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アイドルへの“ガチ恋”は、なぜかくも切ない? 栗原裕一郎と姫乃たま、映画『堕ちる』を語る

リアルサウンド

16/11/28(月) 18:00

 地下アイドルの女の子に“ガチ恋”してしまった中年男性の姿を描いた村山和也監督の短編映画『堕ちる』が話題だ。寡黙な熟練の織物職人・耕平が、ふとしたきっかけでローカル地下アイドル「めめたん」にハマっていく過程が描かれる本作は、きりゅう映画祭「きりゅうシネマ2016」作品として9月10日に公開されると、現役アイドルやアイドルファンを中心に大きな反響を呼んだ。その後、Loft9 Shibuyaなどでも上映され、現在も追加上映が順次予定されている。リアルサウンド映画部では、評論家・栗原裕一郎と現役の地下アイドルとして活動中の姫乃たまによる対談を、11月5日に行われたアンコール上映の後にセッティング。映画の興奮冷めやまぬ2人が、アイドルとはなにか、ドルオタとはなにかを、熱く語り合った。

ドルオタの超“あるある”

栗原裕一郎(以下、栗原):LOFT9 Shibuyaで開催された、村山和也監督『堕ちる』の上映会と、映画評論家・柳下毅一郎さんをゲストに迎えたトークショーを観終わって、別の場所に移動してきています。いやー、チケット完売の満員で、あんなに人が入っているLOFT9は初めて見ました。

姫乃たま(以下、姫乃):今日はアイドルファンの方よりも、映画好きのお客さんが多かったですね。LOFT9はユーロスペースと同じ建物にあるので、映画のイベントは相性良いのかもしれません。

栗原:今日のイベントは実はアンコール上映で、10月30日にやはり上映+トークのイベントが2回開催されたんだけどすぐにソールドアウトになってしまって、急遽、今日の開催が追加されたようです。映画、どうでしたか?

姫乃:いやあ、なんか前半部分で号泣しちゃって。

栗原:前半? 前半は割とコミカルな展開だったと思うんだけど、どのへんで号泣?

姫乃:そうそう、私だけ泣いてて恥ずかしかったです。主人公の男性、耕平さん(中村まこと)が、ライブハウスでアイドルが歌ってる姿に衝撃を受けて、普段から彼女のことを考えて楽しそうにしたり、ファンミーティングでほかのファンと仲良くなったりしていく姿を観ていたら、涙がぼろぼろと……。地下アイドルに疎い人が見たら、そんなに都合よくアイドルにハマったり、生活が豊かになるわけないだろって思うと思うんですけど、実際のファンってあんな感じなんですよね。

栗原:そのへんがリアルだったんだ。

姫乃:逆に嘘くさくなるくらいリアルでした。私はファンに対してこれくらい希望を与えられているんだろうかとか、最近は慣れてしまった地下アイドルの魅力を改めて思い出したら、涙が。

栗原:我が身に引き寄せて。それはアイドル当事者ならではの視点だなあ。

姫乃:あとは良かったねという気持ちが。耕平さん、生活に楽しみが見つかって良かったね~~って。

栗原:耕平さんの行動は“ドルヲタあるある”な感じ?

姫乃:超“あるある”です。私のファンの人は耕平さんタイプ多いですね。アイドルファンってふたつのタイプに分かれていて、まず根っからのヲタク気質の人。私はナチュラルボーンヲタクと呼んでいるのですが、秋元康さんに搾取されまくるのが人生で2回目、3回目みたいな。

栗原:おニャン子クラブからずっと、という。

姫乃:そうですね。おニャン子好きで、チェキッ娘に行って、いまはAKB48追いかけてるとか。もうひとつのタイプが、耕平さんみたいに後天的にアイドルファンになる人です。生活に疲れていたり、何か悩んでいる時に、ふとアイドルが目に入って好きになっちゃう人って多いみたいなんです。現場に来てもアイドルTシャツになるのが恥ずかしくてジャケットを脱げない描写とか、すごくリアルで監督さんは勘がいいなと思いました。

栗原:姫乃さんの新しいTシャツもけっこうヲタク試してると思うけど(笑)。

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姫乃:そうですね、春画をモチーフにしたイラストに私の名前入りっていう(笑)。映画のヒロインめめたん(錦織めぐみ)のTシャツもファンの忠誠心を試すタイプじゃないですか。そもそも黄色だし、めめたんって書いてあるし!

栗原:大森望さんが着てるピンクの「大森(望)」みたいな(笑)。

姫乃:そうそうそう(笑)。

栗原:その大森さんが本(『50代からのアイドル入門』)に書いてたんだけど、ヲタクはそういう恥ずかしいTシャツのほうが嬉しいって。

姫乃:そうなんですよ! 忠誠心を表明できる感じがいいそうです。

栗原:耕平さん役の中村まことさんはどうでした? 無口な織物職人という役どころで、渋い人ですよね。劇団「猫のホテル」創設メンバーで、看板役者だそうです。現在53歳。劇中の耕平さんの年齢設定もたぶんだいたいそのくらいですかね。

姫乃:耕平さんの喋り下手なキャラクターはリアルでした。中村さん、すごくはまり役だったように感じます。あ、でも演技が上手な人はなんでもはまり役みたいになるのかな……。私のファンは後天的にアイドルファンになった人が多いのですが、中村さん演じる耕平さんは本当にそっくりで胸にきちゃいました。

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栗原:姫乃さんのファンの、ナチュラルボーンヲタクと後天的ヲタクの比率はどのくらい?

姫乃:うーん、うちは7、8割くらいは後天的タイプかもしれないですね。めめたんみたいに思いっきりアイドルっぽい子のファンはナチュラルボーンヲタクのほうが多いと思うので、めめたん現場にとって耕平さんは異質な存在だったと思うんですよね。そもそも最初に現場じゃなくて、実家の美容室で出会ってるのもあれですよね。ちょっと面倒くさいところです、正直。

栗原:めめたんにハマった耕平さんが、彼女のために何かしたい!と思い詰めて、衣装を作ってプレゼントする。織物職人なので自分の技能を活かして彼女に貢献しようとしたわけだけど、メジャーデビューが決まっためめたんに、その衣装を突き返されてしまう。キツいシーンだけど、めめたんの心境は謎だよね。着ないにしてもそのまま持っててもいいわけだし。

姫乃:そう言われると、『堕ちる』には、めめたんがどう思っているかというのがまったく描かれていないですよね。

栗原:視点人物が耕平さんなので。

姫乃:いまのアイドルブームもそうですけど、主役はヲタクですよね。

栗原:視点人物じゃないめめたんの内面を描かないというのはむしろ作法なんだけど、でもあれだと耕平さんが一方的にハマって勝手に傷ついて、みたいに見えちゃう。めめたんの行動として説明的な描写がもう少し欲しかった気はしますね。

姫乃:でもそれをやったら本当に長編になっちゃいますね。

耕平さんはやっかいヲタ

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栗原:ネタバレになっちゃうので書けないんだけど、あのオチはどうでした?

姫乃:あれは地下アイドルファンの地獄ですよね。

栗原:安直に落としたな、と実は思ってしまって。柳下毅一郎さんも「これでいいの?」って言ってましたよね。前回のイベントでゲストだったジェーン・スーさんもオチに対して懐疑的だったって話がトークショーで出てました。

姫乃:内部から見ると相当あるあるだしリアルなんですけどね。実際あんな感じです。

栗原:葛藤があまりにないじゃない。物語として見た場合その展開はどうなんだって気がしたんだけど、ああいう短絡的なほうがむしろリアル?

姫乃:そうですね。実際にああいうことはありますけど、地下アイドル文化って理解しがたいものだと思うので、本当にリアルなものがリアルだと思ってもらえるわけではないかもしれないですね。

栗原:ああー。耕平さんはあれから炎上するよね、確実に(笑)。

姫乃:正直なところ最悪ですよね。耕平さんは面倒くさいアイドルファンになってしまった……。もともと衣装を作って贈ること自体、ぎりぎりですよね。気持ちは嬉しいけど、それが行き過ぎると危ない。特に耕平さん口下手だから本人から何も希望を聞かずに和服テイストの衣装を作ってますよね。衣装自体は可愛かったですけど、めめたんのイメージもあるから舞台で着用できるかは保証できないわけで、それで怒られたらどうしようっていう怖さはありますね。

栗原:そこはフィクションとして、というより制作上の縛りでしょうね。『堕ちる』は群馬県桐生市の「きりゅう映画祭」への出品作だから、桐生の名産である織物を絡ませたかったんでしょう。制作費は70万円だって監督が話してましたね。桐生市から支給された奨励金が70万円だったって。

姫乃:今日は衣装の展示もありましたけど、織物きれいでしたね。いや、衣装は可愛かったですよ!(笑)

栗原:普段の服やアクセサリーをあげたがるファンも多いと思うんだけど、趣味がもろに出るところですしね。

姫乃:それもありますけど、プレゼントのアクセサリーって着けると問題になったりするんですよね。

栗原:でもファンから贈られたものかどうかなんて、他のファンにはわからないでしょ。

姫乃:アイドルさんのキャラクターによってはアクセサリー着けてるだけで、推測がとびかって問題になったりしますね……。

栗原:さっき「現場じゃなくて、実家の床屋で知り合ったというのもちょっと面倒くさい」って言ってたじゃない。アイドルのめめたんを知った後、床屋へ行った耕平さんが、窓越しにめめたんに挨拶されてバッと逃げ出しちゃうシーン、あそこは芸が細かかったですね。

姫乃:めめたんのファンになったから、プライベートの彼女がいる床屋さんへは行けなくなったという。可愛いですよね。その後もズカズカ通って来て、「今日もシャンプーしてくれるかな!?」とか言われたら嫌ですけど、逃げちゃうのは可愛いですね。アイドルファンってそういう線引きをして来ますよね。耕平さんには幸せになってほしいな。

めめたんの地下アイドルとしてのリアルさ

栗原:めめたんはどうでした?

姫乃:ご本人も実際にアイドルをされている方なので、アイドルらしくてよかったです。これまた制作の都合だとは思うんですけど、オリジナル曲が1曲しかないっていうのがリアルな地下アイドルっぽくてよかったですね(笑)。CDジャケットの絶妙なダサさや、ポスター写真の光量が少ない感じとかもすごい良かったです。めめたん可愛かったー。

栗原:めめたんの持ち歌の主題歌「wonderland」は、監督が友人の作曲家・前口渉さんに頼んで作ってもらったオリジナルだそうです。映画の音楽も前口さんですね。めめたん役の錦織めぐみさんは、Luce Twinkle Wink☆(ルーチェ・トゥインクル・ウィンク)というグループのメンバーで……。

姫乃:栗原さん、めめたんはご存知でしたか?

栗原:昨日調べましたよ(笑)。

姫乃:さすが(笑)。

栗原:で、MVをいくつか見たら、ルーチェというグループのイメージが、もうまんまめめたんで。これはメジャーデビューシングルのMVなんだけど……。

Luce Twinkle Wink☆『恋色?思考回路』PV -full ver.

姫乃:すごい、めめたんだ。

栗原:「めめたん」も、錦織めぐみさんが実際にそう呼ばれている愛称だそうです。村山監督は乃木坂46やNMB48のMVなどを撮っていて、ルーチェのMVも手掛けたことがあり、そのイメージから錦織さんを『堕ちる』に起用したという経緯のようです。ルーチェのこの曲も、本当にアイドルアイドルしていて、なにげにダンススキルも高くて。

姫乃:わはー、可愛いですね。思いっきりアイドルだ。

栗原:愛乙女☆DOLLやDoll☆Elementsの後輩になるみたい。

姫乃:めめたん可愛い……。

栗原:めめたんが一番可愛いく見えてしまう。

姫乃:あ、それはもう栗原さんアイドルファン思考に入りかけてます! 昔、濱野智史さんも言ってたんですけど、アイドルファンって基本的に顔見知りを贔屓する感覚でハマっていくんですよ。今日、映画を見たことで、グループの中でめめたんだけを知っているので、それで一番可愛く見えてしまうという。もちろんめめたんは可愛いんですけど。あれ、私もヤバイのか……?

栗原:映画を見て刷り込まれちゃったので自然と目が行くし、良いところを積極的に見つけにいくようにもなってるんだよね。中高校生時代とか、ちょっと可愛いなって気になった女の子を見ているうちにどんどん可愛く見えてくるというのがよくあるんだけど、ああいう感覚に近いですね。

姫乃:そういう感じですよね……! だから耕平さんも床屋じゃなくて、いきなりライブハウスでめめたんを見てたら好きにならなかったかもしれません。

栗原:ああ。村山和也監督自身は実はそれほどアイドルに詳しいとかハマっているというわけじゃないそうなんだけど、そのへんのツボというか機微の押さえ方が絶妙ですよね。1982年生まれだからまだ若い。34歳ですか。

姫乃:すごく勘のいい人だと思いました。終演後に、「何回くらいアイドルライブ行かれたんですか?」って聞いたんですけど、仕事で行ったAKB48の公演と地下アイドル何組か、本当に数えるくらいしか行っていないみたいなんですよ。それなのに映画はすごいリアル。めめたんが本当にアイドル活動されているのも大きいとは思うんですけど。普段はPVの監督をされているということで、序盤は全体的に音楽が入ってたじゃないですか。それが長編のPVみたいな感じで良かったです。トークで柳下毅一郎さんもおっしゃってましたけど、音楽がなかったら実はけっこうきつい映像ですよね……。

栗原:ポスターを貼る音がガサガサ鳴ってるだけだと生々しくて、それこそドルヲタを追ったノンフィクション番組みたいになってしまうわけか。

姫乃:怖い。

『中年純情物語』のきよちゃん

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栗原:ノンフィクションと言えば、『堕ちる』でどうしても連想しちゃったのが、昨年フジテレビの「ザ・ノンフィクション」で放映された『中年純情物語~地下アイドルに恋して』。観ました?

姫乃:私も連想してしまって、『堕ちる』がきっかけで観ました。

栗原:おれはこの番組、衝撃的で、3回くらい観てます(笑)。『中年純情物語』に登場するドルヲタのきよちゃんも、53歳の結婚歴なし独身で通信会社のエンジニアとして働いていて、『堕ちる』の主人公とスペックがほとんど同じなんですよ。知り合いに地下アイドル現場に連れて行かれてハマって。

姫乃:知人に連れられてハマっちゃうのも、多いケースですよね。そしてきよちゃんは推しの子が辞めちゃうという……うう……つらい。

栗原:そうそう。きよちゃんが入れ込むのは、カタモミ女子というグループの小泉りりあちゃん。彼女は現在は「小泉りあ」という名前で活動しています。カタモミ女子は、リフレッシュマッサージのお店の専属アイドルというか店員さんたちのグループで、肩揉みの仕事の傍らでアイドル活動もしている。もうお店は閉店して、カタモミ女子も解散しちゃったんだけど。個室で一対一でアイドルに肩を揉んでもらいながら話ができるというシステムで、1時間6千円くらいだったかな。きよちゃんはお店にもライブにも通い詰めるんだけど、メンバーの女の子たちが「こんなところでアイドルやってても先がない」って造反して一斉に辞めてしまう。りりあちゃんも辞めてしまう。卒業の発表がギリギリまで伏せられていて、きよちゃんも他のファンも寝耳に水で、呆然、揉めごとみたいな展開になるんだけど、りりあちゃんがいなくなった後、きよちゃんが渦中を振り返って「夢のような世界だった」って漏らして、ちょっと涙を流して拭う。失意ということでも『堕ちる』のラストに通じていると思うんだけど、そのとききよちゃんがいる場所がまた印象的で。河川敷のゴルフの打ちっ放しにいるんですよね。

姫乃:またユニフォームがりりあちゃんのイメージカラーのブルーなんですよね……うう……うう。

栗原:アイドルを追っかけなくなったから時間が浮いちゃって、普通の中年の趣味に戻って、河川敷の打ちっ放しにいる。代償行為だよね。『堕ちる』のラストと比較すると、きよちゃんのほうがリアルに見えちゃって。まあ、現実にリアルな話なんだけど。

姫乃:そう、これはすごいリアルですよね。私もなんか見てはいけないファンのプライベートを覗いてしまった気持ちでどきっとしました。

栗原:で、きよちゃんが泣いている姿に、おれはつい「泣くくらい好きなら行けよ! なぜ行かない?」って突っ込んじゃって(笑)。

姫乃:それはまた栗原さんっぽい考え方だなー(笑)。でも告白してうまくいかなかったら、もう何もかも終わりじゃないですか。それこそ何もなくなってしまう気がするのですが。

栗原:きよちゃんが?

姫乃:うん。

栗原:でも、きよちゃんは、もうある意味ではりりあちゃんを失ったわけじゃない。きよちゃんが「あなたのファンになります」って宣言したとき、りりあちゃんはファンがゼロで、アイドルを辞めようと考えていたところだった。きよちゃんが「ファンになります」って言ってくれたことでやる気に火が付いて活動を続けるんだけど、きよちゃんとほぼマンツーマンだから、りりあちゃんも情が移りまくっている。実際「他のファンには悪いけど、きよちゃんのためにやってる」って言ったり。きよちゃんが強くアプローチしたらあるいはって雰囲気はあったじゃないですか。そこで一線を超えないことを守ったきよちゃんの武士的な痩せ我慢は潔くてかっこいいし、ヲタクの美学もそこにあるのはわかるんだけど、現実問題として、アイドルとしての彼女を見守ることと、一線を越えてアプローチすることと、どっちが幸せな結末に近いかって微妙な線じゃない?

姫乃:ほら! 栗原さんは前にもあっけらかんと、「アイドルにかけるお金をデートに使ったらダメなの?」とか聞いて、頃安祐良監督とか岡田康宏さんから怒られてたでしょう!(笑) たしかに、活動がうまくいかないとファンの人と結婚して引退しようかなみたいに話す子もいますけどね。

栗原:ああ、あのときの(笑)。でも、きよちゃんも「毎日会ってたらどんな感じかなと想像することはありますけどね。いつでも会える存在。アイドルやってる間は叶わないことだけど」って言ってるわけだからさ、なら行けよ!(笑)

姫乃:とにかくきよちゃんに物申したいのね(笑)。

――僕もやっぱり行ったほうがいいと思うタイプですね(担当編集M、34歳)。

姫乃:えー、マジですか!

栗原:姫乃さんが「君はもうアイドル辞めておれのところに来い!」って言われたら?

姫乃:えええ……。おれのところに来いは嬉しいけど、仕事には口出してほしくないですね……。

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栗原:そうなんだよね。『中年純情物語』の感想を見てたらこういう解釈をしている人がいて。きよちゃんとりりあちゃんは両思いだけど見ている先が違う。きよちゃんはりりあと恋人になりたい、結婚したいと思っている。りりあもきよちゃんがいたからカタモミ女子を続けたわけだけど、きよちゃんしかいなかったからカタモミ女子を辞めたんだって。「きよちゃんしかいなかったからステップアップのために辞めた」というそこには絶対的な非対称性があるというわけ。

姫乃:非対称性! はっ、いま栗原さんがアイドルファンではなくて、経済学の人だったことを思い出しました。そうですね、りりあちゃんに関してはわからないですけど、基本的にはアイドル側からすると活動を続けることが恩返しであって、その先に交際とか結婚があるとは限らないですね。ファン側もそれを理解しているのは当たり前のことで、それがなかったら業界がとっきに破綻してます。

栗原:そうすると、おれの「行けよ!」って言うのは単細胞すぎる話で、きよちゃんはその非対称性を十分わかっていて、あえて行かなかったのかもしれない。ますます泣けますね(涙)。

アイドルとヲタクの居場所

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栗原:『中年純情物語』は冒頭に「これって新しい恋のかたちかも」っていう林原めぐみのナレーションが入っているんだけど、地下アイドルとヲタクにはそういう非対称性があるから、成就のかたちがよくわからないでしょう。

姫乃:そうですね。アイドルとファンが恋愛のような関係であることは間違いないですし、私もファンの人からは恋をしてほしいと思っています。もちろんファンの人が、きちんと線引きしてくれるから、そういうことができるんですけど。私もファンの人には幸せになってほしい思っていますし、ファンの人も私を好きになって応援してくれているというだけで、すでに恋愛が成就しているとは言えますよね。難しいのは『堕ちる』の耕平さんに関してもそうですけど、めめたんと出会わないままずっと何もない人生を終えていくほうがよかったのかということですよね。司会の大坪ケムタさんも言っていましたけど、アイドルに出会ったことで精神の上がり幅が大きかった分、落ちちゃうこともあるから、ずっと平坦なのと、喜びも悲しみもあるのと、どちらの人生がいいのかという。どちらが正解ってことはないですけど。

栗原:姫乃さんの『潜行』の書評にも書いたけど、アイドルファンを見ていて一番不可解なのは、果てがないじゃないですか。

姫乃:そうですねー……。アイドルとファンの関係で恋は成就しているからその先がない。それは置いといて、本来なら推しが売れるのが上がりのはずなんですけど、いざ実際に売れると、耕平さんみたいになっちゃう人も少なくないわけですよね。「あれ? 違うな」って。以前、個人的にアイドルファン100人にアンケートを採ったことがあるのですが、年齢とか収入とか、アイドルにハマったきっかけとか応援する楽しさとか、そういうアンケートを採ったんですけど、ちょっとびっくりするくらい全員が同じような回答なんですよね。特にヲタクを辞められないと答えた人がほぼほぼ99%みたいな感じで、ハマったらもう二度と出てこられない。『堕ちる』でもそれが大きなテーマになっていますよね。

栗原:『潜行』(姫乃たまの著書)の密かなテーマでもあったけど、姫乃さんは地下アイドルを「居場所」って捉えているでしょう。アイドルとヲタク双方にとっての居場所って。『堕ちる』の耕平さんにとっても、めめたんを知ったことは居場所を見つけたことでもあった。やたらお節介なトップヲタにあれこれ教えてもらうのが、割と嫌じゃない、というより嬉しそうだったり。

姫乃:推しの話題が共通言語になるので、ファン同士のほうがアイドルとよりも話が合いますよね。『堕ちる』でも、そういう雰囲気が描かれていました。以前、寺嶋由芙ちゃんのファンと話してて、「もっと由芙ちゃんと話したくないんですか?」と聞いたら、「由芙ちゃんのことは好きだけど、推しだからといって話が盛り上がるとは限らないからあまりそうは思わない」と言われて衝撃でした。そういう考え方もあるのか、と。でも引っ込み思案の主人公が他のファンの人と仲良くするのはすごく良いですよね。

栗原:ベルハーにものすごいハマっている知人がいて。それまではアイドルにハマるとか意味がわからないって言ってたような人で、ライブに行ってもボッチで腕組みして見ているタイプだったんだけど、ベルハーを知ってからは、一緒に騒ぐし、ヲタの友達ができて現場で声を掛けてもらえるのがすげー幸せって。

姫乃:はー、めちゃくちゃかわいい。ファンのそういう姿を見るとこっちも幸せになりますね。アイドルやってて良かったって思います。

栗原:あと「ガチ恋問題」というのもありますよね。ベルハーにハマるのはたぶんガチ恋みたいなのとは方向が違うと思うんだけど、カタモミ女子はシステム的に疑似恋愛だし、めめたんはキャラクター的にガチ恋を誘発するタイプに見えますね。

姫乃:ああいうわかりやすく可愛くてアキバ系っぽい清純な感じの子は、幻想を抱きやすいのでガチ恋ファンが多い印象ですね。

栗原:姫乃さんのファンはどうですか。

姫乃:えっ、うちはいないようにしてます。ガチ恋。

栗原:そうなんだ。以前インタビューで「本当に好きになっちゃったけど、もう治まりがついたから大丈夫」ってファンに言われたって話をしてたじゃない。

姫乃:うーん、事後報告はたまにありますね。年に1回とか。

栗原:あのエピソードは、きよちゃんの痩せ我慢に近い気がして、ちょっと切なくなったんだけど(笑)。

姫乃:いやあ、私とファンが一番切ないですよ!(笑) 人の期待に沿えないのは本当にストレスになりますね。ガチ恋は難しいです。単純に男同士の嫉妬がすごく苦手なので、ガチ恋ファンが不安定になっているのを見ると、それだけで他のファンとぶつからないか不安になります。

栗原:ガチ恋同士の戦いが起こったり?

姫乃:うちは滅多にないですけど、ガチ恋のヲタクしかいない現場って本当にあって、そういうところはすごいですよ。

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栗原:姫乃さんの言う、生きづらい者同士の「居場所」としての地下アイドル現場というのは、書評なんかにも書いたけど、現代的な問題というか困難に対する回答として目から鱗だったんですよ。耕平さんもきよちゃんも、そこでなにがしか生きる活力をもらったわけだし。ただ居場所って考えたとき、同じ場所に一緒にいるそのときの横の広がりと、それが積み重なっていく時間的な縦の軸があると思うんですよ。現場の一時が、楽しい、幸せというのはわかるんだけど、時間が積み重なっていったときに幸せはどこへ収まっていくのか。そう考えちゃうとあまりに果てがなさすぎて気が遠くなっちゃうんだよね。おれが考えすぎなのかもしれないけど。

姫乃:まさに私がずっと悩んでいることなので、答えを出せなくて申し訳ないのですが、人ってどうやって幸せになるんでしょうね(遠い目)。

栗原:アイドルとファンの場合、きよちゃんとりりあちゃんみたいに絶対的な非対称性があるから、一般の恋愛みたいな成就のかたちが基本的にはない。とすると楽しい一時を永遠にループする『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』みたいな話になっちゃうんだけど、それは続かないわけじゃないですか。

姫乃:アイドルは引退すれば終わりですけど、ファンは何かものすごい衝撃が起こらないと死ぬまで終わらないんですよね。アンケートでも死ぬまで辞められないと回答した人がほとんどで、一人だけ具体的な辞める理由を書いてくださった方がいたんですけど、それが「親の介護」。もう本当に胸が締め付けられましたね。アイドルファンやってたから、結婚もしてないし子どももいない。親を老人ホームに入れてあげるお金も趣味に使ってるから、親が倒れたときがアイドルファンを辞めざるを得ない時という。こちらとしても、そういう人を抱えている以上、簡単にアイドルやめられないのが現実なんですけど。

栗原:『堕ちる』のラストも結局そのヲタクはどう終わるのか問題を巡っていた感じはありますよね。めめたんと結婚しちゃったなんてオチは論外だし、告白して振られましたでもどっちらけだろうし。そう考えると、観終わったときには「ねえよ」って思ったけど、あれしか落としようがなかったのかなって気もしてくる。

姫乃:アイドルファンの良くも悪くも永遠が映し出された、いい映画でしたね。

■栗原裕一郎
評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter

■姫乃たま
地下アイドル/ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を軸足に置きながら、文筆業も営む。そのほか司会、DJとしても活動。フルアルバムに『僕とジョルジュ』があり、著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
ウェブサイト ■ http://himeeeno.wix.com/tama
Twitter ● https://twitter.com/Himeeeno

■公開情報
『堕ちる』
・12月6日(火)ロフトプラスワンウエストにて、上映+トークショー決定
公式サイト:http://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/52963
・12月17日(土)Loft9 Shibuyaにて再アンコール上映
公式サイト:http://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft9/53731
・12月30日(金)~1月6日(金)愛知県刈谷日劇で上映予定
公式サイト:http://kariyanichigeki.com/coming/
※12/30は「退屈に効くクスリ」イベント内での上映
監督・脚本:村山和也
出演:中村まこと、錦織めぐみ(Luce Twinkle Wink☆)、古川順、金子昌弘、水井章人、涼掛凜(じぇるの!)
撮影監督:金子聡司 撮影:柏崎佑介 録音:川目誠 プロデューサー:石原裕久 音楽:前口渉
公式ツイッター

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