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スガ シカオとSMAPに詰まっている1990年代の空気ーー矢野利裕『フリー・ソウル・スガ シカオ』評

リアルサウンド

18/12/20(木) 18:00

 1995年にインディーデビューし、1997年にメジャーデビューしたスガ シカオには、1990年代の空気が詰まっている。ここで言う1990年代の空気とはなにか。それは、フリー・ソウルに他ならない。「フリー・ソウル」の説明は、どのくらい必要だろうか。選曲家として知られる橋本徹(SUBURBIA)氏が提唱した新しいジャンルだとひとまずは説明できるが、それ以上に、古今東西の音楽をクラブミュージック以降の感覚で捉え返すというムーブメントをともなっていることが重要だ。「フリー・ソウル」というネームは橋本氏が1994年に始めたDJパーティー名が由来となっているが、クラブイベントやコンピレーションCDを通じて、新しい視点で音楽の魅力を再発見していくことこそ、フリー・ソウルのダイナミズムである。

橋本徹が語る、スガ シカオとFree Soulの共通点 「どちらもある種オルタナティブな存在だった」

 スガ シカオがフリー・ソウル的だというのは、彼の音楽がクラブミュージック以降の感覚に貫かれている、ということである。それは、メジャーデビュー曲「黄金の月」を聴けばすぐにわかる。基本的には、さわやかなアコースティックギターと切ないメロディが印象的な曲と言えるが、一方で、打ち込みのビートとワウギターに支えられてもいる。同時代のIncognitoやBrand New Heaviesらアシッドジャズ勢の影響もあるだろう、1970年代のソウルのフィーリングを見事にアップデートしている。過去のサウンドを新しいものとして提示すること。このような運動こそ、「フリー・ソウル」と呼ぶにふさわしい。スガ シカオの音楽は、当時フリー・ソウルとして再発見された多くの過去の楽曲と同じように、新しさと懐かしさの両方を持つものである。

 そんなスガ シカオの存在を知らしめたのが、作詞を手がけたSMAP「夜空ノムコウ」(1998年)だという事実は、時代的な必然と言いたくなる。SMAPの音楽にもまた、1990年代の空気が詰まっている。すなわち、フリー・ソウルの空気が。ニュージャックスウィング調のビートが鮮烈な「がんばりましょう」(1994年)のサビが、フリー・ソウルとして再評価されたNiteflyte「You Are」(1980年)という曲の引用をしていることはよく知られている。SMAPの音楽もまた、過去のサウンドを新しいものとして提示するものとしてあった。De La Soulが「A Roller Skating Jam Named “Saturdays”」でChicago「Saturday In The Park」をサンプリングしたのが1991年。そのような時代的背景のなかで、SMAP「しようよ」(1995年)のイントロのエレピは、まるで「Saturday In The Park」のようである。そして、スガシ カオ「June」(2004年)でも、「Saturday In The Park」のようにエレピが鳴らされている。

 個人的に、スガ シカオの音楽は、クラビネットやローズなどのエレピに特徴づけられていると思っている。スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイ、マーヴィン・ゲイ、Sly & The Family Stoneといった、ニューソウルやファンクを強く意識して取り入れられたエレピが、スガ シカオの曲をこのうえなくソウルフルにしている。連想するのは、「夜空ノムコウ」も収録された『SMAP 012 VIVA AMIGOS!』(1998年)に入っている「Trouble」という曲。急遽DJを頼まれた男がクラブでソウルミュージックをプレイするという、それ自体フリー・ソウルのことを歌ったような曲なのだが、特筆すべきは、トラックがダニー・ハサウェイ版「What’s Going On」のエレピをサンプリングしてループさせたものだということである。必然、このメロウで切ないトラックが、スガ シカオの音楽との同時代性を感じさせる。

 このように、CDが売れまくった1990年代後半のJポップシーンのなかで、クラブミュージック的な方法論を明確に意識することで、新しさと懐かしさを同時に獲得したのがスガ シカオとSMAPだった。そして、その交点に位置するのが「夜空ノムコウ」という名曲である。だとすれば、『フリー・ソウル・スガ シカオ』に収められたスガ シカオによる「夜空ノムコウ」のライブカバーで、クラブミュージック以降のメロウ・クラシックである、ビル・ウィザースが歌うグローヴァー・ワシントン・Jr.「Just The Two Of Us」を引用したことの意味はきわめて大きい。スガ シカオは、他ならぬフリー・ソウルとして「夜空ノムコウ」を捉えているのだ。

 サウンドは、場所を越えて、過去も未来も越えて響き合う。フリー・ソウルのムーブメントは、過去のなかに新しさを見つけ、新しさのなかに懐かしさを見つけた。進むべき未来のさきには、なにかが決定的に失われてしまったという痛みもある。スガ シカオとSMAPの歌世界にも、そのような痛みの感覚がある。〈あれからぼくたちは何かを信じてこれたかなぁ…/夜空のむこうには明日がもう待っている〉とは、なんと痛切な未来を歌っていることか。しかし、それこそが、スガ シカオが吸い込んだ1990年代の空気だったのだろう。(矢野利裕)

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