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「Plastic Love」世界的ヒットに“3つの文脈” tofubeatsカバーリリースを機に解説

リアルサウンド

19/1/27(日) 10:00

 DJでプロデューサーのtofubeatsが、竹内まりやの名曲「Plastic Love」(1984年のアルバム『Variety』収録)のカバーバージョンをリリースした。2018年のアルバム『RUN』ではボーカリストとしての存在感も示した彼が、自らボーカルをとった意欲作だ。

(関連:宇多田ヒカル、cero、tofubeats……2018年のJ-POPにおける“ポリリズム”の浸透

 ドラムマシンのTR-707やシンセベース、そして少しチープなピアノをフィーチャーしたハウス寄りのアレンジは、まさにtofubeats印。レトロで簡素なサウンドながら響きはとても現代的でダンサブルでもある。「ロボ声」的なオートチューンは控えめだが、かわりにボコーダーがアウトロを彩る。原曲へのリスペクトとダンスミュージックの文脈とが違和感なく結びついている一曲となった。

 一方、「Plastic Love」という楽曲そのものも、ある評論家が「2018年に海外で最もヒットした邦楽」と呼ぶほどの注目を集めている(参考:https://www.japantimes.co.jp/culture/2018/12/18/music/saying-goodbye-heisei-u-s/)。ここ半年は国内のさまざまな媒体でもこの異例の「ヒット」が驚きをもって取り上げられており、2018年末のラジオ番組『山下達郎のサンデー・ソングブック』(TOKYO FM)で山下達郎・竹内まりや両人からこの現象への言及があったほど。再評価の波は、台湾出身のソウルシンガー・9m88や、東京出身の若手R&Bシンガー・Friday Night Plansなどによる相次ぐカバーバージョンのリリースに至り、そしてついに、シティポップへの偏愛を公言してきたtofubeatsが満を持しての登場というわけだ。

 ヒットの震源地はYouTubeだ。著作権者の申し立てで削除されてしまったものの、YouTubeに違法にアップロードされていた同曲の動画は2,400万回以上の再生数を誇った。世界的に見ればマイナーな日本人シンガーの楽曲がこれほど再生された例も他に見当たらない。

 この動画の影響力は再生数だけでは計り知れない。たとえばGoogleで「Plastic Love」を画像検索してみると、こんな結果が出てくる。

 竹内まりや本人のポートレイトがほとんどだが、これは先述した動画に添えられていたものと同一だ。これは同曲収録の『Variety』ではなく、別のシングル「Sweetest Music」のジャケットからとられたもので、「Plastic Love」と関係がない。にもかかわらずこんな結果が出るのは、ひとえに件の動画の影響力による。

 なぜこれほどまでに「Plastic Love」が聴かれたのか。よく言及されるのは、YouTubeのおすすめアルゴリズムだ。YouTubeを利用していて、関連動画の欄になぜかいつも同じ動画が表示される、といった経験はないだろうか。ずっと表示されるので好奇心に負けて再生してしまったという人も少なくないはず。「Plastic Love」のヒットもその原理によると言われている。YouTubeのおすすめアルゴリズムになぜかこの曲がひっかかり、多くのユーザーの関連動画欄に表示されるようになったのだ。

 アルゴリズムの気まぐれがヒットのきっかけという楽曲は他にもある。ローファイハウスの名曲、Ross From Friends「Talk To Me You’ll Understand」などだ。

 音楽系ウェブメディアのThumpは、「ローファイハウスはアルゴリズム時代の最初のジャンルなのか?」と題した記事でこの現象について考察している(参考:https://www.vice.com/en_us/article/yp9e5j/lo-fi-house-youtube-related-video-algorithm-essay)。また、2018年に待望の来日公演も果たした、ノルウェーの若手シンガーソングライター・Boy Pabloも、YouTubeのアルゴリズムが人気に火をつけたと言われている(参考:https://www.complex.com/pigeons-and-planes/2017/10/boy-pablo-everytime-youtube-algorithm-interview)。

 一方、「Plastic Love」が音楽好きの間で受け入れられる準備が整っていたのも確か。サブスクリプション時代の到来とともに巻き起こったアナログレコードブームは、世界中のレコード需要を活気づけた。そこにタイミングよく70年代から80年代にかけての日本の中古レコードが市場に数多く出回るようになったのだ。これによって、山下達郎や大貫妙子を代表とする日本のシティポップが再評価された。音楽好きはこぞって、「Plastic Love」のような日本型ポップミュージックに注目していたのだ。

 そうした音楽好きからの熱い視線と同時期に発展した、フューチャーファンクと呼ばれるインターネット発の音楽ジャンルも見逃せない。主に日本産のシティポップをカットアップし、少し懐かしいフレンチタッチのハウスミュージックに仕立てたポップなサウンドで人気のジャンルだ。ただしその系譜をたどると、2010年代のアンダーグラウンドを代表するマニアックなジャンル、ヴェイパーウェイヴに通じる奇妙な来歴も持っている。このジャンルが人気を獲得するにつれて、元ネタになる日本のシティポップも愛好家を増やしていった。

 フューチャーファンクシーンでも「Plastic Love」は評価が高く、韓国のDJ、Night Tempoのリミックス「Plastic Love(Night Tempo 100% Pure Remastered)」はYouTubeで740万回再生に届こうという人気。また、tofubeatsも自身のカバーバージョンがフューチャーファンクとしてリミックスされることを見越して、リリース直前にセルフリミックスを公開している。

 つまるところ、「Plastic Love」のヒットには、3つの異なる文脈が絡み合っている。第一には、YouTubeのリコメンドアルゴリズムが生み出す偶発的な出会い。第二には、世界的なレコードブームに伴う日本のシティポップへの注目。第三には、フューチャーファンクなるジャンルの流行。「Plastic Love」はこれらの文脈の結節点にたまたまフィットしたのだ。

 そして、なによりも「Plastic Love」はそうした様々な文脈を横断してなお人びとの耳を惹きつけるだけのポテンシャルを持った楽曲だった。tofubeatsらのカバーバージョンと共に、21世紀の新たなスタンダードナンバーの誕生を改めて祝いたい。(imdkm)

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