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「ありがとう」の声続出 『半分、青い。』鈴愛を支え続けた仙吉の立派な人生を振り返る

リアルサウンド

18/8/17(金) 6:00

 「相変わらずやなぁ鈴愛ちゃん。すべての解釈が自分の都合のいい方へ」。第109話で幼なじみの菜生(奈緒)から出た、東京から梟町に出戻った鈴愛(永野芽郁)への言葉は、長年の関係だからこそ言える的確な指摘だった。

参考:仙吉さんの人生【写真と振り返る】

 家族が用意した就職先を蹴り単身東京へ、漫画家になるはずが雑用ばかりで師匠の秋風羽織(豊川悦司)と衝突、漫画家デビューするもののアイデアが続かず破れてしまった夢、そして涼次(間宮祥太朗)との電撃結婚&離婚……。自分の信じる道を鈴愛はずんずん進み、時には踏む必要のない地雷に足を突っ込んできたが、そんな彼女でもここまで来れたのは、周りの人たちが陰ながら鈴愛が歩く道をなるべく安全に整える努力をしてきたおかげだ。

 律(佐藤健)を含めた梟会のメンバー、秋風塾の仲間たち、そして家族。彼らは、37歳になる鈴愛を辛抱強く見捨てることなく何十年も見守ってきた。そんな“鈴愛サポーター”の1人である楡野家の大黒柱・仙吉(中村雅俊)が、とうとう第118話に、妻・廉子(風吹ジュン)が待つ天国へと旅立った。第1話から登場していただけあり、SNSでは「仙吉さん今までありがとう」と仙吉の死を悼む声が続出し、“仙吉さん”というワードがTwitterトレンド入りを果たした。

 “胎児から始まる異例のドラマ”と放送前から話題になっていた本作。仙吉はまだ名もない胎児の頃から鈴愛を慈しんできた。鈴愛のあまりのマイペースさにSNSでは批判の声すら上がっているが、仙吉の愛は第1話から変わることなく、優しく鈴愛に寄り添う。

 猪突猛進。わが道を行く鈴愛ももちろん1人の人間で、怒涛の人生の中で何度も壁にぶつかってきた。一度止まってしまうと、これまでの歩き方を忘れてしまったのかのように動けなくなる鈴愛。そんな彼女のために、仙吉はいつも道標になって優しく語りかける。

 仙吉の言葉は、朝の準備で慌ただしい視聴者の目頭をしばしば熱くさせる。確かに鈴愛は自分勝手な一面があり、端から観ていると苛立ちを覚えてしまうのも否めない性格だ。ただ、ドラマだから客観視できているだけで、ふと考えてみると、鈴愛の失敗やつまずきは、誰しもにありえることのようにも思える。

 例えば記憶に新しいところでいうと、第117話。鈴愛は漫画家であった自分を黒歴史化し、娘のかんちゃん(山崎莉里那)に絵を描くことができなくなっていた。生きていれば誰しも、当時は一生懸命取り組んでいたはずなのに、結末が美しくなかったゆえに、大切な過去を葬りたくなることもある。

 過去と向き合うことを拒絶する鈴愛に対し、仙吉は「人間っちゅうのは、大人になんかならへんぞ。ずっと子供のままや。競争したら勝ちたいし、人には好かれたいし、お金は……欲しい(笑)」と声を掛ける。

 周りの人たちが成長していくのに、自分だけ置いてけぼりを食らっているような気持ちになることがある。そんな時、自分の要領や出来の悪さを責めてしまう。そこから脱却する簡単な方法は、失敗した過去を侮蔑することによって、現在の自分を上げ、まるで自分が成長したかのように錯覚させるということだ。大口を叩いて飛び出した夢が、がらがらと崩れていく鈴愛の心にも、同じような現象が起きていたと考える。

 ただ、鈴愛が漫画家をやめていなければ、仙吉の五平餅は受け継がれなかったかも知れないし、かんちゃんもこの世に存在していなかった可能性すらある。目を背けたくなる失敗が、必ずしも無駄だったということはない。記憶というのは図太く、忘れたいことほど残るため、完全に葬ることはできない。だからこそ、仙吉は100点満点でない人生を丸ごと認める方を選んだ。

 「忘れたらあかん!」。甘やかしているようにも見えるかも知れないが、梟会という愛あるツッコミを入れてくれる友人たちが鈴愛にはいるのだから、仙吉の役割はこれで大正解だったと思う。生きていれば必ず苦しいことが降りかかるのだから、仙吉さんのような何でも受け止めてくれる人がいたっていいじゃないか。

 「大丈夫だ」。鈴愛が漫画家をやめることを電話で仙吉に告げた際も、驚くことなく当然のことのように事態を飲んだ。こらえきれぬ涙を溢れさせながら話す鈴愛に、仙吉は自身の戦争体験を交え、人間の強さを説く。捕まると捕虜になる環境で、現地の人にかくまってもらい、穴ぐらに隠れて2週間ほど過ごした過去を打ち明けた仙吉。彼の当時の唯一楽しみは、太陽の加減で穴ぐらに光が差し込む1日のうちのたった15分の時間だった。「15分光が差すだけで、人はそれを楽しみに生きていける」「鈴愛、どうにでもなるぞ。大丈夫だってことや。人間は強いぞ」。

 仙吉が戦地で楽しみにした太陽の差し込む時間は、奇しくも『半分、青い。』の放送時間と同じ。極限状態の戦争の中の癒やしと、日常の中のドラマを比較するのは、格が違うかもしれないが、人はほんのささいなことを生きる希望にすることができる。

 1920年に生まれた仙吉は、戦争で死と隣り合わせになり、命からがら帰ってきたと思いきや、務めていた楽器店は空襲で消滅。そこから家業の楡野食堂を継ぐが、愛する妻に早くに先立たれてしまうと、鈴愛に負けぬ波乱の連続の人生。挫折や苦悩を味わったことも多かったろう。それでも最期には「俺は年取ったけどええ仕事しとるなあ、俺は立派や」と自分を褒めて、この世を去った。

 公式サイトのインタビューのよれば、仙吉を演じた中村雅俊が最初に撮ったのは、第8話で楡野家が廉子のお墓参りに行くシーンだったという。少し声を震わせながら鈴愛の糸電話を持ち、空に向かって「廉子さ~ん」と仙吉は叫ぶ。

 廉子がもういなくて寂しいと嘆く鈴愛に仙吉は、「廉子さんは、(胸を叩きながら)ここにもおるし、空にもおる。見守っとる。行きとるわしらをな空から見守っとる。あいつは生きてるときからそういうやつやった」と語った。その言葉通りきっと、今度は仙吉と廉子一緒になって、遠い空から鈴愛たちを見守ることだろう。

 早いことに『半分、青い。』も残すところあと約1か月半。鈴愛を救うためにかけた言葉は、テレビを通して鈴愛と似たような生きづらさを抱えている視聴者にもきっと届いている。(阿部桜子)

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