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安藤サクラ×長谷川博己に社会人こそ共感? 『まんぷく』は人生論・組織論を学べる朝ドラに

リアルサウンド

18/12/4(火) 6:00

 朝ドラ『まんぷく』(NHK総合)は10週目を迎え、波乱万丈の萬平(長谷川博己)、福子(安藤サクラ)夫婦の人生と会社もようやく軌道に乗ったと思いきや、ピストルを持った進駐軍の登場という衝撃の展開である。『龍馬伝』(NHK総合)の福田靖脚本が、まるで大河ドラマのような内容の濃さに、朝ドラならではの温かいホームドラマとしてのユーモアを加えている。さらには、安藤サクラ、長谷川博己、松坂慶子はじめ、特筆していたらキリがないほどの多くのキャストのこれ以上ない好演、熱演が相まって、毎朝15分、愛すべき登場人物たちと共に一喜一憂する毎日である。

参考:『まんぷく』第56話では、克子(松下奈緒)と忠彦(要潤)が泉大津に駆けつける

 いつも萬平を陰に日向に支え、常に彼が進むべき道すじと手段を指し示し、夫のピンチとあれば自ら交渉に出向く福子の“スーパー内助の功”に感服するのはもちろんだが、このドラマの魅力はそれだけではない。なにより、父親の育児任せっきり問題など現代を生きる私たちの人生にも直結する様々な問題に、登場人物たちがどう向き合っていくのかが興味深い。1日15分のテレビドラマで、決して押し付けるわけではなく、人生論や夫婦論、マネジメント・組織論をここまで学ぶことができる朝ドラは、今まであまりなかったのではないだろうか。

気になるのは、桐谷健太が実に小憎らしいキャラクターを好演している、立花夫婦に利益と災いの両方をもたらす男・世良である。彼の存在は、同じ経営者である萬平の生き方と対になっている。

 26話で世良は、「金のないやつから安く買い叩いたものを、金のあるやつに高く売る」ヤミ業者に限りなく近い自分のビジネスを、萬平と福子たち家族に意気揚々と説明する。困惑する福子に、彼は「このご時勢ええやつも悪いやつもあるかいな、今は不公平の時代」と開き直る。何もかもが不自由な時代において、世良のようにあくどい商売でのしあがっていく人もいれば、その日食べるものもない人もいる。運と才覚によって、うまく立ち回れた人間のみが「不公平の勝ち組」にのし上がれる。そうやって、“親友”と言いながらも状況次第で簡単に萬平をも裏切る男は、混乱を極める戦後を逞しく、調子よく生き抜いてきた。

 一方、世良と正反対の萬平は、困っている人を目にすると、彼らをなんとかして助けることができないかということをまず考える。そして、その世間のニーズに応えることが結果的に利益に繋がっていくという方法で、紆余曲折はあったものの、順調に商売を成功させてきた。

 この対照的な2人の経営者の「不公平の時代」における処世術は、現代と繋がるものがある。世良のような考え方がまかり通る時代だからこそ、世良とは対極の、人が良すぎる萬平と、彼の行動を支える福子の姿が余計眩しく見える。そしてそれこそが、理想の経営の形と言えるのだろう。

 さて、萬平の職人気質と従業員への配慮問題が無事解決し、萬平を補う存在として真一(大谷亮平)が加わることでさらに会社は磐石になると思いきや、賑やかで楽しかった物語に、大きな災いが降りかかった。このドラマの魅力として、その巧みな演出も見逃してはならない。例えば、立花夫婦の人生の随所に登場するラーメンのエピソードや、咲(内田有紀)が夢枕に立つ時の満月なども印象的ではあるが、もう1つ、このドラマにおいて頻繁に登場するのが“魚”である。この魚の描写が、笑顔でいっぱいの物語に小さな翳りを見せていたことを、今回の事件が起きた時思い知らされることになった。

 まず、明るい鳥の絵を描いていた福子の姉・克子(松下奈緒)の夫で画家の忠彦(要潤)は、戦争後、色覚異常を患い一度は絵を描くことを諦めかけたものの、再び絵筆を握り、ひたすら魚の絵を描いていた。最初に書いた魚の絵を、娘のタカ(岸井ゆきの)は「きれい」と言ったが、藍色の、暗く澱んだ光を放つ魚たちの絵は、どうにも「きれい」だけではない不穏な空気を漂わせていた。それがまるで予兆だったかのように、第7週の忠彦は絵を描くことに囚われ、家族の心配をよそに寝食を忘れて没頭することになる。

 そして、「魚釣り」のエピソードだ。疎開先で、萬平が子供たちと共に魚獲りをし、苦労してとった成果は「たった一匹」。その後効率を重視した萬平は、電線を使って川に電気を流し、大量の魚を捕獲する。川に浮かび上がる大量のひっくり返った魚たち。

 次に第6週の泉大津に着いて早々、神部(瀬戸康史)は食糧確保のため釣りに出かけるが、釣れたのは「たった一匹」だった。その次の第7週では、たちばな塩業の男たちが全員で釣りに出かけ、一匹のタイを釣りあげる場面が描かれる。

 そして、従業員たちに仲間割れが発生した第9週では、自分たちの負担ばかり増え疲弊する塩作りメンバーの3人が、倉庫下に隠されていた手榴弾を見つけ、海にそれを投げ、一気に魚を捕獲する方法を考えつく。この時もまた、萬平が川に電流を流した時と同じように、やたら美しい海において、ひっくり返った魚が何匹も浮かび上がる。

 釣りのエピソードは2度繰り返された。福子と萬平が成し遂げる「インスタントラーメンの発明」の伏線として、彼らの人生の随所にラーメンを食べる場面が散りばめられているのと同じように、釣りと魚のエピソードは、静かに物語の影の伏線となっている。その影が次第に大きくなり、たちばな塩業を襲ってしまった。

 今度は大勢の仲間たちと共に、再び大きすぎるピンチに見舞われた萬平だが、福子は、彼らの窮地を救うことができるのだろうか。あの平穏な日々をもう一度と祈らずにはいられないが、心を落ち着けて、次の展開を待とう。(藤原奈緒)

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