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いま、最高の一本に出会える

第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞贈賞式より、左から吉野実紗、高橋長英、宮田慶子、蓬莱竜太、鈴木浩介、高野志穂。

「消えていくなら朝」悲劇喜劇賞受賞に宮田慶子「ご褒美をいただいた気分」

ナタリー

19/3/30(土) 12:30

昨日3月29日に東京・明治記念館にて、第6回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞の贈賞式が行われ、受賞作の「消えていくなら朝」の作を手がけた蓬莱竜太、演出を務めた宮田慶子ほかが出席した。

昨年2018年7月に東京・新国立劇場 小劇場で上演された「消えていくなら朝」は、現在の家族のありようや演劇の社会的地位を、私戯曲の手法で問う家族劇。出演者には鈴木浩介、山中崇、高野志穂、吉野実紗、梅沢昌代、高橋長英が名を連ねた。

本作は2010/2011シーズンより新国立劇場の演劇芸術監督を務め、2017/2018シーズンをもって芸術監督の任期を終えた宮田の、芸術監督として最後の演出作品となった。これについて宮田は、「8年間で64本上演しましたが、作品を積み重ねながら『今、演劇は何を描けるか、何ができるのか』を考える現場を作りたいと思ってきました。最後の1本はぜひ新作をと、信頼する蓬莱さんにお願いしました」と述懐する。

上演に向け蓬莱と打ち合わせを重ねたと言う宮田は、「蓬莱さんが『自分の家族を書こうと思う』とおっしゃったときは、正直『大変なところに入り込んでしまった』と。作家が家族の話を書くのは、ネタがないときだと思っていたので……(笑)」と打ち明ける。続けて宮田は「稽古が始まる直前にできた台本には、最後のほうに貼り込みや修正のあとがあり、蓬莱さんに最後までとてもご苦労いただいたことがわかった」と述懐し、「作中には主人公の劇作家が『家族のことを書いてみようと思う』と家族に話す場面がある。このセリフは『消えていくなら朝』がフィクションであることの宣言だと思いましたし、生意気な言い方ではありますが、演出家として『この作品は大丈夫だ』とホッといたしました」と、改めて蓬莱に信頼を寄せた。

宮田は劇作家の主人公と家族が描かれる本作が「グサグサと心身に刺さった」と言い、「稽古場がつらくて……誰もしゃべらず、静かでした。でも皆さんが途切れない緊張感でつないでくれた」と稽古を振り返りながら座組への感謝を口にする。最後に宮田は「芸術監督として、最後に豊かな仕事ができました。とても大変でしたが素晴らしい賞を頂戴し、最後の最後にご褒美をいただいた気分です。ありがとうございました」と笑顔を見せ、挨拶を結んだ。

次に登壇した蓬莱は「『作家はネタが切れると家族を書く』というのは本当です」と笑い交じりに切り出し、「この仕事が終わると一旦(書きたい話が)枯れるな、と思っていたタイミングでオファーをいただいた。宮田さんの(芸術監督として)最後の仕事のために心血を注いで書ける題材を考えると、『もう自分の家族を差し出すしかないぞ』という気持ちになりました」と、本作の題材を決めた経緯を語る。

蓬莱は本作の主人公・定男は自分自身を想定して描いたと言い、「定男は家族からのLINEを全部“既読スルー”します。僕も自分のきょうだいだけのグループLINEに入っていて、妹が時々『インタビュー見たで』とか『社会がつらい』とか送ってきますが……一切既読スルーです」と話して場内を笑わせる。さらに蓬莱は「家族で妹だけはこの作品を観ていますが、『贈賞式があることを父親が知った』と彼女から連絡が来た。父はどうやら出席したかったらしいのですが、父がこの式に現れて、家族の話がつまびらかにされている様子を知るのはいかがなものか?と葛藤し……結果、既読スルーしました」と明かして再び会場を大きな笑いで包んだ。

「僕には、この賞をいただいたことを家族に報告する義務があると思います」と話す蓬莱は、「受賞を報告して家族がどうなるかが、この作品の続編となるのではと考えていますので(笑)、そのときはどうぞよろしくお願いします」と茶目っ気たっぷりに締めくくった。

「悲劇喜劇」賞は、選考委員と批評・評論家の劇評意欲を刺激する優秀な演劇作品を顕彰することを目的とした賞だ。6回目の開催となる今回は、今村忠純、鹿島茂、杉山弘、辻原登の4名が選考委員を担当。受賞作には正賞として雑誌・悲劇喜劇にちなんだ賞牌と、副賞100万円が贈られた。なお詳細な選考過程の採録と、選考委員それぞれが推薦する作品の劇評は、4月5日発売の「悲劇喜劇」5月号(早川書房)に掲載される。

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