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ぴあ

バクシーシ山下 × さやわか『アイドルキャノンボール』対談 「腹黒い気持ちで女の子と接していた」

リアルサウンド

18/2/8(木) 15:00

 AV監督のカンパニー松尾による最新作『劇場版アイドルキャノンボール2017』が、現在公開中だ。同作は、カンパニー松尾の代表作である『テレクラキャノンボール』シリーズの設定・手法を取り入れたドキュメンタリー。BiSの所属事務所WACKが開催したオーディション合宿に、AV監督たちがカメラを持って参加し、アイドルグループのメンバーやオーディション参加者などに、どこまで迫れるかをポイント制で競い合う。

参考:『劇場版 アイドルキャノンボール2017』は“中年アイドルファン”の気持ちを代弁する

 リアルサウンド映画部では、参戦者のひとりであるAV監督のバクシーシ山下氏とライター・物語評論家のさやわか氏の対談を行った。5泊6日の過酷な合宿の中で、バクシーシ山下氏は何を思い、額に汗して踊り続けるアイドルたちにカメラを向けていたのか? 監督同士による狡猾な頭脳戦の裏側、被写体の心理を巧みに操る戦略、そしてWACK代表・渡辺淳之介氏の奇特なパーソナリティーについてまで、さやわか氏が舌鋒鋭く切り込んだ。

■さやわか「“男子の部活感”が出ていた」

さやわか:今回の映画『劇場版 アイドルキャノンボール2017』は、最後の最後までどんでん返しがあってすごく面白かったです。やっぱりレース方式だと、みんな勝ちに行きたくなるんですかね? 参加者の方々の気持ちがどんどん研ぎ澄まされていくのを感じました。エリザベス宮地さんなんて、最後には悔し涙さえ流していて。

バクシーシ山下(以下、山下):まあ、僕は横で見ていて「泣くほどのことかな?」って思いましたけれどね(笑)。そもそもアイドルがどんな存在なのか、僕がよくわかっていないからかもしれないけれど。それはカンパニー松尾さんとかも同じだと思います。基本的には、女の子がいて、僕らは仕事としてミッション通りにエロいことを仕掛けようと頑張る感じ。とはいえ、途中でアイドルの子たちの本気ぶりを見て、自分たちの小ささに気付かされたりはしますけれど。「俺たちはいったい何をやっているんだ?」って(笑)。

さやわか:男たちのしょうもなさが映し出されている映画でもありますよね。そこがむしろ、同性としては共感できて、後半はほとんど男たちが会議室でああだこうだ言っている場面ばかりなのに、面白いんですよ。特に良かったのは、このご時世になかなか言いにくいところではあるのですが、女の子たちの写真を並べて「誰が良いか?」を言い合いながらチーム分けをするシーン。誰が誰にアタックするかをじゃんけんで決めたりとか、ホント最低なんですけれど、“男子の部活感”が出ていて微笑ましかったです。ところで、ルールがだいぶ複雑でしたが、皆さんちゃんと理解して参加している感じなのでしょうか?

山下:ルールは会議とかで話し合いを重ねて決めていったんですけれど、正直なところ、僕は途中からわかんなくなっちゃいましたよね(笑)。だから、何かをするときはいちいちルールブックを見ながらやっていました。

さやわか:女の子に「やめてください」と言われたら減点、というルールがありましたけれど、山下さんは撮っているときにまったく気付いていませんでしたね。あとからみんなで映像を見て、ようやく気付くという。あのシーンは熱かったです。ルールを厳格に守っているだけではダメで、攻められるときは攻めなければいけないんだけれど、やっぱり落とし穴にハマってしまう感じで。相手が、「これはキャノンボールだ」って気付いているのを前提としてホテルに行って、そこで相手に納得してもらってどこまでポイントを稼げるか、そのせめぎ合いが見えました。これは、アイドルがファンと築いている関係性とも似ていますよね。お互いに、「これはルールのもとにやっているプレイなんだ」ってわかりながら、どこまで行けるかを探っている感じで。

山下:僕が接した女の子の中では、あのシーンが唯一、山あり谷あり的なところでしたね。実は他にもたくさんビデオを撮っていたんですけれど、ほとんど何も起きなかったんですよ。基本的に、オーディションに落ちた女の子をターゲットにしているから、みんなテンションが下がっていて、うまく物語が進んでいかないんです。

さやわか:なるほど。例のホテルまで行った女の子のとき、山下さんは「情に訴えかける作戦」を実行していたじゃないですか? 「キャノンボールは大変なんだ、なんとか協力してほしい」っていう感じで。逆に、こういったシチュエーションで「情に訴えかける作戦」以外に、どんな作戦があるんですかね?

山下:お金とか、夢とかですね。カンパニー松尾さんは実際に、夢破れた子にまた新しい夢を与える作戦を実行して、「オーディションには残念ながら落ちてしまったけれど、君の次なる夢としては……」とか言ってAVデビューを勧めていたけれど、あの戦法は結局ダメですよ(笑)。

さやわか:あはは、あれすごい論理でしたよね(笑)。結局、女の子との間に「これはキャノンボールなんだ」っていう共通認識があった上で、協力してもらうしかない。BiSのプー・ルイさんなんかはもうわかりきっているから、交渉次第ではある程度サービスしてくれますし。その上で宮地さんがBiSHのアイナ・ジ・エンドさんにガチ恋したことを考えると、実はかなり複雑な話ですよね。まず、宮地さんは仕事として相手を騙さなければいけないというのがあって、アイナさんはそれに気付きつつもレッスンを頑張っていて、宮地さんはそのうちにガチ恋してしまって、「仕事とは別に、本当に好きだ」ってアピールするわけで、三重のレイヤーになっている。最後に現実を突きつけられて泣いてしまったのも、わからないでもないというか……。

山下:なるほど。僕はもうそういう感情をなくしてしまったから、彼の気持ちがよくわからないのかもしれません。アダルトビデオの撮影では、女優さんにちょっかいを出そうものなら、相応の手痛いペナルティがありますから、そういう感情を持たないようにして撮影を進めていくのが普通です。ちゃんと感情を切り離している。アイドルも、スタッフが惚れたりするのはタブーですよね?

さやわか:もちろん、完全にタブーです。ただ、アダルトビデオの世界の方がむしろしっかりしていて、地下アイドルとかになってくると本当にグダグダだったりして、Twitterでファンとのよろしからぬ関係性が暴露されたりとか、しょっちゅうあります。僕はそういう現場をよく知っているからこそ、宮地さんの気持ちがわかったのかもしれません。WACK代表の渡辺淳之介さんは、そういう風に二重三重に人の思惑が動いていくこと自体を見せたいのかなと思います。

■山下「僕らは落ちてくるのを待っているワニ」

山下:WACKのオーディションに集まってる子たちは、他のアイドルを目指す子とはちょっと違うんですか?

さやわか:おそらく、少し違うと思います。例えばハロプロのオーディションを受ける子は、「ハロプロのアイドルになりたい」という具体的な像があって、言ってみれば「宝塚に入りたい」という感覚に近いんですよ。でも、WACKオーディションの子たちは、「とにかくアイドルになりたい」という感じで、目指しているアイドル像はそれぞれ違っているのかなと。だからこそ、『アイキャノ』の企画も成り立っているところがあって、それぞれが抱くアイドル像が違うから、ファンにしてあげられることの範囲も違っていて、そこに「ひょっとしたら、この子だったらワンチャンあるかも」という希望を感じさせるんです。

山下:僕らも「まあ、うまく行くことはないだろう」と思いつつ、そのガラスに小さなヒビさえ入れば、そこからこじ開けていくことはできるんじゃないか? とは思います。個々の性格を見ていると、これがオーディションの場じゃなければ……と感じる女の子は確実にいますね。たぶん、顔を隠しても良いと言えば、いける子はいたんじゃないかな? 結局、そういう女の子は自分のパーソナリティーがバレるのが怖いわけで、興味はありますから。

さやわか:そもそも、よく考えれば企画の成り立ち自体が不思議ですよね。悪魔合体的というか、なぜアイドルオーディションとキャノンボールを組み合わせたのだろうと。ところが、よく観ているうちに、実は理にかなっているような気もしてくる。オーディションに落ちた子を狙っていく感じとか、すごくAVの企画っぽいですし。

山下:僕らの役割は、女の子たちが橋を渡っている下で、池で落ちてくるのを待っているワニみたいな感じですよね。下からジーっと見てる(笑)。常に腹黒い気持ちで女の子たちと接していました。

さやわか:たしかに(笑)。女の子たちが泣いている時に、優しいフリをして順番に肩を叩いていくシーンとか、単純にゲームのポイントを稼ぎにいっているだけで。でも、アイドルの女の子たちだって、ファンのことが大事、大好きって言っていて、それは本気の部分もあるかもしれなけれど、仕事としてやっているという意味では同じだから、案外、おたがい様なのかもしれませんね。

■さやわか「アイドルのドキュメンタリーとして完全におかしい」

さやわか:それにしても、5泊6日って過酷ですよね。毎日、みんなで会議を開いて、そこにも駆け引きがある。しかも、会議が終わった最後には路上ナンパにまで繰り出すわけじゃないですか? 相当ハードだと思うのですが、そんな中でMV監督である岩淵弘樹さんは誰よりも根性を見せていました。山下さんが「仕事なんだから頑張ろうよ」って言ったのが効いたんですかね?

山下:あの台詞、本当は岩淵に頑張ってもらおうと思って言ったわけではなかったんですけれどね。本当は、裏で女の子たちに「岩淵って、すごいウザイ奴がいるから気をつけて。ちょっとでも嫌なことがあったら、すぐに『やめてください』って言うんだよ」って吹き込んで、岩淵にはもっと色んなことを仕掛けるべきだってハッパをかけていたの(笑)。ほかにもいっぱい落とし穴を掘ったんだけれど、なかなかハマってくれなくて。

さやわか:結果として、岩淵さんは正当な頑張りを見せてしまったわけですね。

山下:本当に、余計なことしなければ良かった。

さやわか:和気藹々としているように見えて、ちゃんと勝負しているんですね。でも、賞金が個人優勝で10万円、チーム優勝で各5万円で、これが多いのか少ないのかはよくわからなかったです(笑)。どちらかというと、名誉のためにやっていた感じですか?

山下:どうなんでしょうね。僕ら自身がまず「キャノンボール」のルールがよくわからなくなっているし、BiSたちがグループ同士でオーディションと同時にやっていた「曲の取り合い合戦」も、ことの重大さがよくわからなかった。例えば僕の場合、AVでなにかのシリーズものを思いついて撮って、それをほかの誰かが真似して撮ったとしても別に全然かまわないもん。だから、別に曲取られても良いじゃないの?って思ってしまって。

さやわか:自分のことに置き換えてもよくわからないわけですね(笑)。前回の『劇場版 BiSキャノンボール2014』と比べると、なにか違いはありましたか?

山下:あまりアイドルの子たちを邪魔せずに済んだのは良かったですね。一生懸命やっている人の邪魔ってしたくないじゃないですか? でも、基本的に邪魔をする企画だから、心が締め付けられるんですよ。それで前回は気持ちが萎えてしまったところがあって。でも、今回はオーディションに落ちた子たちがターゲットだから、気持ち的に少しは楽でした。

さやわか:でも、『BiSキャノ』のときは各メンバーと相部屋だったわけで、その分いろいろと仕掛けやすかったと思うんです。今回は合宿だからこそ、難しい部分もあったのでは。

山下:それはもう、やりにくいですよ(笑)。基本的に、オーディションの最中はみんな必死だから、見守るしかないです。なんとか接点を作ろうと思うんだけれど、「今日はマラソン頑張ったね」くらいしか言えない。食事のときでさえ、みんなポイントを稼ごうと必死だから、近寄りがたいです。それで結局、普通にオーディションのドキュメンタリーを撮っているみたいになっちゃう。オーディションに落ちるか落ちないか、みたいなところで、僕らはようやく動き始める感じでした。すでにアイドルとして活動している子とか、受かっちゃうような子は、本当に見ているだけでしたね。

さやわか:なるほど、『アイドルキャノンボール』だけど、本物のアイドルには近寄れなくて、落ちてくる人に仕掛けていくという。それはそれで世の中の縮図というか、すごいドラマですね。

山下:僕らとしては、選考審査に落ちた人とかの方が気になる存在なんですよ。それはもう完全にただの素人なので、逆に燃えるというか。一方で高校生とかは最初から論外だから、まったく眼中にありませんが。

さやわか:高校生はダメって時点で、もはやアイドルを見る目ではないですよね。カメラも尻とかばっかり追っていて、アイドルのドキュメンタリーとして完全におかしい(笑)。こんな企画、WACKじゃなければ絶対に許されないですよね。

山下:普通なら通報ですよ、もう(笑)。

■山下「渡辺さんはエロさを基準に女の子たちを選んではいない」

さやわか:こういう企画を通してしまう渡辺さんって、本当に変わっていますよね。人に夢を見せるのがアイドルだと仮定すると、ここでは逆に夢破れる人たちにスポットを当てているわけで。本音のところでは、アイドルの子たちをどう思っているんですかね?

山下:難しいですね。仕掛けを考えながら自分で演じてる部分もあるから、根っこで何を考えているのかはわからないです。

さやわか:渡辺さんは以前、「僕は自由に泣くことができる。場合によっては、泣けば、みんな納得すると思って泣ける」といった趣旨のことを言っていて、どうかしてると思いました。

山下:サイコパスですね(笑)。そんな人のこと、わかるわけないですよ。でも、女の子たちの反応があるから、泣きやすいというのはあるのかもしれない。プロデューサーの高根さんはどう思います?

高根P:女の子たちに自己を投影しているところはあると思います。彼は早稲田大学を卒業して、その後どうしても音楽の仕事がしたくてレコード会社を受けたんだけれど、全然受からなくて、それがショックだったらしいんです。「俺の人生終わった」とまで言っていました。でも、そこからいっぱい失敗をしながら、なんとか自力で這い上がってきたんですね。だから、女の子を採用するときも、歌がうまいとかルックスが良いとかより、雑草みたいに強く生きようとしている人を選ぶ傾向があるんです。仕掛けをしながらも、人のそういう部分を見せていきたいというのはあるんでしょうね。

さやわか:なるほど、たしかにそういう意味では、渡辺さんのプロデュースするアイドルは、歌がうまいとかダンスがうまいとか、そういう次元のものではないですよね。

山下:そういえば撮っている最中も、歌とかダンスに対しての具体的な指摘は、たぶん一回もしていなかったですね。

さやわか:「大きい声出して!」とかでしたよね(笑)。撮影する側としては、ああいうタイプの女の子たちは口説く対象としてどうなんですか?

山下:うーん、総じて言えるのは、みんな「エロくはない」ってことですね。僕がアイドルを知らないだけかもしれないけれど、少なくとも渡辺さんはエロさを基準に女の子たちを選んではいないと思います。

さやわか:あはは。でも、渡辺さんのプロデュースするアイドルって、結局のところ、生味の感情みたいなところが見えたときに、「あれ? もしかしたらこの子は可愛いのかもしれない」と感じてしまうところに魅力があるわけで、そういう意味では彼女たちの良さが滲み出た映画ではあったのかもしれません。

山下:滲み出ていますかね(笑)?
(取材・文=松田広宣)

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