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ぴあ

the pillowsが30年愛され続ける理由ーーバンドの奇跡の軌跡を辿る

リアルサウンド

18/9/28(金) 14:00

 山中さわおの作る曲は、いつもみずみずしい。どんなに切なくても、あるいはどんなにトガって、荒ぶっていても、その歌のどこかには特有の青さが宿っていて、ロマンチシズムが流れている。

 そしてそれこそが、the pillowsの音楽の魅力だと思う。

 このバンドが結成されたのは1989年9月16日のこと。つまり来年、2019年はその時から30周年を迎えることになり、現在のthe pillowsはそれに向けてのアニバーサリー期間に突入している。

 その最初の段階として、この9月19日には通算で22枚目となるオリジナルアルバム『REBROADCAST』がリリースされたばかり。11月から来年3月にかけては全国をくまなく廻るツアーのスケジュールが発表されている。また山中は、結成30周年の記念日となる2019年の9月16日あたりに大々的なライブイベントを行うことを明らかにしており、その舞台はおそらく東京近郊の大会場になるはずである。

 と、今や日本のロックシーンの一角に堂々と君臨するthe pillowsだが……仮に今、タイムワープして1990年前後の日本に戻り、音楽ファンを捕まえて「the pillowsが30年続くよ」と言ったとしても、誰も信じてはくれないだろう。当時の彼らに、そんなにたくましいイメージはないからだ。いや、何よりも、その頃は、バンド自体がそこまで認知されていなかったというのが正直なところか。

 そう。残念なことにthe pillowsは当初、その存在をなかなか知られることがないバンドだった。もっとも今にしてみても、ビッグヒットがあるわけでも、TVなどに出てお茶の間レベルでおなじみになったこともないし、派手な話題で騒がれたこともない。しかし彼らを好きだと言うファンは、掛け値なしに熱い。本当に徐々に徐々に、ひとつひとつの積み重ねによって、この30年を歩んできたバンドなのである。

 先ほどのthe pillowsの結成は、1989年当時、札幌の真鍋吉明(ギター)のアパートで、メンバーが集まってバンド名を決めた日とされている。リーダーでベースの上田健司(当時は上田ケンジ)とドラムスの佐藤シンイチロウは元KENZI & THE TRIPSで、パンクシーンではすでに有名だった。そしてthe pillowsという名前は、真鍋の部屋に飾られていたUKの<チェリーレッド・レコード>のコンピレーション盤『Pillows & Prayers』から取られた。80年代初頭、パンク~ニューウェーブ以降の新しい音楽を輩出していた同レーベルの名オムニバスだ。これは最初期のthe pillowsがUKロックの指向性を持っていたことを示す事実でもある。

 インディでの活動を経て、the pillowsは1991年にメジャーデビューを飾る。この頃は数年にわたって続いたバンドブームの終焉期だっただけに、決していいタイミングだったとは言えない。ただ、近い時期のデビュー組にはスピッツやウルフルズがいるし、もう少しあとには所属事務所BAD MUSICの後輩バンドだったMr.Childrenが頭角を現す。この当時のthe pillowsには「僕らのハレー彗星」のようないい曲もあるのだが、バンドの足並みと実力、さらにシーンの動きがリンクすることがなかった。

「僕らのハレー彗星」(2010年代後半の過去の作品の再現ライヴより)

 また、当初の山中のUK指向はとくにモッズカルチャーを意識しており、90年代半ばまでのthe pillowsのサウンドやファッションにはその影響がしばしば見られる(これには彼の憧れであるザ・コレクターズの存在も大きい)。ただしモッズは、当時の(そして今も)日本の音楽界では浸透していると言えない文化だった。

 このメジャー在籍の初期は、上田健司の脱退やレーベルの移籍を経ながらも、音楽的には貪欲で、ソウルやジャズを取り入れた時期もあった。「Tiny Boat」というロマンチックな曲も生まれたが、依然として時代がthe pillowsに微笑むことはなかった。当時、インタビューの席で山中は「もっと(多くの人に)知ってもらえたら、好きになってもらえる自信はあるんだけどな」と話してくれたものだった。

Tiny Boat/the pillows

「ストレンジカメレオン」「ハイブリッド レインボウ」の誕生

 そんな中でひとつの大きな出来事が起こる。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTとの出会いだ。人づてにこのバンドを知った山中は、彼らの音に衝撃を受け、BAD MUSICに紹介。やがて同事務所に所属することになった2バンドは1995年の秋、早稲田大学の学園祭で共演するのだが……ここでデビュー直前の激烈なパワーを放ったミッシェルを目の当たりにして、山中は「完全に負けたね」とのちに語っている(the pillows『ザ・ピロウズ ハイブリッド レインボウ』2009年刊より)。

 この時期から意識を大きく変えたという山中は、バンドのサウンドをかねてから構想していたギターロックへと転換していく。1996年に発表した「ストレンジ カメレオン」はオルタナティブロックに傾倒していた彼の感覚の一端が現れた曲。そしてこれは〈まわりの色に馴染まない 出来損ないのカメレオン/優しい歌を唄いたい 拍手は一人分でいいのさ/それは君の事だよ〉という歌詞にあるように、山中の覚悟がうかがえるナンバーでもあった。決してキャッチーではないこの曲のシングルリリースに際しては反対意見も多かったというが、結果的にはFM各局のヘビーローテーションを獲得。とくに関西での人気は高く、当時これで初めてthe pillowsを知ったというリスナーも多かったはずである。

ストレンジカメレオン/the pillows

 少しずつ状況が開かれていく中、彼らは充実作を重ねていく。リスナーへの感謝の気持ちを示した『LITTLE BUSTERS』(1998年)に始まり、『RUNNERS HIGH』『HAPPY BIVOUAC』(1999年)と続いたオリジナルの6~8作目は、バンドの黄金期と呼べるアルバム群だ。かねてからプロデュースを担当していたSALON MUSICの吉田仁とのタッグも、非常にいい形でサウンドに反映されている。

 とくに『LITTLE BUSTERS』に収録された「ハイブリッド レインボウ」はthe pillowsを代表するナンバーと言える。〈昨日まで選ばれなかった僕らでも/明日を待ってる〉という一節に勇気をもらったというファンはきっと少なくないのではないだろうか。

ハイブリッドレインボウ/the pillows

 穏やかではあるが、確実に上昇気流に乗りはじめたthe pillowsを支持する声は各方面からあがってきていた。そんな中、やや意外な男がこのバンドに接近した。当時すでに巨大な人気を獲得していたGLAYのベーシスト、JIROである。1999年、自身のFM番組で『RUNNERS HIGH』を聴いた彼はこのアルバムに感じ入るものが大きかったようで、直後にthe pillowsのライブに足を運び、山中をはじめとしたメンバーと初対面。呑み仲間となった彼らはイベントでNirvanaのコピーを演奏したりするようになり、やがてこれが2005年のTHE PREDATORSの結成へと至っていく。その際のドラムにはさらに下の世代であるストレイテナーのナカヤマシンペイが迎えられた(のちにELLEGARDEN/PAM/Scars Boroughの高橋宏貴に交代)。

 さらにここまでの間の2004年には結成15周年を記念したthe pillowsのトリビュートアルバム『SYNCHRONIZED ROCKERS Tribute to the pillows』がリリースされている。これには上記のストレイテナーやELLEGARDEN、旧知のTheピーズにSALON MUSICはもちろん、JIROを交えたセッション、さらにMr.Children、BUMP OF CHICKENが参加。多くのビッグネームが名を連ねた本作もあり、体感的に、音楽ファンの間でthe pillowsへの注目度が最も上がったのはこのタイミングだったと記憶している。2006年にはMr.Childrenとの対バンツアーも実現。当時インタビューした時、山中は「the pillows自体は売れないけど、売れてるミュージシャンには人気のあるバンドなのかな」と笑っていたものだ。

『フリクリ』『SKET DANCE』などアニメ・漫画カルチャーからの支持

 また、the pillowsを求める声は意外なことに海外からも起こっていた。かつて挿入歌やテーマソングを作ったOVAの『フリクリ』が2000年代の序盤からアメリカをはじめとした海外で人気を集めはじめており、それとともにthe pillowsの楽曲にもファンが付いていたのだ。折しも時代的には動画サイトを介して国境を超えた作品の視聴が一般的になりつつあり、国外のリスナーも日本の文化にアプローチできるようになっていた頃。その要望を受けてthe pillowsは2005年からアメリカなどの海外ツアーを何度か敢行している。なお、今年の夏にはアメリカツアーを7年ぶりに行い、かつてよりさらに熱狂的な歓迎を受けたとのことだ。

 ちなみにこの『フリクリ』は現在ひさしぶりとなる続編2作が劇場公開されており、それにあたってthe pillowsは新曲を書き下ろしたのに加え、自分たちの過去の楽曲のセルフカバーを録音。これらはサントラ盤としてリリースされている。

the pillows「Star overhead」「Spiky Seeds」×劇場版「フリクリ オルタナ/プログレ」アニメMV

 さて、話はもう一度、10年近く前に戻る。こうして各方面から高まる人気を背景にしながら、the pillowsは2009年、結成20周年の年に、ついに日本武道館でのライブを実現させる。大きなヒット作もない中で達成したこのコンサートはじつに感動的だったが、これに影響を受けたのはファンだけでなく、同業のバンドマンたちだったようだ。この後、日本の音楽シーンでは怒髪天、フラワーカンパニーズ、ザ・コレクターズ、Theピーズといった超ベテランバンドたちが次々と武道館公演を成功させていったが、振り返ればその先鞭をつけたのはthe pillowsだったのである(何しろthe pillowsは2010年頃にこの界隈のバンドたちとのスプリットツアーを企画している)。

 また、この頃にはマンガ『SKET DANCE』の文化祭のシーンで「Funny Bunny」(『HAPPY BIVOUCH』収録)が演奏され、歌詞が掲載されたことがあった。作者の篠原健太氏はthe pillowsのファンであることを公言しており、同場面のエピソードが単行本化される際には山中が帯にコメントを寄せることになった。

the pillows / Funny Bunny

 2011年にはthe pillowsが同作のTVアニメ『SKET DANCE』のエンディングテーマとして「Comic Sonic」を提供している。

the pillows / Comic Sonic

 さて、こうして大舞台も経験し、もはや確固としたポジションを築いた感もあったthe pillowsだが……事はそう簡単ではなかったようだ。2012年にはメンバー間の関係性を仕切り直す意味もあり、バンドはおよそ1年間の活動休止を行う。山中はアルバム『DISCHARGE』(2010年)などソロ活動の場も設けるようになり、一時はそちらに注力したように見えたこともあった。ただ、活動再開後はバンド内の雰囲気がいいようで、the pillowsとしてのコンスタントな活動が続いている。2枚目のトリビュート盤『ROCK AND SYMPATHY』(グッドモーニングアメリカ、9mm Parabellum Ballet、UNISON SQUARE GARDENなどが参加/2014年)や、かつてのアルバムの再現ライブもあった。

人間くささがほとばしるようなロックを鳴らした、最新作『REBROADCAST』

 そして29年目となる今年。最新アルバム『REBROADCAST』はthe pillowsの魅力が集約されたギターロックアルバムだ。そう、これぞthe pillows! といった印象を抱く作品なのである。

 ただ、今度のアルバムについては……とくにオルタナサウンドが響いているぶん、かつての彼らとの若干の違いも感じる。音も歌も、山中の言葉も、どこかメロウなのだ。

 1曲目のタイトルナンバーは勢いのあるギターロックだが、実は「やり直し」を願う曲である。「再放送」という意味の題名ともども、そこには今の山中のリアルさがにじんでいる。

 また、現代社会への批評性が感じられる「ニンゲンドモ」には、憤りや悲しみが根底にありながらも、そのギターサウンドはトガってはいない。むしろ優しさや希望を込めているかのように響く。

the pillows “ニンゲンドモ” MV (short ver.)

 ラストの「Before going to bed」は、英語で〈人生は一度きりだ/苦しんだ日々よ/つらかったけどオレは成長した〉〈最愛の人に感謝を伝えたいな〉と唄われる、エモーショナルなナンバーだ。自分が生きてきた道を振り返るようなこの歌に、そしてアルバム全体に、若かりし頃には想像できなかった山中の姿を見る思いがする。

 くり返しになるが、the pillowsの歌の魅力は、みずみずしく、そこに青さ、切なさがつねにあるところだと思う。そしてその中には、ロマンチシズムが……それも、どんなに報われなくても、どんなにしんどくても、自分が信じているものだけは見失わない! という強い意志が寄り添っている。それはまさに山中さわおという人間そのものであり、また、夢を追う、あるいは、夢を諦めきれない人々の心に火を灯すような歌になっているはずだ。そして、火を灯された人々が、今度はthe pillowsをずっと支え続けている。

 『REBROADCAST』にもそうした部分は確実に息づいている。だけど、ちょっとだけ、ほんの少しだけだが、今までよりも優しいし、あたたかい気がするのだ。思えば、ずっと少年のようなルックスの山中も、もう50代。カドが取れたり、心が広くなることがあっても、何も不思議ではない。

 だけど、おそらくではあるが、彼の芯の部分は揺らいでいない。山中はそういう男だ。それは、それこそ〈つらかったけどオレは成長した〉という過程の中で、そうした硬派な生き方が備わっていったのだと思う。

 30周年を迎えるthe pillowsには、そうした人間くささがほとばしるようなロックを、思いっきり鳴らしてほしいと思う。

(文=青木優)

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