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『海獣の子供』『きみと、波にのれたら』『天気の子』 今夏アニメ映画の注目ポイントを一挙解説!

リアルサウンド

19/6/6(木) 10:00

 夏休み興行を控えて、2019年も初夏からアニメーション映画の話題作が次々と公開される。6月から7月にかけて公開される、3本の注目作――渡辺歩監督の『海獣の子供』、湯浅政明監督の『きみと、波にのれたら』、そして、新海誠監督の『天気の子』について、それぞれ期待評を記していこう。

参考:繊細なアニメーションの数々

 まず、6月7日から公開される『海獣の子供』は、五十嵐大介の初長編となるマンガを原作にした、ジュブナイル海洋冒険ファンタジー。宮崎アニメなどで知られる映画音楽の巨匠・久石譲が音楽を、米津玄師が主題歌を手掛けている。

 ところで、ここで紹介する3作はすべて東宝の配給作品だが、『海獣の子供』だけは、TRIGGER制作の『プロメア』(今石洋之監督、5月24日公開)と同様、東宝のアニメレーベル「TOHO animation」の製作作品である。TOHO animationは、2012年に東宝映像事業部内にアニメ事業室が新設されたことに伴い発足したレーベルで、翌2013年から本格的にアニメ製作にも参入した。『ドラえもん』からジブリ作品まで、配給で多くのキラーコンテンツを抱えるものの、東宝は長らく自社でのアニメ製作に関しては比較的消極的だった。だが、ここから一挙に次々と話題作を送り出し、2016年、初めての企画立案作品として放った新海誠監督の『君の名は。』が興行収入250億円の歴史的大ヒットとなったことで、TOHO animationは2010年代のアニメ界の地勢図を塗り替える新たな「台風の目」となったのだ(このあたりは例えば数土直志『誰がこれからのアニメをつくるのか?』<星海社新書>などに詳しい)。

 本作の期待ポイントは、やはり2000年代以降の『ドラえもん』映画で秀作を多数手掛けてきた渡辺歩を監督に迎えた制作スタジオ「STUDIO4℃」の映画最新作という点だろう。STUDIO4℃は大友克洋監修の『MEMORIES』(1995)、『この世界の片隅に』(2016)の片渕須直の映画監督デビュー作『アリーテ姫』(2001)など、見巧者を唸らせるハイブロウな作品をこれまで一貫して作り続けてきた個性的なスタジオだ。中でも特筆すべきは、そのワールドワイドな制作スタンスである。国内外で数多くの賞を総なめにした2作品――湯浅政明の映画監督デビュー作『マインド・ゲーム』(2004)とマイケル・アリアス監督の『鉄コン筋クリート』(2006)は、その代表的作品である。前者はフランスをはじめとしたヨーロッパ諸国のアニメーターたちの間ではいまや伝説化している傑作であり、後者もハリウッドで名だたる巨匠たちと仕事をしてきた北米出身のCGクリエイターのアニメ初監督作品。

 Netflixなどサブスクリプションサービスの浸透もあり、今後のアニメ界は制作や受容の「多国籍化」がますます進行していくことが予想されているが、前作『ムタフカズ-MUTAFUKAZ-』(2018)もバンド・デシネを原作にした日仏合作であり、今回の新作も原作の独特の描線を忠実に活かしつつ、日本アニメの枠を踏み越えた斬新な表現を今度はどのように見せてくれるか、そこが楽しみだ。

 夏アニメということで、『海獣の子供』でも迫力ある海のシーンが登場するが、近年、『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』(2017)、『DEVILMAN crybaby』(2018)といった傑作を矢継ぎ早に発表し、国内でもさらにファン層を広げた湯浅政明の6月21日公開の最新作『きみと、波にのれたら』も魅力的な「海のアニメ」に仕上がっているようだ。物語は、サーフィン好きの女子大生のもとに、海の事故で亡くなった消防士の恋人が歌を歌うと現れる……という一風変わったラブストーリー。脚本は山田尚子作品や『若おかみは小学生!』(2018)で知られる吉田玲子。主演の片寄涼太がメンバーを務めるGENERATIONS from EXILE TRIBEが主題歌に起用されている。

 海(水中)に現れる異形の存在と人間の主人公が交流し、一つになるというあらすじは、『海獣の子供』の物語とも一脈通じるところがあるほか、2年前にヴェネチア国際映画祭グランプリやアカデミー賞作品賞を受賞し、話題となったギレルモ・デル・トロの映画『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)を髣髴とさせる。また、それ以上に、同様の物語に加え、それが「主人公が歌う歌によって発生する」という設定は、明らかに過去作『ルー』との連続性も感じさせるだろう。

 何よりも、湯浅作品という点で気になる本作のポイントは、やはりその独特の映像表現である。アニメファンには知られるように、湯浅は独特の崩したパースやキャラクターのフォルムを特徴として持つアニメ作家だ。また、彼が2013年に立ち上げた自らのスタジオ「スタジオSARU」では、Flashを用いたデジタルアニメーションの新しい可能性を模索しており、その成果は『ルー』でキャラクターたちの個性的な動きや映像演出として全面的に発揮された。Netflixで全世界配信された前作『DEVILMAN crybaby』に続き、そうした野心的なFlashアニメーションの試みが、今回の作品ではどのように展開されているかも見どころだろう。

 例えば、具体的にはやはりタイトルにもある通り、波などの水の表現。もともと戦後日本のアニメーションにおける波や水の表現は、主に1970年代頃に東映動画からキャリアをスタートしたアニメーターたちが、試行錯誤の末にその手本を作り上げたとされる。例えば、『どうぶつ宝島』(1971)の小田部羊一や『未来少年コナン』(1978)の宮崎駿などだ。それらはセルアニメーションの場合に、作画も効率的で、かつ表現としてもリアルさを感じさせることのできるメソッドとして編み出されたものだった。しかし、いまや時代はデジタルになり、コンポジットでさまざまなエフェクトをつけられるようになったことで、セルアニメ時代には不可能だった、新しい表現が次々に現れている(例えば、『Free!』(2013~)などが典型的だろう)。『ルー』でも四角い固形になったり、魅力的な海の描写が登場したが、『きみなみ』ではどんな「波」が見られるのか。『海獣の子供』の海の表現と比較しても面白いだろう。あるいは、非モテ男子の恋を描いた『夜は短し』と、どこかリア充っぽい(なにせEXILE)今回の新作で湯浅作品の恋愛描写の違いも楽しんでみては?

 というわけで、最後に7月19日公開の新海誠の『天気の子』。家出して上京してきたオカルト雑誌ライターの少年と天気を操る不思議な力を持つ少女との邂逅……というラブストーリー。

 邦画史上歴代2位という興行収入記録を打ち立て、ハリウッドでの実写映画化も決定している『君の名は。』から3年ぶりの新作ということで、アニメのみならず、今年の日本映画最大の目玉作品であることは間違いない。前作に続き、ヒットメーカーの川村元気を企画・プロデュースに迎え、キャラクターデザインの田中将賀、音響監督の山田陽、そして主題歌のRADWIMPSなど、主要スタッフの何人かは『君の名は。』から継続して参加している。対照的に、主演の醍醐虎汰朗、森七菜はオーディションで選ばれた期待の新人であり、本作でブレイクするかが注目されるところだ。

 前作が空前の大ヒットだっただけに、否が応でも期待が高まってしまうが、新海作品との関連ということでは、さしあたりの期待ポイントは、やはりタイトルにもなっている、本作のテーマでもある「天気」だろう。これももはや有名だが、新海誠といえば、何と言ってもそのデビュー作から観客の目を引く繊細で美しい「風景描写」が代名詞。逆光とレンズフレアを多用した眩い光と、形を変えながらたなびく雲の広がる風景は、デジタルアニメーションの可能性を最も象徴的に表現する格好のモティーフでもあった。『天気の子』で度々登場する雨のシーンは、2013年の『言の葉の庭』からの連続性を感じさせるが、それでも今回の新作は日光、雲、雨、虹、雪……といった、新海アニメが描いてきた、風景=天気の美麗なイメージが、ついにスクリーンに全面展開される可能性がおおいにある。『海獣の子供』『きみなみ』の海と、『天気の子』の空。今年の夏アニメは、それぞれアニメーション表現の新しい扉を開く風景が見られるかもしれない。

 日本アニメ誕生100年を迎え、『君の名は。』によって新時代に突入した2010年代最後の夏にして令和最初の夏に公開される話題作。さまざまな角度から楽しんで観てみるといいだろう。 (文=渡邉大輔)

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