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韻シストから感じた、20年間“好きなこと”を貫き続ける姿勢と重み 『IN-FINITY』ツアー東京公演

リアルサウンド

18/12/18(火) 16:00

 熱く、穏やかで、笑いが絶えない時間だった。でも、そこには、たしかな“重み”があった。続けてきたことの重み。背負ってきたものの重み。その屈強に見える肉体が、それでも、その歴史の中で負ってきたであろう傷や孤独の重み。11月24日、恵比寿LIQUIDROOMにて行われた、韻シストのアルバム『IN-FINITY』リリースツアーの東京公演。1998年に結成された韻シストにとって、『IN-FINITY』は結成20周年を記念するアルバムでもあった。

 だが、そこで綴られているものが決して喜びや祝福の想いだけではないことは、アルバムの1曲目であり、この日のセットリストの1曲目も飾った「時代」のリリックを聴いても明らかだった。

〈どっかのバンドがHIP HOP路上でplayしてた
正直何ひとつこなくて 普通にスルーして通り抜けた
20年前じゃまず見れない光景〉

〈誰かの当たり前も苦悩の日々が創り上げたんだと
一人虚しく噛み締める刹那 切ないわけではないが未知とか無知なら
オレが歌うしかないから〉
(韻シスト「時代」)

 ヒップホップが時代の、音楽シーンの中心部に位置している昨今。しかし、韻シストの目に映っているものは、世間のざわめきよりも、「誰かの当たり前」を作り上げた「苦悩の日々」の方なのかもしれない。その「苦悩の日々」とは、韻シスト自身がこの国における「ヒップホップバンド」のパイオニアとして積み上げてきた20年間であり、もっと言えば、様々なアーティストたちが実験や冒険を繰り返してきた、ヒップホップというアートフォームがこの世に生まれてからの長い歳月かもしれない。誰かが作った道の上を走るだけなら楽だろう。だが、道を作る側の人には、その道を作るためにかけられた時間やアイデアの重み、苦しみの価値がわかる。今、韻シストの目に映るのは、そんな積み上げられてきたものの重さの方なのかもしれない。

 ……とまぁ、物々しく書き出してしまったが、この日はめちゃくちゃ楽しかったのだ。「楽しかった」という頭の悪い書き方をしてしまうくらい、祝祭感に満ちた、楽しいライブだった。「踊るtonight」が始まった瞬間、その煌びやかなメロディとビートに誘われてフロアを包み込んだダンサブルな熱狂。「Old school-lovin’」の演奏前、サーフィンやスケボー、レゲエなどが盛んだというBASIの地元・岸和田トークから続いて披露されたのは、ラップを世界中に広めるきっかけとなったThe Sugarhill Gangの「Rapper’s Delight」。さらに「Don’t worry」での、20年というバンドの年輪がそのまま「優しさ」へと直結したような包容力溢れる演奏と、その優しさに包まれたフロアから生まれた一体感溢れる合唱。

 そして、キュートなソウルポップサウンドにフロア中がハンドクラップで応えた「Don’t leave me」……などなど、ヒップホップが本質的に持つ「自由」をそのまま体現したような特別な瞬間が立て続けに巻き起こっていく。さらに「Dear」では、1度始まった演奏を中断させて、Shyoudogが、関係者エリアでライブを観ていた、韻シストが参加するレーベル「Groovillage」の主催者でもあるPUSHIMを急遽ステージに呼び込むというサプライズ(ハプニング?)も。結果として、PUSHIMメインボーカルで「Dear」を披露するという展開は鳥肌ものだった。

 ……そう、本当に楽しかったのだ。ただ、その「楽しさ」の裏に、彼らが貫いてきたものの圧倒的な芯の太さを、その演奏からは確かに感じた。こうやって仲間たちと音楽を交わし、言葉を交わし、酒を交わす。日々の中で、その楽しさや喜びを守り、貫き通すことがどれほど難しいことか。ふたりのMC、BASIとサッコンの、ときに緩く、ときに鋭い絶妙な間合いも、TAKU、Shyoudog、TAROW-ONEの楽器隊が生み出すしなやかなアンサンブルも、その全てが、この喜びを守り、貫き通すために20年の歳月をかけて選び取られた選択肢であり、熟成された技なのだと、この日のステージを観てまざまざと感じさせられた。

 アンコールでは、この日のゲストアクトRickie-Gと共に、Rickie-Gの名曲「Life is wonderful」がコラボで披露された。ステージ上はもはや飲めや歌えの大騒ぎ状態だったのだが、その中で酔っぱらったRickie-Gが本当に嬉しそうに言っていた、「韻シストは、メンバーそれぞれが好きなことをやっている感じがするんだよ。だから俺は韻シストが好きなんだ」という言葉。きっとRickie-Gも、「好きなことをやる」ことの難しさ、それを20年続けていくことの重みをヒシヒシとステージ上で感じていたのだろう。

 決して軽くない20年。決して軽くない音楽。しかし、それを爽やかな風のように私たちの耳に届けてみせる韻シストのを、これでもかと感じさせられる夜だった。

■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。Twitter

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