Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

ぴあ

いま、最高の一本に出会える

グラミー5部門ノミネートの新鋭シンガーH.E.R.、ジャネット・ジャクソンらも賞賛する才能を紐解く

リアルサウンド

19/2/6(水) 16:00

 H.E.R.の歌詞は、そのまま彼女の日記たりえる内容だ。「あえて他人の反応を意識しないで自分の感情を自分の言葉で書くことが、いい歌詞を書く秘訣かもしれない」と本人が語るとおり、彼女の歌詞(リリック)は赤裸々で素朴で、故にシンプルな美しさがある(参考:FNMNL【ミニインタビュー】H.E.R. | 「私の中の私」を歌う)。H.E.Rという名前は「Having Everything Revealed(全てをさらけ出す)」という意味が込められている。そして、“彼女”という意味の三人称代名詞でもある。無理やり日本語にすると“あの子”というフレーズをそのまま歌手名に冠した、というところだろうか。H.E.R.が書く自分のストーリーは、そのまま世界中の”あの子”のストーリーになる。

H.E.R. – Focus (Official Video)

 筆者の個人的なフェイバリットは「I’m Not OK」という曲。昨年発表された最新EP『I Used to Know Her: Part 2』に収録されているこの曲は、「朝の4時、あなたの居場所を案じながら眠れないまま……私、ちっとも大丈夫じゃない(I’m not ok)」と、自分の元を去ってしまった元恋人へのやるせない恋慕を歌った曲だ。とても悲しく美しいメロディと生々しい彼女の歌声は、逆に私を安心させるのだ。先日、彼女に電話インタビューをする機会に恵まれた際、「”I’m Not OK”は、まるで私にとってセラピーみたいな曲なんです」と、電話口で本人に伝えたら、「本当に? とっても嬉しい。それは私にとっても意義深いわ」と素直に答えてくれたH.E.R.。きっと、世界中の“あの子”たちから、数え切れぬほど同様の感想をもらっているに違いない。

「I’m Not OK」

 電話口のH.E.R.は、ハキハキとした口調で応えてくれた様子がとても印象的だった(インタビューなんてうんざりするほど受けているだろうに!)。1997年生まれのH.E.R.は、まだ21歳。そして、デビューからわずか2年ほどで、今やグラミー賞5部門にノミネートされるという快挙を成し遂げた彼女は、もともと音楽的に恵まれた家庭で育った。「パパがカバーバンドのメンバーで、よく家でリハーサルをしていたの。だから、私がママのお腹にいた時から、常に音楽に囲まれているような環境だった。小さい頃から歌うのが本当に自然だったの。楽器も自然と弾けるようになったし、私も物心ついたときから人前で歌うことが好きだった」(参考:前述インタビューより)。早くからアーティストとしての道を志すようになったH.E.R.は、10歳の頃、すでに地元のモーニングショーに出演し、見事なピアノの弾き語りを披露する。曲目は、本人も大ファンというアリシア・キーズの「No One」だ。その約10年後、アリシアも認めるシンガーソングライターになるとは誰が予想しただろうか。ちなみに今年のグラミー賞の司会はアリシア・キーズ、まさにその本人だ。

 今回のグラミー賞で優秀アルバム部門、そして優秀R&B部門にノミネートされた彼女のアルバム『H.E.R.』は、2016年、そして2017年にリリースされたEP作品に新曲を加えて発表したもの。一枚のアルバムというよりは、彼女の連作をまとめたコンピレーション的な意味合いも強い。そして、デジタルリリース(と、限定的なヴァイナル)でしか世に出回っていないにも関わらずグラミーのノミネートに名を連ねることが出来たのは異例でもある。今年は、カーディ・Bのアルバム『Invasion of Privacy』もまた同様で、デジタルリリースのみながら、H.E.R.と同じく優秀アルバム部門など複数カテゴリにノミネートされている。もはや、アーティストの魅力を図るツールとしてのアルバムは、有形だろうと無形だろうと関係ない。その声に、言葉に宿るパワーにこそ、魅力を伝える力があるのだから。しかしながら本作は、日本のみ限定でCDパッケージもリリースされることが決定した。改めて彼女の音源に触れるには絶好のチャンスなので、ぜひこの機会に聴いてみてほしい。併せて、グラミー賞ではパフォーマンスも行う予定のH.E.R.。きっと、彼女のトレードマークでもあるお決まりの黒いサングラスをかけてステージに立つのではないかと思うが、そのパフォーマンス力を武器に、是非トロフィーを奪取してほしいと思う。

 H.E.R.の楽曲を聴くと、90年代中頃から流行したかつてのネオソウル的な芳(かぐわ)しさを感じることができる。エリカ・バドゥやジル・スコット、インディア・アリーといった女性シンガーたちがかつて放っていたオーガニックな魅力。そして、ローリン・ヒルやアリシア・キーズなどに通じる、ヒップホップ世代のフェミニストとしての主張なども。それを証明するかのように、彼女は前述したようなアーティスト達からも熱い支持を得ている。

 アリシア・キーズ Twitter

Abundance of vibes! One of my fav new joints!! Just press play… @HERMusicx pic.twitter.com/kyPXWGOr7B

— Alicia Keys (@aliciakeys) June 20, 2017

 ジャネット・ジャクソン Instagram

 例えば代表曲である「Focus」では、自分から離れゆく恋人に対して「私のことに集中して(focus)」と要求しつつ、その要求は「私もーーもっと自分のことに集中できるの?」と自問自答の機能も持ち、あくまで相手とは対等の関係であり、自分自身へ自立を促す曲としても受け取ることができる。一方、ダニエル・シーザーとの美しく温かいデュエット曲「Best Part」では、相手を「朝のコーヒーと同じくらい、私には必要なの」と生活に根ざしたピュアな比喩表現に例えてみせるのだ。アルバム『H.E.R.』には収録されていない新作のEPにおいては、ポエトリーリーディングを巧みに取り入れて恋人をなじるストーリーが展開される。

H.E.R. – Best Part (Audio) ft. Daniel Caesar

 恋愛を軸に、自分を取り巻く幸福さや、相手との複雑な関係、ねじれや嫉妬といったあらゆる感情を自身の音楽に内包しているH.E.R.。その音楽観を「特定の誰かではなくて、みんなが共通して陥ってしまうような困難な状況や、人間関係をどううまくやっていくか、逃げ出したいと気にどう対処すべきか、という状況を、“私の中の私”が歌で表現しているような感じ。自分の中にはいろんなバージョンの“私”がいるけど、それは全部、一つの”私“で、それを音楽で余すことなく表現したのがH.E.R.なの」と説明してくれた(参考:前述インタビューより)。あなたも、H.E.R.の音楽を聴けばきっと“私の中の私”に出会えるはずだ。

■渡辺 志保
1984年広島市生まれ。おもにヒップホップやR&Bなどにまつわる文筆のほか、歌詞対訳、ラジオMCや司会業も行う。
ブログ「HIPHOPうんちくん」
Twitter 
blockFM「INSIDE OUT」※毎月第1、3月曜日出演

■商品情報
H.E.R.『H.E.R.』
2019年2月6日(水)リリース
価格:¥2,400+税
※歌詞対訳付

アルバム試聴/購入はこちら

<期間限定プレイリスト>
「Mellow Nights selected by H.E.R.」プレイリスト試聴はこちら

<収録曲>
01. Losing/ルージング
02. Avenue/アヴェニュー
03. Let Me In/レット・ミー・イン
04. Lights On/ライツ・オン
05. Say It Again/セイ・イット・アゲイン
06. Facts/ファクツ
07. Focus/フォーカス
08. U/ユー
09. Every Kind Of Way/エブリー・カインド・オブ・ウェイ
10. Best Part feat. Daniel Caesar/ベスト・パート feat. ダニエル・シーザー
11. Changes/チェンジズ
12. Jungle/ジャングル
13. Free/フリー
14. Rather Be/ラザー・ビー
15. 2/2
16. Hopes Up/ホープス・アップ
17. Still Down/スティル・ダウン
18. Wait for It/ウェイト・フォー・イット
19. Pigment/ピグメント
20. Gone Away/ゴーン・アウェイ
21. I Won’t/アイ・ウォント

H.E.R. 公式サイト(ソニー)
H.E.R. 公式サイト(海外オフィシャル)
H.E.R.公式Twitter
H.E.R.公式Instagram
H.E.R.公式Facebook

アプリで読む