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『なつぞら』草刈正雄の包み込む優しさが涙を誘った第1週 革新的朝ドラがスタート!

リアルサウンド

19/4/7(日) 6:00

 およそ58年という長い歴史のバトンが繋がれ、ついに100作目の朝ドラ『なつぞら』(NHK総合)がスタートした。

参考:『なつぞら』第7話では、泰樹(草刈正雄)がなつ(粟野咲莉)の行方を察する

 運命的にも新元号「令和」が発表された4月1日に放送を開始した『なつぞら』は、巨大な朝ドラの看板を背負いながら、新たな歴史を開拓していく先駆者のような作品だ。第1話冒頭、北海道の十勝に広がる青空と緑の大自然をバックに、ヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)と幼なじみの佐々岡信哉(工藤阿須加)が再会を果たすまでの時間は約3分30。そこから、朝ドラ初となる全編アニメーションによるタイトルバックには、本作での革新的な挑戦、100作目という意気込みを感じずにはいられない。

 「連続テレビ小説」という朝ドラ恒例のテロップはアニメーションで彩られ、「戦争」という朝ドラとは切っても切り離せない大きなテーマをなつの体験した回想の中でアニメーションによって描いていく。言わば古き良き朝ドラらしさと、先鋭的なドラマの形が提示されているのだ。

 なつは「この物語は私の人生そのものです。私はやがてアニメーションという世界にその人生をかけてゆくのです」と、これから描かれていく物語(東京新宿編)に思いを馳せる。このプロローグによって今後なつがアニメーターを目指し断片的にアニメーションが挿入されることを、視聴者が自然と想像できる構成になっているというわけだ。『なつぞら』のアニメーションクリエイターには、監修にジブリ作品の動画チェックを数多く手がける舘野仁美、時代考証に『パンダコパンダ』『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』といった作画監督を務めた小田部羊一、タイトルバックには20代の女性クリエイター・刈谷仁美を迎えている。『なつぞら』の第1週完成試写会では、制作統括の磯智明が高畑勲監督の作品や『世界名作劇場』への敬意を示しながら、「軌跡、偉業を一旦でも表現できればいいなと思います」とコメントしていた。否が応でも期待は膨らむばかりだ。

 第1週「なつよ、ここが十勝だ」で描かれるのは、昭和21年初夏、戦争孤児として東京で生き残った9歳のなつ(粟野咲莉)が、亡き父の戦友だった柴田剛男(藤木直人)に引き取られ、十勝の柴田牧場で労働者として必死に働く様子だ。もがき生きぬいてきたなつは、柴田家の人々の顔色を伺いながら居候し、やがて柴田家の一員として受け入れられていく。中でも、牧場主である泰樹(草刈正雄)との出会いはなつの生き方を大きく動かすことになる。

 第1週における一つのクライマックスとなるのは、第4話で泰樹がなつを連れ出し、帯広の菓子屋・雪月でアイスクリームを食べさせる場面だ。自他ともに認めるガンコじいさんの泰樹は、なつに始めから厳しく当たっていた。しかし、幼いながらもひたむきに酪農へ向きあうなつの頑張りを認め、泰樹は彼女が東京で靴磨きをしながらつらい思いをしてきたことを知る。18歳の時に一人で十勝に開拓者として入植した泰樹は、人一倍なつの気持ちが分かるはずだ。それ故に、愛情も深くなる。

 泰樹がなつに投げかける金言は多い。中でも「一番悪いのは人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。人は人を当てにする者を助けたりはせん。逆に、自分の力を信じて働いていればきっと誰かが助けてくれるもんじゃ」という言葉は、第1話でなつに手を差し伸べる富士子(松嶋菜々子)に言った「お前は苦労しすぎて、誰んでも優しくしなければなんないと思い込んどるだけじゃ」の答えとも取れる。また、労働に対する対価は誰もが一度は経験する変えがたい喜びだ。なつは生き抜くためだけに靴磨きをし、その感慨を味わったことがなかった。しかし、働けば必ず報われる日が来るということを、泰樹はなつ自身が絞った牛乳から生まれたアイスクリームを通して知ってほしかった。そして、柴田家に対して気を遣っていることにも気づいていた。「もう無理に笑うことはない。謝ることもない。お前は堂々としてろ。堂々とここで生きろ」。子どもだろうと対等に向き合い、何でも我慢せずに言い合う。泰樹の厳格な態度は、なつに響き、彼女の瞳からは雪解け水のような涙が零れ落ちる。優しく包み込むような草刈正雄の演技に対し、自分の芝居に納得がいかず監督や草刈に志願して撮り直しをお願いしたという粟野咲莉には、天賦の才、そしてなつと等身大の演技へのひたむきさを感じさせる。

 『なつぞら』の脚本執筆を担当する大森寿美男は、なつを「人の心に流されながら、出会いと関わりのなかで、人生を見いだしていくヒロイン」と公式サイトのインタビューで答えている。それは先述した泰樹との出会いを始め、学校でノートに絵を描く山田天陽(荒井雄斗)に惹かれるなつの姿からも、彼女が流動的にみずみずしい感性を持ち生きていくことを予感させる。果たして、なつがアニメーターという夢の扉をどのように開いていくのか。半年に渡る『なつぞら』の世界観は、十勝の大自然のように限りなく広がっている。(渡辺彰浩)