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ましのみ『ぺっとぼとレセプション』は“聴き手に寄り添う”作品に 楽曲制作に活かされた経験と成長

リアルサウンド

19/2/15(金) 12:00

 昨年2月にアルバム『ぺっとぼとリテラシー』で念願のメジャーデビューを果たした女性シンガーソングライター・ましのみ。ライブではそれまでキーボードの弾き語りスタイルで活動してきた現役女子大生アーティストの繰り出す楽曲の数々は、奇想天外なメロディ運びと時に奇抜さを見せるアレンジで聴き手を引き寄せ、幅広い層の音楽ファンから歓迎された。一方、「プチョヘンザしちゃだめ」「エゴサーチで幸あれエブリデイ」「リスクマネジメント失敗」など飛び道具的なタイトルを持った、一見してひねくれているようで実は20代前半の女の子らしい素直な気持ちが綴られた歌詞にも注目が寄せられ、同年代のリスナーからも熱い支持を受けている。

(関連:ましのみ、1stシングルで描いた“夏”の鮮明な情景「ただ浅いだけの恋愛を描いても退屈だと思った」

 そんな彼女が、1年ぶりとなる待望のニューアルバム『ぺっとぼとレセプション』を2月20日にリリースする。デビューアルバムはそれまでのストックを中心とした内容で、いわば“インディーズ時代の集大成”となるのは必然的だが、2作目ともなるとそうもいかない。実際、本作には「Q.E.D.」や「夢ノート」といったメジャーデビュー以前のましのみを知る者ならおなじみの楽曲も含まれているが、それ以外の楽曲はすべてこの1年以内に書き下ろされたものだ。つまり、彼女のメジャーでの活動経験が活かされた楽曲となり、その成長の度合いに注目が寄せられることになる。

 本作の制作と向き合い始めたとき、ましのみはどのような考えを持っていたのだろう。ここからは彼女の言葉を交えながら進めていこう。

「まず、デビューしてから自分が人間的にも音楽に対する捉え方的にも成長したんじゃないかと思いました。デビュー以前はCDの全国流通もしたことがなかったので、自分の曲をどういう人が聴いているのかがTwitterを通してや東京でのライブでしかわからなかったんです。だからメジャーデビューに際して世間に突き刺さねばという戦闘モード100%みたいな想いだったんですけど、今もそれは変わらず残しつつ、そこに優しさがプラスされたというか。それは大阪や名古屋や福岡にリリースイベントに行ったことで、私の曲をこういう人がこういうふうに受け取ってくれているんだっていう実感が湧いたからなんです。だったら戦うのはもちろんだけど、私の曲を聴いてくれる人に対して、私のことを好きと言ってくれる人に対して、もっと寄り添って優しさも愛もある中で私の世界に誘いたいなと思いました」

 この「聴き手に寄り添う」というスタンスが、前作『ぺっとぼとリテラシー』との大きな違いかもしれない。もちろんこれまでもリスナーに対して意識的だったが、メジャーというフィールドに立ったことで今まで以上にさまざまな聴き手の“顔”と“声”を知り、その人たちを想いながら歌うことができるようになった。さらに、それはアーティストという以上にひとりの人間としての大きな成長だった。

 そしてもうひとつ。この春に大学を卒業するという年齢的なタイミングも、音楽との向き合い方に少なからず変化を与えた。制作当時21歳だったましのみは、周りにいる大人たち……アレンジャーやレコーディングスタッフなどからの「1を言えば10返す」という恵まれた環境から一歩踏み出そうとする。

「そういうところから少し飛び出して、同世代やいろんな人と接することで、自分がもっと舵を切るのが上手になったほうがいいんだろうなと思いました。よりいろんなことに興味も出てきたし、音作りに関しても自分でやりたいなという欲が出てきたんです。年齢的にも22という数字を考えたときに、だんだん人生全体を見るようになってきて。周りが就職するというのもあったのかもしれないけど、ただハングリー精神だけで進んでいてもきっとこの先も満足が得られないような気がして。だったら今楽しいと思うこと、今幸せだと思うこと、今ワクワクすることをちゃんと最大限に満たされていると思いながら進みたいなと考えるようになりました」

 人生を楽しみながら音を楽しむ……つまり、「音楽」本来の向き合い方にここでようやく到達できたのだろうか。だからこそ、このニューアルバム『ぺっとぼとレセプション』に収録された楽曲群は「わかりやすさとわかりにくさ」、「ポップとアバンギャルド」、「ユーモアとシリアス」という相反する要素が並列に、いやゴチャ混ぜになったおもちゃ箱のような1枚に仕上がった。ある種、ましのみ流ミクスチャーポップアルバムとも言えるだろう。最終的にこの作風になったことにも、ちゃんと理由がある。

「最初に書いたのが『美化されちゃって大変です』『錯覚』『ターニングポイント』『ゼログラビティのキス』あたりでした。例えば『美化されちゃって大変です』だったら少しユルめのテンポで、“ダントツに頭がおかしくなってしまうぐらいハッピーなときの曲を私が書いたらどうなるんだろう?”と、一つひとつ細かいテーマを課しつつ書いたからこそ出てきた曲というか。聴き手の顔が少し具体的になったからこそ伝えようという方向が優勢されて、言いたいことは変わらないんだけど使う言葉や表現をより意識して選んだ気がします。

 でも、そういう寄り添って作った曲がいくつかかできたときに、その反動でめちゃくちゃ刺激的なのも作りたい、めちゃくちゃ自分勝手な曲も作りたいと思ってしまって(笑)。それで完成したのが『’s』や『凸凹』『AKA=CHAN』あたりなんです。それはちゃんと寄り添える曲があったからこそできたことで、アルバムへの入り口的要素と前作『ぺっとぼとリテラシー』で好きになった人も喜ぶ要素の両方が揃ったんです」

 また、先の話にも出たように、本作では同年代のアーティストとのコラボレーションも積極的に行われている。それはアルバムのアートワークを手がけたカメラマンから始まり、「タイムリー」の歩く人、「コピペライター」のGuianoといったアレンジャー陣にまで及ぶ。そもそも音楽に対して決して明るくない人間だったましのみ。前作『ぺっとぼとリテラシー』でサウンドプロデュースや編曲等を手がけた横山裕章氏との作業では「私が言う景色に対して音を付けてくれるくらいツーカーの仲」だったところも、初めて共作する歩く人やGuianoにはそうもいかない。ビートのパターンからピアノの音色に至るまで、デモ音源のやり取りを含むコミュニケーションは何度も重ねられた。

「歩く人さんやGuianoさんは私が『あ、この音好きだ。お願いしよう!』と思って自らお声がけしたんですけど、私のイメージをそのまま形にしてもらうというよりは、私にもイメージがある、アレンジャーさんにもイメージがある、それを合体させていいものを作りたいという以前から考えていたことを実践してみました。

 初めてご一緒する、しかも同世代となると私がしっかり伝える術を持っていないと意図が完全には伝わらないんですよ。それは初めての体験で、苦労したぶん達成感も大きかったし、挑戦してみてすごくよかったですね。デモのやり取りもたぶん5~10往復ぐらいしたんですけど、自分なりに引き出しを増やす努力をしたり、伝え方を考えてみたりとなかなか難しくて。でも、そこから逃げていたらずっと甘えてしまう。そういう環境に身を置くことで私もたくましくなるし、作品的にももっとよくなると思いました。中でも『コピペライター』は完成までに一番苦労したんですけど、それでもGuianoさんから戻ってくるアレンジを聴くたびに『こんな感じでくるんだ!』って驚きがあったし、新しいセンスと触れ合うのはすごく楽しかったです」

 「使う言葉や表現をより意識して選んだ」という言葉にもあるように、作詞に関してもましのみ自身の人間的成長が反映されている。しかし、歌われているテーマに関して彼女は「テーマはそのときどきの価値観、考え方に則していて全部に嘘がないので、自分では変わってないと思ってます」とも語る。

「本当の意味での成長って、もしかしたら気づかないうちにしているものなのかなって、今話していて思いました。基本的な軸はデビューしたときから変わっていないはずだけど、今回は特に聴き手に寄り添ってみたいと思ってテーマを課して、そういう言葉や表現の選び方をした曲がある。そういう意味ではこれまでとは違う角度で歌詞が書けるようになって、表現の幅も広がっているのかもしれませんね」

 メジャーシーンでの活動に加え、年齢を重ねたことで物事の捉え方、考え方が成長し、それまで許容できなかったものが受け入れられるようになり、曲にして歌えるようになった。1stアルバムに収録されている「ナンセンスに逆戻り」は彼女の大学時代の友人からの悩み相談がモチーフの、「見える相手」に対して歌った楽曲だった。この曲を聴いた友人は「すごく大切な曲になった。大好きな曲だよ」とましのみに告げたそうだが、そこから得た喜びから「私のやりたいことは聴いている人を、マイナスから少しプラスに、楽しいんだったら最高に楽しくと、音楽でプラスを生み出すこと」と気づく。その軸は今も変わらず、ただ届ける相手……「見える相手」がより身近な存在から全国規模へと広がっただけなのだ。

 ましのみは最後に「今まで聴いてくれていた人たちはもちろんですけど、さらにいろんな人たちを引き込めるアルバムになったんじゃないかな」と語ったが、この『ぺっとぼとレセプション』は間違いなくそういうアルバムに仕上がった。あとは受け手がこのアルバムに、収録曲の数々に何を感じ、何を思うのか……今からそのリアクションが楽しみでならない。(西廣智一)

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