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音楽シーンを撮り続ける人々 第4回 日本のロックバンドに愛されるViola Kam

ナタリー

18/12/27(木) 22:03

CDジャケットや雑誌の表紙、屋外看板などアーティストを被写体とした写真に心を奪われた……そんな経験のある読者も多いはず。本企画はアーティストを撮り続けるフォトグラファーに話を伺うものだ。第4回は来日から10年、言葉の壁を乗り越え多くのロックミュージシャンとの信頼を築き上げ、人気カメラマンとなった香港出身のViola Kam(V'z Twinkle)が登場。

ジャーナリストを目指した子供時代

小さな頃はピアノをやったり、オーケストラに入って中国フルートをやったりしていました。お父さんがたくさんレコードを持っていたので家ではいろいろな音楽が流れていて、記憶にないくらい小さい頃に自分から「ピアノをやりたい」と言ったらしいです。ピアノは17歳でイギリスに留学するまで続けました。ほかには週5日でテニスのユースチームの練習に通ったし、水泳や陸上もやって、学校では学級委員をやって朝礼でアナウンスをしたり、舞台をやっていたこともあります。本を読むこともすごく好きでたくさん読んでいて……今思うとやり過ぎっていうくらいいろいろやっていましたね(笑)。

本が好きだったこともあって、中学生の頃にはちょっとした文章を書くようになっていました。高校時代には明確にジャーナリズムを勉強したいという思いがあって、学校で会報を作ったり、ラジオ局でインターンをしたりしていたんです。その中でジャーナリズムの勉強をするなら香港じゃなくてもいいと思ったので、高校を卒業する前にイギリスの大学に進学することを決めました。留学してプレスクールで1年間勉強したあと、イギリスの大学でジャーナリズムを学びながら、新聞社でインターンとして記者の仕事をしたり香港の雑誌に旅行をテーマにしたコラムを書いたりしていましたね。カメラの使い方はこの頃に覚えたんです。

イギリスは香港と同じく大学は3年間で、プレスクールを含めると4年間留学していました。そして卒業前にインターンをしていた新聞社から内定をもらったんですけど、経験したことのない文化や国について入社前に学びたいと思って、1年猶予をもらって日本に行くことに決めたんです。最初は長くいるつもりはなかったんですよ。でも政治と国際関係をちゃんと勉強したくなって、上智大学の大学院に入ってしまいました(笑)。

来日して知った日本のバンドのよさ

イギリスではKeane、Muse、Franz Ferdinandなどを聴いていました。香港にいたときは日本のバンドだったらL'Arc-en-CielとかLUNA SEAとかGLAYとかが人気。中学生時代からラルクが好きになりましたね。それ以外はあまり詳しくなくて。でも友達がELLEGARDENが大好きで、その子がエルレが活動休止になって生の細美武士を観られなかったことをすごく悔やんで、私が日本にいるときにthe HIATUSのライブを観に来たんですよ。それに付き添って初めてバンドのライブというものを観たんです。ライブ中、私、気が付いたら泣いていました。「日本の音楽って面白い!」と思いました。

それからライブを観に行くようになって音楽業界に興味が出て、音楽関係の本を読んだり、渋谷にあった残響shopに通って店長といろいろ話すようになったりしたんです。そしたらある日店長から「今度fifiっていうバンドがインストアイベントをやるんだけど、カメラ使えるならブログに載せたいから撮って」って言われて。それがバンドを撮り始めるきっかけでした。イベントの日はイギリス出身の編集者の通訳もしていたんですけど、その記者がすごく小さなカメラで撮ってたので、私のカメラで撮ってあげたらそれを使ってくれて。それ以降その記者さんに「SUMMER SONIC」などの撮影も依頼されるようになったんです。「お金をもらうならちゃんとやろう」と思って独学でカメラの勉強をするようになりました。

大学院を休学しカメラマンの道へ

インターン時代からカメラに触れてはいましたけど、カメラマンになろうとは思っていませんでした。大学院在学中だった2011年に東日本大震災を経験して、この現状を香港の人に伝えるためにも記録しないといけないと思って現地を撮りに行ったんです。その頃からジャーナリストとして伝えたいことを伝えられるならペンをカメラに持ち替えてもいいと思うようになりました。それから大学院で勉強しながらライブ撮影を続けていたんですけど、卒業論文の提出の時期にfifiが「ツアーに帯同しないか」って誘ってくれて……どうしても両方できなくて悩んだ挙句、結局ツアーに付いて行くことにしたんです。

決心したきっかけは、ストレイテナーの「ネクサス」を聴いて「明日はすべてが嘘になっても今日が本当なら大切にしたいよ」という歌詞に自分の現状が重なって背中を押されたからです。私も「今日が存在した証拠を写真で残しておきたい」って思って大学院を休学し本格的にカメラマンの道へ進むことにしました。

当時ちゃんとカメラの技術を学ぼうと思って、橋本塁さんと三吉ツカサさんのアシスタントに応募したけどダメでした……だから師匠がいた経験とか、学校とかスタジオの経験がなくて、調べながら実践で学んできました。後々お二人に現場で会う機会があったのでなぜ落ちたのか聞いたら、2人共「ビオラの写真を見てアシスタントでやるべきじゃないって思った。1人でできると思ったから」と言っていました(笑)。まあ、今たまに飲みに行ったりしていて、師弟関係になっていたら対等に飲めなくなっていたかもしれないから落ちてよかったです(笑)。

大事な人たちが日本にいるから

仕事は昔からの付き合いが発展したものが多くて、キュウソネコカミやTHE ORAL CIGARETTESはインディーズ時代から撮っています。当時tricotとキュウソ共通のスタッフがいて、キュウソが東京でライブをするときに紹介してくれて。ヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ / Vo, G)は私がライブを撮り始めた頃「この曲のこの瞬間これやったけど撮れてる?」って毎回毎回聞いてきたんです。だから毎回「ありますよ」って写真を見せて。それを聞かれなくなった頃からツアーでずっと一緒に回るようになったんです。オーラルはオフィシャルカメラマンとして撮る前に京都までライブの予習としてイベントを観に行って、その後撮影した写真を見せたら、「東京に行くときはよろしく」って言われてそれから撮るようになったり。みんなまだインディーズだったときに始まってるんです。でも2014年、ちょうどその2バンドのメジャーデビューが決まった頃に、私はビザの関係で1年間香港に帰らないといけなくなってしまいました。

香港に帰るときキュウソは送別会をやってくれて、赤い袋に星型の手紙をみんなが入れてくれて。「誰が撮っても同じだと思ったけど、ビオラが撮ると違うってわかった」とか「バンドだからいろいろ変化があるかもしれないけど、ビオラが戻ってくるなら絶対に帰る場所を取っておく」って言ってくれた。オーラルはライブで「今日は大事なスタッフが帰国しちゃうから送り出したい」って言ってくれて「戻ってきたら武道館発表できるようになっておくから」って約束もしてくれた。どうしてみんなそんなにやってくれるのか全然わからなかった。でも香港にいる間、私もやっぱり一緒に仕事したい人たちが日本にいるって思ったし、みんなとの約束があったから、1年後日本に戻って来ることができました。みんな本当に約束を守ってくれていたんです。

香港に帰っていたときはほぼ毎日台湾と香港の学生運動を撮り続けて、その現場で催涙弾投げられたり警察に殴られたり、想像できる危ないことは全部経験してすごく刺激を受けました。そういう現場も好きですけど、キュウソとオーラルが音楽をやっている限りは香港に戻ることはないだろうな。でも日本にこだわっているんじゃなくて、大事な人たち、撮りたい人たちが日本にいるから私も日本にいるだけでなんです。

付き合いが長いから今ではバンドとの関係もフランクになってるけど、私は外国人だから最初は日本人みたいに空気を読むとか、言葉遣いで調整するみたいなことができなくて、もう直球しか投げられなかった。いいも悪いもお互い直接言うしかないから、むしろコミュニケーションがしっかり取れていたんだと思います。細かいことでも「このくらいわかってくれるだろう」っていうのがなかったから。ドラムに寄ったショットを撮るときでも、事前にお互い話してタイミングがわかっているからカメラがスティックに当たることなんて心配されないし、当たってもお互い気にしないし、全然攻めてもいいって。ライブって本当にメンバーと近いところで撮るから、信頼してくれないと撮影はできないと思います。

ずっと撮り続けたい自分と、明日が来なくてもいい自分

撮りたいバンドはこれまで徐々に撮れてきているんです。憧れていたストレイテナーもカッコいいと思っていたUNISON SQUARE GARDENもLiSAちゃんも。次、なんだろう……韓流とか、アイドルとか撮ってみたいですね。でも会場で言うと東京ドームではまだ撮ったことないし、Madison Square Gardenとかでも撮ってみたいです。できればオーラルと一緒に行きたいですね。阪神甲子園球場だったらキュウソと行きたいな。今大事にしてくれている人たちを大事にしていきたいし、“売れているかどうか”は関係なく自分がカッコいいと思う人たちをこれからもずっと……なんなら遺影まで撮りたいと思っています。反対にテナー、細美さん、HYDEさんとか、すごく尊敬しているアーティストを撮るとき「もう明日が来なくてもいい」と思った瞬間もあるんです。ライブの撮影を始めたばっかりの頃「ETERNAL ROCK CITY.2012」でentを撮ったときとかがそうでした。

ホリエさんに言われてすごくうれしかった言葉があって。「U2のボノ(Vo)がアントン・コービンというカメラマンが撮った自分の写真を見て『写真に写っている自分になりたい』って言ったことがあったんだけど、ビオラの写真もそうだね」って。そんなこと言われたらたまらないですよね……。そう思ってもらえる写真を撮り続けるようにもうがんばるしかないです。

Viola Kam (V’z Twinkle)

香港出身。イギリスにてジャーナリズムやメディアについて学び、2008年に来日。2016年からHIP LAND MUSIC Creative Division INTに所属し、現在はライブ撮影をはじめ音楽関連の撮影を中心に活動している。

取材・文・構成 / 中村佳子(音楽ナタリー編集部) インタビュー撮影 / 保高幸子

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