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名バイプレイヤー・川瀬陽太が語る“サブリミナル俳優”としてのスタンス 「どんな現場もやりがいの熱量は同じ」

リアルサウンド

18/11/11(日) 12:00

 『ディアーディアー』で監督デビューを果たして以来、途切れることなく作品を発表し続けている菊地健雄監督。11月9日に公開された最新作『体操しようよ』は、定年退職後、生きがいを見つけられずにいた主人公・道太郎(草刈正雄)が、公園のラジオ体操会に参加する様々な人々と出会い、新たな世界を知り、また人生を謳歌していく姿を描く。『ハローグッバイ』『望郷』に続き、家族とは何か、人とつながることは何かを問いかける、心温まるヒューマンドラマに仕上がっている。

 リアルサウンド映画部では、道太郎が参加するラジオ体操会のメンバー、駒井竜二を演じた川瀬陽太にインタビュー。メジャー映画からインディペンデント映画、そしてテレビドラマまで、数えきれないほどの作品に出演する名バイプレイヤーは、今何を思っているのか。助監督時代から交友のある菊地監督の素顔から、自身の演技スタイルまで、じっくりと語ってもらった。

■反響が大きかった『anone』の出演

ーー今の日本映画界で川瀬さんほど多くの作品に出演されている俳優はいないと感じます。どんな経緯で俳優を始められたのですか?

川瀬陽太(以下、川瀬):「あなたにしかできない!」と言われて始めた仕事ではなく、最初に出た自主映画も消去法で選ばれたようなもので、「何となく」でしょうか。その後、紆余曲折を経て、瀬々(敬久)さんの映画に呼んでいただけるようになり、「ダメでもいいからやってみなよ」と言ってもらったこともあり、気が付いたらここまで続けることができている、という感じです。

ーーメジャー大作映画からインディペンデント映画まで、“映画人”のイメージが強かった川瀬さんですが、今年1月放送の『anone』(日本テレビ系)を観ていたら“犯人”役として出演されていてびっくりしました。

川瀬:「観たことあるけど誰だ?」問題ですよね(笑)。自主映画、成人映画とキャリアをスタートした自分が、「代表作」という形でボーンと出てきたというよりは、細く長くやりながらだんだん知られていった形で発見してもらえたのはありがたいことです。かつての蟹江敬三さんや、今年亡くなられた大杉漣さんもそうでした。僕の中では苦節何十年、という気持ちはまったくないんですが、やっぱりどこか「報われた」という思いはありました。『anone』で存在を知ってくれた方が、過去の出演作を観て「こんなところにもあいつがいた!」と思ってもらえたら非常にうれしいですね。

ーーネット上でも大きな話題となり、周囲の反響も大きかったのでは?

川瀬:知り合いからもUFO見たみたいなテンションで、「こないだ出てましたよね?」と目撃証言を寄せてくる。出ちゃいけないのかよと(笑)。僕はどれも同じ仕事で変わりはないんですが、それぐらい地下芸人感があったのかなと。

ーー本作『体操しようよ』や主演作『ローリング』など、川瀬さんがメインクレジットに名前が出ている作品に関しては、川瀬さんが出演すると分かって作品に臨むわけですが、クレジットされていない作品にも教師や警察官で登場されることが多々あるので、「また出てる!」とどうしても思ってしまいます(笑)。

川瀬:サブリミナル俳優としてね(笑)。かつては田中要次さんがそうだったけど、ドラマ『HERO』(フジテレビ系)でブレイクしてからはすっかり有名になっちゃって。今のところ、自分には“ブレイク”感はありませんけど(笑)。

■「どの現場もやりがいの熱量は一緒」

ーー川瀬さんのフィルモグラフィを眺めていると、人の繋がりもどんどん増えているのかなと感じます。その分オファーもひっきりなしだと思うのですが、どうやって取捨選択をされているんですか?

川瀬:基本的に取捨はしないようにしています。スケジュール的な問題や、作品の内容が近すぎるものなどは一考しますが、基本は現場の大小関わらず、いただいたオファーはすべて受ける方向で考えています。

ーー劇場公開も決まっていないような作品にも川瀬さんの名前を見かけるときがあります。若手の映画作家からしたら非常に心強い存在なのかなと。

川瀬:非常におこがましい言い方ですが、僕が出演することによって、「これ、なんかあるかも?」と思ってもらえるなら、自主映画でも出る意味があると思うんです。正直、お話をいただいて、「何もない」と思ってしまう自主映画もあるのですが、「何もない」なら「何かしようよ」と。僕が追いかけた先輩俳優たちもそうだったから。大きな現場なら制約があり、その中で何ができるかを考える。逆に小さな現場で緩いと感じるものがあるなら、そこでどう引き締めることができるかを考える。現場によって形は違えど、やりがいの熱量は変わりません。

ーーフィルムからデジタルへと移り変わり、この十数年で日本映画界も大きく変化していると感じます。川瀬さんはどのようにこの変化を見ていますか?

川瀬:できること、できないことの程度の差はありますけど、どの現場も一緒だなという感覚はあります。フィルムからデジタルに移り変わったことによって、予算の少ない映画でもゴージャスな画を撮ろうと思えば撮れる。だからこそ中身が大事になる。逆に、予算があってもチープなものはチープになってしまう。撮影中にSNSで宣伝もできるし、YouTubeにメイキング動画だって上げることができる。宣伝の方法も含めて、かつての映画界に存在していた「~ねばならない」というものはどんどん少なくなっていると思います。一方で、無軌道に広がり過ぎていると感じるものもあります。過渡期を経験した僕らが、先輩たちから教わった大事なものは遵守していきたいと思っています。

■4DX、3Dに疲れた人こそ『体操しようよ』

ーー川瀬さんが年長となる現場も多くなってきたと思うのですが、本作『体操しようよ』の主演は草刈正雄さんです。共演されていかがでしたか?

川瀬:草刈さんが主演を務めた『復活の日』『汚れた英雄』など、角川映画は僕の青春時代の作品です。草刈さんはちょっと位相が違うというか、スクリーンの中のスターであり、非日常の存在でした。久々に緊張もしましたが、同じ役者として芝居をご一緒できることは本当にうれしかったです。

――しかし、本作の草刈さんは、定年退職をして、一人娘からも疎まれる冴えないお父さんという役柄です。

川瀬:草刈さんだからこそ、成立した作品だと思います。本当に冴えない方がお父さんを演じたら、映画にはならないと思います。90年代後半のVシネや、ジャンル映画もそうだったのですが、ただの主演俳優ではなく、“スター”だから成立する映画がある。『釣りバカ日誌』なんかもそうですね。スターがいて、脇役として徳井優さんや平泉成さんが輝いているあの感じ。そういった作品にこれまで出演することができなかったので、映画を彩る脇役の1人になれたことは、非常にゴージャスな体験でした。

――菊地健雄監督作すべてに出演している川瀬さんからの目からみて、その作家性はどんなところにあると感じますか?

川瀬:菊地くんの場合は長い助監督時代を経ての叩き上げでもあるんですけど、本人は嫌がるかもしれないのですが、“シネフィル”的側面もあるんです。映画的教養をしっかり持っているから、単に「体操の映画ですよ」という舐めたものは一切なくて、画作りから演出まで非常に細かく考えている。そのあたりは撮影の佐々木(靖之)くんともよく話し合っていました。

ーー菊地監督の作品は階段や丘など、高低差を上手く利用されている印象があります。

川瀬:今回も巧みに撮っていますね。菊地×佐々木コンビは演技をしていても、仕上がりがどうなっているんだろうという楽しみがあります。さまざまな監督の助監督として、いろんな題材に向き合って経験を積んだからこそ、普遍的な人々の描き方にもたくさんの引き出しがあるんだと思います。

ーー下手したら再現ドラマのような雰囲気になりかねない題材です。

川瀬:そうなんですよ。これをただ右から左で撮っていってしまったら“顔のない”作品になってしまったと思います。草刈さんや和久井(映見)さんの安定した演技があったからこそ、ある種実験的なこともできたのかと思います。菊地くんの口から、「本作のイメージはウェス・アンダーソン『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』」と出たときは、「大丈夫か?」と思いましたけど(笑)。きたろうさんや、(片桐)はいりさん、(木村)文乃ちゃんに渡辺(大知)くんと、みんなが“映画を知っている”空気がありました。2歩3歩先で会話が成立する、そんなキャスティングだったからこそ魅力的な映画に仕上がったと思います。

ーー改めて本作の魅力はどんなところにありますか?

川瀬:4DXや3D映画に疲れた人に観てもらえたらと思います(笑)。アトラクションのような映画がどんどん増える中で、本作はいい感じで緩いです。激しい映画もいいですが、ときには落ち着いて、お風呂に入るような感じの映画があってもいいのかなと思います。

(取材・文=石井達也)

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