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ジョルジャ・スミス、ジェイミー・アイザック……2018年に更新されるアーバンメロウ4選

リアルサウンド

18/7/1(日) 10:00

 今回のテーマは「2018年に更新されるアーバンメロウ」。ヒップホップとダンスミュージックが全盛の現代に生まれ落ちた、メロウでハイブリッドな歌モノを5作選びました。つい最近も『シティ・ソウル ディスクガイド』(DU BOOKS)が刊行されたように、この切り口自体は2010年代以降に手厚くフォローされており、「アーバン」や「メロウ」はここ数年ヒップなタームであり続けているわけですが、シーンの景色や作り手側の意識はここ1、2年でガラリと変わった気がします。

参考:オルタナティブR&Bからパワーポップバンドまで 高橋芳朗が気になる新鋭女性アーティスト5選

 ポストダブステップ、アンビエントR&B、ネオソウルを通過した現代ジャズ、もしくはトラップ、はたまたシティポップetc.……2010年代前半~中盤をメロウに彩ったトレンドは、いまやすっかり一周した印象。それらを「目新しいおもちゃ」として楽しむ時期はとっくに過ぎ去り、現在は必修科目としてインストールしたうえで、「自分たち(アーティスト)はさらに何が表現できるのか?」が問われている段階なのでしょう。その回答として、ceroの新作『POLY LIFE MULTI SOUL』は実に鮮やかでしたし、彼らに影響を与えたロバート・グラスパーも、自身が率いるスーパーバンドR+R=NOWの『Collagically Speaking』で次のフェーズに向かったようです。

 そのなかで、風通しの良さを感じるのがUK発の動き。最近だと、トム・ミッシュがデビュー作『Geography』でジョージ・ベンソン風のジャズギターを奏でたあと、Gorillazが新曲「Humility」でジョージ・ベンソンを起用し、「そこが今はアリなんだ!」とシンクロの妙に驚いたものです。新たなムーブメントが起こるときは、サプライズと文脈の書き換えが付き物。最近そこかしこで言われているように、ラップ(グライム)やR&B、ジャズ、ロックなどUK発の新譜はオールジャンルで底上げされており、非常に勢いが感じられます。

 この流れで、UKの新たな歌姫ジョルジャ・スミスをまずは紹介しましょう。ドレイク『More Life』やケンドリック・ラマーが監修した『Black Panther: The Album』を筆頭に数々の客演を経て、最高のタイミングで発表されたデビュー作が『Lost & Found』。余計なゲストは一切なしで、エイミー・ワインハウスの遺志を継ぐソウルフルな歌声を堪能できる、正統派のR&Bアルバムに仕上がっています。

 そんな彼女の才能を、British GQ誌が「グライム以降に生まれたローリン・ヒル」と評しているのは大いに納得。本作のサウンドは大きく捉えれば、90年代後半のUS産R&Bを、UKの今日的視点からアップデートしたもの。初期グライムの第一人者、ディジー・ラスカルの曲をサンプリングした「Blue Lights」を筆頭に、「Teenage Fantasy」「February 3rd」など王道のアーバンソウルが揃う一方、「On Your Own」でのダビーな展開や、トム・ミッシュが手がけた「Lifeboats (Freestyle)」でラップを繰り出すくだりは底知れぬポテンシャルを感じさせます。どの曲も曇り空のようなメロウネスが漂っており、そこがまたUKチック。

 もうひとつ印象的なのが、シンプルなアコギ弾き語り「Goodbyes」。ローリン・ヒルによる「MTVアンプラグド」での名演をサンプリングしたエイサップ・ロッキー「Purity」や、ポスト・マローンによるOasis風の弾き語り「Stay」など、USヒップホップの最前線でも「歌」にまつわる興味深い動きがあったばかりなので、妙なシンクロを感じてしまう……というのは深読みしすぎにせよ、歌の強度だけで勝負できるシンガーの台頭は喜ばしいかぎり。彼女はサマソニ出演も決定しています。

 97年生まれのジョルジャに続いてUKから紹介するのは、94年生まれのジェイミー・アイザック。この連載で以前紹介したキング・クルールとは学生時代の同期で、フォーキーな歌心とジャズピアニストの素養に加えて、J・ディラ譲りのビートメイクとジェイムス・ブレイク以降の音響構築まで兼ね備えた、次世代型のソングライターとして注目されてきました。そんな彼の才能が、この2ndアルバム『(04:30) Idler』で全面開花しています。

 万能型のチルアウトサウンドに、本作で新たに接続されたのはボサノヴァ。スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルトに影響されたというジェイミーの最新モードは、白鳥のようにしなやかなオープナー「Wings」に集約されています。そこから流麗なピアノと奥ゆかしいサックス、繊細な響きのエレクトロニクスを織り交ぜ、真夜中にしっとり聴きたくなるナンバーを連発。とりわけ素晴らしいのはアルバム終盤で、tofubeatsとのコラボでも知られるカナダの奇才、ライアン・ヘムズワースも参加した「Melt」~「Drifted / Rope」では、厳かな歌声と実験的なプロダクションが高次元で融合しています。

 このアルバムを聴いて、真っ先に浮かんだのはEverything But the Girlでした。チェット・ベイカーの系譜に連なる抑揚の少ないボーカル、体温低めで陰影に富んだグルーヴ、汗の匂いがしない漂白されたトーンは、往年のネオアコにも通じるもの。あるいは、USの現代ジャズ文脈からは生まれることのなかった、ブルーアイドソウルの新たな夜明けにも思えます。そのささやかなインパクトや、「午前4時半の怠け者」という美しいネーミングも含めて、個人的には2016年上半期ベストの一枚です。

 今のポップミュージックと向き合うこと。そのなかで自分らしさを見失うことなく、代替不可能な表現を打ち出すこと――ここまでの3作と同様、アクチュアルなサウンドを獲得するための強い意志が、KIRINJIのニューアルバム『愛をあるだけ、すべて』からも感じられます。2016年の前作『ネオ』でギアを入れ替えたバンドは、ここで生演奏とエレクトロニクスの融合をさらに推進。筆者が行ったインタビューで、リーダーの堀込高樹は「今のポップスと並べても違和感のない音にしたかった」と語っていましたが、メロウな透明感とファットな音圧を兼ね備えたプロダクションに加えて、The Weekendを意識した「新緑の巨人」、ドレイクの「Passionfruit」にインスパイアされた「silver girl」のように、作曲/アレンジ面でも同時代のアーティストからの影響を貪欲に取り込んでいます。

 さらに、現行のヒップホップ/R&BやEDMを意識した邦楽勢の多くが、上っ面のコピペか替え歌くらいに落ち着きがちなのに対し、KIRINJIは自分たちのポップスと矛盾のない形で血肉化しているのも特筆すべき点。「(古い)ポップスや歌謡曲からの影響を殺すことなく、今の感じにアップデートさせようと心掛けました」と堀込も語っていますが、人生のタイムリミットを憂いる行き場のない感情と、容赦なく回転し続ける時計の針をディスコティークなダンスサウンドで表現した「時間がない」や、酔いつぶれた女の子の千鳥足を、J・ディラ~グラスパー以降に普及したリズムのよれで再現した「After the Party」はその真骨頂でしょう。これが通算13作目ですが、KIRINJIは間違いなく今がベストだと思います。

 最近のKIRINJIが好きな人にもオススメしたい四人組がTAMTAM。アーバン~ジャズ~サイケ~ラウンジなどを自在に越境し、新境地を切り拓いた2016年の前作『NEWPOESY』も傑作でしたが、先ごろ公開されたオフィシャルインタビューで「僕らには過去を嗜好する気持ちが極端にない」「新しいビートでかっこいいことをやるほうが文化的にも正しい」と清々しく語っていたように、他の追随を許さないオンタイム思考はさらにエスカレート。その経過報告と言わんばかりに、新作『Modernluv』でも音楽性のレンジを大幅に拡張させています。

 摩訶不思議で躍動感のあるアンサンブルが印象的だった前作に対し、ニューアルバムを牽引するのは硬質なビートと抑制の効いたグルーヴ。ラッパーのGOODMOODGOKUを迎えた気怠くラグジュアリーな「Esp feat. GOODMOODGOKU」、TR-808のビートに乗せて入江陽と歌うホーリーなデュエット「Sorry Lonely Wednesday feat. 入江陽」といったR&B調から、人力アフロビートを交えたトロピカルハウスの独自解釈「Morse」、密室的なダンスホールにクラシカルな弦のフレーズが重なり合う「Nyhavn」などのフロアライクな楽曲まで、バントの枠に囚われない音楽的冒険を展開しています。

 このように、どれだけ音で攻めても日本語ポップスとして成立しているのは、歌とリリックがずば抜けて秀逸だから。フェミニンな情感とその裏に隠れた諦念、遊び心に富んだ言葉選びに唸らされる「Goooooo」は、マンブルラップを意識したという愛くるしいフローも併せて本作のハイライト。過剰にエモーショナルでありながら、それを爆発させるのではなく、さりげなく行間に滲ませるようなボーカルもまた唯一無二でしょう。KIRINJIとTAMTAMの対バンが実現したら最高だなー、それはすごく気が利いてるなー、と勝手なことを言い残して本稿を締めようと思います。(小熊俊哉)

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