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いま、最高の一本に出会える

新垣結衣と黒木華の姿は他人事ではない 『獣になれない私たち』タイトルに込められたもの

リアルサウンド

18/10/20(土) 6:00

 運命の人と出会うと頭の中で鳴る鐘の音。それは、ある人にとっては歯車が静かに動き出す音かもしれないし、ある人にとってはビビビッという放電する音のようなものかもしれない。きっと人はそれを、“野生の勘”と呼ぶのだろう。

参考:新垣結衣&田中圭のキスが話題に 『獣になれない私たち』優しさが首を締める恋愛の怖さ

 『獣になれない私たち』(日本テレビ系)の第2話。結婚にも、別れにも踏み出すことができない晶(新垣結衣)は、恋人の京谷(田中圭)に「他の人を好きになりたい」とつぶやく。“恋がしたい”それは、“生きる力がほしい”に限りなく近い嘆きだ。

 そして、毒舌会計士の恒星(松田龍平)と共に、直感と感情で動ける呉羽(菊池凛子)が、“恋に落ちたときに聞こえる鐘の音”に思いを馳せる。一体、どんな音が鳴るのだろうか。呉羽が「白楽にある聖アンデレ教会の鐘の音に近い」と言うと、ふたり揃ってスマホで検索を始めるのだった。

 わからないことは、即ググれ。いつの間にか、呼吸するかのごとく、ネットで答え合わせする行動を取っていることに気づかされる。もちろんインターネットは、人類が長年かけて手に入れた叡智。とても便利で、大好きだ。だが、同時にそれは恒星が言うように「脳が発達して考える力が増すほど直感は曖昧になっていく」ものでもある。明日の天気も、目的地へのルートも、気になる健康情報も、この先の生き方指南も……そこにすべての答えがあるような気にすらなって、自分の感覚を信じる力が衰えてはいないだろうか。

 例えば、雨が降り出しそうな空の色。季節の移り変わりを知らせる風のニオイ。最短ルートでない寄り道。“今日はいいことがあるかもしれない”という予感。“この人とは何か縁があるのかも”というときめき。そして、“こっちの道を通るのはやめておこう”という第六感。自分にとって何が気持ちのいいことなのか。仮に多くの人が発信する正解と違ったとしても、自分にとって“これがいい”と確信できること。それこそが、頭の中で鳴り響く鐘の音なのだ。

 そう考えると、“恋に落ちる”というのは進化の過程で失った、ひとつの能力なのかもしれない。同様に、何が自分にとって“道を踏み外す”脅威になるのか、を嗅ぎ分ける感覚も鈍っているように思う。ここにいていいのか。それを嗅ぎ分けることは、獣にとって生死を分けるほど重要だ。

 第1話を観て「そんなブラック企業なら、逃げてしまえばいいのに」と思った人もいたことだろう。その客観的に見て、この行動は自分にとっての正解ではないと知ること。疑似体験で自分の中の感覚を養うことこそ、ドラマの存在意義だ。きっと、晶は当事者故に、その感覚が鈍っているのだろう。努力がなかなか報われない派遣社員を経て、やっとなれた正社員。しかも、その会社はお世話になった人の紹介先。短期間で辞めてしまったら、次はない。恩人の顔に泥を塗ることになる……。そんなしがらみが心の音を聞く余裕を失くしていく。

 もちろん社会のしがらみは、時としてセーフティーネットにもなりうる。私たちの社会は「もう走れない」と、群れから逃げ出したとしても、野生動物のようにすぐ天敵に食い殺されることはない。再生する方法もある。だが、その情報はすべての人に行き渡っていない。こんなにもネットが生活に浸透しても、まだなお情報格差はあり、それゆえに一度立ち止まったら群れに戻るのが難しいという課題も拭い去れずにいる。肉体的には生き続けられても、精神的に生きる力が弱ったまま、立ち上がり方を忘れてしまう人が少なくないのだ。

 京谷の朱里(黒木華)も、本当は走り続けたかったはずだ。だが、気づいたら社会の群れからは遠く離れ、京谷もそんな自分に魅力を感じてくれなくなった。どこで足を踏み外したのか……。そのエアポケットは、誰にとっても他人事ではない。

 だから、ときには自分の心で鳴る音に耳を澄まそう。野生で生きる、獣のように。多くのノイズが飛び交うこの社会で、自分の人生を命を守るために。どの音が警鐘で、どの音が福音なのか。もしかしたら、すぐには聞こえないかもしれない。聖アンデレ教会のように、世知辛い世の中に、かき消されてしまっている可能性もある。

 感覚を研ぎ澄ましていると、聞こえてくるのは10月20日にオンエアされるドラマ『フェイクニュース』(NHK総合)のオープニング……なんて。『フェイクニュース』こそ、脚本家・野木亜紀子が鳴らす、ストレートな現代社会への警告音だ。このドラマも、きっと今を生きる私たちに、何か大きなヒントを与えてくれるのではないか。そんな予感の音が、頭の中で鳴り響いている。(佐藤結衣)