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こんまりメソッド、なぜ全米で大反響? 日本発の片づけ術が“セラピー”として機能する理由

リアルサウンド

19/1/24(木) 8:00

■こんまりメソッドはプロテスタントに通じる?

 「片づけコンサルタント」で知られる近藤麻理恵が2011年に出版し、ベストセラーとなった著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)。「ときめく」をキーワードに、大胆に持ち物を減らす片づけ法は、2014年に翻訳された「The Life-Changing Magic of Tidying Up」として海外でも話題となった。そして2018年、こんまりこと近藤は、映像配信サービスNetflix『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』(原題:Tidying Up with Marie Kondo)のホストとしてみずからの番組を持つにいたった。同番組は米国内でも開始直後から大きな注目を集めており、社会現象と化しているのは周知の通りだ。

 たしかに『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』は、単なる片づけのビフォーアフターを見せるだけではなく、いかにもアメリカ人が好む自己啓発とセラピーの要素がふんだんに取り込まれたプログラムだ。アメリカ人、わけてもプロテスタント(キリスト教の一派)には、みずからを律する規範を持ち、成功へ近づこうとする姿勢がある。たとえば18世紀に活躍したアメリカ建国の父、ベンジャミン・フランクリンが説いた「フランクリンの13徳」は、掲げられた13の項目を守って規律正しく生活することで、成功へ向けて自分自身を変革していく、いわばアメリカにおける自己啓発の元祖だが、そのなかには「身体、衣服、住居の不潔を容認しないこと」(『フランクリン自伝』中公クラシックス p192)との項目がある。勤勉さや決断力の重視、飲酒や浪費を慎むといった項目と同様、「住居の不潔」は成功の障壁であり、フランクリンにとって許容しがたいものだった。ことほどさように、近藤が推進する「こんまりメソッド」は、フランクリンの13徳、ひいてはアメリカにおけるプロテスタンティズムに通じる部分がある。以下のふたつを読みくらべればわかるが、こんまりメソッドとフランクリンの13徳はまったく同じことを述べている。

「三、規律 自分の持ち物はすべて置くべき場所を決めておくこと」(『フランクリン自伝』p192)

「自分が持っているあらゆるモノの定位置を一つ残らず決めること。じつはこれこそが収納とは何かの本質なのです」(『人生がときめく片づけの魔法』p175)

 『人生がときめく片づけの魔法』がどのような経緯で英訳されたのか、その経緯はあきらかではないが、彼女の著書をアメリカで売り出すというアイデアは彗眼であり、この本がアメリカ人に響くはずだという見立ては正しかった。私自身は、Netflixの番組を見た時点では近藤の著書を読んでいなかったため、あるいはアメリカ進出に際して、片づけのメソッドや表現方法を欧米向けに調整したのではないかと考えていた。しかし彼女の著書を読んで理解したのは、近藤の軸はまったくぶれておらず、2011年から同じ主張を続けているということだ。片づけによって人生をときめかせる(変革し、成功へ導く)こと。すなわち現在の〈こんまり現象〉は、近藤個人がほんらい持っていた資質が、アメリカ人の国民性と非常に相性がよかったという点に尽きるのではないだろうか。なお、近藤はミッション系(プロテスタント)の大学である、東京女子大を卒業している(参照: 東京女子大学、建学の精神)。これはあくまで推測になるが、彼女がアメリカで人気を博した原因のひとつに、大学でプロテスタントの教えに親しんでいたであろう経験が生かされているという可能性も考えられるのではないか。

■「おうちにあいさつしていいですか」。こんまりに対するアメリカ人の反応

 Netflix『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』は、近藤と通訳の女性がクライアントの家を訪ね、彼女の指導によって乱雑だった家が片づいていく経過、そのビフォーアフターを見せる番組である。クライアントはさまざまであり、もうすぐ子どもが産まれる夫婦、手狭な家に越してきた家族、引退生活を楽しみたい夫婦、幸福なゲイカップルなど顔ぶれは多彩だ。当初は家のなかを見てまわり、現状をひととおり確認するのだが、近藤が突如として彼女らしさを発揮するのはその直後だ。彼女は家にあいさつを始めるのである。

 「おうちにあいさつしていいですか」とクライアントに宣言した近藤は、部屋のなかで適切なスポットを探し、「このあたりかな」と場所を決めると、正座して瞑想しながら、心の中で家にあいさつし、家とのコミュニケーションを取るのだ。場に緊張が走る瞬間である。〈この日本人女性は、家とあいさつを始めたぞ……〉と、やや困惑するクライアント。とはいえ、近藤はいたって真剣であり、彼らとしても笑ったり驚いたりするわけにはいかない。家とのあいさつは近藤にとって重要な儀式である。結果、まじめなクライアントは、近藤と一緒に家へあいさつをしたり、家との会話を始めることとなる。ごていねいにも、近藤が家にあいさつする時に決まって流れる〈あいさつミュージック〉まで用意されており、ここで近藤は一気にペースを握る。クライアントは、この片づけを何としても成功させなければと使命感を帯びた表情へ変化するのだ。

 近藤の特徴として、家やモノ(洋服や本)を生きた存在としてとらえ、コミュニケーションを取ろうとするスピリチュアルな姿勢がある。家へのあいさつ以外にも、洋服をたたむことで洋服を会話することを推奨し、眠っている本を揺さぶって「本を起こす」などの行動が見られるのだが、どれもクライアントにとっては意外なものだろう。日本からやってきた、優しくて柔和な女性が、家や衣服と会話しながら、いつの間にか片づけの魔法をかけて去っていく。どうやら彼女の目には、家や洋服やあらゆるモノがすべて生きた存在に見えているらしい……。アメリカ人にとって、こうした近藤のイメージは実にユニークで楽しいものではないだろうか。むろん彼女のこうした姿勢は、2011年の著書から変わらない。たとえば近藤は著書で、モノに宿る意思について語っている。「すべてのモノは、あなたの役に立ちたいと思っています。モノは、捨てられて燃やされたとしても『あなたの役に立ちたい』というエネルギーは残ります」(前掲書 p252)。こうしたスピリチュアルな着眼点はどのようにして得られたのか、クライアントや番組視聴者の興味は尽きない。

■こんまりメソッドの、セラピーとして機能

 『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』で、アメリカ向けのバランス調整が施されている部分をしいて挙げるとすれば、セラピーの要素ではないだろうか。クライアントはそれぞれに問題を抱えている。子どもの世話が忙しく、家事などで衝突しがちであるとか、長年連れ添っているため会話が少なくなり、暗黙の了解や無言の意思疎通が増えているなど、クライアントである夫婦や家族間には何らかのストレスや不和があることが示される。こうした問題を、家族全体が片づけという作業を共に行っていくことでセラピー的に解決していく。その過程に近藤は寄り添っているのだ。とはいえ近藤は、片づけ以外のアドバイスはいっさい行わない。なぜなら近藤は「片づけをしたあと、仕事も家庭も、なぜか人生全般がうまくいきはじめる」(前掲書 p2)と主張しており、おおよその悩みは片づけによって雲散霧消するという信念があるためだ。たとえば、同性愛者であることで両親に心配や負担をかけてしまっているのではないかと悩む男性は、恋人と協力して家を片づけ、美しく整えることによって、胸を張って両親を家に迎え入れことができる。近藤はただ明るい笑顔でクライアントを訪問し、片づけの方向性を示していくのみだが、きわめて敷居の低い一連の片づけ作業が、結果的にアメリカ人好みのセラピーとして機能しているのはきわめて興味ぶかい。

 かくして、近藤が自分の資質にぴったり合った活躍の場を見つけ、アメリカへ渡って大きなチャンスを得て、新しい方向性を見出していく様子は、多くの日本人にとっても純粋に嬉しいことではないだろうか。私自身、番組を見終えて、思わず片づけを初めてしまったほどだ。とはいえ、洋服をたたみながら洋服と会話できるようになるには、もう少し時間がかかりそうではあるのだが……。(文=伊藤聡)

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