彼は人生の中で多くの悲しみや愛する人の死に出会うが、ゴズリングは「彼はそういった人たちの死を無駄にしたくないという想いがあったのではないか?」と語る。「これもまた私が演じる上で考えたことだと前置きして話すのですが、ジェミニ計画、アポロ計画で多くの同僚が亡くなって、ニールは仲間たちが叶えられなかった分、自分が任務を成功させたいと思ったのではないでしょうか? そもそも彼は宇宙飛行士である以前に愛国主義者で、自分よりも大きな存在や目的に自分の身を捧げたいと思っていた部分もあったと思います。そして、先ほども言いましたが、愛する我が子のことです。この世界に自分の子どもを失って“そこには何かしらの意味があった”と納得できる親はいないと思うのです。もし、私がそうなったら喪失から戻ってこられないと思います。しかし、ニールは自分で何とかしてそのことを自分の中で意味づけたい、何かしらの意義を見つけられるのではないかと思って宇宙に飛び立ったのではないでしょうか?」

『ファースト・マン』は人類史に残る偉業を徹底的に再現し、壮大なプロジェクトを追体験させてくれる映画だ。しかし、それだけではない。人生を変えてしまうほど喪失を、抱えきれないほどの悲しみを抱えた男が“天=死の世界”に行ってまで愛する我が子の、共に歩んだ仲間たちへの想いを遂げようとする姿を描く人間ドラマだ。映画館のスクリーンに月面が映し出される時、ニール・アームストロングはどんな想いで“最初の一歩”を踏み出すのか? 誰もが知っている出来事の、誰も知らなかったドラマがついに明かされる。

『ファースト・マン』
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