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ぴあ

X JAPANは今もドラマを更新し続けるーー“無観客ライブ”決行した一夜を振り返る

リアルサウンド

18/10/7(日) 10:00

 X JAPANとはつくづく難儀なバンドだ。ここまで運命に翻弄され続けることも稀だが、そういった困難を常にプラスに変えて乗り越えていく。そんな稀有な存在が、またしても奇跡を生み出した。

(関連:『X JAPAN Live 日本公演 2018 ~紅に染まった夜~Makuhari Messe 3Days』ライブ写真

 X JAPANが9月28~30日の3日間、幕張メッセ国際展示場1~3ホールにて『X JAPAN Live 日本公演 2018 ~紅に染まった夜~Makuhari Messe 3Days』と題した単独ライブを行うことを発表したのは、開催まで約1カ月という8月19日のこと。そんな異例の事態だったにも関わらず、3日間で約10万人予定のチケットは見事完売した。

 そもそも彼らが国内で単独ライブを行うのは今年4月のZepp DiverCity以来だったが、このような大規模の公演となると2010年の日産スタジアム以来8年ぶり。ほんの少し前に、YOSHIKI(Dr/Piano)から長年にわたりファンから切望されてきたニューアルバムのレコーディングがついに終了したという朗報もあっただけに、この3公演にかける思いはファンのみならずYOSHIKIをはじめとするメンバーにも強いものがあったはずだ。

 初日の28日、2日目の29日は問題なく実施された。その様子は筆者も実際に足を運んだ友人を通して聞いていたし、Twitterを通じて流れてくるさまざまな情報から確認できていた。しかし、最終日の30日に関しては当日に大型の台風24号が本州上陸、その影響によるJR京葉線の18時以降の運転見合わせ、ならびにそれ以降の首都圏JR在来線の運転見合わせという前例のない事態を受け、観客の安全を第一に考慮して中止されることに。この中止発表も開場時間の1時間前というタイミングだったこともあり、かなりギリギリまで開催できないか検討したことが伺える。

 しかも、この最終公演はWOWOWメンバーズオンデマンドにて生中継されることも決まっており、単に幕張メッセを訪れた3万3000人のファンだけが対象ではない。それだけに、開催中止を決定するにも慎重だったはずだ。

 しかし、結果はご存知のとおり。すでに幕張に集まったファン、そしてこれから会場へ向かおうとする来場者が無事に帰宅できることを考えれば、この判断は正しかったと断言できる。

 ところが、X JAPAN、いやYOSHIKIはただでは転ばない。中止発表後、YOSHIKIは自身のInstagramにて「悔しくて涙が止まらない。。でもみんなの身の安全が第一です」と無念さを明かしたが、同時に「まもなく代替え案の発表を行う予定です」とアナウンスし、これが前代未聞の「無観客ライブの全編生中継敢行」であることが明かされる。しかも、この生中継はWOWOWメンバーズオンデマンドのみならず、YOSHIKI CHANNELでも急遽生配信されることになった。

 筆者はもともとこのライブに足を運ぶ予定こそなかったものの、この事態に「X JAPANらしいな」とニヤニヤしながら配信を観ることを決意。きっと、台風が間近に迫っていることも大きかったのだろう、変なテンションになっていたことは否めない。

 17時からの開演時間にあわせて配信はスタートしたものの、実際にメンバーがステージに登場したのはそこから2時間近く経ってからのこと。もちろん、この緊急事態にさまざまな準備が追加されたことも大きい。画面には会場の様子が映されるのだが、当然フロアは空席でガランとしている。この絵自体が異常そのもので、ここから本当にライブが始まるのか……きっと、誰もが疑ったはずだ。

 しかし、オープニングSEが流れ始めると同時に会場が暗転。メンバーが1人、また1人とステージに現れ、YOSHIKIがドラムセットの上に立つ。背面のスクリーンには両手を頭上で交差させる“Xポーズ”の観客の姿が映し出されるも、もちろんこれは前日までの様子を収めたものだろう。その直後に映る引き絵には、ガランとしたフロアが見えるのだから……。

 ライブのオープニングを飾ったのは代表曲「Rusty Nail」。観客ゼロの幕張メッセにて、メンバーはどんなテンションでライブを進めていくのか……きっと多くの人がスタジオライブ的なものを想像したのではないだろうか。かくいう筆者も、落ち着いたテンションの5人がライブを淡々と進めていく、そんな絵を思い浮かべていた。しかし、そこはX JAPAN。我々の想像をはるかに超える豪速球をぶつけてくる。ステージ演出や照明、そしてメンバーのステージングやToshl(Vo)の煽り含め、普段のライブとなんら変わらない全力のライブを提供してくれたのだ。Toshlはこれまでの音楽番組やライブ生中継時のように、カメラに向かって「お茶の間~っ!」と画面の向こうにいるファンを煽り続けるのだから、痛快ったらありゃしない。もうこの時点で、筆者含め視聴者はガハハと笑いながらテンションが上がったはずだ。

 ライブのセットリストは初日、2日目と一緒。つまり、無観客ライブだからといって曲数を減らしたりすることなく、バンドは目の前に“見えない観客”がいるかのように普段どおりのステージングを繰り広げていく。もちろん、曲中に大合唱が起こることもなければ、曲間にメンバー名を叫ぶファンの声援も聞こえない。音が止まれば、そこにあるのは静寂のみ。

 そんな異様な空気の中でMCが始まると、若干神妙な面持ちのYOSHIKIが「こういう結果(=開催中止)になってしまったことを、まず心からお詫びいたします。どうもすみませんでした」と頭を下げて謝罪する一幕も。しかし正直、そんなYOSHIKIやバンドを責めるファンはいないはずだ。たしかに、この日に向けて地方から幕張入りしたファンも少なくないだろうし、もしかしたらこれが初めて生で観るX JAPANのライブになるはずだった者もいるかもしれない。しかし、結果としてネットを通じてだが、こうやってライブを目にするチャンスを作ってくれた、そのために短時間で尽力したバンドを責められるはずがない。ときどき涙を浮かべながら話すYOSHIKIを目にしたら、もともとライブに行くつもりのなかった自分でさえも「いやいや、謝ることはないよ」と思ってしまったのだから。

 その後もSUGIZO(Gt/Violin)のバイオリンソロや、YOSHIKIの繊細なピアノソロ&派手なドラムソロを挟みつつ、とても観客ゼロとは思えないくらい熱いライブが進行していく。「紅」でライブ本編を終えたあとも、バンドはアンコールに登場して「WEEK END」や「ENDLESS RAIN」などの代表曲を矢継ぎ早に披露。そしてラストナンバー「X」では曲中、YOSHIKIが客席に降りてCO2を噴射しまくる演出も決行される。誰もいない客席を練り歩きながらCO2を噴射する絵は確かにシュールなのだが、YOSHIKIはそんなことお構いなしに、いつもと変わらず煽りを続ける。もちろんその間、ステージ上に残されたほかのメンバーは演奏を続けながら、目の前にいる“はず”の観客への煽りを忘れない。

 そうだ……彼らには見えているんだ。前日、前々日と同じ場所でパフォーマンスしてきた彼らには、そこにいるはずだった観客の姿が……。MCの際にYOSHIKIやToshlが何度も「透明のお客さん」と口にしたが、実際にはその場にいなくても彼らにとっては間違いなくそこに3万3000人のファンがいるのだと。彼らのように無観客でも普段と何も変わらないライブを最後までやり通せるバンド、果たしてどれだけいるのだろう……そう考えたら、それまでゲラゲラ笑っていたはずの自分もちょっとグッときてしまった。

 2時間半以上にわたるフルスケールのライブを終えたYOSHIKIは、その場に倒れ込んだ。当然だ、一切手抜きのない、本気のライブをやり遂げたのだから。PATA(Gt)やHEATH(Ba)の表情もいつもと変わらない。SUGIZOなんてスマホを客席に向けて写真を撮っていたのだから……。

 ライブが終わってから数日後、YOSHIKIは「エージェントが米国のため、そことの連絡、日本の主催者及び日米の弁護士と開催有無の話し合い、放映権の交渉、サウンドチェック、リハ、ファンの方々への対応、メンバーミーティング等」と、この中止を決断するまでがいかに大変だったかを自身のInstagramで明かしている。

 「あーなんか映画になりそう。思い出したくないけど 。(笑)」の言葉どおり、こんなにもドラマチックな出来事はそうそうない。MCでも「普通は七転び八起きだけど、X JAPANは1700転び1800起き」と冗談交じりに語られたが、ハプニングが起きても絶対にそのままでは終わらせないのがX JAPANなのだ。だからこそ“伝説のバンド”は過去のものにならず、今もドラマを更新し続けながら今日に至るわけだ。

 この、ほんの数時間にわたる出来事だけでも、ほかのバンドには真似できない行動力と説得力があることが理解できたはず。改めて誰も敵わない“バケモノ”だなと実感したと同時に、2018年になってもこうして彼らとドラマを共有できる幸せを噛み締めた一夜だった。(西廣智一)

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