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田中圭のブレイク後押しした『おっさんずラブ』 放送後も衰えぬ人気の理由は“優しい世界”にあり

リアルサウンド

18/7/30(月) 6:00

 放送終了から約2カ月。『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)人気が依然止まらない。8月7日発売の公式ブックは初版10万部でスタート突破。Blu-ray&DVDも予約開始と同時にテレ朝ショップのサーバーをダウンさせるなど、驚異的な反響を記録している。今回は“終わらない『おっさんずラブ』ブーム”を軸に、この熱狂の中心にあるものを探ってみたい。

■『おっさんずラブ』に見る公式と民の相思相愛な関係

 まず特筆すべきは、ネットでの高い反響だ。48万人以上のフォロワーを獲得した公式Instagram「武蔵の部屋」を筆頭に、本作は優れたSNS戦略によって支持層を拡大してきた。だが、今や各種SNSに公式アカウントを開設するのは、どのドラマでも常套手段。それだけではこの熱狂の説明はつかない。一体何が他のドラマとは違ったのだろうか。

 ひとつは、制作サイドとファンの絶妙な距離感だ。『おっさんずラブ』のファンの間では、制作サイドのことを「公式」、ファンのことを「民」と呼んでいるが、この「公式」の愛され感が圧倒的なのだ。

 その理由は、「公式」が「民」の背中を押し、「民」が「公式」の背中を押してきた歴史にある。『おっさんずラブ』は、人が人を好きになることをまっすぐ描いた王道恋愛ドラマだ。春田(田中圭)と牧(林遣都)が共に人間的成長を遂げながら想いを通わす純粋な姿に、多くの「民」が勇気づけられ、日常に彩りを得た。つまり「公式」が「民」の背中を押してくれたのだ。

 一方で、視聴率という面では伸び悩び、当初はソフト化に関しても旗色が悪かった。これに今度は「民」が立ち上がった。視聴率だけでは数値化できない熱量を見せようと、熱いリクエストを直接局サイドに送る「民」が急増。現在、『おっさんずラブ』では、

・Blu-ray&DVD
・オリジナルサウンドトラック
・名言Tシャツ
・名言マフラータオル
・名言ミラー
・ネームバッジ

など様々なグッズ展開をしているが、同局深夜時間帯のドラマでこれだけ多彩なグッズが販売されたのは極めて異例。それもすべて「民」たちによる熱烈なラブコールがあってこそ。つまり、今度は「民」が「公式」の背中を押したのだ。

 こうした相思相愛の歴史が、今なお続く熱狂の礎にある。「公式」もSNSの声をチェックしているようで、放送終了後も、本編のオンエア開始時刻であった土曜の23時15分に公式アカウントから重要なお知らせがツイートされるなど、「民」を喜ばせる気配りが満載。単に宣伝をツイートするだけでは、相思相愛の関係は生まれない。「公式」が自分たちの気持ちをわかってくれているという喜びと安心感が、SNS上に広がる『おっさんずラブ』ワールドの核にある。

■脚本家・徳尾浩司の“ゆるい公式”的スタンスの妙

 そして、放送終了後から2カ月近く経過した今も、作品のためにつくった「専用垢」(ある目的のためだけに使う専用アカウントのこと)が「死垢」(すでに利用していないアカウントのこと)にならないもうひとつの理由に、脚本家の徳尾浩司氏の存在がある。

 もともと放送中から飄々としたツイートで愛されていたが、放送終了から1週間後、「民」の間で水面下に進行していた「架空の第8話をみんなで実況する」という計画に、徳尾氏自らが参加。本編の脚本家にしかできないつぶやきで「民」を歓喜させた。これにより人気が爆発。その後も作品解説的ツイートにとどまらず、「民」からのボケに切れ味鋭くツッコんだり、ユニークな親しみやすさで「民」と交流を深めている。

 さらにそれだけでなく、いい意味でガス抜き的役割を果たしているのが、徳尾氏の絶妙なところ。大量にグッズが展開される中、一部、さすがの熱心な「民」も「これはちょっと…」というアイテムが発表されたときがあった。そんなとき、すかさず徳尾氏が「僕が言うまでもないことですが、お金は大事にしてください。よく考えて。本当にいるのかいらないのか、これおかしいんじゃないかとか。笑」とツイート。本来なら「公式」と呼ばれる立ち位置の徳尾氏がコミカルに「公式」をディスることで、「民」の間に芽生えたプチ不満が昇華された。

 長く関係を続けていく中で、制作・運営サイドとファンの間で齟齬が生まれるのは、ドラマ業界に限らずよくある話。だが、「公式」でありながら「公式」ではない“ゆるい公式”と呼べる存在がいることで、「公式」に対する疑問や不満のガス抜きが果たされる。徳尾氏本人がどれほど意図しているかは定かではないが、ファン心理を心得た徳尾氏の軽妙なツイートが、「民」が今なお「専用垢」にログインし続ける理由のひとつとなっている。

■差別やマウンティングのない“優しい世界”

 放送終了時、一部マスコミの間で「おっさんずラブロス」なる言葉が名付けられようとした。しかし、本作に関して言えば、あまりロス的現象は感じられない。むしろ依然として「この世界は続いている」というのがファンの実感に近い。上に挙げたようなSNS上での密度の濃いコミュニケーションが、その要因となっているのは間違いないが、では一番の理由かと言われれば、やはりそうではない気がする。

 結局のところ、衰え知らずの『おっさんずラブ』人気の最大の要因は、やはりその“優しい世界”にあるのだろう。杉田水脈議員の発言に象徴される通り、LGBTは2018年の日本社会においてデリケートな問題だ。心ない言葉の裏側で苦しんでいる人も大勢いる。

 しかし、『おっさんずラブ』の世界には、こうした無遠慮な差別はほとんど描かれなかった。それどころか人の恋路を邪魔するために悪巧みを謀ったり、ストーリーを盛り上げるために陰湿な暴力や心痛める事件を盛り込むこともなかった。誰もが安心して、この“優しい世界”に浸ることができた。

 そんな作品世界の影響か、「民」同士のSNS上での交流も非常にハートフルだ。特に盛んなのが、本編の内容をもとにした二次創作と、大喜利的なハッシュタグツイートだが、ネットでありがちなマウンティングや罵詈雑言はほとんど見受けられない。各自が寛容に愛で、「民」同士が愛とリスペクトをこめて「いいね」を押し合っている。

 現実の世界は、こんなに優しくはない。一歩踏み出せば、傷つく言葉が容赦なく襲いかかってくるし、不要なものはすぐに「生産性がない」と切り捨てられる。そんなストレスフルな現代で、安心して自分を出せる場所。生産性なんてなくていいから、我慢せずに愛を語れる場所。それが、『おっさんずラブ』という世界なのだ。

  “終わらない『おっさんずラブ』ブーム”の裏側には、他者への攻撃性ばかりがエスカレートする現代において貴重な「人の優しさ」がつまっている。(文=横川良明)

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